以下は、今回の購入の経緯である。
出向先の職場にて、若い研究員K氏が我輩の席に来た。
「あのー、相談に乗って欲しいんですが・・・。会社でカメラを買うことになったんですが、どんなカメラを買えば良いか全く分からなくて。どういうのが良いんでしょう?」
「用途による。」
このようなやりとりは
過去に何度も経験しているので即答した。カメラの選択は、用途や目的で全く変わるのは真実。
K氏は「とりあえず決まっているのは、一眼レフでフィルムを使うものということなんです。」と言う。
「なぜ?」と訊いても、「上司がそう言っているから」と答える。
そこで、上司に直接訊いてみると、「用途としては広報誌掲載用とWebデータの両方に使いたいが、デジタルカメラではシャッターが切れるまでタイムラグがあり、しかも画質が良くなかったため今はフィルムカメラにしている。しかしそのカメラは私物のため、公費で新しくカメラを購入したい(※公費=国からの委託事業のため)。」とのこと。条件としては、一眼レフのフィルムカメラで、レンズはF値が2.8のものと言う。ある程度カメラの知識がある様子。
「分かりました、では幾つか候補を挙げて比較表を作ります。」
備品の購入には比較表など必要無かったかも知れないが、普段は業者発注の仕事を入札(価格競争・企画競争)にて決定しているため、ついその癖で比較表を作ると言ってしまった。
「まあ、説得力を付ける意味で比較表はあったほうが良いかもな。」
予算的には「Nikon F80」や「Canon EOS7」などのクラスとなるため、自動的にその2機種がノミネートする。MINOLTAは
αシリーズの絞り機構が構造上脆弱なため論外、PENTAXについてはもはや一眼レフとしての知名度が一般には薄いため無視した。
比較表には、「Nikon F80」と「Canon EOS7」の他、Nikon、Canonそれぞれの下位機種を掲載し、「これら重量の軽い下位機種は衝撃に比較的弱く、修理費用も本体価格と変わらないことも多いため、故障時は新品買い換えが基本。修理を前提とする公費購入には不適当。」と説明書きした。
「・・・待てよ。」
我輩は再び上司に訊ねた。
「印刷物への入稿形態はどうやってますか?フィルムを印刷業者に渡すんですか?」
「いや、近くの写真屋で同時プリントした写真を渡す。」
やはりそうか・・・。
我輩は、ここで断言した。
「それならば、デジタルカメラが適当です。」
「えっ?」
確かに、印刷物としてはフィルムを使うほうが画質が良い。同じ予算でデジタルカメラを購入しても、そのクラスのデジタルカメラでは画質的にポジフィルムには及ばないのだ。ポジフィルムならば安価にAクラスの画質が得られようが、デジタルカメラでAクラスの画質を得ようとすれば、その何倍もの費用が必要となろう。
だがしかし、同時プリントの写真を入稿するとなれば話は変わる。圧倒的に色や濃度の不自然な同時プリントなど、安価なデジタルカメラの画質にすら及ばない。いわばCクラスの画質。
広報誌を手に取ってみたが、写真のクオリティが良くない。いかにも同時プリントを入稿したというような写真ばかり。色や濃度のバランスが崩れ、ハイライトとシャドーの境目は滲んでいる。まさに同時プリントそのまま。
広報誌取材として見た場合、カメラを使う人間は特定出来ない。取材に行く人間は複数いるためである。それゆえ、ポジフィルムを使わせることは酷だと思われる。カメラや写真について無知なる者が使うには、懐の深いネガしかありえないのだ。
そうなると、やはりフィルムでは現状の画質を越えることは出来まい。
ならばいっそ、デジタルカメラでBクラスの画質を狙うのが現実的。今までフィルムカメラを活かせずCクラスの画質しか得られなかったが、デジタルカメラに換えればAクラスは望めなくともBクラスまでには向上出来よう。
我輩は、「キャノンから安価な一眼レフ型デジタルカメラが発売されましたから、それにしましょう。」と提案した。
安価な一眼レフ型デジタルカメラとは、「Canon EOS Kiss-Digital」である。名前がKissとは気に入らないが、この際仕方あるまい。
この提案は受け入れられ、早速比較表無しでこのデジタルカメラの購入伺いを出すようK氏に指示した。
ところが翌日、所長がカメラ購入の件でK氏に注意点を与えていた。
それによると、「デジタルカメラは既に3台もあるため、今回はフィルムカメラのほうにすべし。」とのこと。
K氏は「3台もあったかなあ。」と言いながら倉庫を調べてみると、リコー製400万画素のデジタルカメラが出てきた。しかしこれはシャッターのタイムラグが非常に大きく使いにくいとのことで誰も使っていないものだった。
また、もう一つはデジタルビデオカメラの静止画撮影機能のことであり、写真撮影に使えるような代物ではなかった。
結局、3台目のデジタルカメラは見付からなかったが、所長の意向としては「フィルムカメラは1台も無いのであるから、とにかく買っておけ。」ということらしいので、もはや「EOS Kiss-Digital」を選択することは出来ない。
「なんということだ。これでは何も変わらないじゃないか・・・。」
我輩は落胆したが、印刷入稿に関してはCD-R書き込みサービスにて電子化して対応することにして同時プリントを回避する方向で話がまとまった。CD-R書込みサービスであれば、店による画質の違いはあるにせよ同時プリントのCクラスまでに落ちることはあるまい。多少のことならばそのデータをパソコン上でレタッチすれば良い。
結局、最初に我輩が作成した比較表が再び必要となり、それを用いてカメラが決定された。
それが、「Canon EOS7」と交換レンズ「EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM」である。
Canonにした理由は、操作の点で軽快である点、そしてシャッターの切れの良さである。実際にフィルムを入れた比較ではないが、店頭にてNikon F80とCanon EOS7のシャッターを切ると、明らかにEOS7のほうが切れが良い。
最初に挙がった要望点としてシャッターが切れるまでのタイムラグがあったが、その点から言ってもシャッターの切れは重要である。もちろん、シャッターの切れとタイムラグとは別の問題ではあるが、体感向上として大きく影響を与える。そもそも、デジタルカメラの体感タイムラグの中には、シャッターの切れ具合が影響を与えていることも考えられる。
さらにF値2.8という要求についてはズームレンズにて実現出来ないため、手ブレ防止機能付きレンズを選択することによってF2.8相当の効果を得ようと考えた。
そもそもF2.8という要求は、手ブレの問題が発端である。まさか、広報誌の取材写真にて美しいボケ具合のためにF2.8を選ぶわけでも無かろう。ただ、融通の利くズームレンズというのは外せない。そうなると、F2.8クラスの大口径ズームとなってしまいその分重量増加によってブレ易くなる。ならばいっそ、手ブレ防止機能によってF2.8相当の効果を得るほうが良い。
では、実際にどこで購入するか。
「ビックカメラ」、「ヨドバシカメラ」、そして新橋の近場にある「キムラヤ」にて合い見積を取った。
我輩としては「ヨドバシカメラ」にしたかったが、なぜか「キムラヤ」が一番安く、そこで購入することになってしまった。
1月15日、定時後に我輩はK氏に同行してキムラヤへ出向き、見積り内容にてカメラを購入しようとした。
ところが、見積り品名に入っているUVフィルターがキヤノン純正品であることが判明し、急遽取り寄せ手続きをしなければならなくなった。他メーカー製ならばすぐに用意出来るとのことだったが、それでは見積金額が変わってしまうため、再び書類を回さねばならず購入が数日遅れてしまう。そうなるとすぐに用意出来ることの意味が無い。
さらに、注文番号が入力出来ないとかで、店員たちが右往左往していてなかなか埒があかない。結局、ただカメラを購入し不足品を取り寄せ手配するだけで小一時間も掛かってしまった。
我輩もK氏も疲れてしまった。
帰り際、我輩はK氏からカメラの紙袋を受け取った。事前にK氏に言っていたとおり、まず我輩が持ち帰って試し撮りをする。
大きなカバンと大きな紙袋、それを持って電車に乗るのは少々大変だったが、オモチャを持ち帰る子供の気持ちのように苦痛は感じなかった。
帰宅後、カメラとレンズを取り出してみた。
意外にもレンズが大きくバランスがあまり良くない。しかしカメラが軽いのでトータルとしては負担にはなるまい。
とにかくレンズのほうが興味があったので、我輩の「EOS630」や「EOS D30」に装着して動作させてみた。さすがに当初から防振レンズを開発していたEOSシステムだけのことはあり、旧いEOS630でも完璧に手ブレ防止機能が働く。Nikonには出来ぬ芸当だ。(参考:
雑文236)
試しに、結果がすぐに判るデジタルカメラEOS D30にて撮影してみた。
レンズ側のISモードをONにし、シャッターボタンを半押しすると、レンズのほうから微かに「ジー」という音が聞こえてファインダーの像に変化が現れた。手持ちではブルブル震えるような状態だったのが、手ブレ防止機能が働くとゆっくりとユラユラ揺れるようなものになった。
このレンズはテレ側が135mmまでしかないが、とりあえず1/15秒にてシャッターを切った。少なくとも液晶モニタ上では手ブレは見えない。さすがだ。
比較用として手ブレ防止機能を切って撮影してみた。・・・やはり手ブレは見えない。
我輩の高い技量が邪魔しているようだ。
今度は、外に出て夜の街を撮影してみた。
シャッタースピードは1/8秒。液晶画面で部分拡大すると、ようやく違いが現れた。
色々と取り比べてみたところ、やはり小刻みなブレは補正出来るようだが、大きなブレは補正出来ないようだ。もっとも、レンズを駆動してブレを補正するのだから、その量には限界はあろう。
この手ブレ防止機能は、気を入れてしっかり構えてもなお細かい手ブレが起きてしまう場合に有効である。最初から機材任せで手ブレを甘く考えている者には向かない。
言うなれば、「天は、自ら助く者を助く」。
さて、カメラボディのほうだが、なかなか質感は良い。
しかし、電子ダイヤルのクリック感はあまり良くない。Nikonよりは良いものの、かつてのEOS620やEOS630の切れの良いクリック感は全く無い。ただし、最近のEOSにしてはグリップ感は向上している。もっとも、これもEOS600シリーズには及ばないが。
ところで困ったことに、このカメラは低照度測距時にストロボが連続発光してしまうという欠点がある。もし人物が相手なら、かなり眩しく、しかもシャッターを切ったタイミングと間違えられても不思議ではない。
なぜにこのような仕様なのか理解に苦しむ。
また、電池もCR123Aというものを2本使っている。最近はこのような電池が主流なのか・・・?
しかし・・・まあどうせ、我輩はこのカメラを使うことは無かろう。
もし我輩が取材に行く機会があれば、Nikon F3やCanon EOS630があるからな。ただし、レンズのほうは使わせてもらうことにしよう。