前回の
雑文488「最先端カメラ志向(前編)」では、我輩の最先端カメラ志向について書いた。
我輩は最先端カメラを好み、F3を使う。
ところで現在の最新カメラに目を移すと、意外にも未来的なカメラは見られない。既に時代は、未来の象徴とも言える21世紀であるというのに、なぜか20世紀のうちでも想像出来る範囲内で進化したカメラばかり。そこには、MINOLTA xiシリーズのように無理矢理未来を先取りした、いわゆるブッ飛んだカメラは無い。
そういう意味では、21世紀ともなれば人工知能により、今何を撮影しているかということを認識するカメラが現れても良かろう。
α-7000からα-7700iへと進化した延長線上を辿って行けば、このようなカメラが現れても不思議ではない。いずれは高度に進化したカメラは自我に目覚め、人類を滅ぼすために世界戦争を引き起こそうとするようになる。そして写真サイトの掲示板では、如何に戦争を回避させるかという白熱した議論が交わされ、写真という趣味は人類の運命を左右することになるはずだった・・・。
未来世界に果敢に挑戦し跳ね飛ばされたMINOLTA xiシリーズ。
それは、21世紀へ到達するための最初のシリーズでもあった。これこそ、20世紀末に夢見られたエアカーのように、永遠に到達出来ない未来世界のカメラである。人間の判断を必要としない完全自律を目指したロボットカメラの最初のシリーズがこのxiなのだ。目指す究極の姿は、シャッターボタンさえ無いカメラであろう。
純粋に技術的な意味で言えば、xiシリーズは現在でも最先端テクノロジーのカメラであると我輩は考える。具体的な将来像を据え、それに向かって周辺技術を組み上げていく。
もちろん現在でも、視線入力や超音波モータ、手振れ防止など進んだ技術はあるが、それらは撮影をアシストするための単独技術でしかない。例えば、いくら視線入力技術が進もうとも、現状では「撮影者がどこを見ているか」という検知能力向上の方向性しか無い。それは決して、将来像として「カメラが人間の考えていることを汲み取る」という目的を成すための一つの判断材料に使うわけではない。何年経っても、視線のあるところにピントを合わせようとする動作は変わるまい。変わるのは精度のみ。
しかしxiシリーズはシステム全体として自律カメラを目指しており、人間側の操作を極力減らそうとしている。
視線入力技術が盛り込まれたとしたら、それは人間の意志を読み取るための判断材料の一つとして使われることになろう。もちろん、フォーカスの位置検知にも使われようが、それ以外にも、例えば次のようにカメラが判断することにも役立つだろう。
「撮影者は右の方ばかり気にしているようだな、右から何かがフレームインするのかも知れないな、目の前には道路があるから恐らく車が通るのだろうな、ではそこに置きピンして待っていようか。」
---数分後---
「目線の動きが不安定になってきたな、撮影者は緊張し始めたようだな、・・・ということはシャッターのタイミングが難しいのだろうな、恐らく時速100kmは越えるのだろうな、ではシャッターレリーズはカメラ側でタイミングを取ることにしよう。いちおう、撮影者の瞳孔が微妙に開くタイミングも参考にしてシャッターを切ろう。」
他のカメラでは「言ったことは忠実に行うが、その反面、言ったことしかやらない」というのに対し、xiシリーズでは「言わなくても仕草を見て気を利かせてくれる」と言える。どんなに優れた技術があろうとも、それが有機的に統合され一つの働きをせねば意味を成さないのである。
ただし現時点ではxiシリーズは察しが悪いため、気を利かせようと努力しても裏目に出ることのほうが多い。何しろ、ロボットカメラへの第一歩(バージョン1)である。最初から何もかも完璧であれば苦労は無い。
結局のところxiシリーズは、ロボットとしての完成度が低いにも関わらずそれを補うための操作性が悪かった。つまり、察しが悪く、しかも人の言うことを聞かないカメラということで世間の評判を落としてしまったのだ。今ではxiシリーズの中古は二束三文であるのは周知の事実。
その後、真面目なミノルタは180度転進し、操作部材をこれでもかというほど多く設置してカメラをゴチャゴチャにしてしまった。α-7などもうメチャクチャ。まさか今後、新機能が増えるたびにスイッチやダイヤルを増やす気なのか?
これならば素の手動カメラを使ったほうがまだスマートかもな。手動のフィルム巻上げ操作などあっても、それはスイッチ操作するのと変わらない。
ところで、xiシリーズのデザインはまさに"溶けかかったチョコレート"。その中でも「MINOLTA α-9xi」はブッ飛んでいる。ペンタ部前面が右肩から引きつっているようだ。
個性的と言いたいところだが、結局はCanon T-90の角を削ぎ落としただけであり、逆にオリジナリティを感じなかった。T90でさえ角が丸いと言われているのに、それを更に丸くするとは全く安易な処理だと最初に見た時に呆れた。
しかし今あらためてその姿を見ると、それが却って面白い。
現実世界のカメラとして捉えると拒否反応が出るが、SF映画に出てくる未来アイテムを使うという目で見ると興味が湧く。
しかも中古価格はかつてのフラグシップにも関わらず2万円台のものすらある。
我輩はしばらく考えた。
操作性が悪いとは言うものの、電子ダイヤルはシャッタースピード用、絞り用と2つ用意されている。モード切替せずマニュアル露出のみで使うならば特に問題は無い。
更に、インテリジェントカードを装着することによってマルチスポット測光が可能となる。これならば「MINOLTA FLASHMETER VI」と同じ役割を与えながらかつ撮影も出来る(参考:
雑文440「MINOLTA FLASHMETER VI」)。
単純にスペックだけを見ても、秒間4.5コマというのはかなりのもの。最高シャッタースピード1/12,000秒、シンクロ接点が1/300秒であるから幕速はそれなりに速いだろうと想像する。そうなるとシャッターチャージの力は強くなり、巻上げ時の負担も大きくなろう。それで秒間4.5コマを実現しているのだから驚く。
繰り返しになるが、この「MINOLTA α-9xi」はかつてのフラッグシップである。造りの良さは想像出来る。
そこで我輩は、底値とも言えるこの時期に、このα-9xiを入手することを決断した。予算は今月の小遣い2万円分。これでフラッグシップが手に入るのだから安い。しかもAFのフラッグシップにしてはかなり小柄。
特に決定的だったのは、カードを使うことによってマルチスポット測光が可能だということ。これが無かったならば、いまだ購入を迷っていたことだろう。
マルチスポットとは、撮影者の意志によって複数測定したスポット測光値を平均する機能である。これは分割測光を手動化したものと言える。
そもそも分割測光というのは、分割された測光素子から得られた情報をあらかじめパターン化された様々な撮影シーンに当てはめ、適正露出値を推測する測光方式である。それ故、当てはめるパターンを誤ればとんでもない値を出す可能性がある。
それは素子の分割数が多ければ解決する話ではない。分割数があまり多くなくても、パターンに当てはめるアルゴリズムが優れていれば露出の的中率が高くなる(参考:
雑文238「摂関政治」)。
ところでマルチスポット測光可能なカメラというのは、実はあまり多くない。そしてその多くは上級機である。
しかしMINOLTAでは、インテリジェントカードを使えば「α-7700i」、「α-8700i」、「α-7xi」、「α-7xiP」、「α-9xi」、「α-707si」にてマルチスポット測光が可能だという。
我輩は過去の体験から、ミノルタαシステムはどうも絞り機構が脆弱だというイメージを持っているのだが(参考:
雑文063「不具合だったα−9000」、
雑文201「印象と信用」)、α-9xiは造りが頑丈そうに思えるのでそこは心配しないことにした。
そういうわけで、α-9xiはAF撮影で本気で使うことにしようかと目論んだ。
ネットオークションでα-9xiを検索すると4台ほど見付かり、その全てが未入札状態。やはりxiシリーズは人気無いな・・・。
1万8千円〜25,000円まで幅があったが程度を勘案して2万円の物件に入札した。競争相手が現れれば競り負けるとは思ったが、その時はまた別の物件を探すことにする。
結局、競争相手無きまま我輩が2万円にて落札。当時の定価は「Nikon F3HP」と同程度だったのだが本当に価値が下がっているな・・・。
さて、いくらα-9xiが手に入ったとしても、マルチスポットカードが手に入らなければ意味が無い。
早速オークションで検索すると1件だけヒットした。念のためにマルチスポットカードの仕様を調べてみようとしてWeb上を検索してみたところ、ミノルタのサイトに行き当たり、そこでマルチスポットカードが現行品であることが判明。しかもカードを通販しているカメラ店(馴染みの高千穂カメラ)も見付けたため、オークションとの価格差もあまり無いので新品購入することにした。
また同時に、取扱説明書を手に入れねばならない。何しろ、xiシリーズが現役だった頃に店頭で手に取ってみたのだが、撮影モードを変更する方法が全く分からなかった。
xiシリーズは取扱説明書が無ければ操作することは不可能。
ミノルタネットショップにて、取扱説明書のコピーを購入した。
更に、esbooksから「ミノルタαシステムの使い方3」を注文した。xiシリーズ全般について書かれているため参考になる。
幸いなことに在庫があったため、すぐに最寄りのセブンイレブンへ配送されてそこで代金を払って受け取った。コンビニ配送ならば送料が不要なので助かる。
しばらくして、待ち望んでいたα-9xi本体が届いた。
状態はなかなか良い。傷などもほとんど無い。
早速手に持ってファインダーを覗いてシャッターを切る。さすがにフラッグシップだけのことはあり、重量感とシッカリ感は十分。α-303siのような極端に軽量化されたカメラはダメだ。何しろα-303siの液晶パネル透明カバーは両面テープで固定されているほど。
カメラというのは重くシッカリしているからこそ「カメラ」と言える。軽いカメラなど「カメ」とでも名乗っておけと言いたい。