この撮影の時点では、フィルム浮きの問題は既に認識しており、多少ピントの不安はあった。我輩はその不安を振り払うように次のように宣言した。
「成功する確率は50パーセント。というわけで2枚ずつ写そう。そうすれば確率100パーセント!」
酔いが醒めた後で考えると、50パーセントの確率を2つ重ねても100パーセントではないことに気付いたが、まあそれは誰も指摘してこなかったので無かったことにする。
幸運なことに、このスナップでは絞り開放で撮影したにも関わらず、ピントの外れは全く無かった。飲み会の盛り上がりのせいで温度が上昇していたせいか?
とにかく現状では、F5.6〜開放絞りによる撮影ではピントに自信が持てない。F8以上に絞れば被写界深度で何とかカバー出来そうだが、それでは撮影シーンが限定される。何と言っても、他の種類のレンズでは得られない全周魚眼レンズである。成功率は良くないが、使うべき時に使うことにしよう。それまでの間は、試し撃ちの意味で経験を積み、少しでも成功率を上げるよう努めるとする。
以上のように、全周魚眼については個性のある写真が撮れるために制限付きであろうとも仕方が無い。
だがそれとは別に、安定して撮影が出来る魚眼カメラも欲しいと思う。
つまり、対角線魚眼でも構わないというシーンでは、確実さを優先させるため被写界深度が目視出来る一眼レフが良い。それにはどうしても、自作カメラではなく既製品が必要となる。
我輩は中判を66判でしか使わない。とにかく66判で使える魚眼レンズ、それが我輩の条件である。
厳しいことに、この条件に当てはまるカメラやレンズはハッセルブラッドなどの非常に高価な物しか存在しない。前回の雑文でも書いたが、比較的安価な「ゼンザブロニカPS 35mm F3.5 フィッシュアイ」もタッチの差で販売終了となってしまった。
そこで今回、以前から気になっていたロシア製魚眼レンズを考えることにした。
ロシア製のカメラ機材は、
雑文325「ロシア製デッドコピー」でも述べた通り信頼の足る代物ではない。しかし、カメラ本体に比べて複雑なメカニズムの少ない交換レンズでは、そこそこに評判が良い様子。
インターネット上を色々と巡ってみると、66判用の対角線魚眼レンズ「ARSAT 30mm F3.5」や「zodiak 30mm F3.5」が安価に出回っているとのこと。2〜3万円程度らしい。
ただし、このレンズはすでに製造元でも生産終了となっており、輸入業者のほうでも入荷未定となっている。ということは、購入するならば選択肢は中古のみ。
それでも「ゼンザブロニカPS 35mm F3.5 フィッシュアイ」のようにモノが全く存在しないということはない。インターネットのオークションにも時々出品されるのを見掛ける。モノ自体が世の中に存在するため、待っていればいつかは巡り会えるということだ。
しかし大きな問題がある。
これらのレンズが使えるカメラボディの種類が限られている。旧東ドイツ製の「PENTACON 6」や、それをコピーしたロシア製「Kiev 6C」、「Kiev 60」、そしてハッセルブラッドをコピーした同じくロシア製「Kiev 88」、そして「PENTACON 6」の改良モデルの「EXAKTA 66」など。
それらは宿命的に背負った不具合を抱え、インターネット上では、例えばコマとコマが重なったり特定のシャッタースピードが切れないなどという体験談が非常に多く目立つ。
これならば、我輩のピントの曖昧な自作カメラで撮影するのと何ら変わらない。安定して使えないのであれば、わざわざ対角線魚眼レンズで妥協する意味が無くなってしまう。
そうは言っても、一眼レフファインダーによって被写界深度がその場で確認出来るのは強みである。何とか使えるカメラは無いものか?
色々と悩みながら、更にインターネット上の情報を探っていると、不具合なカメラでも個体の選び方次第や使い方次第で何とかなる場合があると知った。
ただしそれらの情報は我輩が実際に体験した内容ではないため、真偽のほどは定かではない。しかし、複数のサイトや掲示板に書かれていることであるから、単なる思い込みや勘違いということも無かろう。
情報を総合して考えると、どうやら「Kiev 6C」というカメラが他のカメラと比べて幾分マシなようだ。もっとも、個体差の激しいロシア製カメラであるため、その機種を選んだだけでは安心出来ることでもない。
そうこうしているうち、インターネットのオークションに対角線魚眼レンズ「zodiak 30mm F3.5」が出品された。この段階ではカメラボディの問題が未解決であったのだが、目の前に目的のレンズが出品されているのを黙って見過ごすわけにもいかず、ついにそのレンズを落札してしまった。
後になって、よく吟味して手に入れるべきだったかも知れないとは思ったが、再び後悔するような事態を避けたかったのだから仕方あるまい。要らなければ売れば良い話。
それにしても、意外と見事なレンズ外観。金属製の鏡胴がズシリと重い。特に、ピントリングはゴムのローレットではなく金属を彫ったものであることに気付き少し驚いた。このような造りは、かえって手間がかかるのではと思う。
今のところ、このレンズの写り具合は全く不明。これを装着するカメラボディが未だ手元に無いから仕方無い。
まあ、カメラボディのことは後で考えることとし、とりあえず今回は、生産終了の魚眼レンズ入手を優先させたことで良しとしよう。
使うかどうか分からないレンズの購入、自分でもかなり乱暴な買い方だったという気もするが、後悔を最小限に抑えるためのやむを得ない措置だと割り切るしか無い。
このレンズは人気であるらしく、生産終了となってから値段が少し上昇傾向にあるという。我輩が手に入れた4万円という値段は少し高めだったかも知れないが、人気があるならばと自分を納得させて次の手をゆっくりと考えよう。
もしかしたら、もっと別の展開があるかも知れないからな・・・。