[765] 2012年08月05日(日)
「高倍率・広視野ファインダー」
我輩は昔から、映画を見る時には最前列を選んだ。
デートで映画に行った時も、相手の女性を最前列に引っ張って行ったものだが(※昔の映画館は指定席ではなかった)、「スクリーンに近過ぎて観づらい」と不評だった。
我輩は、映画のスクリーン枠が気になるほうである。出来るだけ前に出て映画の中に意識を入り込ませ、スクリーンの枠を気にせず臨場感を楽しみたい。
確かに、あまり近過ぎると疲れるという意見もあるが、それは映画に求めているものが各人違うからである。我輩の場合、映画に対しては映像や音の迫力と臨場感を求めている。逆にそうでなければ、映画などビデオで観れば済む話。
<我輩は最前列で臨場感を求める> ※写真はイメージ |
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さてここで、一眼レフのファインダーの話をしたい。
望遠鏡や双眼鏡を見る時、レンズを通った光がそのまま肉眼内の網膜へ投影される。これはいわゆる「空中像」と呼ばれるものである。見える映像はクリアで明るい。
一方、一眼レフは、撮影レンズを通った光をいったんスリガラス(フォーカシングスクリーン)に投影・結像させる。そしてその投影された像をルーペで拡大させて見る。もちろんスリガラス面は、撮像面(フィルムやイメージセンサー)と等価な距離に配置されている。
スリガラス越しに投影像を見るため、ザラザラ感があるばかりでなく、スクリーンで光が拡散してしまい暗く見える(通常、拡散した光を集めるようコンデンサーレンズを配置する)。
<一眼レフのフォーカシングスクリーンに投影された像> |
撮影レンズを通った光はミラーによって上方に曲げられ、フォーカシングスクリーンに投影される。そしてスクリーンに映った像をあらためて眼で観ることになる。 |
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ザラザラで暗いという欠点があるのに、一眼レフではなぜわざわざスクリーンに像を投影させるのか。
それは、ピントの合う位置を1点に決めるために他ならない。
望遠鏡や双眼鏡では、レンズからの光をどこにも投影させることなくそのまま眼で見る空中像のため、視力の違いによりピントの合う位置に個人差が出る。他人が使っている双眼鏡を借りるとピントの再調整が必要なのはそのせいである。
また肉眼のほうにもピント調整能力があるので、逆に言えば双眼鏡のピントが少々ズレていても、肉眼のほうでもある程度は調整出来る(もちろん眼は疲れるが)。
これはつまり、空中像ではピントの合う位置を1点に決められないということを意味する。眼で観るだけの用途ならばそれで問題は無い。
しかし一眼レフカメラの場合、単に観るためではなく、撮像面に映す像のピントと同じような見え方とする必要がある。そのため、撮像面と等価な距離に置いたスリガラス状のスクリーンへ像を投影させる。
固定されたスクリーンへの投影像ならば、ピントの合う位置を1点に決められる。スクリーン上のピントの見え方が個人差で変わることは無いのだ。
<スリガラス面に像を投影させるフォーカシングスクリーン> |
中央のスプリットプリズム部は素通しだが、その周囲はマット面と呼ばれるスリガラス状のスクリーンとなっており、そこに映像が投影される。 |
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ところで、このようにスクリーンに投影・結像された像は、そのまま肉眼で観ることは出来る。しかしそのスクリーンは撮像面と等位置にあるため、その像の大きさはフィルムやイメージセンサーと同じで概して小さい。要するに、リバーサルフィルムをライトボックスに置いて観るのと変わらない。
というわけで、小さな像を肉眼で観るのは厳しいのでルーペを使うことになる。
一眼レフのファインダーは、結局のところ「スクリーンに映った小さな像をルーペで観る」という形態に他ならない。
その基本構造は「ウェストレベルファインダー」と呼ばれるもので、ミラーで上方に映されたスクリーンを上からルーペで覗き込む。
<一眼レフのファインダーはルーペそのもの> |
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しかし「ウェストレベルファインダー」はミラー反射が1回あるので左右が逆像となり(特に縦位置では逆さまになる)、慣れないと撮影しづらい。そもそも撮影時は顔が下を向くので、特に望遠撮影では狙いがつけにくい。
そこで、「ペンタゴナル(五角形)プリズムファインダー」が考案された。
これは「アイレベルファインダー」とも呼ばれ、ミラー反射で逆像になった像をさらにプリズム内で反射させて正像に戻し、しかも光軸も撮影方向に戻すものである。
これにより、一眼レフカメラの利便性が飛躍的に高まり、ペンタ部の出っ張りが一眼レフカメラの象徴として認知されるまでになった。
ただ、一部のプロ用高級機では、ファインダー部分が交換式で様々なファインダーに換装出来るものがあった。例えばNikonの場合、「Nikon F6」を除く「Nikon F」〜「Nikon F5」のFシリーズ伝統として、ファインダーが交換出来る。
なぜ便利なアイレベルファインダーがあるのに他のファインダーが必要になるのか。
それは、アイレベルファインダーでもまかなえぬ性能があるからだ。中でも、ファインダー倍率の問題は大きい。
ファインダーの違いとは、言うなればルーペの違いでもあり、そのルーペの倍率によってファインダー像の見え方が異なる。そしてルーペの倍率は、ルーペから対象物であるフォーカシングスクリーンまでの距離(光路長)により制限される。
ペンタプリズムを間に挟むアイレベルファインダーでは、その分だけ光路長が長くならざるを得ないので、ルーペ倍率を高くすることは出来ない。
<一眼レフカメラとして一般的なプリズムファインダー(アイレベルファインダー)> |
光路は折り曲げられており分かりにくいが、フォーカシングスクリーンからルーペまでの光路長(図中の赤いライン)は長い。ちなみに、光を曲げるためにミラーではなくわざわざガラスの塊である重いプリズムを使う理由は、空気よりも屈折率の高いガラスに光を通せば見かけの光路長をいくらかでも短くすることが出来るためである。 |
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一方、ウェストレベルファインダーでは、プリズムを利用しないため光路長を短くすることが可能で、その分高倍率なルーペを配置出来る。逆に言えば、高倍率とするためにプリズムを入れる余地が無かったとも言える。
ここでは、ウェストレベルファインダーの中でも6倍のルーペ倍率を持つ高倍率ファインダーの例を示す。
<6x高倍率ファインダー> |
プリズムを使わずそのままルーペで覗くタイプのため、フォーカシングスクリーンからルーペまでの光路長を短くすることが出来、ルーペ倍率が高くとれる。しかし上から覗き込むウェストレベル式とならざるを得ず、しかも左右逆像となってしまう。 |
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ファインダー倍率が大きいということを聞くと、単純に「ファインダーの映像が大きくなる」という想像しか浮かばないが、実際に倍率が大きいファインダーを覗くと、まずその視野の広さに圧倒される。
もちろん映像が大きければ視野が広くなるのは当然のこと。しかし、目玉をぐるりと見回して全視野を見るというのは、実際の体験でなければ得られない感覚で、世界が全然違うのだ。まるで、ファインダーの内側に自分が入り込んだように錯覚する。
それはあたかも、映画館最前列に座ったようでリアル感が半端無い。
<ファインダーを覗いた時の感覚の違い> |
※この図は光学的な位置関係を表すものではなく、あくまでもファインダーを覗いた時の見え方のイメージである。 |
<低倍率ファインダーの視野> |
<高倍率ファインダーの視野> |
<倍率が高いということは、視野が広がり臨場感が高まるということ> |
そもそも銀塩カメラ時代でもこのような交換式ファインダーを持つカメラはプロ用に限られていたが、現在はデジタルカメラが全盛で、その中で交換式ファインダーを持つカメラは皆無である。そのせいで、「ウェストレベルファインダー」や「高倍率ファインダー」など倍率の高いファインダーを経験したことのある者は極めて少ない。
これは例えるならば、テレビ画面でしか映画を観たことが無い世代が増え、映画館のダイナミックな画面(特に最前列で観る画面)を知らない者ばかりになったような状態と言える。
こういった現状から、ユーザーからのニーズとして倍率の高いファインダーは浮上してこない。そのため、「ニーズが無いから必要無い」とされてしまい、ますます倍率の高いファインダーの商品化は行われない。
それ以前に、構造的にデジタルカメラでファインダーの高倍率化は可能だろうか。
まずデジタル一眼レフカメラの場合だが、基本的な構造はフィルム式の一眼レフカメラと同じで、フォーカシングスクリーンの位置関係は動かせない。
しかもデジタルカメラは電子回路の塊であり、実装密度がかなり高くファインダー部分までビッシリと電子回路が詰まっている。そのため、銀塩カメラのようにファインダー部分だけ分離・交換するような構造は難しいだろう。
ところがミラーレス一眼と呼ばれるカメラについてだが、こちらは一眼レフカメラのフォーカシングスクリーンに相当する液晶パネルの位置に縛りは無く、ペンタプリズムを用いて光を折り曲げずとも、EVF用液晶パネルの向きが撮影者側に向いていれば済む。そして、そのEVF用液晶パネルをルーペで拡大すれば良い。
ただし現在の問題としては、あまりEVFのファインダー倍率を上げてしまうとEVF用液晶パネルの画素メッシュが拡大されて粗く見えるだけなので、倍率を上げると逆に見づらくなってしまう。
しかし今後液晶の画素数・画素密度が上がれば、倍率を上げるメリットは出てくるだろう。
<液晶パネルをルーペで拡大> |
単純に液晶パネルをルーペで拡大しても画素メッシュが目立つだけなので意味が無い。ルーペ倍率を上げるならば液晶の画素数・画素密度の向上が必要となる。 |
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ちなみに我輩は、背面液晶パネルしか無い「LUMIX DMC-GF1」をEVF(電子ビューファインダー)化すべく、中判カメラのウェストレベルファインダーを粘着テープで簡易的に装着したことがあった(参考 雑文751)。ウェストレベルファインダーでも通常のルーペとしての拡大率はそこそこある。拡大によって液晶パネルの粗さまで拡大されるのが目障りであったが、視野の広さは感動モノ。映画館での最前列に座ったような臨場感が蘇った。
結局のところ、仮留めの粘着力の弱いテープを剥がし、改めて強力両面テープでキレイに固定して使うことにした。
<一眼レフ用ウェストレベルファインダーを強力両面テープで背面液晶に装着> |
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豚児にも使わせてみたが、特に支障無く使っていたし、後で豚児が撮影した写真をチェックしてみると、ISO100での撮影にも関わらずブレは1枚も無かった。EVF化によるホールディングの安定性が良いせいであろう。
<撮影の様子> |
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これでもし液晶パネルの解像度が高ければ、理想的なファインダーが完成するだろう。
一番良いのは、メーカーが高倍率・広視野ファインダーを持つカメラを開発してくれることだが、ニーズが無ければ商品企画化は実現しない。
とは言っても、高倍率・広視野で見るファインダーの素晴らしさは、言葉で何度説明しても伝わることは無い。そこが歯痒い。
そこで我輩はニーズを掘り起こすべく、高倍率・広視野ファインダーを広く体験してもらいたいと考え、今回、ミラーレスカメラのEVF化改造について改めてここで紹介したわけである。
ミラーレスカメラを所有する者は多いものの中判ウェストレベルファインダーを持っている者は少ないだろうから、期待するだけ無駄かとは思うが、たまたま何かのきっかけで両方持っているのであれば、遊び半分でもぜひ試してもらいたい。
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