[524] 2005年02月10日(木)
「奇妙な接客」
8年ほど前、平日の昼間に仕事の打合せで渋谷に出向いた。
多少、時間的余裕をみていたため、早めに到着。時間調整でビックカメラに立ち寄った。
ビックカメラでは、当然ながら一眼レフコーナーに直行。
そこでデモ機を手に取って操作してみる。やはり、最初に手にするのは「Nikon F3」である。平日の昼間ということもあり、客はあまり多くない。そのコーナーには女性客が1人いるのみ。
その後、AF機のコーナーへ移動し、しばらくAFレンズを駆動させて楽しんでいたのだが、「やはり造りの良いカメラが良いな」と再びマニュアルカメラのコーナーへ戻った。
そこには先ほどの女性客がまだ同じ場所に立っており、カメラを見つめていた。私服であるから大学生だろうか。
彼女は、若い店員が通りかかったところをつかまえて質問し始めた。
「この値段は、カメラとレンズの値段なんですか?」
「はいそうです。」
見ると、Nikon FM10だった。
「FM10とは渋いな」と思いながらも、我輩は自分の興味のままにデモ機を操作していた。
しかしながら客が少ないためか、この客と店員の会話は自然に耳に入ってくる。
「このカメラとこのカメラは同じものなんですか?」
「ええ、そうです。」
見ると、2つのFM10の値段は違っていた。
「どうして値段が違うんですか?」
「レンズが違うんですよ。ほら、これとこれ・・・、あれ?同じレンズだな・・・。」
店員は、2つのFM10の値段の違いについて言葉が詰まってしまった。
しかし、「写真工業」を毎号購読している我輩は知っていた。
「それは、FM10ではない。新たに発売されたばかりのFE10なのだ。」
我輩は心の中でそう叫んだが、店員はそのことに気付かず困っている。
我輩はデモ機をいじりながら横目で見ていたのだが、店員はFM10とFE10を逆さにしたりして見比べている。
「おい、ロゴを見ろ、FM10とFE10の違いに気付け!」
我輩は店員にテレパシーを送信したのだが、相手はそれどころではない様子。
しばらくすると店員はシャッターダイヤルをいじり始めた。
「そうだ、そこにAマークがあるだろ。FE10は絞り優先AEがあるんだ。FM10との決定的な違いに気付け!」
しかしそれでも店員は気付かない。同じカメラなのになぜ値段が違うのか悩んでいる。
ああ、じれったい。
「これは絞り優先が出来るFE10という新機種ですよ。」
つい、口が出た。黙って見ておれなかった。
そのままの勢いでシャッターダイヤルのAマークについて言及した。
ところが、なぜか店員はその場を離れ、このあと二度と戻っては来なかった。
我輩は店員に勉強させるために発言したのだ。肝心なオマエが消えてどうする?
女性は我輩に質問を振ってきた。
「どっちを選んだらいいんですか?」
我輩は「使い手の思想による」と手短に答えたかったのだが、ここでは一般人を装っているために「電池が無くても動く手動操作専用のカメラが目的ならばFM10、オート撮影も考慮するならばFE10。」と丁寧に答えた。
すると、「学校の授業で使うんですけど、どうでしょうか?」と訊いてくる。写真関連の専門学校生か。
「勉強ならばFM10にしておけ。」と手短に答えたかったが、ここでは一般人を装っているために「どちらでも写真の勉強に使えるが、FE10ならオートでも撮れるから用途は広がる。大は小を兼ねる。」と丁寧に答えた。
「他には無いんですか?」と訊いてきたので、FM2やF3などがあることを教えた。しかし値段がかなり高いことを示すと、選択肢がFM10とFE10の2つしか無いことを悟ったようだった。
価格は多少FE10のほうが高かったのだが、汎用性があることが決め手となったようで、笑顔で「じゃあ、これ(FE10)にします。」と我輩に言った。
「そう、でもそれは店員に言って。」我輩は、時間を気にしながら店を出た。
相手先の会社へ着くと、担当者に今あったことを話して2人で笑った。
「もう少し時間があったら良かったですね。」
担当者はそう言った。
もし時間があったら、喫茶店にでも誘ってたか?
さあ、それは知らんが。
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