書籍の電子化を進める我輩がこのたび、自分の所有する「月刊CAPA」の完全電子化をすべて完了した。
これで「月刊CAPA」は心おきなく廃棄処分出来る。大きな紙の束が消えるのは気持ちがいい。CD-Rに記録すると15枚分にもなったが、CD-Rがいくら増えたところで紙の容積と重さには勝てぬ。しかも「月刊CAPA」はここ5〜6年くらいは購入していないため、この雑誌についてはこれ以上増えることは無いだろう。
さて、書籍の電子化は閲覧頻度を向上させることにも繋がる。
以前ならば物理的に探し出すのが億劫で、余程の動機が無ければ過去の雑誌を開くことは無かった。しかし、デジタルデータになると、物理的制約が消える。
我輩自慢のノートパソコンで閲覧すれば、縮小することなく横幅が等倍表示で見渡せる。
そうやって見ていると、時間が経つのを忘れ、過去の記事に自分の意識が入り込むような錯覚に陥る。
1989年4月号には、「Canon EOS630」が「電撃的に登場」となっているのを見つけ、懐かしく読み入った。
・・・・・回想モード・・・・・
当時、我輩は「MINOLTA α-7700i」ユーザーだった。2台のボディにそれぞれ24mmと100-300mmを装着していた。しかし、その使い方が少し荒かったのか、アップダウンレバーがよく誤作動を起こした。撮影中、もう一台のカメラを持ち替えると、それが1/2秒などという設定になっていたりしたのだ。
恐らく、レバーが身体のどこかに当たってしまったのだろう。
我輩は一度露出を決めると、それをそのままマニュアルモードで固定させる(参考:
雑文042)。ライティング(太陽)が同じならば、露出が変わらないのは当然であり、同じようなシチュエーションならば露出を変える意味は無い。
たまに雲で翳ったりする時には加減を行うが、基本的にマニュアルで固定する。そして、保険の意味で自動段階露出(AEB)で押さえておく。
現在以上にバラつきの多い当時の分割測光では、これは露出をハズさないための方法だった。
しかし、その露出固定はアップダウンレバーの誤作動で台無しとなる。1度や2度ならば目をつぶるが、我輩のカメラの提げ方が悪いのか、かなりの頻度でそれは起こった。
それ以外の点に於いては「MINOLTA α7700i」は良いカメラだったが、やはり我輩とは相性が良くないと考えざるを得ない。
そこで、我輩は別のカメラを探すことにした。しかし選択肢は多くなかった。
ミノルタ以外で信頼出来るAFカメラはキヤノンしか存在しなかった。しかし幸いなことに、キヤノンには電子ダイヤルという強力な武器があった。我輩はこれに期待をかけた。
しかし妥協すべき点が無かったワケではない。
当時のキヤノンEFレンズに100-300mmレンズはあったものの、それはミノルタのものよりかなり大柄で気が萎えた。そこで70-210mmレンズで我慢することにした。もちろん、当時は超音波モーター(USM)内蔵レンズは20万円以上のレンズにしか採用されていなかったため、その70-210mmレンズは非常にやかましいノイズの発生源でもあった。
だが、それでも電子ダイヤルのメリットで十分に元がとれた(その後、他社も一斉に電子ダイヤルを採用するのはご存知の通り)。
アップダウンレバーでは、レバーを左右どちらかにスライドしてそのままにしておくと、設定値がどんどん変わる。1/250秒に設定させていても、いつの間にか1/2秒になる可能性がある。電子ダイヤルならば、回転量に応じた変化しか起こらず、仮に起こっても復帰は迅速である。
しかもある程度のクリック感があるため、設定変更には相当量のトルクが必要であり、事実、我輩の使用した限りにおいては誤作動は皆無だった。
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さて今回、我輩は過去の記事を読むことによって、当時の意識に戻っていた。
「最新・最速イオス」の見出し。確かにEOS630は当時の最速だった。だが、今ではその名前を覚えている者は少ない。EOS650/EOS620とほぼ同じデザインに埋もれた名機。
だが、いくら過去のカメラであろうとも、当時は最速として実際に使っていた。もし本当に隠居老人のように力が衰えたとしたら仕方無いことだが、カメラの性能は昔も今も変わらない。EOS630が使えないカメラだとするならば、当時でも使えないカメラだったはずだ。そうではないことは、過去のオーナーだった我輩が一番良く知っている。
どこで線を引くかは、写真を撮る自分自身が決めることだ。Nikon F5レベルでなければ使えないと言う者もいよう。あるいはMINOLTA α-7000で十分だという者もいよう。我輩の中では、AFカメラの中でEOS630が一番バランスのとれた良いカメラだ。これより前でも後でもいけない。
惜しむらくは、中央部重点測光かスポット測光が無いことか。スポット測光ではなく部分測光はあるが、やや中途半端で使いにくい。分割測光(6分割評価測光)については、そのクセを掴むのが難しく、AEBでカバーする以外ない。
前にも書いたが、分割測光は想定に無いシーンでは意外な予測値を出すことがある。カメラ側のアルゴリズムがシーンを取り違えば、全く期待に沿わない結果を出すのだ。いくらカメラが「これが適正値だ」と言おうとも、撮影者が違うと思えばそれは適正値ではない。だから、サブマシンガン的使い方しか出来ない(参考:
雑文234)。露出の加減を自分の表現手段として捉えるならば、カメラ任せの分割測光にはAEB機能は欠かせないことになる。
EOS630は、今までのEOS620とは違い、AEB機能が1回ごとにキャンセルされない。一度設定しておけば、解除するまでAEB機能が保たれる。これが、同じように見える600系イオスの中でもEOS630を選ぶ理由なのだ。
精密射撃が出来なければ、このEOS630はサブマシンガンとして位置付けよう。
そうなると必然的に、秒間5コマの連続撮影スピードという条件は外せなくなる。もしこれが毎秒3コマだと1回のAEB撮影に1秒かかることになり、無視できない問題だ。その意味でもEOS630は実戦的と言える。
だが、600系イオスのマニュアル露出のやりにくさは否定出来ない。ボタンを押しながらダイヤルを回すという絞り設定や、ファインダー表示の「CL,OO,OP」という表示も直感的ではない。
だが、我輩がマニュアル露出を使うのは、「露出値を固定させる」ということが目的であるから、物は考えよう、不用意に動かない絞りは逆に好都合だと受け取る。EOS630はカスタムファンクションの設定で、絞りとシャッタースピードの操作も入れ替え出来るのだ。露出量の増減ならばどちらかのバリューが可変であれば問題は無い。
更に、現在では当たり前の「内蔵ストロボ」についても、我輩にとってはジャマなだけだ。ストロボが必要ならば、最初からデカいのを付けるさ。カメラのバッテリーに寄生する軟弱なストロボなど要らぬ。
そもそも、ストロボ内蔵型カメラは無意識にかばってしまい気疲れするのが困る。ぶつかりやすいペンタ部がシンプルであれば安心していられる。我輩の初代のEOS630は、ペンタ部の塗装がハゲて銀色(恐らく電磁波を遮断するための金属皮膜)が見えていたものだ。頼もしい面構えだった。
我輩に気を遣わせるカメラなど、使い捨てカメラにも劣る。
シャッター音については、モーター音よりもミラーのバタつきがうるさい。だから、レンズを装着してマウントが塞がると音が変わる。外付けモータードライブとは音質が違うが、最近のAFカメラのようなマイルドで頼りない音ではないから、まだ許せる。
ただ残念なのは、シンクロターミナルが無いことだ。
もちろん、ホットシューからシンクロターミナルを増設するアクセサリも発売されているだろうが、それではスマートじゃないな。そうなると事実上、ストロボでのライティングは楽しめない。
これだけが残念。
話によると、T90の時のように、シンクロターミナル増設改造が出来たそうだが、今でもやってくれるとは考えにくいし、だいいち面倒くさい。
さて、今回なぜこのようにEOS630のことを長々と書いているのかというと・・・、実は、そのEOS630を手に入れたのだ。