[791] 2013年04月10日(水)
「Nikon D700の時代は終わった」
我輩が「資材調達」、いわゆるバイヤー業務の部署に異動したのは今年の1月。
毎日無数の発注書を発行し、重量のある原材料を台車に積み上げて業者に引き渡し、納品物が届くと再び台車から荷物を抱えて積み上げる。
そして月末には、期日に間に合うよう伝票処理を完了させねばならぬ。
伝票処理も、登録業者とそうでない業者とではやり方が違う。それが慣れないうちは手間取る。
発注システムも画面には馴染みの無い用語が並び、使い方を習ってもすぐには覚えられない。帰宅すると日付が変わっていたりすることもあった(通勤時間が長いのが一番の原因だが)。
<伝票に溢れた机> |
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さて、3月の決算を何とか乗り越え、ようやく少し先のことを考える余裕が出来た。
気付けば、ゴールデンウィークも1ヶ月後。休めるのかどうか少し不安があったが、業界的に一斉に休むようなので問題無いことが分かってホッとした。
ゴールデンウィークと言えば、ここ数年は車中泊一人旅であった。家族を連れての旅行は豚児の学校がカレンダー通りの休みなので、今年もゴールデンウィーク前半のスケジュールが合わない。だから我輩一人で行くしか無い。もちろん、これは一人旅の口実とも言える。
今年のゴールデンウィーク車中泊はどこへ行こうか。
計画を立てるために、過去の写真を見てみた。
デジタル写真は枚数が多いので見返すだけでも一苦労だが、数が多いだけに前後の脈絡が良く分かって大変参考になる。我輩にとってデジタル写真は銀塩写真を補間するという役目を持つのであるから当然と言える。
それらの画像を拡大して細部を見ていくと、撮影時には気付かなかったような情報も見付かる。
「写真ってゴチャゴチャ写るから面白いんですよね。」
これこそは、写真を楽しむ基本と言えよう(参考: 雑文081)。
そういう観点から言えば、我輩が超広角レンズにハマるのは必然であった。目の前に広がる風景を余さずギュッと凝縮して写真として画像化する。そのためには超広角レンズの力が不可欠。
そこで数年前に導入したのが「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」であった。(参考: 雑文643)
それまで我輩が所有していた最短焦点距離レンズは、シグマの対角線魚眼15mmであったが、そのレンズよりも1mm短くありながらも魚眼ではないところが凄い。恐らく魚眼的湾曲の無い通常レンズとしては、この「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」が最短焦点距離であろうと思った。
このレンズはF2.8と明るく、しかも周辺部まで画質が良い。その後購入したフルサイズ「Nikon D700」の性能を十分に引き出せる数少ないレンズである。実際、このレンズで撮影した写真は、何度眺めても飽きないのだ。パソコンディスプレイ上で等倍拡大、あるいは2倍拡大して眺めていくと、色々なものが写り込んでいて面白い。
しかしそれにしても、このレンズはデカくて重い。14万円という金銭的負担はその時だけ金を都合すれば済むのだが、大きさと重さについては使っている限りずっと続く。
そんな時にコンパクトで軽量なマイクロフォーサーズカメラを導入し、超広角レンズも「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」に負けないような「LUMIX G VARIO 7-14mm F4.0」を手に入れた。
最初はサブ的に使い始めたのであるが、高画質な「OLYMPUS OM-D E-M5」を導入してからフルサイズカメラの出番がめっきり減ってしまった。画質としては、我輩の目で見た限りフルサイズと変わらない。そうなると当然、コンパクトなほうばかりを使うことになる。
「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」は良いレンズであったが、寝かせておくだけならばいっそ手放して現金化し、別の機材を導入したほうが良いだろう。
一応念のため、売却前に同じ条件でマイクロフォーサーズと撮り比べて画質の比較をしたのだが、やはり明確な違いは見られず、ネットオークションで売却した。驚くことに、手に入れた時とほとんど同価格で売れた。
その金は、通勤カバン常備カメラの画質を向上させるためとして「OLYMPUS E-PM2」と「LUMIX G X VARIO 12-35mm F2.8」を導入ために使われた。それはつまり、フルサイズデジタル一眼レフカメラから完全にミラーレスカメラへ移行しようとする我輩の気持ちを表していた。
マイクロフォーサーズシステムは、ミラーレス機の中でも比較的交換レンズが充実している。
しかしながら、超広角を超えて円周魚眼レンズに目を向けると、該当する製品が無い。安原製作所から円周魚眼レンズの製品アナウンスがあるものの、1年待っても製品化されない。
他のレンズメーカーから何か出ていないかと探していたところ、シグマに驚くべき超広角レンズがあることを知った。
それが、「12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM」である。
最初、このレンズを見た時、APSサイズ用のレンズかと思った。それならば35mm判換算で言うと18mmくらいで、まあ普通の超広角レンズとなる。
ところがよく見ると、これはフルサイズとのことで仰天した。
「フルサイズで12mmなのか・・・? どこまで写るレンズなんだ?」
超広角なだけに超高価であろう。案の定、定価は10万円近い。・・・だがよく考えると、ニコンのレンズに比べると大幅に安い。
実売はどれくらいだろうかと調べてみると、6万円ちょっとと手が届かないほどでも無い。
中古のほうを見ると5万円。見るとそれは程度が良く、買うならばこれだと思った。
ちょうど残業続きで、その分今月の給料は大幅に増えるはず(所得税やその他引去りも増えるが)。その金をこのレンズに投入し、ゴールデンウィークの撮影に活用するか。
届いたレンズはズシリと重かった。
全体的に細長いものの先端部の径は大きく、手に持つとズシリとくる。これを「Nikon D700」に装着すると、とてつもなく重い撮影機材となり、少なくとも中判カメラをメインとする撮影ではサブ的併用はまず不可能と思われた。デジタル撮影がメインでの単独使用しか使えまい。しかしそうなると、「AF-S NIKKOR 14-24mm F2.8G ED」と同じようにいずれ稼働率が低下するのは目に見えている。
<シグマ製超広角ズーム「12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM」> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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しかし試写した画像を見てみると、12mmの画角の広さに改めて驚かされた。周辺部の画質も少し心配していたのだが、そこそこ解像しているようだ。
その唯一無二の画角はそれだけで価値がある。「レンズに撮らされる」という表現があるが、それでもいいじゃないか。我輩は、超広角撮影に思想・感情を表現しようなどとは思わぬ。ただ単に、その場の光景を全て押し込めたいだけである。
マイクロフォーサーズの超広角レンズで撮った画像と比べてみたのだが、画角の広さは素晴らしいものの、「OM-D E-M5」の1,600万画素よりも少ない1,200万画素の「D700」ではせっかくの超広角レンズに画素数が追い付いていない。
いっそのこと、1,200万画素の「D700」から2,400万画素の「D600」に買い換えてみるか? それならば軽量化も果たせて一石二鳥。
早速「D600」の価格を調べてみると、新品が実売最安値で16万円、中古もほぼ同じ。だったら新品のほうを選ぶだろう。
それにしても、「D600」の値段に5万円ほど足せば3,600万画素の「D800」が手に入る。3,600万画素での超広角の世界はさぞや楽しいだろう。この際、「D600」ではなく「D800」を買ってしまうか・・・?
しかしインターネット上で改めてユーザーがアップロードした作例を見て回ったが、どうにも「D800」のノイズ感は容認出来ない。一方、「D600」のノイズ感は「D700」に匹敵するようだった。
また、「D800」のボディサイズや重量の問題も無視出来ない。買い換えの動機として、「大幅な軽量化」というのはやはり大きい。
そもそも「D800」の画素数3,600万画素は、我輩所有のデジタルカメラに比べると飛び抜けているため、我輩の中では他のカメラとの共存が難しくなる。あまりに画素数に差があり過ぎると、少ない画素数のカメラで撮った画像が見劣りして悲しくなるからだ。
そういう問題が出ぬよう、デジタルでメインに使っている1,600万画素の「OM-D E-M5」よりちょっと多い2,400万画素の「D600」を購入するのが良かろうと思う。その場合、使用デジタルカメラの画素数の幅が1,200万画素〜2,400万画素と幅広くなってしまうので、ここで思い切って1,200万画素以下(LUMIX GF系など)のデジタルカメラは第一線から退いてもらうこととする。
「D600」の購入資金としては、我輩はヘナチョコ妻に頼みこんで残業代のほぼ全ての投入を決めた。
とは言っても先に超広角「12-24mm F4.5-5.6 II DG HSM」を購入しているので、残業代だけでは金は足りない。だから「D700」をネットオークションで売却した。1,200万画素なので未練は無い。少々ヤレているので8万8千円の即決価格。すぐに売れた。
「D600」はすぐにでも買いたいのだが、給料日はもう少し先なので残業代はまだ手元に無く、今回はクレジットカードを使うことにしたい。
ところが「価格.com」に掲載されている最安値店リストを順に見ていくと、クレジットカードが使える店が全く無いではないか。リストのずっと下まで行くとようやくクレジットカード取扱店が現れるが、その店は最安値店よりも1万円も高い。
ならばと中古のほうを見たところ、こちらはクレジットカードは使える店が見付かった。
新品と中古、クレジットカードの条件で限定すると、やはり中古のほうが安いか。
よほど中古のほうを選ぼうかと思ったが、即金であれば同じ値段で新品が買えるというのもシャクなので、後で返すという約束で家計口座から振り込むことにして新品の最安値で購入した。ちなみに購入店は「PCボンバー」で値段は156,281円だった。
<届いたばかりの「Nikon D600」> |
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早速箱から取り出してみると、ボディの軽さに驚いた。まだバッテリーを入れていなかったせいもあるが、逆に言えばバッテリーの重量で差が出るほどボディが軽いということである。
ボディサイズとしては、持った感じではそれほど「D700」との違いは感じないが、正面から眺めると確かに上下の寸法が大幅に小さくなっていることが分かる。
ただし残念なことに、「D700」は前日に購入者へ発送していたので「D600」とは直接並べて比較出来なかった。
<正面から見ると「D700」に比べてコンパクトになっている> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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新しいカメラが届くと、まずバッテリーの充電の儀式がある。その間は撮影出来ないのでもどかしい。
とりあえず、シグマ製の超広角レンズを装着してみた。さすがにこのレンズを装着すると、いくら「D600」が軽量コンパクトであってもあまり関係無いかも知れない。
<12-24mmレンズを装着した状態> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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ならばと、単焦点レンズを装着してみることにした。
我輩はAFニッコールレンズの単焦点レンズはほとんど持っていないのでAiニッコール50mmを装着してみたのだが、これがまた良く似合う。本格的に使い始めて傷やスレなどが着く前に、外観写真を撮ってみた。黒バックと相まって、まるで「Nikon F3」の雰囲気を感じた。・・・まあそれは褒め過ぎか。
ただ、この写真を「D600」で撮れないことが残念。
さて、外観写真が終わる頃にちょうどバッテリーの充電が終わったので早速「D600」にバッテリーを入れてみると、初っ端に日時設定のメニューが出た。さすが新品という感じがした。
設定を済ませてシャッターを切ってみる。「ジャキッ!」と前半のシャッターレリーズ音よりもむしろ後半の素早いシャッターチャージ音が力強く頼もしい。「D700」とはまた違う音であるが、EOS系のような安っぽい音ではない。
とりあえずの撮影なので散らかった室内を適当に撮ってみただけだが、それでも12mmレンズの圧倒的に広い画角が物凄く、少々"やり過ぎ感"すらある。
「D600」のメモリカードスロットはSDカード用。これは有難い。
「D700」ではコンパクトフラッシュだったのだが、TYPE-2までしか対応していないのでSDカードアダプタが使えなかった。最近はSDカードのほうが大容量で安く売られており、どうせならば最初からSDカードスロットのほうが利用価値が高い。しかもスロットは2連となっており、小容量カードでも活用出来るのが貧乏人に優しい。
画角の比較のため、以前も撮ったようにクルマの運転席を、広角端12mmで撮ってみた。
運転席のヘッドレストの隙間からレンズを覗かせるので、カメラを替えて撮り分けるには撮影位置が一定となって都合が良い。
<「Nikon D600」にて12mm域で撮影> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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[Nikon D600/12-24mm/ISO400] |
この写真を見ると、背後から照らしたストロボ光がルームミラーに反射したせいなのか緑色のハレーションが出ている。しかし写真を見る限り、強い光源が直接写り込んでいるようには見えず、レンズのデカイ前玉に画角外の光が横から当たっているのかも知れない。
しかしそれにしても広々と写っている。アスペクト比がマイクロフォーサーズよりも横長であるせいもあろうが、やはり絶対的な画角は広い。写真として見れば、無駄に広いとすら言えるほど。
一方、比較のために同条件にて「LUMIX G VARIO 7-14mm F4.0」を装着した「OM-D E-M5」で撮影してみた。こちらも広角端だが7mm(換算14mm)となる。
<「OLYMPUS OM-D E-M5」にて7mm(換算14mm)域で撮影> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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[OLYMPUS OM-D E-M5/7-14mm/ISO400] |
写真として見れば、マイクロフォーサーズのほうがちょうど納まりが良い。しかしこれがマイクロフォーサーズの広角限界とも言える。
先ほどのようなハレーションが見られないのは、フルサイズのレフレックスカメラ用に比べてレンズ前玉が小さいせいかも知れない(レフレックスカメラ用広角レンズはバックフォーカス長をかせぐために前玉に大きな凹レンズが必要)。
しかしそれにしても、換算焦点距離でたった2mmの差だがこれほど画角が違うとは。
早速、天気の良い日に実際の運用を想定して「風景撮影」と「博物館撮影」で試用してみた。「D600」の2,400万画素との組み合わせでどれだけ情報量満載の写真が得られるのか楽しみだ。
まず「風景撮影」については、写真から受ける印象として広さはそれほどでもないように見えるが、実際の風景と比較すると「こんな端まで写るのか」と驚かされる。実際の広さは現場を見た人間にしか分からないので、人に観せる写真としてはこの撮り方は失格であったかと今になって苦笑いする。
<12mmで撮った風景> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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もしこれが魚眼レンズのような円形の歪みのあるレンズであれば、それだけでインパクトがあり、「広い範囲を凝縮したんだなあ」と観る者にも解るが、本レンズのように円形の歪みも無くごく自然に写ったものではインパクトは薄い。何しろ、広角撮影の定石では、「遠景と近景を配置し、かつ近景に一歩踏み込んで撮影すべき」とされる。しかし我輩は人に観せるための写真作品を撮っているわけではなく、あくまでも自分のために画像を集めることを目的としている。ここでは、間延びした風景がゴチャゴチャと写ってくれたので、我輩の要求に適っている。
この写真の画質について、等倍表示して隅のほうをつついてみようと思ったが、晴天下での撮影ではそれなりに絞り込まれるので周辺部の破綻は無い。微妙に色ズレが見えたが、RAW現像時の補正で完全に消えたので問題無し。
次に、薄暗い博物館内にて展示物を撮ってみた。
超広角レンズは、引きの無い場所で広い展示物を1カットで収めるのにちょうど良いかと思っていたが、レンズ側に手ブレ補正が無いため微小なブレが頻発してしまった。感度はISO800まで上げたもののブレを根絶出来ずに諦めた被写体も多い。
最近はこのような失敗が無かっただけに驚いたが、「OLYMPUS OM-D E-M5」の5軸手ブレ補正機能に助けられていただけである。その助けが当たり前になると有り難みが薄くなり、ある日急に手ブレ補正無しのカメラを使うとこのような失敗をしてしまうのだ。
まあ、博物館撮影では無理して「D600」を使わずこれまでどおり「OM-D E-M5」で撮るほうが失敗が無い。
ただし、照明が十分に当たっているものでは、高画素カメラと超広角レンズで撮る価値を感じたことも事実。ここではその例として、ダルマの展示を撮影してみたものを載せた。
そこには数多くのダルマが並べられており、中にはかなり小さなものもある。これまでの1,000万画素級デジタルカメラでは数カットに分けて撮るようなものだが、今回「D600」を使って1カットで撮ってみたところ、かなり小さなものまでピクセルに潰れること無く写っていた。等倍で見ると少々緩い描写のように感ずるが、レンズ光学性能のせいか、ピントがズレたせいか、あるいは手振れのせいか、はたまたローパスフィルターのせいか。様々な要因が考えられるので、後日厳密なテスト撮影を行ってこのカメラの画質を見極めたい。
<ダルマの展示> (※画像クリックで横1500ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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今回のテスト撮影は、箱を開けてすぐ使い方を覚えながらの撮影だったため、あまり突き詰めたテストではなかった。間もなく行う車中泊一人旅での投入を想定し、取り急ぎ、実際の使用に即した撮影の感触を得るためのものと言える。
いずれ、感度別やら何やらでジックリと厳密に撮り比べ、限界性能を見極めたいと思う。そのデータがあってこそ、「こんなはずではない、もっとクオリティを上げられるはずだ」と努力や改善を行ったり、「これ以上頑張ってもこれが限界点だ」と無駄な努力をせず早々に見切りを付けることが出来る。
また、得意・不得意な場面を事前に知っておくことで、迷い無く機材を選ぶようにしたい。
ゴールデンウィークの車中泊一人旅では普段行くことの無い土地で数日過ごすことになるわけで、せっかく費用をかけた旅なのだから、後悔を残さぬよう十分な情報量を画像に込めておきたい。
少なくとも、「D700」よりは高画素、コンパクト・軽量となったのは確かである。今後、マイクロフォーサーズとの使い分けが出来ればと期待する。
我輩の中で、「D700」の時代は終わった。
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