2000/04/05
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カメラ雑文

[868] 2017年02月15日(水)
「フォーマットサイズによる画質の差」


100点満点の学力試験にて、100点を取った生徒Aと99点を取った生徒Bがいたとする。この2人の生徒の学力には、どれくらいの差があるだろうか?

この問いに我輩は、「100点を取った生徒がいる以上、学力の差は全く分からない」と答えるしかない。
なぜならば、99点取った生徒の学力はそれ以上でもそれ以下でもないが、100点を取った生徒は100点ちょうどの学力かも知れないし、あるいはもしかしたら1、000点以上の学力かも知れないのだ。今回受けた学力試験の上限が100点満点なので、100点に達してしまうとそれ以上の評価が出来ないのである。

<試験では1点差ながらも・・・?>
試験では1点差ながらも・・・?

しかしながら、学力試験というものがある以上、その範囲で評価されることになる。それはつまり、「たとえ生徒Aに1,000点の学力があったとしても、99点の生徒Bとはたった1点の差。実質的には同じである。」となるわけだ。
あくまでも、学力試験だけの話で言うならば。


さて、Web上でのデジタルカメラの話題で、「画像だけを見てフォーマットサイズ(イメージセンサーの大きさ)の違いの見分けが付くか?」という議論が起こることがある。
この問いかけの裏には、大きなフォーマットサイズにこだわる者たちへの揶揄があろうかと思う。「そんなにフォーマットサイズの大きさにこだわるなら、その違いを見分ける眼を持っているんだろうな?」と。

フィルムカメラの場合では、フォーマットサイズが違えば物理的にフィルムの寸法が違うのだから見分けるのは簡単。鑑賞時も、小さなフォーマットサイズではルーペを覗かないと迫力を感じないし、大きなフォーマットサイズであればルーペ無しでも迫力を感ずる。

<フィルムなら実寸法でフォーマットサイズの見分けが付く>
フィルムなら実寸法でフォーマットサイズの見分けが付く

一方、デジタルカメラの場合、画像の寸法は概念上のものでしかない。1ピクセルの物理的寸法が決まっているわけではないので、例えば1ピクセルが小さくメッシュの細かい表現をすると画像が凝縮され、画像の寸法は小さくなる。反対に1ピクセルが大きくメッシュが粗くなると間延びし、画像の寸法は大きくなる。要するに、閲覧環境次第でどうとでも変わる。

また画素数の面でも、デジタルカメラはフォーマットサイズによって画素数が決まっているわけでもない。同じ1,200万画素のイメージセンサーだとしても、1インチフォーマットのカメラもあればフルサイズフォーマットのカメラもある。

また、大きなフォーマットサイズのほうが画素数が多いとも言い切れない。小さいフォーマットのほうが画素数が多いという逆転現象も珍しくない。

結局のところ、デジタルカメラから生成される画像データの寸法や画素数は、フォーマットサイズの大小で決定されるものではない。だから、生成された画像だけを見てフォーマットを言い当てようとすることなど非論理的である。そんなことにチャレンジする意味も無い。

このように言うと、「フォーマットサイズが大きければ画質の面でメリットがあるはず。」という反論が出るだろう。

画質とは何か。その定義には色々とあろうが、画質を左右する主な要素は「ノイズ」であろう。ノイズが多ければ細かい描写が埋もれて見えなくなるので、その状態を「情報量が低下した」と表現出来る。

ノイズは、イメージセンサー上の1画素当たりの受光面積が大きいほうが出にくいとされるので、同じ画素数同士ならばフォーマットサイズが大きいほう、そして、同じフォーマットサイズでも画素数の少ないほうが1画素当たりの面積が大きく、ノイズが少なくなる。またイメージセンサー上の配線構造が受光をジャマしない裏面照射タイプも有効。

ただし理屈上ノイズは完全に消えるものではなく、画素面積が無限に大きくなれば受光した光子の数が平均化されて他の画素と同じレベルにまで無限に近付くが、理屈上は決してゼロにはならない(※)。永遠にゼロに漸近するのみ。
(※短いシャッタースピード内で、例えば1,000万個の全画素それぞれに同数の光子が入る確率は限りなく低いが、個々の画素面積が大きくなれば光子の数が多くなって相対的に差が小さくなる。)

しかしながら実際には、ある程度ノイズが減るとそれ以上は肉眼では区別出来なくなる。あるいは違いが無視出来る。
そういう意味で言うと、ノイズが感覚的にゼロになるポイントは存在すると言って良い。これはつまり、学力試験で言うところの100点満点のラインとなる。

通常、デジタルカメラでは一番感度の低い設定であるベース感度での画質が最も良いとされている。
以下作例として、「フルサイズ」、「マイクロフォーサーズ」、「1/1.7インチ」の各フォーマットサイズのベース感度での画像を示すことにするが、まずは共通撮影対象は次の通り。

<共通撮影対象>
共通撮影対象

当初は、実際の撮影を想定して植物撮影を通して比較を行うつもりだったが、慎重な比較撮影を行うにはジックリと調整する必要があり、とても植物園や公園などでは場所を占有して行えるものではなく断念せざるを得なかった。
そこで自宅で何か撮れるものは無いかと探したが、自宅には植物など無く、結果的に自動車内を撮影することとした。

撮影にあたっては、下記の項目に留意し極めて慎重に撮影を行った
●レンズはそれぞれの最高性能を持つとされるものにて換算24mm域を使用
 フルサイズ「SONY α7RII」は「FE24-70mmF2.8GM」を使用
 マイクロフォーサーズ「OLYMPUS OM-D E-M1」は「12-40mmF2.8PRO」を使用
 1/1.7インチ「PENTAX Q7」は「08 WIDE ZOOM」を使用
●照明はストロボのみとし、着色せぬようバウンスさせずソフトボックスを使用
●回折ボケの影響を受け易い1/1.7インチの開放値に合わせ、絞り値は全てF4.0に統一
●RAW現像時にノイズリダクション及びシャープネスのパラメータは全てOFFとした
●フルサイズのみRAW現像時に1/3EVほど暗く調整して他のフォーマットサイズに揃えた。

実際の撮影では、それぞれのカメラで感度を1段ずつ上げながら撮影していったのだが、ここでは他の感度の作例は掲載しない。なぜならば、感度ごとのノイズを見て高感度特性の高いカメラがどれかということを結論付けるのが今回の趣旨ではなく、あくまでもベース感度でのノイズ比較をすることが趣旨だからだ。

ではまず、黒い部分の多いエリアを等倍切り出しした画像を示す。

<それぞれのベース感度で撮影した比較画像(1)>
(※画像クリックで等倍切出し画像が別ウィンドウで開く)
それぞれのベース感度で撮影した比較画像(1)
全てのカットで絞り値F4.0となるようストロボ出力を調整した

これを見ると、やはりフルサイズ以外はノイズや偽色が微妙に浮いているのが確認出来る。しかし予想ほどではない。高画素による画像サイズの違いも影響しているだろう。
特に、1/1.7インチの画質には驚く。画像が小さいだけで、ノイズ的にはマイクロフォーサーズと同等以上と判定する。ただしマイクロフォーサーズのほうはベース感度がISO200だという違いはある。

では次に、中間調の多い部分を切り出してみた。

<それぞれのベース感度で撮影した比較画像(2)>
(※画像クリックで等倍切出し画像が別ウィンドウで開く)
それぞれのベース感度で撮影した比較画像(2)
全てのカットで絞り値F4.0となるようストロボ出力を調整した

これを見ると、見た目にはほとんどノイズの違いが見出せない。1/1.7インチくらいなら分るだろうと思ったが、とてもそんなことはなく区別は難しい。

この画像が、強制的にノイズリダクションOFF、及び偽色補正OFFの状態なのだから、いつものデフォルトの状態では、どのカメラもノイズは全く見えなくなる。
いずれにせよ、ニュートラルで十分な光量の下、ベース感度にて正しい露光値で撮る限り、画質はどれも100点近くに達し、違いは分からなくなる。フォーマットサイズによる画質の低下は無いと考えても良かろう。

ちなみに掲載はしていないが、フルサイズで裏面照射型の「SONY α7RII」では、さすがにISO400までは安定した画質を見せている。ISO100〜200までは100点以上の能力があるに違いない。つまり、撮影時に露光不足の場合、RAW現像時に明るさを持ち上げてもノイズがすぐには出ないということである。露光失敗時のリカバリーには心強い。

なお、下記概念図は感度ごとの画質評価を示すが、それぞれのベース感度を起点としており、同じ感度同士を並べて比較するものではないことに注意。あくまでも、ベース感度同士では画質の区別が付かないということを示している。

<ベース感度において、どのフォーマットサイズでも画質はほとんど同じ> (※概念図)
ベース感度において、どのフォーマットサイズでも画質はほとんど同じ

結局のところ、ユーザーがどの感度を想定しているのかによって、画質に対する評価が変わってくると言える。高感度を重視するユーザーならば「小さなフォーマットサイズはダメだ」という評価となり、それは正しいわけだが、我輩のようにストロボ撮影を主体としてベース感度しか使わぬユーザーであれば、フルサイズであることのメリットは、単純に画素数の多さのみである。

我輩は一時期、画素数がそれほど多くなかった当時のフルサイズカメラを捨てて、マイクロフォーサーズをデジタルのメインカメラに据えたことがある。マイクロフォーサーズのほうは強力な5軸手ブレ補正があり、しかもストロボ撮影が多くなったため、ベース感度での撮影が保証出来るようになったからだ。つまり、マイクロフォーサーズで100点近く取れるようになったので、必ずしもフルサイズである必要が無くなったということだ。

なお現在は、中判カメラ代替としての画素数優先で4,200万画素のフルサイズ「SONY α7RII」をメイン機として使っている一方、サブ機は徹底的に携帯性を重視した1/1.7インチ1,200万画素の「PENTAX Q7」を使っている。この「PENTAX Q7」は、通勤カバン常備カメラとしても活用している。

こんなに小さなサブ機であっても、撮り方次第で高画質を確保出来ることを知っているので、その点心強い。
ただ、この「撮り方次第」というところが手間がかかるわけだが、大光量を保証するストロボ撮影ならば手間無く安定して実現可能と考えた。そのことについては、次回雑文にて記したい。