誰もが知っている童話「ピノキオ」。
ピノキオはウソをつくと鼻がどんどん伸びる。どんな言い訳も通用しない。
この話を聞いた子供の頃、なんと恐ろしい現象だろうと身を震わせたものだった・・・。
先日、
伸縮の激しいレンズのことについて書いた。その伸縮性により、湿った空気を吸い込んでしまった話だが、世間にはこれ以上に鼻が伸びるカメラが存在する。
5〜6年くらい前だったろうか、友人の結婚式の二次会に行った。
二次会は、ほとんど友人関連の集まりのようなもので、同年代の者が集まっていた。新郎新婦二人分の友人であるから数も多く、赤坂にある店を借り切って行われた。
同年代同士ということもあり、色々なゲームや出し物(音楽演奏)などで大いに盛り上がっていた。そして、その場をビデオで写す者やカメラで写す者がいた。
カメラの場合、そのほとんどがコンパクトカメラであり、押すだけで写るため、お互いに写し合ったり、カメラを借りて写したりする。
我輩は記念写真を面倒に思う人間であるため、その場にカメラを持参しなかった。もっとも、持って来ようと思ったとしても、大げさなカメラしか所有しておらず、このような場にはふさわしくなかったろう。
しかし、我輩がカメラを趣味としているというのは友人も承知で、その時も1台のカメラを渡された。
「なあ、あの娘、かわいくねぇ?ちょっと写真撮ってきてくれよ。」
そいつは我輩に手を合わせ、「お願いポーズ」をとった。
・・・そういうことか。気持ちは分かるが、我輩1人で行けるわけがない。カメラを返そうとすると、近くにいたヤツが「オレも行ってやるから撮ろうぜ。」と席を立ち、我輩を引っ張って行こうとする。コイツも動機は同じらしい。
仕方無く、我輩はカメラを手に席を立った。
ちょうど、誰かがギターを演奏しており、照明が落とされ、色付きスポットライトがステージを照らしていた。我々は闇に紛れ、腰を落として前進した。
「おい、ここらへんで狙うか。」
同伴者が柱の影でターゲットを指さす。我輩は目が悪いので、ターゲットの存在だけを認め、カメラを構えた。しかし、その姿はファインダーに小さく浮かぶのみ。
「ズーム、ズーム!」
そいつの声にハッとした。そうか。コンパクトカメラだということでバカにしていたが、近頃はこんなカメラにもズームが付いているんだな。
我輩は手探りでズームボタンを押した。軽いモーター音と共に、ターゲットの姿が大きく拡大されていく。そしてそれは限界値まで達したのか、それ以上ズーム出来なくなった。
だが、照明が暗いため、これで写るのか不安だった。
「ストロボが光るから大丈夫、大丈夫。」
同伴者は急かした。
「そうか?こんなに望遠だし、ピントが合ってんのか?照明が明るくなるまで待ったほうがいいだろう?」
そう言った瞬間、ギター演奏が終わり、照明が明るくなった。
薄暗いファインダーの映像もクリアになり、ピントも合ったに違いない。顔も良く見える。我輩とは趣味が違うな。
「よし、写すぞ。」
すると、同伴者が我輩をツツいた。
「おい、何のつもりだ?」
我輩は振り返り、文句を言った。
「おい、カメラ、カメラ!」
「何だ?」
あらためてカメラを見て、我輩はビックリした。なんと、ピノキオのように、ググ〜ンと長く伸びたレンズが・・・。
ソイツは一言、「オレたち、下心見え見えだぞ・・・。」
我々は、周囲を見渡して退散した。
あれはかなり恥ずかしかったなあ。
「違う!これはアイツのリクエストなんだ!」と言いたかったが、「ピノキオ状態」が言い訳を許さなかった・・・。
皆も、十分に気を付けよ。