コスプレ撮影会は、いつもと同じスタジオで行われた。
スタジオ前に着くと、見慣れた顔が幾つかあり、互いに会釈をした。
時間が来て受付を済ませてスタジオに入り、すぐにカメラのセッティングを始めた。
ブレ防止のため、テーブル三脚を装着し、それを自分の胸に当てる。
フィルムを、予備のフィルムバック中枠と共に装填し、1枚目までモータードライブで「ギャインギャイン」と音を立てて巻き上げた。
ストロボを、デジタルカメラとブロニカの両方に装着し、スイッチを入れるとパイロットランプが点灯。全て正常であることを確認。
しばらくすると、主催者がライトのセットを始めた。
今回は、写真撮影用蛍光灯ランプ「KINO FLO(キノフロ)」を使うとのこと。これにより、従来よりも光量を稼ぐことが出来ると言う。
本当だろうか。
そうこうしているうち、撮影会第1部が始まった。
第1部のT嬢は、我輩がリクエストした衣装で登場した。これは、T嬢のホームページのギャラリーに掲載されていた写真の中から選んだもので、どういうキャラクターなのかという詳しいことは知らない。知ったかぶりをしてリクエストしたものである。
キノフロについては確かに光量は多いようだが、横から照らしているため、それが置いてあると撮影する場所が狭くなる。キノフロの後ろではT嬢が隠れてしまい、かと言ってキノフロの前に出ると照明光を遮ってしまうのだ。
さらに、キノフロの他に大きなレフ板も置いているため、我々撮影者は、キノフロとレフ板の間の狭いスペースで密集して撮影することになった。
我輩としては、横から照らす照明であれば、持参したストロボ光で足るので有り難みは薄いのだが、他の撮影者はほとんどがデジタルカメラを使っているため、弱い定常光でも感度を上げれば有用な様子。
我輩は、ボールベアリングの無くなったモータードライブを装着した「BRONICA SQ-Ai」で撮影を始めた。
バシャン!ギャイーン!
ほぼ無音に近いデジタル一眼レフカメラの中では、否応無く目立つ。T嬢も目を丸くした。
「いやー、やっぱり良い音ですねー。」
主催者は我輩に近付き、話しかけた。
ボールベアリングも無く、しかもギアの錆び始めた半壊状態のモータードライブであるから、恐らく新品よりも音はウルサかろう。
とりあえず、フィルム1本目を取り終えた。
フィルム交換は、中枠を取り替えるだけで良い。しかし、その分も撮り終わればフィルム交換作業は必要。あくまで、連続したシーンで途切れること無く撮影するための手段である。
新しいフィルムを出していると、主催者が我輩に声をかけた。
「フィルムバックは2つですか?」
最初はどういう意味の質問か分からなかったが、とりあえず質問に答えた。
「え?・・・ああ、中枠だけが2つです。」
「フィルム装填しましょうか?」
「え、いいんスか?」
なんと、主催者が我輩のフィルムを交換してくれることになってしまった。
撮影済みフィルムは、巻き締めねばならないため(220フィルムは巻き締めをやらないと漏光を起こし易い)、これは我輩責任で行うことにしたが、新しいフィルムの装填は主催者が手伝うとのこと。
正直言うと他の撮影者の手前、ちょっと気が引けたが、あまりに頑なに拒否しても良くないと考えたため、その申し出を受けることにした。
さて撮影については、一応、前回・前々回の失敗の原因として「ピンボケ」と「手ブレ」には注意を払った。いくら明るいライトでも屋外よりは暗いため、
なかなか苦労する。
シッカリとテーブル三脚を押さえ付けていたのだが、金属疲労のためなのか雲台の首がモゲてしまった・・・。
露出に関しては、基本的にシャッタースピードを1/60秒で固定し、撮影距離に応じて絞りをF4〜F8の間でフラッシュマチック撮影した。
もちろん、シーンごとにデジタルカメラでのモニタリングを行い確認はしている。
また、デジタルカメラを使うもう一つの理由として、瞬間光と定常光とのバランスを確認するためということもある。これは、銀塩フィルムを使う際には本当に頼りになる。
デジタルカメラの利点を部分的に導入した撮影法と言えよう。
第1部が終わり、フィルムの整理をしてみると、撮影ペースは前回よりも微妙に早いことが分かった。恐らく、フィルム装填をやってもらっているからか。このままでは、3部の途中でフィルム切れとなってしまうため、ペースを少し落とすようにしたい。
他の参加者も、「うわー、現像代が大変だな〜。」と言われてしまった(もちろんこの言葉はイヤミな口調ではない)。
2部は、T嬢は別のキャラクターの衣装で登場した。
なかなかコスプレ色の強い衣装で、我輩がコスプレ撮影会に参加しようと考えた時の初心を思い出させた。
「我輩がリクエストした衣装は普通すぎたな。コスプレ撮影会に参加しながらも普通っぽい衣装をリクエストするとは、我輩もまだまだ甘い。」
T嬢は撮影会では普通のモデルのようなおすまし顔をするのだが、それでは面白みが無いので色々と変な注文を付けて表情を変えてもらった。
色々試した結果、見くだした表情が良いと思ったため、何度か「見くだしてくださーい」と声をかけた。
第3部、T嬢はロリータファッションで登場。
なかなか良い雰囲気だったが、全身を撮ろうとすると他の撮影者がフレームに入りそうになる。正方形の66判ならではの悩みか。
かと言って、アップが撮れるほどの望遠も無い。他者のような高倍率ズームレンズ装備だとどれほど楽だろう。
しかしまあ、我輩には我輩のやり方がある。撮影シーン移行の隙を狙ってT嬢に接近し、標準レンズや広角レンズでアップを撮った。撮影距離のコントロールとは即ち、パースペクティブのコントロールである。これは、ズームレンズでの像面倍率調整のみではムリな話(参考:
雑文267「年の差」)。
ただし、隙を突いて接近しているため気持ちが焦っていること、ピントが浅いこと、フラッシュマチックの計算が正しいかどうかということなどがあり、「果たして写っているのだろうか」という不安は尽きない。
この日、フィルムは25本消費した。カット数にして598。余裕を持たせるつもりだったのだが、結果的にピッタリで終わった。
主催者は、「Webへのアップがたいへんですね!」と言った。
そう、この撮影会は掲載前の許可が必要無い。
いちおう我輩は、撮影中にT嬢に口頭で「掲載していいですか?」と言っているのだが、特にそれも必要無いようだ。
我輩は、最後までフィルム装填をしてくれた主催者に礼を言って去った。