我輩は、中判写真では66判のみを使うことにしている。
なぜならば、中判カメラを導入する際に、熟考に熟考を重ねて66判と決めたからである。正方形の画面であれば縦横を区別する必要が無く、軽量なウェストレベルファインダーだけでも用が足る。
そういうわけで、66判の前後にある645判や67判についてはほとんど興味が無い。
AF化された645判が時々羨ましく思うこともあったが、結局は66判に固執して今日まで来た。
もしそれほどの決意が無ければ、66判用の魚眼レンズ(参考:
雑文382「里帰り」)やアオリレンズ(参考:
雑文389「Canon TS-E 90mm F2.8を手放した理由」)をあれほど苦労して手に入れたりはしない。
さて先日、久しぶりにアオリ撮影をしようと、例のキエフカメラとハートブレイのアオリレンズを引っ張り出してきた。
そして、シャッターの調子を見ようとシャッターを切ってみたところ、初っぱなから妙な感触だった。
「?・・・、キレが悪いな・・・。」
フィルムバックを外してシャッターを切ってみようと思ったのだが、今度はフィルムバックに遮光用の引きフタを挿入しようとしたところ、キツくて全く入らないではないか。
とりあえずフィルムバックの裏ブタを開けてシャッターの様子を見てみることにしたのだが、シャッターを切ってもシャッター幕が微動だにしていない。ミラーのほうは動いているため、その作動音だけはする。だから、妙な音になっていたのだ。
「困ったな・・・、これでは撮影が出来ない・・・。」
現段階で、トラブルが2つあるわけだが、まず、フィルムバックを外すことを考えた。
引きフタは相変わらず挿入出来ない。しかしどうしようも無いので無理矢理ネジ込んでみたところ、遮光用のシールみたいなものがフィルム面の方向に押し出されてきた。
「参ったなこりゃ・・・。」
仕方無いので、その遮光用シールを引っこ抜いてみたところ、やはり画面の周囲を囲っているもののようで、1周分のシールが取れてしまった。
恐らく、このままでは光が漏れてフィルムバックとしては使えまい。
しかしとりあえずは引きフタも挿入してフィルムバックがボディから外れた。
問題は、シャッター幕である。
こちらはもう、指で押そうが何をしようが、1ミリも動かない。油などが固まって動かないというよりも、シャッター幕を止めている係止か何かが外れないような感じがする。
「やはり、ロシアカメラはこんなもんか・・・。」
いつかこうなる日が来るという予感のようなものが購入当初からあったのだが、それでも新品で購入して5年しか経ってないのがショックである。
「修理に出そうにも、出す場所が無い。しかも根本的にカメラの問題であるから、仮に修理したとしても、この先の不安は同様に続くだろう・・・。」
思い返してみると、このカメラでの撮影は「写っているだろうか」と常に不安を伴うものだった。特に、シャッターがどうしても信用出来ない。そのため、屋外(つまり定常光)では1度しか使ったことがない。
結局この日、我輩は、このカメラに見切りを付けた。
しかしながら、アオリレンズを活用するためには何らかのカメラボディが必要である。この際、マウントアダプターを使ってでも信頼出来そうな別のカメラに装着して使いたい。
そこで、マウントアダプターを検索してみたのだが、いくら探しても66判以上のボディに対応したものがヒットしない。どれもこれも、645判のマミヤやペンタックスばかり。中には35mmカメラ向けのものもあった。
よくよく調べてみると、フランジバックの関係で、他の66判以上のカメラにはキエフ用レンズのマウントアダプターが作れないことが判明した。もしあったとしても、無限遠が出なくなってしまう。
「くそ、645判を選ぶなど絶対にあってはならぬこと。何とか良い方法は無いか・・・?」
我輩は数日間、考えに考えた。同時に、検索に検索を繰り返しあらゆる可能性を探した。
一時はアオリ撮影が普通に出来る大判カメラにロールフィルムホルダーを装着するという選択肢も考えたが、大判機材を一から揃えると10万円は超えるため現実的でない。
ようやく出した答えは「アオリ撮影は特例として645判を認めざるを得ない」というものであった。
この結論は、「中判カメラは66判以外を使わない」という我輩自身の信念を汚すものである。だが、他に方法が無い。苦渋の決断である。
アオリ撮影などは、日常的に撮るような写真ではない。しかし、アオリ撮影出来るカメラが無ければ困る。多少、放っておいても大丈夫なカメラが必要なのだ。それには日本製のカメラが一番である。
もちろん、日本製カメラでも放っておいて良いというわけでもないが、ロシア製カメラに比べれば雲泥の差。そもそも、アオリ撮影をあまりやらなかったのは、カメラの不安もあろうかと思う。もしカメラの問題が解決されれば、アオリの面白さがより一層大きくなるかも知れぬ。
そうと決まれば、行動は早い。早速、購入の検討に入った。
代表的な645判と言えば、ペンタックスとマミヤである。ブロニカにも645判一眼レフはあるが、あれはレンズシャッター式であるため、純正レンズ(ゼンザノンとシュナイダー)以外は使えない。
まずペンタックスだが、ワインダー一体型で手動巻き上げが出来ない。別に悪くは無いが、どうも好きになれない。しかも、シャッタースピードを設定するダイヤルが無い。ダイヤル式カメラを推奨する我輩が、こんなカメラを選んでどうするか。
結局、マミヤとなったわけだが、ネットオークションで「マミヤ645スーパー」のボディ+ウェストレベルファインダーを22,000円で落札。未使用品とのことだったが、多少の使用感はあった。
その後、新宿キムラヤでフィルムバックとプリズムファインダーを購入。こちらは合わせて11,000円ほど。
そして、
エレフォトのウェブサイトからマウントアダプターを注文。これは10,500円。
もちろん、金が無いから家計からの借金でまかなった。
せっかく借金が30万円台まで減ったと思ったが、また40万円台へと戻ってしまった・・・。
それにしても、このカメラはクイックリターン式のため、なかなか新鮮な感じがした。これまでは、シャッターを切ればブラックアウトしたままというのが普通の感覚だったため、まるで35mm判カメラのように感ずる。
また、エレフォトのマウントアダプターは造りがとても良く、スピゴット式のキエフマウントがキッチリとガタ無くレンズマウントを固定してくれるのが心強い。
プリズムファインダーは連続視度調節式のため、近視の我輩には好都合である。
モノクロフィルムで撮ってすぐに現像してみたが、なかなか良い具合に写っている。ピントも合っているのが確認出来た。
やはり、"写っている"という手応えのあるカメラというのは良いものだ。
もちろんそれが当たり前なのだが、ロシア製カメラの場合は残念ながら当たり前ではなかった。
今回、せっかく禁を破り、アオリ撮影のみという限定付きながらも645判を導入したのだから、今後はアオリ撮影を積極的に行い、楽しい遊び方なども開発したいと思う。