2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
 F4
 F-401X

Canon
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 K1000
 KX
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 MZ-3
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MINOLTA
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 XD

RICOH
 XR-7M II
 XR-8SUPER

カメラ雑文

[814] 2014年05月20日(火)
「積極的ストロボライティング」


写真の世界では、「光を読む」という言葉がある。
これの意味は恐らく、屋外撮影にて偶然現れる意外性のある光を追い、その感動を写真表現化すべくアングルや撮影場所などを選び、適切な効果が出るよう露出値を決めること、そういった一連の行為のことだと想像する。

ただ、いくら偶然巡りあう光とは言っても、それに出会うにはテーマを絞り時間をかけて取り組まねばなるまい。また経験や運も要求されよう。そして、自分がその光に気付くかどうかも重要となる。
それだけに、上級者の写真は一味違うのだろう。

一方、テーブルトップスタジオでは「光を読む」という行為は無い。
なぜならば、テーブルトップスタジオではライティングを100パーセント自分の意志で組み立てるため、そこには自然光のような、偶然現れる意外性などいう要素は無いのだ。全ては自分自身がゼロから組み立てたもの。逆に言えば、そこが面白いところでもある。

ただ、テーブルトップスタジオの撮影技術について言うと、いったん自分のライティングスタイルが確立してしまえば後は被写体が変わっても同じように撮れるので、難しいことは何も無い。対象物によって表現を変えるにしても、ライティングは100パーセント自分のコントロール下にあるのでどうにでもなる。
それはつまり、同じ撮影状況を再現すれば誰でも全く同一の写真が撮れるということでもある。だからネットショップの商品撮影などアルバイトが流れ作業的に撮影している。お膳立てが揃っていれば、それこそシャッターを押すだけで済むからだ。
それゆえこういった写真は著作権が成立しにくく(参考:雑文748)、例えば米Amazonが特定のスタジオライティングを特許として取得したことは一つの防衛策なのであろう。

さて我輩の場合、前回の雑文でも述べた通り、テーブルトップスタジオを趣味としている。
上に述べた通り、撮影それ自体に苦労は少ないわけだが、だが一方で、撮影対象となる小物の取扱いには非常に神経を使う。キズやホコリ、指紋などが付かぬよう、場合によっては手袋を装着するなど細心の注意が必要となる。だから、いくら撮影に苦労が無いとは言っても、そうそう撮影にかかれないことも多い(特に未使用Nikon F3を対象物とする場合など)。

そういうわけで何だかんだ言っても結局のところ、テーブルトップスタジオ撮影よりも屋外撮影のほうが気軽で、撮影カットも当然ながら屋外撮影のほうが多い。
だから週末になると、天気や行先に気を悩ませることになる。天気が悪ければ色乗りが悪く、行先がなかなか決まらねば行動時間が遅くなって陽が傾く。
全ては自然光に任せたライティングのせい。まさか太陽の位置を動かしたり雲を吹き払ったりなど出来るはずもなく、思い通りに行くことは少ない。そんな中で時間をかけてジックリと「光を読む」などというのは我輩には難しい。

ところが最近、ラジオシンクロユニットを導入した。これについては前回の雑文でも触れており、テーブルトップスタジオに大いに活用している。これを屋外でも活用出来ないものかと考えた。
これはつまり、屋外をスタジオ化するということである。気まぐれな自然光に頼らず自分で組み立てたライティングで撮影することにより、少々の悪天候や陽の傾きに左右されること無く、ましてや光を読む必要も無く、安定した撮影結果を出せる。

<ラジオシンクロユニットを屋外でも活用出来ないか>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ラジオシンクロユニットを屋外でも活用出来ないか

テーブルトップスタジオ撮影におけるラジオシンクロのメリットは「多灯撮影が簡単・確実に行えること」だったが、屋外で使う場合のメリットは、「煩わしいコードの取り回しが不要となり、軽快で迅速なセッティングが可能」ということになろう。屋外ではあまり手間のかかることは難しい。それが簡便になれば利用範囲が広がる。

考えてみれば、ストロボというものは、効率的に大光量を得られる優れた照明である。かつて屋外撮影会の場で、あてにならないレフ板に頼らずストロボで陰を起こしたことが思い出される。
しかしそれは、カメラのホットシューに装着したストロボによる一般的な日中シンクロだったので真正面から照らすしか無く、お世辞にもライティングと言えるようなものではなかった。ストロボ光を主とすれば立体感が失われてしまう。
だから自然光を主としながら、ストロボ光は微妙に陰を起こしたりキャッチライトを入れたりするなど、あくまでも目立たぬよう補助的に用いるのみであった。

ところがストロボをカメラから離すことで、自由なライティングが可能となり、積極的にストロボを主光とすることが出来る。それにを可能とするのが、ラジオシンクロなのだ。

まず最初に、日中シンクロの典型的な写真を撮ることから始めたい。新たな模索を始めるにあたり、改めて最初に立ち戻って撮るものである。

<典型的な日中シンクロの例>
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典型的な日中シンクロの例
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F4.5/ISO100]

これは椿の花を日中シンクロで撮ったものだが、赤い花と緑の葉が背景の青空によく映えて美しい。背景との露光レベルが完全に合っているためだ。
その結果、樹木と空との境界もボヤけず鮮明に表現出来た。

もちろん、こういう写真はライティングがベタ過ぎて一般的には芸術写真として見なされないのは理解している。しかしここで我輩が狙っているのは鮮明描写の一点。雰囲気のある不鮮明な写真よりも、雰囲気ブチ壊しであろうとも鮮明なほうを好む。それが我輩の感性であるし、その感性を捨ててしまえば我輩そのものが存在しなくなるのだ。

さて、次の写真も日中シンクロ写真で、ユズリハと背景の両方がクッキリと描写されており、椿の写真同様に強引なライティングではあるものの美しく撮れている。

<ユズリハ>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ユズリハ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F9.0/ISO200]

ユズリハは、その特徴的な葉の付き方が非常に興味深い。ストロボ光はその様子を鮮明に照らしてくれた。
日中シンクロなのでTv(シャッタースピード)はシンクロスピード以下の速度に設定せざるを得ず、そのためAv(絞り値)が大きくなり被写界深度は深いのだが、この場合、ユズリハを取り巻く周辺の雰囲気も描写されており好都合と考えたい。もしそれが嫌ならば、先の椿写真のように空を仰ぎ見るよう構成すれば済む話。

ちなみに、このような典型的日中シンクロ写真は意外に目にすることは少ない。
写真を趣味とする者はアートとして撮るのでこういう撮り方はせぬし、かと言って写真シロウトではそもそも日中シンクロという発想は無い。

●屋外でのラジオシンクロユニット投入
次に、ラジオシンクロユニットを屋外にて用い、ストロボをカメラから離す撮影を試すことにした。
まずストロボを片手に持ったオフシューライティングを行う。
夜間、庭に咲いている花の真上からストロボ光を当てる。ライティングとしては単純であるものの、暗闇に花が浮かび上がる効果的なライティング。ディフューズも何も無く、ストロボ直照である。

<単純にストロボ光を真上から当てただけ>
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単純にストロボ光を真上から当てただけ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/200sec. Av=F3.5/ISO200]

このようなライティングはこれまでも有線シンクロで行ってはいたが、画面上方からシンクロコードが垂れ下がるのでコードの取り回しが面倒であった。不用意にコードをイジると接触不良で不発となることも多い。
しかしラジオシンクロとしたことで格段に効率が向上し、撮影が気軽になった。

さて、次に試したのが物陰に置かれたストロボの発光である。
作例を下に掲載する。

<ワイヤレスによる遠隔シンクロの例>
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ワイヤレスによる遠隔シンクロの例
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/320sec. Av=F4.5/ISO200]

これは、とりあえず実験的に行った撮影のため明確な描写的意図があったわけではないが、物陰に置かれたストロボが見事に発光しているのが分かる。アイディア次第で撮影の可能性が広がることを感ずるばかりでなく、離れた場所からコントロールするのが単純に面白い。

また、ラジオシンクロであることは、多灯発光が容易であることも意味する。もちろんスレーブユニットでも同様のメリットがあるが、スレーブユニットではトリガーとなる発光が必要になるので、場合によってはトリガー発光自体が余計な照明となってしまうこともあろう。特に夜の場合、トリガー発光の写真に与える影響は小さくない。

今回、ラジオシンクロでの多灯発光の有用性を実感するため、夜の公園にてツツジのライトアップ撮影に挑戦した。ただし真夜中は少々不安があったので、早朝に近い夜とした。

まずは、ストロボ無しの状態で撮影。
単純に暗い風景として写った。ライトアップも何も無いツツジ園である。

<夜の公園のツツジ(ストロボ無し)>
夜の公園のツツジ(ストロボ無し)
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/10sec. Av=F2.8/ISO200]

次に、ワイヤレスユニットを装着したクリップオンストロボを3つ地面に転がしておき、ワイヤレス発光させた。
ストロボまでの距離は10〜20メートルほどだが、分散配置してあるストロボが一斉に発光してくれるのが面白い。

<ストロボ3灯で照らした夜の公園のツツジ>
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ストロボ3灯で照らした夜の公園のツツジ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/10sec. Av=F2.8/ISO200]

写真を見ると、まるで園内設備によるライトアップのよう。一見してストロボ撮影とは思えない。
機器さえあれば5灯でも10灯でもいくらでも増やせるのでやってみるのも面白かろう。ストロボもリサイクルショップによくある1個500円くらいのジャンクストロボで充分。

ちなみに、帰宅後にウェブ検索してみたところ、この公園は有名な心霊スポットであることを知った。3灯のはずがなぜか4灯になっていたらパニックになるところだった。
特に、アスレチックコーナーの吊り橋に自殺霊が目撃されるとの情報があるが、確かあの時、その橋の下をくぐったな・・・。
夜はもう二度とこの公園には行くまい、と心に誓った。

さて、ラジオシンクロユニットの動作確認的試し撮りはここまでとし、続いて実際の運用へ移りたい。

●屋外におけるストロボライティング
ここでは比較として、スイセンの花を定常光のみで通常撮影したものと、側面や上方からストロボで照らし、かつ、背景の定常光の露光レベルを落として花の存在感を浮かび上がらせたものとを並べてみた。

<ストロボの有り無し比較>
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ストロボの有り無し比較

ストロボを使わない撮影と比較すると、同じ時間帯の撮影であることが信じられないような描写の違いである。
もしこれまでのように真正面からストロボ光を当ててしまうと、背景にも少なからずストロボ光が当たってしまい、このようなスポットライト的な表現は難しかったろう。

また、背景の定常光の露光レベルを落とすことについては、単純に日中シンクロの手法を利用している。
すなわち、定常光はTvとAvの両方に影響を受け、ストロボ光はAvのみに影響を受ける性質がある。従って、Tvを速くすると定常光のみが暗くなる。

なおこの例では、Tvがカメラ(OLYMPUS OM-D E-M1)のX接点1/320秒を越えて1/500秒となってしまっているが、これは勢い余った我輩の設定ミス。しかし今回は画面中央部だけが照明されれば良く、それほど大きな影響は出なかった。

ちなみに、撮影風景は次の写真に示す通り。

<ストロボ撮影の様子>
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ストロボ撮影の様子
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F9.0/ISO200]

この時はストロボを設置するスタンドを用意していなかったので、近くの樹木の枝にストロボを引っ掛けた。この木が無ければトップライトでの撮影は手で保持するしか無く、撮影距離が限られたであろう。
なお、この写真には緑色のコードのようなものが写り込んでいるが、このストロボ機材とは何ら関係無い。何か柵代わりの紐でも垂れ下がったか?

次に、富士宮市にある滝の撮影でラジオシンクロユニットを利用してみた。

<陣馬の滝>
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陣馬の滝
[OLYMPUS OM-D E-M1/7-14mm F4.0/Tv=1/20sec. Av=F6.3/ISO200]

一見するとストロボ撮影であることに気付かないが、実は、滝の内側の岩壁に照明を与えている。
この滝は間近まで接近出来るので、滝の裏手にストロボを配置し、通常ならば真っ暗に沈んでしまう岩壁部分を右側面から照らした。
「こういう描写に何の意味があるのか」と問われそうだが、我輩個人としては地質的な興味が強く、滝の内側に見える地層の色合いの描写にこだわった。

ちなみに、滝の流れはスローシャッターで表現するのが一般的だが、ストロボ光との兼ね合いがあり調整が難しく(※)、結果的にこのような表現となった。しかしこれはこれでシズル感があり、悪くはない。
(※定常光のEvを一定にしたままスローシャッターにするには絞りを絞らねばならず、そうなるとストロボ光を減ずることになってしまい、大光量を必要とする)

次は、枝が下方に垂れ下がる「しだれ桜」を撮影した。
ストロボは地面に転がしておき、撮影結果を見ながらストロボを足で小突いて位置を調整したもの。

<しだれ桜>
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しだれ桜
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/40sec. Av=F4.5/ISO200]

広角側にて遠近感を強調したつもりだが、画面全体がゴチャゴチャしているので、写真作品として考えると背景の露光レベルを落とすべきだった。しかしそれは逆に言うと、背景との区別が付かないほど見事に露光バランスが取れているということでもある。
そういう意味で、必ずしも成功写真とは言えないものの、捨て難い写真と感じた。

次も桜の撮影であるが、先ほどよりも更に広角な7mm(35mm判換算14mm)の超広角レンズを用い、遠近感を強調した。

<陽光桜>
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陽光桜
[OLYMPUS E-P5/7-14mm F4.0/Tv=1/200sec. Av=F14/ISO200]

超広角のため見上げる角度ではどうしても太陽が入ってしまい逆光の条件となるため、ストロボ(あるいはレフ板)は必須である。
通常、広角レンズでこれほどの接写となれば、ストロボをカメラの頭に載せるとレンズの影が被ってしまうものだが、地面にストロボを置いてワイヤレス発光しているので問題無く撮影出来た。

次は、「ムスカリ」という小さな花。

<ムスカリ>
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ムスカリ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/320sec. Av=F8.0/ISO200]

この写真ではそれなりに大きい植物のように見えるが、実際は10cm高ほどしかない。立って眺めると気付かないくらいの存在なので、広角ローアングルで遠近感を出して主要被写体を強調した。
しかし太陽が写り込むほどの完全な逆光のため、地面に直置きしたストロボから強く照らした。これにより黒潰れせず鮮やかに発色出来た。
ただし、ストロボを真正面から当てると立体感を欠くので、左横からストロボ光を当てている。

次は、シラーペルビアナという球根性の花。

<シラーペルビアナ>
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シラーペルビアナ
[OLYMPUS OM-D E-M1/24-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F7.1/ISO200]

一見、何の変哲も無い明るい天気の下での写真のように見えるが、この日は時々霧雨が降るくらいの曇天。ここでは定常光は完全にシャットアウトし、上方からのストロボ光のみでライティングを行っている。つまり、ストロボのスイッチを切れば真っ暗に写る露出設定とした。

この花は面白い形状をしているのだが、その形を写真に表現するのはなかなか難しい。何しろ、肉眼では立体的に見えるが写真に撮ると平面になってしまうからである。シラーペルビアナの1つ1つの小さな花やツボミが重なり合っているので、うまく立体表現出来なければ、単なる花の集まりにしか写らない。

次の写真は、別の日に撮影したシラーペルビアナであるが、背景の定常光を暗く落とすためTvをシンクロ最速値1/320秒とし、右横からストロボ光を当てて花が浮かび上がるようにした。

<シラーペルビアナ>
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シラーペルビアナ
[OLYMPUS OM-D E-M1/35-100mm F2.8/Tv=1/320sec. Av=F9.0/ISO200]

このライティングにより、ツボミの1つ1つも浮かび上がり、その特徴的構造が見易くなったばかりでなく、非日常的なドラマチック性も表現出来たように思う。

ちなみに花の手前には邪魔な設置物があって近付けず、ライティングだけでなくフレーミングにも大変苦労した。そのため、撮影のほとんどはライブビュー状態で設置物を乗り越えるように片手を伸ばして撮影している。

次はキノコの撮影を試した。なにぶん春はキノコの数が少なく、見付けるのに苦労した。

<春のキノコ>
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春のキノコ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F6.3/ISO200]

キノコの傘の部分に木漏れ陽が当たり、それ以外のほとんどは陰になっているシチュエーションである。そのまま撮れば明暗差が激しく、キノコだけしか写らない。
ここではTv=1/250秒・Av=F6.3として定常光である太陽光を減じ、その代わりF6.3でも十分なるストロボ光量を与えて両者のバランスを取った。ストロボ光はレフ板に反射させたものである。
ストロボを使わずともレフ板だけで撮れそうにも思うが、実際の現場では木漏れ陽しか無い状況なので、レフ板で反射させる光源は無く、ストロボを使う以外に方法は無い。

さて、次もキノコの撮影であるが、こちらは完全に日陰になっている環境である。

<春のキノコ>
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春のキノコ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/20sec. Av=F7.1/ISO200]

ストロボ光をレフ板に反射させ、左側面から照らした。かなり薄暗いので定常光の影響はほぼ無い。
かなりの接写となったため、絞り込んで被写界深度をかせぎ、前後の様子も分かるようにした。出力が調節出来るストロボ光ならば絞りの選択も幅が広がる。自然光だけではこうはいかない。

ちなみに、レンズはマクロレンズではなく標準ズームの「OLYMPUS 12-40mm F2.8」を使用したが、このレンズはマクロレンズ並みに接写能力が高く、3cm高ほどの小さなキノコもそのまま写せるのが良い。
また、低いアングルでの撮影のため、カメラはほぼ地面に置くような状態で撮ったが、ライブビュー撮影によりフレーミングには苦労しなかった。

●温室でのストロボライティング
我輩自宅近所に小規模な温室植物園があるので、予定の無い週末にはぶらりと出かけることが多い。
しかし何度も訪れると新鮮味が無くなってしまうもの。植物なので時期によって見所が変わるわけだが、それでも温室は南国の植物が多く、季節変化が比較的乏しい。
そこで今回、ストロボを使って積極的にライティングを行うことにより、変化のある写真に仕上げてみたいと思う。見飽きた植物たちも違って見えることを期待したい。

<パイナップル>
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パイナップル
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/60sec. Av=F11/ISO200]

このパイナップルの写真について、手元から発光させると茂った葉の影が被る状況だったので、パイナップルの間近にストロボを置いて照明した。ちょうど良い具合に杭が打ってあったのでその上に載せている。
ここは特に照明設備など無いローカルな植物園だが、少し変わった照明を施すだけで見違える写真となった。

次に、サボテンの写真に挑戦した。細かい棘が美しい「ハクジュマル」。

<ハクジュマル>
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サボテン
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/60sec. Av=F13/ISO200]

これも見飽きたサボテンの1つなのだが、棘の1本1本を浮かび上がらせてみようと、ストロボを逆光気味に配置した。
最初は簡単だろうと思ったライティングだったが、意外にも思ったようにならず色々とストロボの位置を変えて調整した。ワイヤレスなので、制限無く自由自在に動かせるのが非常に有難い。
そして調整の結果、かなり逆光気味となり、レンズに強い光が入ってゴーストが生ずるのでそれなりに神経を使った。

さて次に、植物園内では目立たぬ場所にあり、いつも地味な存在の多肉植物「玉扇」。

<多肉植物「玉扇」>
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多肉植物「玉扇」
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/160sec. Av=F5.6/ISO200]

この多肉植物は透明感が命。乾燥地帯の強い日差しのイメージが良く似合う。
撮影時、夕刻の斜光が部分的に当たっており中途半端だったので、露出設定では定常光のレベルを落とし、代わりにストロボ照射を真上から行った。右手でカメラを保持、左手でストロボを掲げている。
結果的に、快晴のイメージで撮れたと思う。とても夕刻には見えない。

次は、どの温室でも良く見かける観葉植物「インコアナナス」。我輩は新しいカメラを買うとこの植物を撮ることが多い。それだけに新鮮味が無くなっているので、ライティングで印象が変わるかを試した。

<インコアナナス>
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インコアナナス
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/250sec. Av=F4.5/ISO200]

この観葉植物は鮮やかな色をしているが、平べったいので撮る角度としては意外にバリエーションが少ない。そこで、照明のほうで角度を付けて逆光気味としてみた。
すると、逆光のせいで部分的に葉が透け、立体的に見えるのが面白い。もしかしたら、逆光とせずとも斜光であれば、微小な立体が浮き上がるかも知れない。いつかまた試してみたい。

●雨中でのストロボライティング
雨天や曇天のほうが定常光の主張が弱いので思い通りのライティングが組み立て易い。
以前なら雨天や曇天では撮影意欲が削がれたものだが、今では全く逆となった。休日の天気予報が雨ならば心が躍る。

雨の問題については、高電圧部品を持つストロボは水濡れが禁忌であったが、ラジオシンクロ化によってビニール袋で全体を包んでしまっても問題無く、雨に弱いストロボでも躊躇無く持ち出せる。
それに、最近は防滴性能を持つカメラとレンズが手元に増えたこともあり、機材としては何ら問題無い。

まずは、雨のツツジを撮影してみた。

<雨のツツジ>
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雨のツツジ
[OLYMPUS OM-D E-M5/12-40mm F2.8/Tv=1/40sec. Av=F5.0/ISO200]

光が明るく当たっているが、背景の露光レベルを落としているので、人工的な照明であることが感じ取れる。この不自然さが新鮮であり、ライティングを積極的に行うスタジオ的面白さがある。

ちなみに、撮影の様子は次の写真で示す。

<撮影の様子>
撮影の様子

ストロボはスタンドに設置した状態でビニール袋を被せて首元を縛っている。カメラのほうは防滴なので気にする必要は無いが、ホットシューに接続したワイヤレスユニットだけはビニールを被せた。

次に、同じく雨中にてゼンマイを撮った。

<雨のヤシャゼンマイ>
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雨のヤシャゼンマイ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/25sec. Av=F5.0/ISO200]

ストロボによる照明で背景まで明るく発色良く写り、しかも雨滴の軌跡が写らないので、とても雨中での写真には見えない。だからここでは、雨中であることを表現するよりも、単純に「低照度であることを利用し、定常光に依らず人工的照明にて自分の思い通りにライティングを組み立てることが出来た」と考えるべきかと思う。そういう意味では雨天でなくとも曇天で事足るライティングではある。
ただ、水滴による光の輝きは画面にアクセントと新鮮さを与えており、雨中撮影が全く無意味というわけでもない。

さて次も同様に、雨中にてダイダイを撮った。

<雨のダイダイ>
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雨のダイダイ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/40sec. Av=F4.5/ISO200]

黄色い果実は比較的ノッペリと写り易いことから、立体感を出すべく斜めから光を当てた。表面に着いた滴に明るい光が反射しているので雨上がりの風景にしか見えないが、シズル感は満点で、非日常的描写を期待するにはちょうど良かろう。

次は雨に濡れるシャガを撮影。
シャガは自宅にも植えてあるのでわざわざ植物園に見に行く花ではないものの、狭い庭なので撮影位置及びライティングに大きな制限があり、実際は思い通りに撮影するのはなかなか難しい。だから植物園で撮るほうが結果が良い。

<雨のシャガ>
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雨のシャガ
[OLYMPUS OM-D E-M5/12-40mm F2.8/Tv=1/125sec. Av=F3.2/ISO200]

シャガの存在自体が水っぽいところがあり、水滴との組合せは良く合う。
この写真も他の写真と同様に雨上がりのように見えるが、こちらも実際にはザーザーと雨が降っており、ズブ濡れのフィルター面を拭きながら撮っている。
我輩にしては背景をかなりボカし過ぎて軟派写真になっているのが気になるが、たまにはこういうのも悪くはない。

次はツツジ科の植物について、レンズの許す限り大きく接近して撮った。

<雨のアカヤシオ>
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雨のアカヤシオ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/80sec. Av=F3.5/ISO200]

背景が暗い分、明るく照らされた花が浮かび上がった。条件の悪い中での撮影とは思えない。
花が小さければ、その分、水滴の大きさが相対的に大きく見える。雨濡れの表現がよりダイナミックになっただけでなく、水滴の大きさを通じて花の大きさを窺い知ることが出来るため記録写真としても有用に思う。そういう意味では、雨中撮影を行った甲斐があった。

今度は、出来るだけ雨の雰囲気を表現してみようという試みを行った。

<雨のハチジョウキブシ>
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雨のハチジョウキブシ
[OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/Tv=1/60sec. Av=F4.5/ISO200]

ストロボ光を逆光的に配置して雨滴を背後から照らし、背景は暗く落とした。
これによって雨滴が輝き浮かび上がり、多少の雰囲気は出たとは思うが、それでも思ったほどの効果は無かった。やはり雨滴の軌跡は定常光に頼らざるを得ず、露出レベルを落とすと軌跡がハッキリ写らないせいであろう
この点について、FP発光機能を持つ専用ストロボを導入すれば解決するのかも知れないが、専用品というのは簡単な操作を複雑にしようとするので我輩は好まぬ。

そもそも、被写体を鮮明に明るく、そして正しい色合いで撮影しようとするためのストロボライティングなのだから、雨の雰囲気が打ち消されるのはある意味必然。逆に言うと、鮮明さや色合いを削いでまで雨の雰囲気を出そうというつもりも無い。
屋外であっても天気や時間帯に左右されず、自分の思い通りにライティングするということが、ここでの目的であるはず。あくまでも、雨滴は被写体に輝きを与えるものという程度で良かろう。


以上、ラジオシンクロを活用した屋外での積極的ライティングの状況を紹介した。

我輩はこれまで多くのカメラやレンズを導入してきたが、それによって得られる写真にそれほど劇的な変化があるわけではなかった。しかし今回のラジオシンクロユニットの導入は、我輩のストロボ活用範囲を広げ、これまでとは全く異なる結果を与えた。
今後も、ワイヤレスであることを利用し、新たな発想で照明についての可能性を広げて行きたいと思う。

●番外 ラジオシンクロによる既存ライティングの効率化
ラジオシンクロは屋外でのストロボ撮影の機会を増やすだけでなく、屋内の既存ストロボライティングの効率化にも役立ったので、その例を下に紹介する。

我輩の勤務先にて社長と社員との座談会が催されるとのことで、我輩が記録撮影の任を預かることとなった。
通常、屋内撮影では、状況さえ許せばストロボバウンス撮影をすることが多い。そのほうが写りが良く、後処理もほとんど必要無い。
しかしこれまではクリップオンストロボをカメラに装着したバウンス撮影であった。これはカメラに固定された照明ゆえに、撮影アングルを変えるとライティングも変わってしまうのが難点。

そこで今回、あらかじめモノブロックストロボを座談会会場となる会議室に設置しておき、ラジオシンクロによって発光させようと考えた。このような固定された照明であれば、カメラをどのように向けようともライティングは変化しない。

撮影前日のテストでストロボを設置してみたところ、ストロボ機器の存在感の大きさが少々気になるが、それはまあ仕方無い。
だが、社長が座る予定の席で自分をモデルに試し撮りしたところ、なぜか顔に強い影が出ることが判明。バウンス撮影のはずなのになぜだ?

<普通にセッティングした状態>
普通にセッティングした状態

原因は天井の低さにあった。
ストロボを真上に向けると天井が低いために拡散が足らない。それを解決しようとストロボ光を斜めに当てて天井での照射面積が広くなるように傾けたところ、ダイレクトなストロボ光が顔に当たるようになってしまったのだ。
厚紙で加工したフードを付けるなどの対策が必要と思われたが、そんなことをすると、目立たせたくないストロボの存在が逆に目立ってしまう。

そこで発想を変え、隣の部屋からストロボ照射することを考えた。
これならばストロボ光は天井に広い面積で当てることが出来るばかりか、ストロボ本体の存在感も問題にならなくなった。シンクロ発光もワイヤレス式で問題無い。
もしこのようなシンクロを有線式でやろうとすればかなり無理があり、ラジオシンクロならではの使い方と言える。

<ラジオシンクロユニットで隣の部屋からストロボ照明>
ラジオシンクロユニットで隣の部屋からストロボ照明

本番当日、席の配置が変更になるなどのハプニングがあったが、部屋全体を照らすライティングにしてあったおかげでライティングの変更は不要で、撮影結果も良好であった。

<本番撮影>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
本番撮影
[OLYMPUS OM-D E-M5/12-40mm F2.8/Tv=1/80sec. Av=F4.5/ISO400]

今回は、たまたま隣室から照明出来る特殊な部屋構造が幸いしたわけだが、この状況を活かすことが出来たのもラジオシンクロがあってこそだというのは間違いない。
今後も、ライティングの面で何か困難や制限に直面した際、ラジオシンクロの活用で新たな方向から解決法が見出せることを期待したい。

●補足説明
ラジオシンクロユニットの購入先は「使える機材のセレクトショップ」で、製品名は「ラジオスレーブ YONGNUO RF-603 II for Nikon」である。
この製品はシュー部分にNikon対応接点が設けられており、その突起がホットシュー装着時に大きな抵抗となることから自己責任改造で取り除いた。なお、この改造は復元可能。
我輩はこれまで3セット6個購入したが、1個だけ発信機能が機能しないものがあったのでそれは受信専用とした。自己責任改造のため返品出来ないからだ。改造するならば動作確認後に施すのが肝要。