[593] 2007年01月19日(金)
「末永く愛用する道具」
以前、Nikon F3初購入についてのエピソードを書いた(参考: 雑文152「7年目」)。
その頃は既にF3の時代ではなくなっていたが、その時初めて、時代を貫く普遍的な価値があることに気付かされた。
カタログ性能が旧くなったとしても、使い勝手の良い製品というのは、末永く使いたいと思わせる。そのことは、ヒューレットパッカードのポケットコンピュータ「HP200LX」が生産中止になった時に駆け込みでまとめて4台購入した者がいたということでも分かるだろう(参考: 雑文056「備えあれば憂いなし」 )。
情報機器は新しければ新しいほど処理性能が向上するため、旧い製品には何の魅力も無いというのが一般的な価値観である。しかしそれが少しでも人間に触れるものであるならば、使い易さや愛着の問題は無視出来まい。
もちろん、次に続く新製品も同様な価値を持っていれば話は早いのだが、多機能化することによってコンセプトが曖昧になったり、コストダウンが進んでチープになったりして、愛着を感じさせないものへと変貌するのが現実である。だからこそ、いつまでも"その製品"にこだわるのである。
さて、我輩の場合、先日メインパソコンのCPUを最新のものにグレードアップしたことなどについて書いた(参考: 雑文590「体内に抱えたガン」)。
こういうデスクトップパソコンの場合、パーツをグレードアップしても、人間が触れるキーボードやマウス、パソコン筐体などはそのまま使い続けることが出来る。そういう意味ではなかなか都合が良い。
ところがノートパソコンはそうはいかない。
狭い筐体に収めるために変形させたパーツばかりであるから、全く汎用性が無い。最新パーツで置き換えたくとも無理である。
そうなると、性能アップのためにはノートパソコンまるごと買い換えるしか無い。せっかく使い易いキーボードや手触りの良い筐体であったとしても、買い換えることによって全く別物になってしまう。
我輩も今までノートパソコンは7台使ってきたのだが、使い易くなったものもあれば、逆に使い辛くなったものもある。
小型軽量化のために筐体剛性が無くなると、落ち着いてキーボードを叩けなくなる。また、キートップの印刷が剥がれてくるものもある。クリック感やストローク(ボタン押し深さ)もそれぞれに違っており、慣れるまで時間がかかるし、最後まで慣れないものもある。
また、キーの色や手触りも意外に影響する。長時間文書を打つのが苦痛になれば、外付けキーボードを付けてみたりしたが、ノートパソコンの一体感を失ってしまい、結局はデスクトップパソコンでの作業に戻ってしまう。
パソコン筐体そのものがキーボード本体のようなものであるから、単純にパーツ単体の問題として片付けられない面もあろう。
そういう意味では、もし相性の良いノートパソコンに出会ったならば、アップグレードを諦めて永く使い続けることも一つの選択肢と言える。
我輩の場合、最初のノートパソコン「AT&T Globalyst 130R」がお気に入りである。
これはWindows 3.1の時代に購入したIntel486マシンで、仕様としては以下のとおり。
・CPU
|
Intel 486DX4 100MHz
|
・HDD
|
540MB
|
・メモリ
|
最大20MB
|
・液晶
|
D-STNパネル/640x480dot(256色)
|
・PCカードスロット
|
カードバス非対応
|
このノートパソコンは、秋葉原ソフマップが発行するフリーペーパー「Sofmap WORLD」で見て気に入り、増設メモリを加えた計24万円を24回払いで購入した。1995年のことである。
NEC PC-98ユーザーの我輩が最初に購入したDOS/V機(PC/AT互換機)である。それほど、このノートパソコンにはインスピレーションを感じた。
現物も見ずに感じたこのようなインスピレーションは、Nikon F3と同様に、後にも先にもこれだけである。
(参考: 雑文083「F3の第一印象」 )
 |
「Sofmap WORLD」の紙面(一部)。intel insideのロゴの下に「Pentium」と書かれているが、これは誤植。 |
矢印キーの位置が変則的な以外は、キーボードの感触は非常に良い。配色も上品に感じる。
筐体もしっかりとしており、安定感があってタイピングし易い。
トラックボールも装備されているが、ボールに重量感があり、なかなか具合が良い。後に購入したPanasonicの「Let's Note」のトラックボールと比べても断然違う。
Windows3.1インストールモデルであるが、後日Windows95アップグレード用のキットが送付された。メモリは仕様上20MBが上限なため、Windows95以上のOSは適さないだろう。
液晶ディスプレイはD-STNパネルのため視野角はかなり狭い。しかも640x480dot(VGA)である。しかしテキスト表示のみであれば問題無い。鮮やかさや緻密さとは無縁だが、それがかえって素朴でやさしい表示として感ずる。
何より、当時としてはそれほど問題になるようなものではなかった。
当時はグループ会社同士で研究会を行なっており、我輩もそのうちの一つの部会に参加していた。そして、研究発表のための最後のまとめ作業として某社の熱海保養所で合宿を行なった。皆、ノートパソコン持参である。その時に「Globalyst 130R」を持って行き、我輩の担当範囲の原稿を書いた。
またそれ以外にも、客先デモに使うこともあった。ノートパソコンが少なかったため、持ち運び可能なパソコンは用途が広かった。何しろ、それまではデスクトップパソコンを車で運んでいたのである。
(※現在は個人パソコンを業務に使うことは許されない。当時はまだ大らかな時代だった。)
そういうわけで、使い易く想い出も深い「Globalyst 130R」であったが、それ故に消耗もあった。
画面閉じ固定用のツメが折れ、ニッケル水素バッテリーも完全にダメになった。またハードディスクもクラッシュした。そのまま放置していたところ、CMOS用の電池が液漏れを起こして緑色の結晶を噴いていた。
新しいノートパソコンも導入したため性能的にも見劣りするようになり、そのままとなった。
しかし、しばらくすると「Globalyst 130R」の使い易さや愛着が大きなものであることを知り、再度使うことを考えるようになった。しかしかなり消耗していたため、もっと使用頻度の少ない個体が無いかともう一台探すことにした。
確か1999年のことで、当時はまだネットオークションの存在を知らなかった。そのため「売ります買います掲示板」で募集をかけた。
AT&Tのパソコンはなかなか見かけないため返信は期待しなかったのだが、意外にも1通返信があり喜んだ。
持ち歩かないノートパソコンとして使っていたようで、外見はかなりキレイだった。3万円で売ってくれと頼むと、こんなもの3万円も出してくれるのかと驚いていた。
手に入れた2台目の「Globalyst 130R」であるが、最初は普通に動作していたがやはり古いパソコンゆえに最近になってCMOS用の電池が結晶を噴いた。また、液晶のバックライトも暗くなってきた。テキスト作業用とは言ってもこのような状態での使用は困難。
そこで、CMOS用電池とバックライトを交換することにした。
CMOS用電池の交換は、筐体の奥にあるため本体カバーを外して行った。
見ると電池はマザーボードにハンダ付けされている。ハンダこてを使って電池を外したが、マザーボード上に液漏れが及んでいた。拭き取ってはみたが、配線が腐食しているようだ。まあ、外部ディスプレイポート用の配線のようなので、問題は無かろう。
一方、バックライトの件だが、ウェブ情報によれば蛍光管が極端に消耗するとインバータまで寿命を縮めてしまうとのこと。この際、蛍光管も交換してしまうことにした。
まず、液晶の背面カバーを外してみたのだが、意外にすんなりと蛍光管ユニットが外せることが判った。
バックライトの交換について掲載しているウェブサイトによれば、機種によっては液晶部分をかなりバラして細い蛍光管を差し込むような作業になることもあるらしい。そういう意味では、今回はラッキーだった。
 |
背面カバーを外した状態。液晶パネルは金属箔に包まれている。 |
 |
液晶パネルからバックライト用蛍光管のユニットを引き出したところ。 |
 |
蛍光管の電極付近が黒くなっているのが確認出来る。 |
新しい蛍光管は、各種バックライト用蛍光管を扱っている店の中から 五州貿易という店を選び、通販で購入した。価格は3,000円ほどだったが、送料があるため4,000円かかった。
「Globalyst 130R」の場合、蛍光管の長さを計ると218mm、径は2mmほど。同じサイズのものを選んだのだが、実際に物が届いてみると、長さはちょうど良かったが新しいもののほうが若干細かった。まあ、この長さの蛍光管は径2mmしか無かったため選択の余地は無かったわけだが。
蛍光管ユニットの蛍光管交換作業だが、細いガラス管のため慎重に行なう。ウェブ情報では、交換時に蛍光管を割ってしまったという話がよく出てくる。
何度かヒヤッとしたものの、何とか交換作業完了。
早速、液晶パネルに組み入れて電源を入れてみた。
 |
 |
<蛍光管交換前> |
<蛍光管交換後> |
上の写真は同じ露出量で撮影したものだが、思ったほどの違いが無いのが残念。期待が大きすぎたせいもあるだろう。よく見れば若干鮮やかに感ずる。何より「これからも末永く使える」という安心感は大きい。
また、ついでながらハードディスクを540MBのものから810MBのものへと交換した。
もっと容量の大きなものが欲しいのだが、パソコン側のBIOSが対応していないためそれ以上の容量は認識出来ない。現在そのような少容量ハードディスクはなかなか無いのだが、 九州デジコムというサイトから通販で購入した。
価格は1,000円と安い。送料のほうが高いくらいだった。
これでUSBが使えれば文句無い。しかしPCカードのUSB増設アダプタはCARD BUSのものしか存在しないため、CARS BUS非対応のこのパソコンでは使えない。
まあ、文字打ち用途であるから、余計な増設をして動きが重くなっても困る。第一、USBサポート版のWindows95であっても、全てのUSB機器が使えるわけではないらしい。
不具合を治し、更にパソコンとしての増設上限まで性能を高めたのであるから、もう心置きなく愛用の道具として使うことが出来る。
Nikon F3と共に、時代を越えてこれからも我輩の傍に存在し続けることであろう。
 |
「AT&T Globalyst 130R」 |
|