2000/04/05
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表紙

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カメラ雑文

[869] 2017年04月06日(木)
「広角マクロ(1)」


現時点で我輩が主な被写体としているものは、「植物」と「モデル嬢」である。
もちろん、「火山地形」なども被写体なのだが、大型連休でもない通常の週末で撮れる範囲では、上記2つが主な被写体となっている。

さて「植物」については、撮影に際して特有の問題がある。それは、植物というのはサイズの大小バリエーションが非常に大きく、それに応じてレンズ選択や撮り方が大幅に異なるという点だ。
少々の範囲であれば、ズームレンズで調整が利くが、特別小さな相手ではマクロレンズや接写リングを使わねば撮れない。
レンズ交換出来るカメラなのだからレンズを換えれば対応可能なのだが、我輩の植物撮影ではストロボを使うので、多くの機材で手がふさがってレンズ交換作業が大変。危うくレンズを落としそうになることもある。
だから、ある大きさよりも小さな植物は最初から撮影対象外として、無意識のうちに目に入らぬようにしていた。

それでも気まぐれにマクロレンズで撮影したこともあったが、その時は撮影対象が広がると共に、植物の世界も広がるように思えた。
レンズ交換が億劫ならば、「この日はマクロレンズだけの撮影だ」と決めて臨むのも良かろう。

ちなみに、マクロレンズは35mmフィルム時代から50mm前後のものを使っているので、同じように撮るならば問題は無い。しかし我輩は被写体の生々しさを表現したく、基本的に画面の全てにピントが合っていて欲しいと願う。理想に近いところで言えば、電子顕微鏡あるいはライトスキャニングフォトのような世界。

「全てにピントが合ってしまうと被写体が背景に溶け込むのではないか」という声もあろうが、その心配は無用。ストロボライティングによって背景を落とし、被写体だけが浮き上がるようにすれば良い。
もっとも、背景ボケしか表現方法を知らない初心者ばかりの現在、この手法はあまりに異質に見えるだろうが。

そうは言っても、マクロ撮影をするならば浅い被写界深度はつきもの。それはまるで、超望遠レンズで大きな世界から小さな世界を覗き込んだというような表現。目の前に存在しているような生々しさは皆無なのだ。

小さな世界に入り込むためには、カメラを小さくして小さな世界の距離感で撮影するのが望ましい(参考:雑文582)。
カメラそのものを小さくするのは無理だが、交換レンズの焦点距離と撮影距離を短くすれば同じ効果が得られる。そうすれば、小さな世界での距離感となるだろう。

ところが広角レンズでマクロ撮影しようにも、通常の広角レンズでは難しい。焦点距離の短いレンズではピントの繰り出し量がミリ単位と僅かな量なので、接写リングを使うと繰り出し過多となってどこにもピントが合わなくなるのだ。
せいぜい2〜3ミリ繰り出しが増えれば十分であるが、2〜3ミリ厚の接写リングなど有り得ないので、もし強引にやろうと思えば、レンズのマウントにスペーサーなどをかまして嵩上げ改造するしかなかろう。もちろん改造を施すと無限遠が出ないレンズとして固定化されてしまい、接写専用として汎用性が失われるのがネック。

そこで我輩はひらめいた。
ミラーレスカメラでは、マウントアダプタを介して一眼レフ用の交換レンズを使うことが出来る。マウントアダプタというのは一見すると接写リングのようにも見えるが、無限遠が出る普通のレンズとして使えるものである。

これは言うまでも無いことだが、一眼レフ用の交換レンズはミラーボックスのスペースを確保するためにバックフォーカスが長く、ミラーレスカメラに装着する時はそのバックフォーカス分をマウントアダプタの厚みで吸収出来るからだ。つまりマウントアダプタというのは、言い換えれば「厚さゼロの接写リング」とも言えよう。

そうであれば、マウントアダプタにちょっと厚さを加えれば広角レンズ用の接写リングとして使えるのではないか?
単体で1ミリ厚の薄っぺらい接写リングを作ることは不可能だが、例えば20ミリ厚のマウントアダプタだとしたら、1ミリ加えて21ミリに改造すれば良い。マウント部にスペーサーでも挟めば済むだろう。

だが、そう考えてすぐに「いや、既製品でそういうものがあるのでは?」と考えてWeb検索してみた。
すると有り難いことに、我輩のニーズにドンピシャ合致するものが存在するではないか。
その製品はヘリコイド繰り出し機構の組み込まれたマウントアダプタで、連続的に繰り出せることから1ミリの繰り出しでも可能だろう。
価格は5,980円と割と安かった。

<マウントアダプタ兼ヘリコイド式接写リング>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
マウントアダプタ兼ヘリコイド式接写リング

さて、Nikon一眼レフ用の広角レンズについては、焦点距離の短いものはSIGMAのNikonマウント用12-24mm超広角ズームもあるが、あれはちょっと図体が大き過ぎるし、実際に装着してみると四隅が深くケラレたので使えない。
他にコンパクトな単焦点レンズと言えばSIGMA製の対角線魚眼15mmがあるが、魚眼なので像が歪む。そうなると、20年くらい前に新品保存用で買ったAi-Nikkor20mmくらいか。

<マスターレンズはAi-Nikkor 20mmF2.8とした>
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マスターレンズはAi-Nikkor 20mmF2.8とした

確かに、当時は20mmにもなれば立派な超広角レンズという感覚であった。しかし最近は、16mm、12mm、そして10mmという極端な超広角レンズを手にし、もはや20mmが狭く感じてしまう。 まあ、まずは取り急ぎ広角マクロの効果を確かめてみようと思う。もし効果がありそうならば、また改めて良いレンズが無いか探してみたい。

早速近くの公園へ行って試してみたところ、広角でも近距離でちゃんとピントが合う。
だがさすがにマクロ領域なので20mm程度では背景が大きくボケる。これならば普通のマクロレンズと変わらないので、絞り込んで被写界深度を深くしてみたところ、まあ、それっぽい感じにはなった。

<作例:コスモス>
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コスモス

<作例:カンナ>
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カンナ

<作例:ヒガンバナ>
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ヒガンバナ

ただし、ここでの作例には出していないが(既に削除しているため)、ほとんどの場合に盛大なフレアが画面を覆ってしまい、フレアが出ないようにするのが難しい。
その出方があまりにひどいのでアダプタ後部から覗いてみたところ、マウントアダプタの内面が光を反射して輝いているではないか。これではいかん。

原因がハッキリと分かったので、反射防止の起毛紙を買い、内面に貼ってみたところ、かなり改善された。
少々の手間で製品の質が上がるのに、なぜそうしないのかと疑問に思う。

ただ、事前に分かっていたことだが、マウントアダプタのヘリコイド繰り出しリングが手前過ぎて非常に使いづらい。絞り込みリングもそのすぐ前にあっていつも間違える。
改めて見ると、マウントアダプタには「(1)ヘリコイド繰り出しリング」と「(2)絞りリング」、そしてマスターレンズには「(3)絞りリング」と「(4)ピントリング」があり、合計4本ものリングがあるのだ。
ちなみに「絞りリング」は絞り環の無いGレンズ用となる。

<リングが多過ぎる>
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リングが多過ぎる

いずれにせよ、単純に2本のリングがあるだけのシンプルなレンズは無いものか。
そこで、少し前から気になっていた、中国「LAOWA(ラオワ)」というブランドの15mm広角マクロレンズの購入を考え始めた。これは超広角15mmながらも、レンズ単体で等倍まで接写が可能とのこと。

これまでストロボでは中国製を10台以上買ってきたが、画質に直接関わる交換レンズを中国製とするのはさすがに抵抗がある。何しろ、画質を追求して33万円の「SONY α7RII」と25万円の標準ズームレンズ「FE 24-70mm F2.8GM」を導入したのだ。そのような画質追求カメラに中国製レンズを使うというのは、あまりにもアンバランスではないか。
そのレンズの評判を見ようとウェブ検索したものの、まだユーザーが少ないようで情報がヒットしなかった。

だが残業続きのせいで精神状態が不安定になったせいか、ある日ついに購入ボタンを押してしまった。
期待する画質が得られるという確証も無いのに、約7万円もの買い物をしてしまったのである。

届いたレンズは、真空レトルトパックのようになっており、ビニールの封を切ると「シュッ」と空気が入った。

<真空レトルトパック>
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真空レトルトパック

筐体は金属のためズシリと重く冷たい。ロシアレンズを買った時もそうだったが、金属製というのは古臭いイメージが拭えない。昔を知らぬ若者には高級そうに見えるそうだから面白い話。

ピントリングもゴムが無く金属のままで滑り易いばかりでなく、寒い季節なので冷たい金属が手にツライ。こういう特殊用途のレンズは実用一辺倒として、せめて外縁部はプラスチック、ピントリンクにはゴムを巻いてもらいたいものだ。

<LAOWA 15mm F4 Wide Angle Macro>
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LAOWA 15mm F4 Wide Angle Macro

ちなみにこのレンズはシフト機構を備えてはいるが、フルサイズではケラレるので使い道が無い。ロックがあるので不用意には動かないとは思うが、ロックレバーが細くて少々頼りない。

マウント部を見ると、レンズ後端からマウント面までが少々長い。まるで筒を継ぎ足したように見える。
これは一眼レフ用と共通の光学系のため、ミラーレス用としてはミラーボックスの距離分の底上げが成されていることになる。もしミラーレス専用の光学設計であったならば、わざわざ余計なレトロフォーカスを組み込む必要が無く、もっとコンパクトに設計出来たろうが、ミラーレス専用で分けてしまうと生産量が少なくなるので単価が割高になろう。

<カメラに装着>
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カメラに装着

フードは樹脂製なのは結構だが、大型で取り回しが悪くなり、しかも固定がカッチリこない。
カメラボディとの電気接点は全く無く、当然ながらピント合わせは手動で、絞りも実絞りとなっている。ちなみに絞り環にはクリックが無く、感触はピントリングと同一だった。

取り急ぎ、描写性能を確認して我輩の機材の中での位置付けを確定させたい。
本番撮影を想定し、植物を対象に試写することとした。

休日に公園へ出かけ、小さな花をマクロ撮影しようと近付いたところ、花がレンズ前玉に触れてしまった。等倍で撮影出来るレンズだが、その場合にはワーキングディスタンスがほとんど無い。
花が触れたレンズ前玉が汚れたのでハンカチで拭き取った。撮影毎にレンズを拭くわけにはいかないので、このレンズは保護フィルターが必須と言える。

気を取り直してカメラを構えたが、いくら超広角であっても、開放絞りかつマクロ域では背景が大きくボケてしまい、せっかくの臨場感が弱い。
最小絞りF32まで絞ると背景の様子が見えるようになったが、完全にはクッキリしない。まあ、完全にパンフォーカスにすると「携帯電話でも撮れそうな写真(※)」と言われかねないので、この程度で良かろう。
(※実は実際に言われたのだが、だったら携帯電話でストロボ撮影してみろと言いたい。)

だが、ストロボ照明しているにも関わらず、写真が暗くなってしまう。
よく見れば、フードが邪魔をして照明光を遮っているようだ。ワーキングディスタンスがほとんど無いので、照明光の入り込む隙間が無い。仕方無いのでフードは外した。我輩の使い方ではフードが使えるシーンは無かろう。

ちなみに、フードを使わないと逆光時にどんな悪影響があるか心配だったが、意外にも強いストロボ逆光でも画面が眠くなるようなコントラスト低下は無い。非常に抜けが良くクリアだった。ただし、ゴーストはどうしても出てしまうが、画面全体に影響があるわけではないし、日本製の高性能レンズでも超広角レンズではこれくらいのゴーストが出るのは普通のこと。

それにしても、やはり寒い季節にはこのレンズの金属は冷たくてかなわん。
ピントリングの金属ローレットの刻みも細かくて浅く、実用的とはとても言えない。そのうちゴムを巻いておこうと思う。

撮影の手順について書くと、まず絞りを開放にしてピントを合わる必要がある。そうしないとピントの山が分からない。「広角レンズはAFが必要無い」などと言う輩がいるが、とんでもない話だ。広角レンズはピントの山が分かりづらく、ピントの山が分かり易い望遠よりもAFの必要性は高いと言える。

ピントを合わせたら、改めて最小絞りにする。その時に撮影距離が前後しないよう注意せねばならない。何しろマクロ撮影ではちょっとのズレが大きく影響する。コサイン誤差もかなり影響するので、ピーキング機能だけでなく、拡大ピントなども活用する必要がある。心配があれば何度も確認し、撮り直しも気が済むまでやったほうが後悔が無い。

ただし左片手にはストロボ照明を保持しているので、右片手だけでそれら一連の操作を行うのはかなりの曲芸が要求される。幸い、絞り環にはクリックが無くスムーズなので、片手の指1本でも何とか動かせた。
リングは普通のレンズのようにピントリングと絞り環の2本のみで、リングが4本もあるヘリコイド式マウントアダプタよりは使い易いことは言うまでもない。

撮影後、自宅パソコン画面に表示させて詳細に見てみた。
解像感はまあまあのレベル。高性能な「FE 24-70mm F2.8GM」と比べるとさすがに劣るが、最小絞りだから回折ボケもあるだろうし、しかもMFであるからピントが合っている自信もあまりないことを考えると及第点と言っても良い。
色収差については、RAW現像時に補正可能ではあるが、撮影距離が違うと色収差の程度が違うようなので、全カットを一様に補正することは出来ず1つ1つ確認しながらの補正となる。もちろん、シーンが同じであれば、その範囲内では一括補正は可能。

それにしてもこのレンズで得られる光景は他では得られないもの。小さなスケールでの遠近感は、これまで見えなかった世界を見せてくれる。まるで昆虫になって植物を見上げているかのような錯覚すら覚える。
このような写真が得られると、撮影時の手間(その手間の多くがピント合わせ)が少々あろうとも頑張れる。

<作例:紅葉>
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紅葉

<作例:スノードロップ>
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スノードロップ

<作例:ハナニラ>
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ハナニラ

<作例:ニホンズイセン>
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ニホンズイセン

<作例:パボニア>
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パボニア

<作例:ポインセチア>
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ポインセチア

<作例:クレロデンドルム・スプレンデンス>
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クレロデンドルム・スプレンデンス

なお照明光については、ストロボを3台用いるのが一番良い。
というのも、接写では被写体が小さいため、ワーキングディスタンスが短く、大きな照明1つではレンズの陰になったりして、なかなか思うようなライティングが難しい。もし陰にならなかったとしても、小さな被写体には発光面が相対的に大きくなりがちで、光が回り過ぎて陰が無くなり立体感が出にくい。

結局のところ、発光面の大きな1灯だけよりも、小さな発光面の2灯や3灯のほうが細かいコントロールが利く。逆に言えば、少ない灯数で四苦八苦するくらいならば、さっさと灯数を増やしたほうがよっぽど早くて効率が良い。
実際には、照明効果と持ち運びの兼ね合いから、3灯が最適値という判断に至った。