2000/04/05
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カメラ雑文

[859] 2016年01月08日(金)
「直せ」


よく聞く笑い話。
「そこにあるカメラ、直しとけよ。」
「え、このカメラ壊れてるの?」
「違う、ジャマだから直しとけって言ってんの!」

九州では、片付けることを「直す」と言う。もちろん、九州出身である我輩も「直す」は普通に使っていた。
「直す」の語源は分からないが、我輩自身は「元に戻す」というニュアンスでこの言葉を使っているので、恐らくそんなところから来ているのだろう。

ただ、関東圏に来てからは使う頻度はめっきり減ったように思う。
「直す」と言おうとして、慌てて「片付ける」と言い直すのだ。「直す」では混乱が生ずることが多く、自然と矯正される。

言葉は意味が通じなければ、それこそ"意味が無い"。
まったく聞き慣れない言葉ならば「どういう意味だろう?」と考えたり推測したりもしようが、何の変哲も無いふうに聞こえる言葉に別の意味があるとすれば、何がおかしいのか分からず大きな混乱を招くのでタチが悪い。


さて、以前雑文798にて違和感のある呼称について触れた。
その中で「フルフレーム」については、現在の状況としてフルフレーム派はその言葉を普及させようと必死であり、例えば「さすがはフルフレームですね」などと会話に織り交ぜるなど努力しているようだが、普通に「そうですね、フルサイズはいいですよね」などと返答されており笑える。この状況では「フルサイズ」の牙城は崩れそうにない。これは好ましいことだ。

ただし国外のほうの呼び方があくまで「FULL FRAME」なのが気に食わん。日本語呼称の「フルサイズ」を浸透すべくロビー活動など出来ないものか。
「Hey,You!デジカメの聖地ジパングではフルサイズとしか通じないze!」と言って回れば、「Oh, Sorry!フルサイズね、OK!」となろう。
なぜにわざわざこちらがガイジンの用語に合わせる必要があるのか? 戦争で負けたからと言ってケツまで差し出すのはいい加減やめろ。

しかしSONYのミラーレスカメラ「α7シリーズ」のマウント基部には「FULL FRAME」と刻印されており、しかもカタログの文中では「フルサイズ」と書きながらもアイコンにはさりげなく「FULL FRAME」と記載されている。ガイジン向けに気を使っていることが透けて見える。アメリカ人の多くはSONYを米国企業だと思っているそうだが、その可能性もあるような気がしてきた。

<「SONY α7RII」がフルフレーム機だったとは>
「SONY α7RII」がフルフレーム機だったとは

一方、「電子シャッター」については現在の勢いを見る限り、残念なことに、もはや正しい方向に戻りそうもないように思う。
そこで今回、「電子シャッター」についてもう一度考えてみたいと思う。

●なぜ冠(かんむり)が付くのか
当たり前のことだが、"電気"や"電子"の冠が付くのは、それに対する物と区別するためのカテゴリ分けである。
例えば、「電気自動車」に「電気」という冠が付くのは、内燃エンジンの自動車と区別するためである。また、「電卓(電子式卓上計算機)」は「機械式計算機」があるから「電子」の冠が付く。
もしそういう区別が無かったならば、それぞれ「自動車」や「計算機」でも良かった。

もっとも、機械式の計算機は今や存在しないのだからカテゴリ分けは消滅し、「電卓」と呼ばずとも「計算機」でも支障は無かろう。ただ、歴史的経緯を踏まえた会話や文書では、やはり明確なカテゴリ分けを必要とする場合もあるはず。そもそも「電卓」では略称が定着しており、もはや冠を外すことが出来ない。

●「電気」と「電子」の冠の違い
ところで、電器製品に関係する冠には、「電気」と「電子」の2種類があることに気付く。例えば、「電気掃除機」や「電子辞書」というふうに。
この、「電気」と「電子」の使い分けは何であろうか。

結論から言うと、一般的に「電気」の冠が付くものは主に「動力が電気(大電力)」という意味合いであり、一方「電子」の冠がつくものは主に「情報や動作を電子回路でコントロールするもの(小電力)」という意味合いとなる。
つまり、「電気掃除機」は電動モーターの作用(動作)が主たる仕事なので「電気」が付き、「電子辞書」は情報処理が主たる仕事なので「電子」が付くわけで、それぞれにカテゴリとして分けられることになる。

もちろん例外はあり、「電子レンジ」の場合、電気を動力として加熱する機器ではあるものの、電気ヒーターを使ったオーブンレンジと区別するため、あえて「電子」の冠を付けたと思われるが、基本的な考え方は上記の通りとなる。

(※単純に、時代の最先端という意味合いで「電気ブラン」などの名前を付けた時代もあった。)
(※素粒子という電子本来の意味として命名された「電子顕微鏡」や「電子銃(ブラウン管)」の例もある。)

●カメラのシャッター
カメラのシャッターには、通常はフィルムやイメージセンサーなどの受光面直前に設置される幕式や鎧戸式の「フォーカルプレンシャッター」と、レンズ内に設置される羽根開閉式の「レンズシャッター」の、主に2種類のカテゴリ名称がある。細かいことを言うと、他にも「ミラーシャッター」など特殊なものはあるが、あくまでも単発的なものであるからこれは無視しよう。

どちらも動力源はスプリング、つまり機械式であり、電気の力で動作させるものではない。なぜならば、シャッター開閉には初速から高速が出せるスプリングのほうが向いているからだ。
例えバッテリーで動くフルオートカメラだとしても、モーターはシャッターのスプリングをチャージするために使われるだけで、シャッター開閉そのものをモーターで動かすわけではない。もし仮に電気で動くシャッターがあれば、それは「電子シャッター」ではなく「電気シャッター」であろう。
しかし現実には「電気シャッター」は存在しない。だから機械で動くシャッターは、区別せねばならぬ他の方式が存在しないので、わざわざ「機械式シャッター」などとカテゴリを作る必要など無かった。

さて、シャッターは単に開閉させるだけではなく、開閉タイミングを任意に変えられる仕組みも必要である。つまり、後幕がスタートするタイミングを調整するわけだが、これを担うものは調速装置(ガバナー)と呼ばれ、かつては機械式時計のようにゼンマイと歯車の組合せで行われていた。昔のカメラでスローシャッターを切ると「ジー」という音がするのは歯車が回転する音で、油が切れると音が不安定になり、制御時秒も狂う。

そこで機械の不安定さを改善すべく、電子回路を使った調速装置が作られた。
当然、機械式と区別する冠が必要となったため、「電子シャッター」というカテゴリ名称がつかわれるようになった。当初はコンデンサーに貯める電気量で開閉タイミングをコントロールするアナログの積分回路だったが、その後、精度と信頼性を上げるために水晶発振子(クォーツ)を使ったパルスカウント式、そしてデジタルコンピュータ制御となり現在に至っている。

なお、「電子シャッター」のカテゴリが作られたことから、従来の機械式の調速装置を使ったものは遅ればせながらに「機械式シャッター」あるいは「メカニカルシャッター」というカテゴリで区別するようになった。

ちなみに、不正確な「機械(メカニカル)シャッター」にも一定のニーズがあり、電池が無くとも動作するという理由が大きかった。シャッターの動作自体はどれもスプリングによる機械力で動くわけだが、開閉の制御に電気を使う「電子シャッター」は電池が無ければ動作しない。しかし「機械(メカニカル)シャッター」ならば電池が無くとも動くので、確実性を重んずるプロにとっては最後の砦と言えた。

●デジタルカメラのシャッター
デジタルカメラの起源は、以前にも書いたように銀塩カメラではなくビデオカメラである(参考:雑文740)。
ビデオカメラには物理的な可動シャッターは存在せず、イメージセンサー(サチコン撮像管やCCD個体撮像素子)からの映像信号を瞬間ごとに順次読み出している。だからデジタルカメラのほうでも、必ずしも物理的なシャッターは必要無いはずである。

しかしながら、スチル撮影の時に物理的なシャッターが無い場合、露光が終わって信号を取り出す時にもイメージセンサーに光が当たり続けているわけで、デジタルカメラで現在主流となったCMOSタイプのイメージセンサーではその影響が少なからず出てくる。そのため、イメージセンサーを使うデジタルカメラであっても、物理的なシャッターがあったほうが画質の面では都合が良い。

それでも最近になってイメージセンサーの性能が向上し、物理シャッターを用いずに特定の時間範囲の映像を取り出すことが出来るようになった。それによって物理シャッターでは実現が難しい超高速シャッターや、静音シャッターが可能となる。
現時点ではまだ物理シャッターほどにはCMOSの読み出し速度が速くないため、高速シャッターでは動体撮影で歪みが生じたりストロボ撮影が不可能であったりするが、いずれ更なる技術進歩によりその問題も解消されよう。

それにしても、イメージセンサーから特定の時間範囲の画像データを取り出す場合、特にシャッターの役割をする部品が別体として存在するわけではない。やっていることは情報処理的なもので、単なる機能である。だから、「シャッター」という名称を付けても実体が存在しない。
しかしこれまで物理シャッターが存在していたわけで、それに対するカテゴリ名称も必要となった。

そこで最近使われ始めたのが「電子シャッター」というカテゴリ名称である。そしてそれに対する物理シャッターのほうは「電子」に対する言葉として「メカニカルシャッター」というカテゴリ名称が作られ、そのカテゴリに入れられることとなった。
だがこれは、既存の用語を上書きしてしまう大いなる愚行。この時点で違和感を持たぬ者は、どこかがおかしい。

もっとも、元々使われていたカテゴリ名称である「電子シャッター」と「機械(メカニカル)シャッター」は、本来であれば「電子制御シャッター」と「機械(メカニカル)制御シャッター」と呼んだほうが正確であった。しかし「電子シャッター」と「機械(メカニカル)シャッター」は何十年も使われていた言葉であるし、過去の膨大なカメラ書籍を書き換えることも出来ない。
だから、最初に使われていた言葉のほうを"正"とするのが自然であろう。

この、言葉の上書き問題は、新参者が過去の経緯を全く無視して思い付きで命名したことが原因であろう。思い付きだからこそ、本質を突いておらず、名称として将来性を失っている。物理的に存在するシャッターが必ずしもメカニカルとは限らないとは思わなかったのか?
もし近い将来、遮光性が高く高速動作可能な液晶式やエレクトロクロミック式のような可動部の無いシャッターが開発されたらどうする? これらはシャッターユニットとして物理的に存在することになるはずだが、まさかそのせいで「メカニカルシャッター」のカテゴリに入れるわけにもいくまい。可動部が無いのだからメカニカルとするのは矛盾する。あるいは非物理シャッターとしてしまった「電子シャッター」のほうに入れるか?
物理的に存在するのかしないのか、そういうカテゴリで分けるとすれば必ずどちらかに属するはずだが、安易なカテゴリ名称のせいでどちらにも入れられなくなってしまうではないか。

●我輩の主張
我輩ならば、物理的に存在するシャッターならば「物理シャッター」、物理的に存在しない論理的なシャッターならば「センサーシャッター」としたい。論理的なシャッターを「論理シャッター」としない理由は、あまりに漠然とし過ぎてイメージ出来ず、呼称として定着しないと思うからだ。

言語というものは、どこかの管理組織が責任をもって集中管理しているわけではない。エスペラントなどの人造語もあるにはあるが、管理組織が新しい言葉を正式認可したり死語を正式廃止したりという話は聞かない。
言葉として、自然に発生し自然に消えていくものも多く、流行語などはその最たるものと言えよう。

しかし最低限、意味を取り違うような言葉を回避する努力は為されるべきだと我輩は思う。特に、同じ業界内での名称が完全に同じであれば、「フルフレーム」や「SS」のように無用な誤解を招く。
ちなみに、わざわざ書くまでも無いとは思うが、「フルフレーム」とはフルサイズのことではなくCCDの信号転送方式のこと。

<フルフレーム機「OLYMPUS E-1」のカタログ>
フルフレーム機「OLYMPUS E-1」のカタログ

そして「SS」とは、シャッタースピードの略称ではなく国産モノクロフィルムの感度100表記のこと。
これは昔からの常識。

<国産モノクロは「SS」がスタンダード>
国産モノクロは「SS」がスタンダード

仮に、「古いほうが使われなくなったから言葉を上書きしても問題無かろう」という主張があるとしても、昔の書籍を読む時には混乱が避けられぬ。
文化は、過去の経緯に対する理解とそれを基にした発展が重要である。それを忘れることは、文化を否定する行為にしか見えない。

今後、写真という文化のために、是非とも安易な名称は直して欲しい。
言っておくが、ここで言う「直す」とは、「片付けろ」という意味ではないので念のため。