2000/04/05
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カメラ雑文

[325] 2001年12月17日(月)
「ロシア製デッドコピー」

ロシア製のカメラというのは、非常にユニークでオリジナリティあふれるものか、あるいは逆に、外国製品を真似て作ったものか、そのどちらかしか無い。

有名なデッドコピーカメラと言えば、ライカD2型をコピーした「ゾルキー」、ハッセルブラッド1000Fをコピーした「キエフ88」、ペンタコン6をコピーした「キエフ60」、ニコンF2フォトミックをコピーした「ロモ・アルマス102」、そして今回の主役である「ロモ・LC-A」は、コシナCX-1(あるいはCX-2か?)のコピーである。

普通、製品のコピーというのは、我々が思っているほどたやすい事ではない。それは、以下に挙げる問題点があるからである。


<工作技術の問題>
戦時中、日本はドイツから技術提携を受けるために高速魚雷艇エンジン「ダイムラー・ベンツMB501」を潜水艦イ-8に積み込んで持ち帰った。しかし、現物を部品単位にまで分解して調査した結果、それは当時の日本の技術力ではとうてい製造不可能であると結論せざるを得なかったという。特に、精密さを要求されるクランクシャフトが製造不可能であり、20もあるピストンがそれぞれに協調してシャフトを回すには、少しの誤差を残してもエンジンが振動して破壊する。
いくら構造が判ったとしても、それを形にする技術力が無ければ、そもそもどうしようもない。

<材料の問題>
同じく戦時中、アメリカ軍の主力爆撃機「ボーイングB-29スーパーフォートレス」のエンジンには排気タービン過給器が搭載され、空気の薄い7,500メートル以上の高々度でも、十分な出力を以て日本本土に爆弾の雨を降らせた。
日本側には、エンジンの高温排気に耐えられる金属材料開発が十分ではなく、性能の良い排気タービンは作れなかった。スパイ活動によってアメリカから現物を持ち込もうとした事件もあったが、仮にそれが手に入ったとしても、大して貢献することはなかったろう。
そもそも、排気タービンなどの大物でなくとも、何の変哲もない金物(例えばバルブなど)がダイキャストによって大量生産されているということも生産性に差を付けた。当時の日本には、ダイキャストで作れるほどの品質を持った材料が無く、全てが手作りに近い生産であった。
ロモの場合では、レンズに使われるガラス材の性能が十分ではない。そのため、いくらコピーであってもロシアで手に入るガラス材に適した再設計が必要であったと思われる。それが「ロモグラフィー」を創り出す要素の一つとなったのは皮肉である。

<設計の問題>
機械製品では、設計図が無く現物のみが存在する場合、いくら現物の部品を厳密に測って模造しようが、完全に同じように機能するものは作れない。
電子部品では、高度なリバースエンジニアリング技術さえあれば回路を分析して再現することが出来る。しかし機械製品では、その現物は元となる設計図からある程度の誤差を以て製造されたものである。その現物を計測してコピー品を作ろうとすると、誤差(個体差)を更に上乗せさせて製造することになる。そうなると実際に組み立てる時になって穴の位置が合わなかったり、歯車がキツくて回らなかったりする。そうならないようにするためには、手間であっても図面を引き直して再設計する必要がある。そういった手間を惜しめば、欠陥品が大量に出てくるのは当たり前。


ロシア製カメラは当たりハズレが激しいというのが定説である。それは、機械部品の製造誤差がたまたま正常値に触れたか、あるいは逆に遠ざかったかという問題である。
確かに、ロシア製は製造技術が劣っているとも言えるかも知れない。しかし、日本が技術大国になったのは、いくら粗悪なものが作られていても品質管理の徹底によって、それが工場の外に出ない。それがロシア製の場合では、良い品質も悪い品質も等しく出荷されてしまう。その傾向は、ソ連崩壊後に顕著であるという。

我輩は10年前にロモ・ルビテル166Bを購入したのだが、その機能は安定しており、とてもベークライト製(プラスチック製ですらない)のカメラとは思えない。ルビテルはセルフタイマーのガバナーが調子が悪くなることが多いらしいが、我輩のルビテルに関してはそのようなことは無かった。たまたま、当たりの個体だったらしい。

このように、ロシアカメラを買うということは、ある程度のリスクを伴う。それがデッドコピーのカメラならば、正常に動作するもの自体が珍しい。
製造元は、自分たちで開発したものではないのであるから、カメラを改良することはおろか、カメラの修理すら難しい。その結果、故障品は一律に新品取り替えとなる。原価が異常に安いのであるから、手間を掛けてまで修理しようなどとは思わない。

我々のようなカメラに入れ込んでいる人間がロモやキエフなどに手を出すならば、まだ自力でメンテナンスが可能であろう。あるいは、壊れても後悔しないような購入の仕方が出来る。それらは決してメインカメラとはなり得ないのであるから。
しかし初心者の場合には、カメラが壊れれば何も出来ない。しかもそれが唯一のカメラである。

ロモの場合、代理店の「ロモジャパン」もカメラについての知識はあまり無いようで、結局は修理不能である。故障の場合は新品と交換となるのだが、それは根本的解決にはならないということは言うまでも無かろう。
フィルム送りが十分ではなくコマが重なってしまうという不具合も、作品の味として受け入れられるうちは良いのだが、今までに2度も交換するハメになったという話は、ロモジャパンの掲示板等で見掛けた。欠陥品を欠陥品で補うことの無意味さが解っていないのだ。

もし、初心者がロシア製デッドコピーに手を出そうと言うならば、ハッキリと止めてやったほうが良い。もし本当に欲しいのならば、我々の制止を押し切ってでも購入するだろうが、その場合には我々に責任は無い。
「キサマが自ら選んだ道であろう。」と吐き捨てれば良い。

ただし、初心者にロシア製デッドコピーを薦めた場合には、その責任は薦めた側にある。責任を持ってその者の精神的サポートを努めよ。