今日の撮影ペースはなぜか遅く、終わってみると昨日より少なく12駅、消費フィルム量は18本にとどまった。こればかりは列車のダイヤに依存する問題か。
結局、残すは8駅。やはり2日間では回り切れず3日目が必要。しかし、さすがに疲労は蓄積し、3日間連続撮影は断念した。最後の撮影は数週間後としたい。
だが考えようによっては、2日間の撮影結果を見てから3日目の撮影を行うほうが、失敗のフォローも出来て好都合と言える(フォロー出来る範囲の失敗であれば良いが)。フィルムの買い足しは、現像結果を見てから考えることとする。
今回の撮影では両日共快晴で、強い光の下でデジタルカメラの液晶パネルを見るのには苦労させられた。しかし、今までの経験を活かし、多少暗めだと思っても階調そのものを見ることにより、適正露出の山を掴めるようになってきた。やはり、液晶パネルによって仕上がりイメージが事前に確認出来るというのは安心感に繋がる。撮影時には気付かなくとも、駅舎の日陰の中で液晶パネルを見れば、より正確なモニタリングが可能である。
さらに、デジタルカメラを使う利点としては、絞り値やシャッタースピードなどの撮影データを確実に残せるという点である。どのカットでどのような設定値で撮影したか、それはそれぞれの画像に書き込まれており、取り違えや勘違いが無い。このデータは今後の撮影に役立つのは言うまでも無かろう。
しかしながら、ごくまれに同じ露出設定値でもシャッターを何度か切ると極端に違う明るさになってしまう現象が現れた。前回の感度400事件もそうだが、このデジタルカメラEOS-D30の不具合によるものかという気もする。
それにしても露出計代わりにしてはやはり図体が大きい。マニュアル露出で撮影可能なデジタルカメラならば、何も一眼レフ型でなくとも小型のもので十分。例えばオリンパスの「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」では、外光に惑わされる外部液晶パネルではなく、ファインダー内で表示する液晶パネルであるため、常に安定した条件で撮影結果が確認出来そうである。値段も新品で4万円台と比較的安い。
●撮影3日目
撮影3日目は、天気の都合で3週間後の5月25日(土)となった。
撮り残した駅や、もう一度撮り直すべき駅などを合わせると、まだ10駅弱はある。確かに、今までのペースを考えると1日10駅巡るのは不可能では無い。だが、撮り直したい駅が連続で並んでいれば良いのだがポツリポツリと離れているのでそうもいかない。やはりあと2日は掛かると予想する。
前回は、午前4時台の始発で出発したが上野駅での接続が良くなかったこともあり、今回は20分遅れで家を出た。
基本的な装備は今回も変わりないが、露出計代わりのデジタルカメラは、新たに購入した「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」であり、前回に比べて小型・軽量を果たした。ただ、電池の保ちが未知数だったため余裕を見てバッテリーを5セット(単3型x4個x5セット)入れており、その分肩に掛かるバッグの重さは前回と変わらないように感ずる。
現地に着いて早速、明るい日差しの中でデジタルカメラを使用した。さすがにファインダー内液晶のためか、外光に惑わされることは無い。しかしドットの粗い液晶のため、露出の山を掴むのが難しい。最初は不安でもあり、頻繁に単体露出計でチェックしていた。
さらに、デジタルカメラ側の最小絞りがF8までというのは計算外だった。そのため、デジタルカメラの露出値を中判カメラに合うように変換するという面倒臭い作業が必要となった。なぜならば、Newマミヤ6はレンズシャッターのため最速シャッターは1/500秒までしか無い。
さて、2駅くらい回ると、何となくデジタルカメラの液晶のクセが掴めるようになってきたような気がした。だが、それは実際に現像の上がったポジを見てみないことには確信は持てない。それ故、前後の露出を何枚か段階露出を行った。
それにしても、意外にもこのデジタルカメラは電池の保ちが良いようだ。
途中、寄居駅でSLに遭遇した。前回は通過駅で遭遇したため、通過する一瞬を撮影したに過ぎなかった。だが寄居駅ではSLはしばらく停車するようだ。
我輩は予定外ではあったがSLを撮影する良い機会とばかりに何枚もシャッターを切った。黒い車両に明るい空であるから、露出にも神経を使う。失敗しないよう、これも段階露出でカバーした。
SLの撮影が一段落し、今後の予定を立てるべくフィルムの整理を行った。
駅の多くは「ゴミ持ち帰り運動」のため、フィルムを包んでいたビニールパッケージや留め紙などのゴミがカバンの中に氾濫していた。ゴミを握り固め、露光済みフィルムを束ねて整理し、残った未使用フィルムを数えた。
「1、2、3、4、・・・5? 5本?!なんでこんなに残りが少ないんだ?」
残りフィルム本数は、12枚撮り5本。時計を見ると4〜5駅は回れそうなのだが、いかんせんフィルムのほうが足りぬ。段階露出を節約するにも、まだ新しいデジタルカメラを露出計として使いこなしているとは言えず危険が伴う。
それにしても妙だ。いくら段階露出が多めだからと言って、今回は特にフィルム消費が激しい。まさか、SLの写真が多すぎたか・・・?
前回と前々回の撮影では、各20本ずつフィルムを消費した。今回も20本のフィルムで十分だと思い、それ以上は用意していなかった。
結局、午後1時頃に最後のフィルムが終わった。あたかも、拳銃を全弾撃ち尽くしたかのようだった。多くの敵を前にしながら弾切れという気持ち・・・、その瞬間に戦意喪失。為す術無く
ホールドオープンされた拳銃をゆっくりと下ろすしか無い。
この日、消費フィルム量は21本。帰宅途中、いつものように上野ヨドバシカメラに立ち寄り現像に出した。そして新たに20本買い足した。・・・金が無い。
数日後、フィルムの現像が上がった。
見ると、意外にもほとんどのカットで段階露出の真ん中のコマが適正露出となっている。やはり外光に惑わされないファインダー形式の液晶パネルの効力であろう。これならば段階露出は不要か。しかしまあ、100パーセント全てのシーンでうまくいっているわけでもなく、失敗の許されない状況では、やはり段階露出で保険に加入することは大切。例えそれが掛け捨ての保険となろうとも。
●撮影4日目
撮影4日目は、我輩の都合により8月11日(日)となった。
「デジカメは露出計となり得るか」という本企画は、
長期休暇の本番撮影に備えたテストであったが、この4日目には長期休暇の本番撮影を既に過ぎており、もはやテストの必要性は無い。だがこのテストは、撮り直しのきく本番撮影をテストとして利用していただけであるので、テストの意味が終わっても撮影自体は完結させる意味はある。
今回は気まぐれで、入射角5度のスポット測光が可能な露出計を併用することにした。
前回は、フィルムが途中で無くなったことにより撮影中断を余儀なくされた。あと6駅ほど残されていたのだが仕方無く撤退した。今回はその残りが対象である。
フィルムは当初からKodak EPPを使用しており、当然ながら今回もEPPで20本備えた。
デジタルカメラ「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」のほうは、意外にバッテリーの保ちが良いと判明しているので、2セットだけ用意した。まあ、今回は撮影枚数が少なそうであるから、バッテリー交換の必要さえ無いだろうと思う。
まず、撮り逃しのあった羽生駅(はにゅうえき)で撮影を始めた。
朝方であるため、色温度が若干低い様子。計算外ではあるが、まあ駅舎であるから多少は旅情が出て良いかも知れない。
電車が丁度ホームに入ってきたので、その様子も撮影した。
ホームに入ってきた電車から人が降りてきたが、その中の一人の婆さんがこちらに向かって声を掛けた。
「熊谷(くまがや)から長瀞(ながとろ)に行こうと乗ってきたんだけど、この電車じゃなかったんかね。」
妙な洋服(フリフリの付いたパッチワークのような洋服)を着た風変わりな白髪混じりの婆さんだった。
我輩はファインダーから目を離した。
「ながとろ?」
我輩は不意を突かれたため、とっさに頭が働かなかった。長瀞・・・と言えば、そういう駅があったような。
すると婆さんは苛ついた様子で「知っとるのか知らんのか」と問うた。
我輩はその態度が人にものを訊ねるものではないと思い、反射的に「知らん」と返した。
すると婆さんは、近くの駅員のほうに行き話し掛けた。駅員は婆さんに一生懸命に説明していたのだが、長瀞に行くためには同じ電車で戻れば良いだけであるのに、なぜか5分近くも説明しているのが見えた。一体、婆さんは何が納得出来なかったのか。しかし、我輩が捕まらなくて良かった。
我輩は羽生駅の撮影を終え、三峰口(みつみねぐち)行きとなったその電車に乗って次の目標の新郷駅(しんごうえき)を目指した。
この電車は3両編成で、両側2両が冷房車、真ん中の車両が非冷房車である。我輩は席の空いている非冷房車に座っていたが、例の婆さんは隣の冷房車に座っていた。
数分後、電車は新郷駅に到着。ここは以前にも撮影していた駅だが、1枚だけ撮り直したいカットがあった。我輩は新郷駅で下車し、婆さんを乗せた電車は走り去った。
撮影を済ませて次の列車に乗り、しばらく電車に揺られた。次の目標は15駅離れた波久礼駅(はぐれえき)である。
しかし、途中の熊谷駅に到着した時、ホームで例の婆さんがいるのに気付いた。
婆さん、あんた長瀞に行くんじゃなかったのか?
婆さんは、何くわぬ顔で我輩の電車に乗ってきた。そして、冷房車に移動するために我輩の前を通り過ぎた。・・・と思ったら、いきなり通路でジャンプを始めた。ドスン、ドスンと跳んでいる。見ると、通路に設けられている整備用の扉(?)の上で跳んでいるようだ。何のために跳んでいるのか理解出来ないが、婆さんの目には、その扉が少し浮いて見えたのかも知れない。
波久礼駅で今度こそ婆さんとの別れを果たした。
ホームに降りると、ムンとするような夏の匂いと、周囲をとりまくセミの鳴く声があった。ここは、緑が近い。懐かしい風景だ。
こういう場所があるからこそ、秩父線を撮る価値がある。そう思わせる駅だった。
駅舎を撮影していると、バミューダ(半ズボン)を穿いた男が寄ってきて我輩に話し掛けた。
「寄居までの道、分かります?」
どうやら車で来たらしい。だがここは我輩にとって見知らぬ土地。素直に「知らない」と答えた。すると、男は駅長のほうに行って再び訊ねた。しかし、今どきならナビゲーションシステムで道順などすぐに分かりそうなものだが。
次に向かったのは樋口駅(ひぐちえき)。
そこで撮影をしていると、若い駅長殿に声を掛けられた。
「写真撮ってんの?電車を撮らないの?」
電車にはあまり興味が無いのであるが、少し遠回しに答えてみた。
「秩父線には珍しい電車は無いから。」
そう言った後で、「そう言えばSLが走ってたな」と気が付いた。
ホームには15〜16歳くらいの少女が携帯電話を操作していたが、カメラを振り回している我輩が近くを通ると珍しそうに見ていた。
その次の駅は野上駅(のがみえき)。
バイクで訪れた青年が、我輩の撮影している姿を見てあからさまに身を逸らした。だが残念なことに、広角レンズであるからいずれにしてもフレームインしている。
最後に白久駅(しろくえき)。
ここも以前撮影した場所だが、やはり1カットだけ気に入らなかった。
撮影を始めると、数人のグループも撮影をしているようだった。ただ、そのグループは会話ばかりで撮影には熱心ではない様子。しかも、「線路に飛び込むと駅員に迷惑かけるぞ」とか「上手くやるから大丈夫だ」というような妙な会話をしており、少し気になった。
ふと、片側しか無いホームから線路を見ると、その向こうに三脚のようなものが見えた。何かの測定器かなと思ったが、電車が到着する直前にグループの一人がサッと線路に降りて横切り、その三脚に素早くカメラを取り付け、ホームに進入する電車の写真を反対側から撮影し始めた。危ないなあとは思ったが、許可を取っているのだと解釈してそれ以上の観察は止め、我輩は自分の撮影を行った。
・・・以上で秩父線の撮影は全駅完了した。
今回の撮影もデジタルカメラによる測光が効果を上げ、ポジのスリーブを見ても露出的にイメージから外れたカットは2〜3枚しか無かった。一応、プラスマイナス0.5段の段階露出は行っているが、その0.5段の中間に適正露出があるとすれば、どちらのコマを採用すべきかを迷うことになる。やはり、真ん中のコマにドンピシャリと露出が合うことが重要。段階露出はあくまで保険という位置付け。
今度の企画では、デジタルカメラのラチチュードの狭さが露出の決定に大きく影響したと思う。もしデジタルカメラのラチチュードが広ければ、どの露出値を採用すべきか迷ったに違いない。
問題は、それを表示する液晶パネルのほうにあった。強い外光に邪魔されて正しく液晶画像を確認出来なければ意味が無い。ファインダー内液晶である「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」はその点に於いて優れていると言える。
※今回の駅舎撮影は「写真置き場」にて展示する予定