前回導入した「Kiev 6C」、その代わりとして手元から去ったカメラは「Nikon F3HP」である。それ以外に換金率の高いカメラは「PENTAX LX」くらいであり、選択の余地は全く無かった。
イラク空軍的とも言える雑多な「
我輩所有機」を見れば、それ以外のカメラは高くとも2万円以上の価値は付かないと理解出来る。その程度のカメラであれば、「売却」というよりも「廃棄」という意味合いが強くなろう。
現金が必要であるという事情を考えれば、メインカメラ「Nikon F3/T(白)」のバックアップ用として控えている「Nikon F3HP」を現金化するほか無い。全体的に35mmカメラの使用頻度が若干低下しているのであるから、あまり問題は無かろう。本当の保存用F3は厳重に保管してあるのだから、いざとなればそれを前線に回せば良い。
今までは、カメラの処分はカメラ店での買い取りや下取りという方法を取ってきた。しかし、インターネット上で買い取り価格を調べてみると、F3の相場は高くない。20年もの間生産されてきたロングセラーカメラであるため、中古市場でも玉数は多いのである。そればかりか、最後の本格MFカメラということで、新品ストックも非常に多い。そんな状態では買い叩かれるのがオチ。
また、自分で価格を決められる委託品扱いもあるが、いつ売れるか(いつ現金化出来るか)という予想が出来ないのが致命的。
ここは、カメラ店を経由させずインターネットのオークションに出品することにしよう。
現時点で最も規模の大きいオークションは「Yahoo! オークション」である。他のオークションサイトより10倍もの出品数が客を引き寄せる。手数料が必要ではあるが、集客の問題から我輩も「Yahoo! オークション」を利用することにした。
オークションでは、様々な人間が入り乱れて出品・入札・キャンセル・質問・回答・評価などを行っている。当然ながら、トラブルも多く発生する。
入札条件を最初に明示しているという意味では、出品者の立場は落札者よりも強い。「この条件で不服ならば、入札してくれなくとも良い」というのがオークションの原則。それはつまり、落札者側から見れば入札するもしないも自分の自由ということでもある。
しかし現実には、インターネット上の相手の顔も見えない仮想空間でのオークションであるから、行き違いによるトラブルは絶えることは無い。
出品者側の立場で限定しても、心配されるトラブルの種類は数多い。
例を挙げると、「なかなか入金しない者」、「全く音信不通の者」、「落札後に値引きを要求する者」、「高額にも関わらず切手や収入印紙で代金を送りつける者」、「振り込み手数料を勝手に差し引いて入金する者」、「不当な理由で落札を辞退する者」、「盲目的に定形外郵便を要求する者」、「受け取ったはずの荷物が届いていないとクレームする者」、「入金だけ行って送付先を書かずクレームする者」、「入金後3時間で届かないとクレームする者」、「条件に無い手渡しを頑なに要求する者」、「製品の仕様に関する理由(使いにくいなど)で返品する者」・・・。
「Yahoo! オークション」では、取引後に出品者・落札者双方が互いに評価を行うというシステムであるが、悪い評価を色々と辿っていると上記以外にも信じられないようなトラブルを目にすることがある。
ただ、それらのトラブルは特定のカテゴリに偏っていることが多く、幸いにもカメラのカテゴリでは信じられないようなトラブルはあまり見掛けない。
確かに、何百も出品している者であれば、その中のどれかがトラブルに当たる確率が高くなる。
今回は1回限りの出品であるし、まあF3を望む落札者ならばトラブルは少なかろうと勝手に判断して出品することにした。
出品するにあたり、写真撮影は重要である。写真の写りによって入札数や入札額が変わってくる。いくら文章で説明されても、写真による心理的効果は絶大。同じ出品物でも写真のキレイな出品物のほうが高値を付けていることが多い。
そこで、我輩も気合いを入れて撮影を行う。もちろん、スリキズなどの不具合点を忠実に写し入れることは、誠実さを示すためにも重要である。ごまかしの無い範囲でキレイに撮影することは、入札者の不安を取り除き、その安心感により、キズがあろうとも却って入札額も大きくなると我輩は考えた。
次に、開始価格の問題であるが、これは送料込みで\9,000と設定した。
「Nikon F3HP」ならばニーズは多い。例えば「ゼンザブロニカ」などは、いくら安くてもそれを欲する者は限られており入札者の競合がほとんど無い。下手に開始価格を低くしようものなら、値が上がらずそのまま落札されてしまうことになる。
だが「Nikon F3HP」は開始価格が低ければ注目を浴び、複数の入札者が競合して入札額が徐々に上がるだろう。
ちなみに「送料込み」とした理由は、送料絡みのトラブルが多いことによる我輩の回避策である。送料を節約しようと考える落札者の中には、手渡しを希望する者もいるとか。だが手渡しは少なくとも移動時間や待ち合わせの時間を入れると3時間は掛かる。特定の時間を拘束されるという意味に於いても手間となるだけでメリットは無い。それならばいっそ送料を無料として落札者には商品代金のことだけに集中させたい。
(中には、送料無料であるのに手渡しを希望し、その分の送料を引いてくれという者すらいるらしい。そういう者はトラブルの元凶である可能性が高いため関わらぬほうが良い。)
さて、説明用写真は何枚か撮ったのだが、実際に出品するとなると、どれもこれも必要に思えてしまい、結局8枚もの写真を連ねてしまった。アクセスするほうとしては画像読み込みに時間が掛かったことだろう。
とりあえず、オークション期間は5日と設定した。
出品者側からは、この出品物に対してどれだけのアクセス数があったかが判るようになっている。さらに、その出品物の動きを追跡する「ウォッチリスト」に登録された件数も判る。
ウォッチリストは、その出品物に対する関心の度合いを知るのに便利ではあるが、同一人物が何度でも登録出来るために、例えば100件のウォッチリスト件数があったとしても、それが必ずしも100人の関心を集めたということではない。極端な話、それはただの1人だけという場合もある。
また、値が上がることによって関心が無くなった者のウォッチリストもそのまま消えることがなく、その数字を過信することが出来ない。
出品した最初の1日目では、1件の入札があった。値段は当然ながらスタート時の\9,000である。もし他に入札者がいなければ、F3はこの値段で売られることになる。
しかし間もなく2人目の入札者が現れて1万円を越えた。
我輩の予想では、しばらくは値を釣り上げぬようジッと様子を窺い、オークション終了間際で一気に落札するという動きを読んでいた。しかし、意外にも初日から値が上がっていくではないか。
2日目には入札者が5人となり、値が3万円を越えた。
この時点でのアクセス数は200、ウォッチリストは30。
3日目には入札者が7人となり、7万円を越えた。我輩の希望額は8万円くらいであるから、もう少しである。この調子で行けば、恐らくは終了直前で8万円を越えるだろう。それまでは少し心配だったが気が楽になった。
この時点でのアクセス数は400、ウォッチリストは60。
4日目になると、7万円台のままで全く動かなくなった。しかしアクセス数は600、ウォッチリストは80であるから、見通しは明るい。
最終日、昼頃になってついに8万円を越えた。そして、そのまま終了時間直前まで変化無し。
しかし、アクセス数は1,200を越え、ウォッチリストが130にもなっている。この関心の高さならば、直前に入札があるのは間違い無かろう。
予想通り、終了まであと数秒というところで入札があった。値が9万円まで上がった。しかし、終了間際で入札があると自動的に10分間延長するというシステムのため(解除することは出来る)、残り時間が増えてしまった。我輩も経験があるが、入札者はさぞ驚いたことだろう。
我輩は、落札者宛のメールを書き始めた。予想よりも1万円高い値段に満足であった。
延長時間も残り少なくなった頃、再び入札があった。9万5千円を越えた。
これは全くの予想外。値は既に相場を越えている。未使用とはいえ、底には若干のスリキズ、そして箱や付属品も何も無いのだから、この値段では少し高い。競合が10人もいるために入札が熱くなり冷静な判断が出来ないのではないか?
後で「値段が高い」などとクレームを付けられてはたまらん。これ以上値が上がらないことを祈るばかり。
しかしそれでも入札は終わらず、最後は新規2人による激戦となった。
「新規」とは、オークションで評価がまだ付いていない状態の者。良い評価や悪い評価が全く付いておらず、どんな相手か分からないのが怖い。
このままでは、新規の2人のうちどちらかが落札してしまう。
最終的には40分以上もの延長戦となり、落札金額は10万を少し越えて終了した。見守っていた我輩も疲れてしまった。
やはり落札者は、恐れていた新規の1人だった。
我輩は落札者に向けて振込先等を書いたメールを送信した。しかしよく見ると、落札者のメールアドレスは出品者の間でも敬遠されるフリーメールであった。
イヤな予感がする・・・。
我輩がメールを出したのは深夜12時頃であった。次の日の朝、早速メールチェックをするが、返事はまだ無かった。まあ、相手もまだメールを見ていないのだろう。だが小さな不安はあった。
出社していつも通りに仕事を始めた。月末も近く、数十件もの請求明細書を作成せねばならない。午後からは客先へ行くため、忙しさは午前中に集中する。
だがいくら忙しいからと言っても、メールチェックはマウスボタンのワンクリックで可能である。明細書作成の合間にメールをチェックするのだが、落札者からのメールはまだ届かない。何度もメールチェックすると却って気になって仕方無い。
もしキャンセルとなった場合、次点の入札者に購入意志を確認する必要がある。しかし、自作自演のやらせ行為だと疑われかねない。何しろ最高額は新規の人間である。
いずれにせよ一旦落札された物件は、落札金額の3パーセントのシステム利用料を徴収されることになる。今回の場合、およそ3,000円である。これが無駄になるとすればダメージは大きい。
結局、午前中にはメールは届かず気持ちが落ち着かぬまま午後から外出した。さすがに外出時は雑念は消えていた。
帰社したのが午後4時頃。パソコンのスイッチを入れ、早速メールチェックした。すると。待望の落札者からのメールが届いた。
相手は特に金額の高さに不平を言わず、明日の朝までには入金出来ると連絡してきた。これで一安心だ。・・・いやいや、モノが届いて「これは新品じゃない」などと言い出すかも知れぬ。気を抜くのはまだ早い。
次の日、入金を確認してコンビニエンスストアから荷物を発送した。
高く値を付けてくれたお礼として、貰い物の新品シリコンクロスやF3用リチウム電池などを同梱した。そして、宅配便伝票に記載されている問合わせ番号をメールで伝えた。この番号があれば、相手がインターネット上で荷物を追跡出来る。
荷物を出した直後はまだ集配が来ていないことがあるため、現時点ではまだ番号が登録されていないことを書き添えた。あるケースでは、発送直後で番号が未登録状態であるにもかかわらず、3時間後に「発送が確認出来ませんので"悪い"という評価をさせて頂きます」と落札者に評価された出品者もいるらしい。
とりあえずこちらとしては、やるべき手続きは全て終えているため、相手の評価を付けた。心配したものの、取引自体に何も問題は無く、「非常に良い」という評価をした。
次の日の夕方、問合わせ番号で調べてみると、荷物は先方に届いていることが分かった。だが、まだメールにて連絡は無い。クレームが無ければ良いが。
結局、その日はメールは無かった。
次の日の昼頃、評価メールが届いた。「非常に良い」という評価であった。
心配したようなクレームも無く、品物には満足して頂けた様子。こちらとしても安心した。
それにしても、フリーメールアドレスの新規の落札者を相手にするのは、高額商品ゆえに少し落ち着かなかった。
しかしまあ、終わり良ければ全て良し。
今回得た金で、「Kiev 6C」の他に買うものがある。それはまた次の機会にでも書こうかと思う。