2000/04/05
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カメラ雑文

[871] 2017年05月31日(水)
「広角マクロ(3)」


写真の技術的失敗要素は主に3つある。
「露出の失敗」、「フレーミングの失敗」、そして「ピントの失敗」。

「露出の失敗」については、ちょっとくらいの過不足であれば特に問題となることは無かろう。
確かに白飛びがあれば救済が難しいものの、それ以外であればRAW現像時に調整可能な場合が多い。フィルム(リバーサル)撮影のように、0.3EV程度の過不足で泣くようなことは有り得ぬ。

そもそも、液晶ディスプレイを備えたデジタルカメラでは、撮影現場にて大体の結果が確認出来るわけであるから、大幅な露出過不足があればその場で撮り直せば良かろう。あるいはシャッターチャンスが一度きりならば、事前に同じ条件で露出確認しておけば済む話。

「フレーミングの失敗」についても同様に、撮ったその場で確認すれば、失敗があってもリカバリ出来る。
もし撮影時に気付かないようなものが端に写っていたり、微妙に水平が傾いていたりしても、RAW現像時あるいはJPEG画像のトリミング、あるいはスタンプツールでも加工出来よう。

ところが「ピントの失敗」については、どうにも救済しようがない。
撮影時に気付くような大きなピンボケならばともかく、等倍表示せねば判らないような微少なボケなど現場で気付くことは難しい。やろうと思えば、撮影直後でもカメラ背面液晶の拡大表示でチェックすることも可能ではあろうが、数百枚撮ったりすれば全てのカットで拡大チェックすることは現実的ではない。

ならばパソコンの後処理でピンボケを補正するのはどうかと言えば、それも不可能。
せいぜいシャープネス処理をかけたり、サイズ縮小処理することで、気付かれないようゴマカす程度。スパイ映画でよくあるような、ボンヤリした画像から存在しない情報を引き出すようなことは出来ないのだ。

もちろんAFで撮影すれば何も問題は無い。基本的にAFを信用して撮影すれば良く、もしピントが大きくボケていればさすがにその場で分かる。心配ならば、何度か測距し直して複数枚撮れば良い。

しかしMFで撮影するのであれば、ピント合わせは自分の能力にかかってくる。画素数が多ければそれだけピントもシビアになり、また広角になればなるほど、そして絞り込めば絞り込むほど、MF調整は困難を極める(※)。光学ファインダー(OVF)か電子ビューファインダー(EVF)かに関わらず、撮影前のピント合わせと撮影後のピントチェックは重要な手順であろう。

(※よく、聞きかじりの知識を以って「広角レンズは被写界深度が深いのでMFで十分」などという意見を目にするが、それは撮影距離が1メートル以遠のスナップ撮影に限定したものであり、近距離撮影では当てはまらない。)

MF作業というのは、面倒でかつ慎重さを要し、撮影効率は確実に低下する。
撮影後のピントチェックにしても、カメラの背面液晶パネルで見るには小さいし、拡大表示しようにもそれなりに待ち時間があったり、確認したいエリアが違えば上下左右ボタンでちまちま移動させねばならず効率が悪い。


さて、先日の雑文869にて、フルサイズカメラ「SONY α7RII」での広角マクロ撮影について書いた。
特殊な分野なだけに製品としての選択肢が無く、中国製のレンズに頼ることになったわけだが、広角マクロ撮影をするようになってから早いもので半年が経った。
この半年、MFの戦いでもあったと思う。

この広角マクロレンズを使ったMF操作としては、まずピントの山が掴み易い開放絞りに戻し、カメラ側のピーキング機能あるいは拡大表示でピントを合わせる。
その後、撮影距離が動かないよう気を付けながら改めて絞り込む。そして左片手でストロボを被写体に向け、慎重にシャッターを切る。

同じ構図でライティングを変えながら何枚か撮っている分にはピントを変える必要は無いのだが、撮っているうちにいつの間にか撮影距離が変わってしまうこともある。マクロ撮影ではちょっとした距離の違いでピンボケになるので注意が必要だ。そういう時のピンボケは軽微なものであるから、なかなか背面液晶で気付くことは難しい。

だから同じシーンで何枚か撮る場合であっても、時々ピントを確認し、合わせ直す必要がある。
今から考えれば、かなり面倒で効率が悪く、そして歩留まりが悪かった。

ただ最初のうちは、MFレンズの煩わしさがあっても、広角マクロという新たな表現手段を得たことでMFの苦労は苦労ではなく、他のレンズでは得られぬ撮影結果を得るために必要な手続きに過ぎなかった。
「マクロ撮影というのはMFなのだ」という意識もあったと思う。

ところが先日の通勤カバン常備カメラ「PENTAX Q7」の件で(参考:雑文870)、広角マクロでのAFが撮影効率に大きく関わることを知って以降、「フルサイズのほうでも広角マクロでAF撮影出来ないだろうか」と思うようになってきた。

もし広角マクロ撮影のAF化が実現出来れば、カメラとストロボをそれぞれ左右の手で構え、ただシャッターを切るだけで済む。AFレンズならば絞り制御のほうも電子接点を介して自動で行われる。
非常に効率が良く便利だが、これは既に「PENTAX Q7」の広角マクロ撮影では当たり前となっている撮影プロセスだ。

そもそも、夜間の暗闇の条件では、MFをやろうと思ってもピントが見えない。だからストロボで照明出来たとしても、撮れない時は撮れない。
ミラーレスカメラならばライブビューのゲインアップで、いわゆるブースト表示が可能だが、暗闇の中ではゲインアップしてもノイズしか見えず、ペンライトなどで照らさないと難しい。だが手がふさがってそんな余裕など無いのが実情。

それに対し、小さなカメラながらもAFレンズを備えた「Q7」では、暗闇でもAF補助光により合焦に問題は無い。
小さな「Q7」で可能な撮影が、メインのフルサイズ「α7RII」では不可能というのは大きな問題。もしそういった暗闇の状況でどうしても撮りたいものがあったとしたら、「α7RII」を諦めて「Q7」を選ぶという屈辱に耐えねばならぬのだ。

何とか、メインカメラの「α7RII」の広角マクロ撮影でもAF撮影出来ないものか。

もちろん、AF式の広角マクロなど、製品として存在しないことは知っている。さんざん探した挙句、ようやく中国製のMF広角マクロレンズに行き当たったのだから絶対に無いと言い切れる。もしAF式の広角マクロレンズがあるならば、最初にそれを入手したであろう。

ただし、「PENTAX Q7」で思いがけずマクロ性能の高い広角ズームを得たこともあり、もしかしたら通常の広角レンズであっても最短撮影距離の短い、隠れた広角マクロレンズがあるかも知れないとも思い始めた。
マクロという称号が無くとも、超広角と言うほどの画角が無くとも、他のレンズよりも少しだけ寄れる広角レンズがあれば使ってみたい。

ウェブ検索してみると、AF式の広角レンズカテゴリの中では、最短撮影距離が20cmよりも短い製品は存在しないことが分かった。
そこで最短撮影距離20cmで絞込み検索したところ、「SAMYANG AF14mm F2.8 FE(実売最安8万円)」と「Carl Zeiss Batis 25mm F2(実売最安13万円)」が候補に挙がった。

撮影距離20cmが限度だとすれば、焦点距離14mmレンズでは撮影倍率が低くなる。焦点距離25mmレンズを選ぶしか無かろう。
では、焦点距離25mmでの撮影距離20cmというのはどんな感じだろうか?

試しにその条件を「PENTAX Q7」を用いて再現し、植物撮影で使ってみて不足があるかを確かめてみた。
その結果、小さな植物では物足りないものの、それでもマクロレンズではない一般AFレンズとしてはまずまずの大きさに写ることを確認した。
ならばこの「Batis 25mm F2」を買ってみるか・・・と気軽に言ってみたものの、最安でも13万円のレンズが気軽に買えるわけがない。やはり8万円の「SAMYANG AF14mm F2.8 FE」に妥協するか?

だがよくよく考えれば、「Batis 25mm F2」が妥協した結果である。そこからさらに妥協してしまうと、もはや要求仕様にかすりもしない。
求める仕様の製品が存在しないのだから、そこから一番近いものを求めることがベストな選択と言える。
そこで、残業代をあてにしてカード決済にて購入することにした。だがそれにしても13万円は高い。カールツァイスだから高いのだろうが、別にカールツァイスでなくとも良い。こんなもの、余計なブランド料。

少しでも安くならないかと中古検索してみたところ、マップカメラに10万円ちょっとの出物があったので飛び付いた。10万円でも安くないが、最初に13万円という値段を見た後だったので、10万円がことのほか安く見えた。
(ちなみに残業時間から言うと、1ヶ月の残業代でまかなえるものではない。)

ところが注文ボタンを押してしばらくして気付いたが、この中古品はフードが欠品であることを見落としていた。
しまった、ストロボ照明での撮影では光源が画面に入ることが多く、フードが無ければゴーストやフレアが出易くなる。だからフードは欠かせない。
中国製の広角マクロレンズについては、ワーキングディスタンスがほとんどゼロに近かったため、フードがあると照明すら出来ず、やむなくフードを外して使っていたが、あれはあれで仕方無かった。

改めてフードのみをウェブ検索したがヒットしない。どうやらフード単体はパーツ扱いのようだ。
ただ、このフードがブランド料込みで1万円以上もしたら、せっかく10万円で中古品を買ったのに実質的に11万円あるいはそれ以上になって意味が無い。
とりあえずヨドバシカメラ店頭で問い合わせたところ、やはりカタログに載っていないようで取り寄せてもらったところ、4,989円で手に入ったのでヨシとしよう。

さて、手に入れたレンズ本体についてだが、手に取って見ると鏡胴が太く迫力がある。まあ、取り回しの意味では長いよりはマシか。
肝心のAFはほとんど無音でスッと決まる。なかなか良い。ここがダメだったら、無理して買った意味が無い。

<Batis 25mm F2>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
Batis 25mm F2

最短撮影距離は、実測でもスペックどおりの20cmで誤差は無い。「Q」のように、短いほうに誤差があればと期待したが甘かったか。
早速、植物園に出向いてこのレンズ1本で撮影して回ったが、とりあえずは広角マクロっぽくは使える。最短撮影距離を超えて寄りたい植物もあるにはあったが、4,200万画素の画像から少々トリミングすれば使える。

<サクラ>
(※画像クリックで長辺2000ドットの等倍切り出し画像が別ウィンドウで開く)
サクラ

まず何と言っても、AFで自動的にピントが合うのは効率的。絞りも自動的に制御され、右片手でカメラがコントロール出来るところが痛快ですらある。
確かに、日常撮影にて標準ズームレンズで撮影するのと変わりないのだが、広角マクロで使うとその有り難味はこの上無い。

これにより、被写体1点あたりに費やす撮影時間が格段に少なくなった。あるいは、よりライティングのほうに集中出来るようになった。

それに、手間や時間以上に、ピントに関しての歩留まりが大幅に向上した。
MFレンズで撮っていた時はピンボケでも構わず撮影出来てしまうので、多くのピンボケ写真の中にジャスピン写真が混ざっており、RAW現像時にそれらを選び出す作業が大変だった。
中には、構図とライティングがこれ以上無いほどの最良カットで、ピントだけが合っていなかった時には泣くに泣けなかったものだ。

それがAFでは、ピントが合わなければシャッターが切れないため無駄カットの発生が抑えられる。
無駄カットは、手間や時間、そしてメモリカードの容量を無駄にするだけでなく、ストロボの電池も消耗させるので、それが少なくなると大変有り難い。

また、絞りが自動で動くのが嬉しい。
これまでの広角マクロレンズでは絞りは手動の実絞りであり、MF作業のためその都度絞りリングを左右に回して開閉しなければならず、そのせいで手に持ったカメラのフレーミングやストロボの照明角度が動いてしまうなどして面倒だった。

ただ、AFであってもピントがどうしても合わない場面が多くあった。
何のことは無い。単純な話、最短撮影距離を割っただけの話。
これまでの広角マクロ撮影のように撮ろうとしてどうしても欲張って接近してしまうため、今回のAFレンズの最短撮影距離0.2mを越え、ピントが合わずに慌ててしまったのである。
しかし一般広角レンズにしては、そこそこ近付けるレンズであることは実感出来た。だからこそ、勘違いしてさらに近付こうとしてしまったのだろう。

帰宅後、早速パソコンに取り込んだが、大きな画面に表示された植物の姿に驚いた。
見れば、25mmという焦点距離で最短撮影距離での撮影であるから、背景はどんなに絞り込んでもボケは出ている。しかしピントの合っている部分はこれまで見たことの無いほど解像している。
ソフトウェアでシャープネスがかかり過ぎたようなザラザラ感は無く、自然なシャープさが感じられた。

<ツルニチニチソウ>
(※画像クリックで長辺2000ドットの等倍切り出し画像が別ウィンドウで開く)
ツルニチニチソウ

これまでSONYのデジタルカメラでツァイスブランドレンズや最高性能とされるGMレンズを使ってきたが、今回のような驚きは無かった。
むろん、中国製広角マクロレンズと比べるとその差は明らか。最小絞りで撮っても回折ボケが見られないし、色収差も無い。マウントの電気接点を介してレンズ固有情報がカメラに伝わるので、恐らく回折ボケや色収差などは補正されるのであろう。

この画質を以って、これまで撮ってきた植物をまた撮り直したいと思わせるものだ。
実際ここ最近、フルサイズ機を使った植物撮影ではこのレンズしか持ち出していない。例の中国製広角マクロレンズでしか撮れない写真があることも事実だが、MFレンズを使うのが面倒になってしまった。

なお、植物撮影は雨の日がまた良い。
特にストロボ撮影では光源を様々にコントロール可能なことから、腕の見せ所でもあろう。

ストロボは、電子機器である以前に電気機器なので水には大変弱く、今回、チャック付ビニール袋に入れて密閉した。この状態でビニール袋を握ると内部の空気が行き場を失って膨らんだことから、密閉性が十分であることは間違いない。
ただし、バラの花を撮ろうとしてストロボの1つをバラの枝に載せたところ、鋭い棘が防水用のビニール袋に穴を開けてしまったのは失敗だった。

<バラ>
(※画像クリックで長辺2000ドットの等倍切り出し画像が別ウィンドウで開く)
バラ

ともあれ、雨中撮影はさすがにAFレンズであっても苦労した。
傘を差しながらカメラを構え、同時にストロボ照明を保持。手が幾つあっても足りない。
風があれば傘を強く保持したり、レンズ面に水滴が着けばハンカチで拭わねばならぬ。カメラとレンズがどれほど防滴仕様であろうとも、レンズ面に水滴が着けば画質に影響するので放っておくわけにはいかない。

もっとも、もしこれがMFであったならば、苦労が倍増するだけでなく、機材を庇うことが疎かになり、取り落としたりして大変なことになっていたと想像する。
そういう意味では、よほど腰を据えてジックリと撮るのでなければ、雨中撮影ではAFレンズは必須であろう。

<カキツバタ>
(※画像クリックで長辺2000ドットの等倍切り出し画像が別ウィンドウで開く)
カキツバタ

ただそうは言っても、傘は差していても横なぐりの雨であったり、撮影中に傘の保持が疎かになったりするので、どうしても雨濡れは発生する。そんな時、レンズ面を見てみれば、さすがにフードが雨よけになってくれているようだ。
もちろん、多灯ストロボ撮影が前提なので、強い逆光がレンズ面に当たることは多く、少しでもレンズ面の水滴があれば画面に現れる。だから頻繁にレンズを拭かねばならず、保護フィルターは必須アイテムと言える。


以上、3回にわたり記述した広角マクロについて、現時点での報告はこれでひとまず終わりとなる。
しかしながら、現状でも妥協の状態であることは言うまでもなく、今後の新製品登場によってはまた大きな動きがあろう。

想定されることとして、「FUJIFILM X70」の後継として2,000万画素クラスが発売されること、あるいはSONY Eマウント広角レンズにて接写可能なAF式が発売されること、・・・であろうか。
どちらも実現可能性はあまり無いが、まあ、現状を楽しみながら動向を見守りたい。