2000/04/05
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表紙

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カメラ雑文

[802] 2013年12月01日(日)
「ダイヤル式分類」


中学生の頃、我輩がカメラ(写真)に興味を持った理由の1つとして、写真というものが2つの数値、「絞り値(Av)」と「シャッタースピード(Tv)」の組み合わせで表現されるという点があった。そして、一定の露出を得るために片方の数値を上げれば別の片方の数値を下げるという関係が、単純でありながら意味深く感じられた。それはまさに、陰と陽の関係と言える。

「プラスとマイナス」、「北と南」、「熱と冷」、「表と裏」、「横糸と縦糸」、またあるいは「男と女」のように、互いに違うものながらも2つで1つの意味を持つもの。そして、片方がもう片方の存在を示すものである。男がいなければ女というものも存在しない。もし片方だけ、例えば男しかいなかったならば(繁殖の問題は置いておくが)、それが「男である」と区別する意味は無く、単に1種類の人間としか言えない。
我輩がこれほどまでにカメラのダイヤルにこだわるのは、陰と陽、この2つの関係がカメラという装置の上に具現化されているためだと言える。

<陰と陽>
陰と陽

「絞り値(Av)」と「シャッタースピード(Tv)」の関係は、まさしく写真表現の基本と言える。例えその設定をカメラ任せとするにせよ、この基本を知らぬまま写真表現を成すことは不可能に近い。
しかしながらこれまでのカメラは、モードを用いた自動化によってこの2つのダイヤルを撤廃してしまったため、単純なはずのものがかえって複雑で見えにくくなってしまった。そしてそのたくさんのモードを効率的に切り替えるためにモードダイヤルが設けられたりもしている。
ダイヤルを無くしそうとしてダイヤルを設けるなど、まさに矛盾の極み。これが、現在の姿である。

どんなに自動化が進もうとも、露出の基本は変わりはしない。2つの要素「絞り値(Av)」と「シャッタースピード(Tv)」を一意に決めること(※1)。そのためには、仮に自動化を主とするにしても「絞り優先AE」、「シャッタースピード優先AE」、「プログラムAE」で事足る。2つの調整要素しか無いのだから、これ以上増やす意味は何も無い。これ以外にたくさんのモードを作るにしても、結局は「プログラムAE」の変形(※2)でしかない。
(※1:デジタルの時代になってISO感度変更が露出要素に加わったが、ノイズに影響するため不用意に変えるものではない)
(※2:プログラムAEは本来、あるEv値に対するAvとTvの組合せを決めたもの、つまりプログラムされたものである。このプログラムされたAv/Tvの組合せパターンが異なると別のモードとして扱われる。)

露出の基本さえ解っておれば、最新高性能カメラがダイヤル式であっても使いづらいという理由は無い。オート切り替えもダイヤル上で支障は無い。つまり、最前線の現場にてダイヤル式が活躍可能だということを意味する。

さて、「ダイヤル式」と一言では言っても、その種類は様々にある。もちろん、デジタルカメラではダイヤル式がほとんど存在しないため昔の銀塩カメラを見ることになるが、今後のダイヤル式カメラの復興を見据え、改めてこれまで存在したダイヤル式の分類とその特徴・特長を示したいと思う。
作る側も使う側も、どういった形式がどう役立つのかをきちんと把握しておかねば、ただダイヤル式として新製品が出ても一発物として終わってしまうし、ユーザーも良い物に気付かず不便なものを使い続けることになってしまうだろう。
(※絞り環はどれも変わり映えしないので、特に明記しない限りはシャッターダイヤルのことを述べる。)

<形状分類>
●ディスクタイプ
フチにギザギザが付けられた薄い円盤状のダイヤルで、人差し指、あるいは親指1本の指で回すことが前提となる。誤操作を防ぐため、ガードが半周分ほど付けられたり、ボディ軍艦部に半埋め込み式となったりすることが多く、2本の指でダイヤルをつまんで回すことは出来ない。

このタイプのダイヤルは、カメラを構えたホールド状態のまま指1本だけで軽快にダイヤルを回転させることが可能。スポーティーな性格を持つダイヤルと言える。

<ディスクタイプのダイヤル (例:Canon AE-1P)>
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ディスクタイプのダイヤル (例:Canon AE-1P)

●ドラムタイプ
円筒形に立ったドラム状のダイヤルで、2本の指でつまんで回すことが前提となり、1本の指で回すことは出来ない(出来たとしても無理な力がかかる)。そのため、カメラを構えたままダイヤルを回すことは難しい。

<ドラムタイプのダイヤル (例:Nikon F3)>
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ドラムタイプのダイヤル (例:Nikon F3)

反面、カメラを三脚に設置した場合、あるいは顕微鏡や天体望遠鏡その他光学装置に接続した場合には、ボディ側に力を与えず回転出来るのが利点となる。もしこれがディスクタイプのダイヤルであればカメラボディを持ちながら回さねばならないし、カメラボディを持たずに指1本だけで回そうとすれば装置とともに倒れてしまう。いずれにせよ微妙なフレーミングがズレることは必至。そういう観点で言えば、顕微鏡や天体望遠鏡を取り扱っているNikonやPENTAXのダイヤルがドラムタイプを採用していたのは偶然とは思えない。

<光学装置に接続した時のドラムタイプダイヤルの操作>
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光学装置に接続した時のドラムタイプダイヤルの操作

<動作分類>
●部分回転式
ダイヤルの回転端として行き止まり(ロック・トゥ・ロック)があるもの。
ディスクタイプの場合、カメラを構えたままダイヤルを回すわけだが、部分回転式ならばいったん回転端まで当ててから戻すと大体のアタリが付けられるので、ファインダーを覗いたままでもスピーディーな設定が可能となる。
反面、「B(バルブ)」の位置から「1/1000秒」まで移動するには回転が大きくなり不便になる。ただし、現実の撮影でそのような極端な移動が必要になることはあまり無いはず。
一方、ドラムタイプの場合ではスピーディーさを求められないが、単純にシャッタースピード等の設定数が少ない場合には部分回転式とせざるを得ない。
また逆に、ディスクタイプの「Canon EF-M(輸出専用モデル)」ではシャッターダイヤルはあと少しで一周出来そうなのだが、Canonは全周回転方式は好まないようで、頑なに部分回転式としている。

●全周回転式
ダイヤルの回転に制限が無く、何周でも回せるもの。ディスクタイプではまず見られない。
単純に設定数が多く全周にならざるを得ないケースもあるが、「Nikon F3」などは「X(シンクロ)」、「T(タイム露出)」、「A(絞り優先AE)」というシャッタースピードのような順列ではない設定もあるため全周回転式としたほうが使い勝手が良いケースもある。その場合、ロック機構により他の順列とは区別を付けている(もちろん単純にロックの意味もある)。

<表示上の分類>
●昇順・降順表記
これはメリットがどうこういう話ではなくメーカーごとの特徴というものかと思う。概してNikonとCanonではそれぞれに対照的で、マウントの回転方向やフォーカスリングの方向などがことごとく反対になっている。

●刻印・浮彫り・印刷
かつては塗料流し込みの刻印がほとんどだったが、時代が新しくなるとコスト低減のためか印刷が増えてきた。現在はモードダイヤルの時代だがそのほとんどは印刷となっている。印刷は当初は製造経験が浅かったため「Nikon F4」の初期にはシャッタースピードの印字が剥げてくる不具合があった。今ではそのような不具合はあまり見られないが、ボタンに印字してあるものでは印字剥げはまだ多い。
また、浮彫り形式の表示は「PENTAX LX」のシャッターダイヤルに始まり、デジタルカメラの時代には「Canon EOS Kiss」や「PENTAX Kシリーズ」のモードダイヤルなどが存在する。樹脂成型のため可能になったものである。

<浮彫り形式の表示 (例:PENTAX LX)>
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浮彫り形式の表示 (例:PENTAX LX)

その他特異な例として、「PENTAX MZ-L」ではモードダイヤルの盤面は回転せず、外周を回転させると選択された項目が順次点灯していくようになっている。通常のダイヤルでは項目が放射状に向いているが、「MZ-L」ではダイヤル盤面上の表示は不回転のため、時計文字盤のように表示の向きが揃っている。

●色分け
シャッターダイヤルに於いて、AE位置に着色が施されるのは当然として、シャッタースピードで色分けされているものがある。その主なものはスローシャッターの色分けであるが、同じように見えてもCanonとNikonでは根本的に思想が異なる。
Canonでは2秒以下を橙色とし、「これは分母数字ではない」という警告の意味を持たせている。一方、Nikonでは単純に「これは整数秒である」という区別のため、1秒以下が橙色になっている。一見、これはどちらも同じことを言っているように思えるが、Canonではダイヤル面の数字表記上、1/2秒と2秒の区別を付けるための注意表記であり、1秒については1/1秒=1秒なので警告せずとも問題無しということで橙色表記はしない。
ちなみに、「New MAMIYA-6」ではCanon方式となっている。

<Canon方式では1秒の着色は無いが、Nikon方式では1秒からの着色となっている>
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Canon方式では1秒の着色は無いが、Nikon方式では1秒からの着色となっている

また、X接点上限シャッタースピードを意味するための着色もあり、例えば1/60秒や1/125秒辺りで着色されているものがそれに該当する。これはスローシンクロを意識した場合には上限値であることを示す色分けであり、「Nikon F3」のようにX接点の項目が別に存在するものもある。この場合X=1/90秒で、シャッタースピード選択のほうは1/60秒をX接点上限として色分けてある(シャッタースピードの選択には1/90秒設定が無いため)。
「Nikon SP」〜「Nikon F2」では、シンクロセレクターの緑や赤の設定色と対応したダイヤルの色分けもある。

<シンクロセレクターに対応した色分け (例:Nikon F2)>
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シンクロセレクターに対応した色分け (例:Nikon F2)

なお、「Canon AE-1P」などにはX接点関係の色分けが施されておらず稲妻マーク併記のみだが、これは専用ストロボを使うとダイヤル位置に関わらず強制的に1/60秒に固定される仕様のため(スローシンクロさえ不可能)、あまり意識する必要が無いためである。

一方、絞り環に於いての色分けは、被写界深度の範囲を距離目盛り上で表現するために用いられる。
中央指標の両側に囲み線が配置され、絞り値の色からピントが合う範囲が読み取れるようになっており、下の写真の例では、F11の青い色に対応した範囲の距離目盛りを読むと、おおよそ2〜5メートルの範囲が被写界深度に入っているということが分かる(ちなみに赤い点は赤外指標)。

<被写界深度を読み取るための色分け (例:Nikkor単焦点レンズ)>
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被写界深度を読み取るための色分け (例:Nikkor単焦点レンズ)

直進式ズームレンズでは下の写真のように、囲み線が連続的に変化する美しいカーブを描いているのが大きな特徴。
ちなみに赤いラインは赤外指標で、この例ではF16を示す青い囲み線よりも優先表記されている。

<被写界深度を読み取るための色分け (例:Nikkor直進式ズームレンズ)>
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被写界深度を読み取るための色分け (例:Nikkor直進式ズームレンズ)



さてここで、ダイヤル式カメラについての今後について考えたい。

最近、シャッタースピードダイヤルを採用したデジタル一眼レフカメラ「Nikon Df」が発売されて話題になっている。デジタルカメラでシャッターダイヤルを採用したものはEPSONやFUJI、LEICAなどと意外に多く存在するが、一眼レフタイプでの採用は初めてであろう。
(追記:「CONTAX N DIGITAL(2002年)」が最初のダイヤル式デジタル一眼レフであるという指摘をもらったが、確かにその通りである。)

ただ、「Nikon Df」のダイヤルには1/3ステップ用への移行モードが存在する。このモードにすると従来のコマンドダイヤル式操作へ移行し、マニュアル露出であろうがシャッタースピード優先AEであろうが、もはやシャッタースピードダイヤルを使うことは無くなる。
我輩もこれには驚いた。こんな"逃げ"を作るくらいならば、最初から液晶表示カメラにしたほうが合理的だったのではないか。ダイヤル式である必然性が無い。いっそのこと、ダイヤル面上に「1/3STEP」だけでなく「1/2STEP」と「1STEP」を追加し、シャッタースピード表示のほうは無くしたらどうかと皮肉を言いたくなる。

<「Nikon Df」のダイヤルにある1/3モード> ※銀座ニコンSCで撮影
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「Nikon Df」のダイヤルにある1/3モード

もし本当にダイヤルカメラとして必然性を持たせるならば、1/3ステップ対応はあくまでもダイヤルで解決するべきではなかったか。かつて、ダイヤルにて中間シャッタースピードを実現したPanasonicの「LUMIX DMC-L1」では、ダイヤル式に対する覚悟を見た。「Df」にはその覚悟は感じられないのが大変残念でならぬ。
(中間に1/3ずつの刻みを入れろと言っているわけではない。他にやりようがあったのではないかと言っているのだ。)

もちろん我輩は、Nikonがダイヤル式を発展させて最前線で使えるカメラを造ったわけではなく、あくまでも今流行のノスタルジー路線でユーザーの反応を見ようとしただけというのは分かっている。そうでなければもう少し本気で開発するはずで、シャッタースピードをダイヤル式としながらも絞りはコマンドダイヤル式という片手落ちのユーザーインターフェイスにはするまい。だからこそNikonも、ネーミングも「Df」などと、次に続くのか分からないようにしていつでも逃げられるようにしている。
反面、「Df」がヒットすれば次回の本気開発に希望が繋がる可能性があるとも言えなくもないが、仮にそうなったとしても、使い易さや合理性とは程遠いノスタルジー路線を増長する方向に突き進むだけであろう。

我輩としては、現代のダイヤル式カメラがどのような形態が良いのかという具体的な案は無いが、絞りとシャッタースピードそれぞれに専用のダイヤルで設定出来るものが単純明快かとは考えている。
ただ、現状を見るとレンズ側に絞り環を持たぬものが大半であり、今さらレンズ側に絞り環を設けるのは難しい。今後発売する新しいレンズならばともかく、既存のレンズは対応出来ないということになってしまう。
その問題を解決するには絞りダイヤルはボディ側に持たせることになるわけだが、レンズごとに絞り設定が異なる点をどのように処置するのかは工夫が必要になってくる。

その点、過去に発売された「Canon EF-M」や「Nikon F-401」では、考え得る範囲の絞り値をあらかじめダイヤル面上に刻み、レンズごとの絞り設定限界をユーザーの判断に任せている。これが最適かどうかは別として、一つの解答を示していると言えよう。
今後のダイヤル式カメラとしては、こういった方向性で現代的なアレンジや工夫を加えてはどうかと期待する。

<Canon EF-M>
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Canon EF-M

絞りが存在するからこそ、シャッタースピードが存在し、互いの数値は相手の数値に影響を与える。それはまさに、陰と陽そのもの。
こうやって眺めていると、「EF-M」の2つのダイヤルが陰と陽のシンボルに見えてくるようだ。

<まさに、陰と陽の具現化した姿>
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まさに、陰と陽の具現化した姿

このような形態のカメラにニーズがあるかどうかまでは知らないが、写真の基本の関係をそのまま現わしたカメラとしてメーカー自ら先導して盛り上げていくのも一つの方法だろうと思う。
少なくとも「Df」のようなカメラを出せる体力のあるメーカーは、今度はノスタルジックな方向ではなく、ダイヤル式で操作性を極めた究極マシンを造ってもらいたい。ここで挙げたダイヤル分類を超えた新たな方式を開発するもよし、熟考を重ねた結果従来のダイヤルに戻るもよし、そこはメーカーとしての判断に任せる。あくまでも「Df」とは違うラインにて、今後の主流になり得るような使い易さや合理性の裏打ちされたカメラとして仕上げてもらいたいと切に願う。