[866] 2016年12月06日(火)
「超々広角10mmの使用感」
SONYがミラーレスカメラに参入してAPS-Cサイズの「NEXシリーズ」を出した時、我輩はそれをバカにしていた。
何しろ、カメラの厚みが極端に薄く、大きなレンズに小さなボディがくっついているというアンバランスさ。その姿はとても機能的とは思えず、ただデザイン的なインパクトを狙ったキワモノ的存在に見えた。
そもそもEマウントは最初のレンズのラインナップが偏っており、この様子ではSONYはマジメにシステムを構築するつもりがなさそうだと感じた。だったら複数のメーカーが賛同するマイクロフォーサーズのほうが良かろう。マイクロフォーサーズならば、ボディばかりではなく交換レンズの選択肢も多く、将来性があると思われた。
それからしばらくして、同じマウントでフルサイズセンサーを搭載した「α7シリーズ」が出たが、これまたマウント径ギリギリに収めたイメージセンサーが痛々しい。当時、「こんなマウントで四隅はケラれないのか?」と少々騒ぎになったことがまだ記憶に新しい。
<Eマウントがフルサイズ化> |
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ボディデザインも全体的に洗練されておらず、カッコ良いとか悪いとか以前に、カメラとして機能的だとはとても思えなかった。グリップもただ出っ張りがあるだけで、シャッターボタンが指の位置にない。
レンズラインナップも、せっかく増え始めたAPS-C用レンズに加えてフルサイズ用レンズをこれから拡充するわけだから、実用に足るシステムとして完成するのはずっと先のことになろう。いや、今一盛り上がらずにAPS-Cのほうに戻るかも知れぬ。
ところが数年経った現在、「α7シリーズ」も2世代目となって完成度も上がり、交換レンズもかなり拡充。同じ設計を他メーカーボディに転用出来ないので二の足を踏んでいたレンズメーカーからも、最近は次々にフルサイズEマウントが発売され始めた。
その一方でマイクロフォーサーズのほうは、2,000万画素が上限という話も聞こえてきて、「さすがにそれでは8Kテレビ時代を迎えられまい」と我輩は見切りを付け、ついに「SONY α7RII」を入手するに至った。
我輩は、フルサイズなど今さらどうでも良い。転用出来るフィルム時代のレンズも限られている。むしろ、被写界深度が浅いことが疎ましい。
レンズも大柄で、携帯性に劣る。「フィルム時代はこうでは無かったんだがなあ」と思ったが、今は画素数が多いので、レンズも高性能でなければならないのだ。そう、我輩がこのカメラを選んだのは、ただ画素数のためだけなのだ。
しかし、カメラはレンズがあってこそ、その能力を発揮出来る。
我輩は今さら言うまでもなく広角派なのだが、フルサイズ用の超広角レンズは大きなズームしか無かったので困っていた。そんな時に出会ったレンズが、今回の超々広角単焦点レンズ「10mmF5.6」であった。
その利点は、広い画角というだけでなく、単焦点のために極めてコンパクトであることだ。フルサイズにしてはミラーレスのためコンパクトなボディ、そして単焦点のコンパクトな超々広角レンズ。その組合せは、通勤カバンに常備出来るほどの携帯性を持つ。
ところで考えてみればこのレンズ、手元にある対角線魚眼レンズ15mmよりも焦点距離が短い。
この2つのレンズで同じシーンで撮り比べると、どのような写り方をするのだろうかと思った。焦点距離の短いほうがより広く写るのか、それとも魚眼には敵わないのか。
そこで早速、2つのレンズで同じ被写体を撮り比べることにした。もちろん、通勤時にカバンに入れて携行し、撮影したものである。
<超広角10mmと15mm対角線魚眼との比較> (※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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SONY α7RII/ISO200/どちらも開放絞り |
この写真を見ると、当然ながら超広角レンズのほうは直線がまっすぐ描写されているのに対し、魚眼レンズのほうは湾曲し如何にも魚眼的に写っている。
なお、一見すると魚眼レンズのほうが広範囲に写っているようにも思えるが、上下方向などは10mmレンズのほうが広く写っていたりもする。そのあたりは射影方式や湾曲の問題なのかと思う。
せっかくなので、以下、スナップ的に撮影した作例を掲載する。
<クイーンズスクエア横浜> (※画像クリックで長辺2400ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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SONY α7RII/ISO200/Av=F6.3/Tv=1/50sec. |
日産のショールームでも撮ってみたが、かなり近付かなければまともな大きさには撮れない。
よく「広角レンズは被写体に近付いて撮れ」と言われるが、そんなこと言われるまでもないほど。
<日産ショールーム> (※画像クリックで長辺2400ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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SONY α7RII/ISO200/Av=F5.6/Tv=1/25sec. |
夜景では点光源の流れが目立つのではないかと思ったものの、全く無いとは言わないが心配するほどの問題は見られない。高画素機の要求に応えられるだけの性能があると言える。
<みなとみらい> (※画像クリックで長辺2400ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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SONY α7RII/ISO200/Av=F5.6/Tv=1/2sec. |
また、国立科学博物館のほうも寄ってみた。ここは金曜日は20時まで開館しているので有り難い。
超広角レンズでは、画面外に強い照明光があると派手なゴーストが出るものだが、本レンズではほとんどそれが見られない。これはコーティングの問題ではなく、単純に前玉の出っ張りが少ないためである。
<国立科学博物館> (※画像クリックで長辺2400ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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SONY α7RII/ISO400/Av=F5.6/Tv=1/5sec. |
10mmは超広角の単焦点レンズのため、とりあえず広く撮っておいて後で利用目的に応じてトリミング作業が発生するケースがあろう。
そのための目安となるトリミングガイドを作ってみた。黄色にてフルサイズ4,200万画素機のトリミングガイドを示し、比較としてピンク色のAPS-C機と青色のマイクロフォーサーズ機の焦点距離を加えたものである。
<トリミング画角と画素数の関係> (※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く) |
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これを見ると、本レンズを使って4,200万画素のフルサイズ機で撮った場合、16mm相当(黄色文字)にトリミングすると1,600万画素に減るのが分かる。
この画角は本レンズをAPS-C機に装着して撮った場合に相当するのだが、もしAPS-C機が2,400万画素であった場合、フルサイズ4,200万画素からトリミングするとAPS-C機に画素数で負けてしまう。だから、本当に10mmの超広角を必要とする場合でなければAPS-C機で使った方が良いことになる。
なお、上記画像から等倍画像を切り出したものを下に示す。写真情報量としての参考になろう。
<等倍トリミング> |
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ところで、使っているうち、ピンとリングの突き当たりで無限遠が出ていないことに気付いた。
画面拡大で精密にピントを確認してみると、どうやらピントリング1メートル目盛りのところで無限遠となっている様子。
特殊なガラスを使ったレンズの場合、温度変化によってピントリングの無限遠の位置がズレるものがあり、それを補償するために無限遠の突き当たりを少し伸ばしたオーバーインフを持たせたりする。
だが本レンズではピントリングの目盛りは無限遠が突き当たり部分の1点で記されている。そもそも、1メートル目盛りの部分で無限遠というのはやはりおかしい。そのズレの分だけ、最短撮影距離が長くなってしまうではないか。
メーカー調整に出そうかと思ったが、その間レンズが使えなくなるのが惜しいし、やりとりが面倒でもある。しかも「当社基準では問題無し」として戻ってくるのもよくあるパターンなので、我輩の悪い癖だが自分で調整してみることとした。
まずはマウントのネジを外してみた。ネジはかなり固かったが、何とか外すことに成功。
見れば、マウントの下にはフランジバック調整用のスペーサーと思われる金属シートを3枚重ねて敷いてあった。金属板とも呼べないペラペラの薄いシートである。恐らくこのシートがもう1枚あれば良いのではないか?
<無限遠調整> |
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適当な金属シートが手元に無いので、書類を入れるためのクリアファイルを流用することにした。
クリアファイルをマウントの円状に切り抜き、スペーサーと一緒に挟み込んでネジ止め。横から見てもマウントの高さがほとんど変わっていないように見えるので、本当に効果があるかが疑問だったが、試写してみると補正オーバーで無限遠が行き過ぎてしまった。
そこで、金属スペーサーを1枚抜いたところ、今度は無限遠がピッタリ合った。
例えるならば「プラス5、マイナス4で、差し引きプラス1になった」という程度の微妙な差かと思う。ほんの0.01ミリ程度の違いだろうか。
このような微妙な調整であるから、もしかしたら今後、寒い季節に入った時にズレが出るかも知れないと思った。
しかし12月に入った現在、同じように使えているので、多分大丈夫。
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