度々雑文に登場する職場の営業氏。ここでは仮に、B氏と呼ぶ。
先日、B氏の親父さんが亡くなって1ヶ年経ったが、B氏は親父さんの遺したカメラをそろそろ処分したいと言う。
親父さんは、我輩のようにNikonのカメラを何台も新品状態で保存していた。話によると、巻上げたりシャッターを切ったりしたことも無いと言う。その中に「Nikon FフォトミックFTNブラックボディ」があり、B氏はこれがどれくらいの価値があるのかということを我輩に訊いてきた。
「Nikon Fフォトミックか・・・。」
いくら新品とは言え、多少の劣化はあるだろうと思う。数十年間、全く動作させていないということであるから、機械部品が内部で錆びて固着したりするならば、即ジャンク扱いであろう。
とりあえず品物を持って来るように言っておいた。
数日後、B氏はそのカメラを持ってきた。
外箱は多少くたびれていたが、年代相応とも言える。
肝心のカメラは、まさにピカピカの状態であった。ただし目を凝らして見ると、絞込みレバーとセルフタイマーの部分のメッキが腐食して輝きを失っていた。また、ボディのほんの一部に、腐食による塗装浮きがあった。
惜しいが新品同様と言えるものではない。
それでも、巻上げ動作やシャッター動作については、新品の切れがありスムーズな印象を受けた。これが数十年前の機械だとは驚く。
従って、このカメラはコレクション用途としては向かないが、実用カメラとして新品から使い込んで行くという用途が適している。
もちろん、シャッターの正確性は厳密には分からない。本気でこのカメラを実用しようとするならば、メーカーにてオーバーホールに出した後で使うほうが良かろう。
さて、このカメラの価値であるが、結局我輩には判らない。
コレクション用途としても不足、実用機としても不安がある。アイレベルファインダー搭載ならばまだしも、フォトミックとはな・・・。
考えても仕方無いため、我輩はB氏にヤフーオークションに出品することを勧めた。これならば、相場が判らずとも入札者が勝手に値段を決めてくれる。
「いくらで売れるだろう?」
B氏は興味津々だったが、他の「Nikon FフォトミックFTN」の出品を見てみると、それほど高価ではなかった(もちろん、終了間際には値が上がるだろうが)。
「まあ、タダで手に入れたようなものだし、5万円くらいに上がればいいなぁ。」
B氏はオークションの画面を見て少し落胆したようだったが、自分に言い聞かせるようにして5万円という金額を一つのボーダーラインと考えたようだ。
いや、世の中には物好きがいるだろうから、もう少し値段は上がろうか。8万くらいは行くか・・・?
しかしB氏には期待を持たせないほうが後々良かろう。期待させておいて値が上がらなければ悲惨だ。
とりあえず出品することは決まった。
B氏は「じゃあ、よろしく。」と言い残し去ってしまった。
いつの間にか、我輩が代理出品することになっていたようだ・・・。
カメラを自宅に持ち帰り、デジタルカメラにて外観写真を撮影した。どうせ使い捨ての写真になるからと、既にセットしてある黒い板を背景に使った。その結果、ブラックボディに黒い背景のメリハリの無い写真となってしまった。ウーム、手を抜かずに白かグレーの背景に替えたほうが良かったか・・・?
まあ、良いか。
次に、商品説明をHTMLにて記述。
(ちなみに、前回Nikon F3を出品した時は
こんな感じである。)
代理出品ではあるが、我輩が持ち帰って出品するのであるから、説明文中に「代理出品」と書く必要は無い。あくまでも取引者は我輩自身。
我輩の戦法としては、悪い情報をまず明らかにし、その後、その出品物の誉めるべきところを論理的に誉める。
特に、「もう二度と手に入りません!!」とか「とても素晴らしい品です!!」などと主観的なことばかりを感嘆符付きで連発するのは一番良くない。特にカメラのカテゴリでは落札者もそれなりの学があると思われるため、淡々と事実を記述するほうがトラブルも少なく好感を持たれるものと考える。
また送料の問題も、場合によってはトラブルの原因になる。そのため、相手に送料負担を求めずサービスとした。これならば、こちらの都合で発送業者を選べる。我輩の場合、ゆうパックなどを指定されれば対応不可能。
相場が良く分からなかったことで、スタート値は送料と手間賃くらいの回収として3,500円とした。相場は落札者が決めてくれるというオークションの特性を利用する。
さらに、なるべく注目を浴びるように、出品期間は最長の7日間とし、「注目のオークション」の有料オプションを付けた。
出品したのは夜中の0時頃だったが、タイミングが良かったのか数分後にはアクセスがあった。
そして数時間後に質問が入った。「フォトミックファインダーの取り付けにより、ボディ本体部の銘板(Nikon)に傷が付いてしまうことが多々ありますが、ご出品のものは如何でしょうか?宜しくお教え下さい。」とのこと。
未使用品であるから、そんな傷などあるかっ!
しかし念のために調べることにする。
レバーを押しながらファインダーを抜くのはなかなか難しく、色々とやってようやく外すことが出来た。果たしてそこには、見事に傷がついていた・・・。
「な、なんでこんな傷が入っているんだ?! まさか、今ファインダーを外した時に傷が入ったのか? ・・・いや、最初から付いていたに違いない。そんな気がする、いや確かにそうだった。」
それにしても、このままでは後々トラブルの種になることは必至。
大急ぎでこの傷の写真を撮り、追加写真をアップした。この時点で入札者がいなかったのは幸いである。そうでなければ、入札者に「最初の説明が不十分なことにより、キャンセルされるのであれば受け付けます」とアナウンスせねばならなくなる。
その後、金額を提示しない早期終了の依頼が入ったが、それは断った。
さて、出品した当日には値段が5万円を越えた。
とりあえずの最低ラインはクリアしたので気が楽になる。後の6日間でどれだけ伸びるか楽しみだ。
2日目、一気に9万円まで伸びた。B氏に知らせると、「もしかしたら10万越えたりしてな!」と大喜び。我輩も、「残りの日数を考えると、恐らく13万円くらい行くのではないか。」と強気な発言をした。
ところが3日目と4日目には入札が無く、5日目にしてやっと10万を越えた。
まあ、最終日に向けて小休止というところだろう。
それにしても6日目は11万、そして7日目の昼には11万9千円と動きは鈍い。終了間際になれば動きが激しくなるとは思うが。
ところで終了時間というのは、我輩が九州に帰省する前の晩である。
そのため、準備(車中で聴くMDの編集)などに時間を取られ、気が付くとオークション終了時間を過ぎていた。
「まずいな、早急に落札者に案内メールを送らねば。」
オークションの画面を開き、価格を確認して仰天した。
「な、なんだこの値段は・・・?!」
落札価格18万円。
急いで落札者の履歴を見る。
「悪い評価があるな・・・。理由も無くキャンセルか。この値段ではモロにキャンセル食らうかも知れん。」
あまりの高価格のため、喜びよりも心配のほうが遙かに大きい。なぜならば、キャンセルされれば落札手数料3パーセント(約5千円)が丸損である。
「なんでこんなヤツが落札するんだ!」我輩は頭を抱えてしまった。
明日には九州に旅立つ我輩。出来ることならば、商品先送りして手ぶらで九州に行きたい。しかし、返信メールはすぐに来たものの金は払ってくれるのだろうか?
これは賭に近かったが、次の日、我輩はカメラを梱包しコンビニエンスストアから発送した。
しかし心配は無用だった。
九州に到着後福岡銀行にて残額照会したところ、きっちり18万円振り込まれているのを確認した。
B氏は喜び、送料その他の経費とは別に、我輩に手間賃として1万円を渡してくれた。
この出品では最終的に、アクセス(2188)、友だちにメール(3)、ウォッチリスト(152)、入札者(17人)、入札件数(60)であった。
特に今回、我輩は初めて「友だちにメール」というものが使われたのを見た。何のための機能なのかいまだに理解出来ないが、何か意外な使い方と意味があるのかも知れない。
まあ、いずれにせよ何とか無事に終わって良かった。
だが、もう一台出品して欲しいと頼まれたカメラが控えている。これなどは相場的に今回のNikon Fフォトミックよりも高価になることは容易に想像出来るが、現実として18万円というラインを越えられるかは心配である。たまに高額で出品されているのを見たりするが、回転寿司状態で落札されないのである。
出品するか、それとも「しばらく手元に置いておけ」とB氏を説得するか・・・。