[430] 2003年06月15日(日)
「廃線ロープウェイ撮影記(後半)」
奥多摩湖の廃線ロープウェイの片側の駅「かわの駅」を撮影した後、今度は「みとうさんぐち駅」に向かった。
時間的に昼を回っていたが、構わず撮影を続行することにした。コンビニエンスストアでもあればパンでも買って食べたろうが・・・。
最初に来た道を戻り、深山橋停留所を過ぎ、奥多摩湖に掛かる深山橋を歩いて渡った。
湖を横切るロープウェイのケーブルの行方を目で追うと、どうやらもう一つ橋を渡る必要があるようだ。
先ほどの深山橋もそうだが、歩道が両脇に設置されているため歩き易い。しかしながら、橋を渡った後は歩道が無くなり、車の往来には気を使う。
しばらく歩くと、料金所のようなものが見えてきた。歩行者も料金を取られるのか?
様子を見るためにもっと近付いてみる。
見ると、その料金所の前には「通行無料」と書かれており、そこには誰もいなかった。我輩はそのまま歩いて通過した。
(後日、ここは奥多摩周遊道路が有料だった時の旧料金所と知る。)
料金所を過ぎてすぐ右手のコンクリート壁が一部途切れ、そこに階段があるのが見えた。事前にインターネット上で見た写真の光景そのままだったため、ここから上がっていくのだと確信した。
階段は半分が落ち葉に埋もれ、道路側のほうに寄って歩かねばならない。足を滑らせれば道路に転落してしまうため気を入れて上った。
階段の先には更に階段があった。ここは先ほどの階段のように落ち葉で埋もれているのではなく、土そのものに埋もれかけていた。降り積もった古い落ち葉が土となったか、あるいは山の土砂が堆積したか。
ここを上り切ると、もはや道は無かった。
我輩は、以前誰かが通ったような跡を探して進んでみた。そこには崖があった。その崖を見上げると、ロープウェイの駅と車両が顔を覗かせていた。初夏の緑にかなり覆い被されており、この場所に来るまでそれが見えなかった。
その崖は、肩に掛けたカメラバッグを背中に回しておけば何とか登れそうであった。数日前の雨のためか、地面は湿って滑り易かったが、木の根を掴みながら一気に登った。
そこには、まさに廃墟の姿を晒したロープウェイの駅があった。完璧に緑に囲まれ、かつてここに多くの人間が出入りしていたことなど信じられぬほどだ。
ふと、今登った崖を振り返って見た。
下から見上げた時には感じなかった恐怖が湧き起こった。崖の下は僅かな足場のみ。その先は数メートル下に道路がある。つまり、崖を下りる時に勢いがついてしまうと、そのまま道路側に転落してしまうことになるのだ。
「こりゃ、帰る時に難儀するな・・・。果たして帰れるか?」
しかし、いったん登ってしまった崖である。帰りの心配事は帰りにしよう。とにかく、写真撮影をしなければ。
柵を乗り越え、直接ホームに入った。
ここは、最初に撮影した駅よりももっと暗く、露出値も絞り開放でも1/4秒などと出る。晴天ならばもう少しマシだったはずだが、どうしようもない。
途中、1匹のスズメバチに追い立てられ、改札のほうに行った。そこはかなり薄暗く、ストロボ無しでは天体撮影並の長時間露光が必要。そこそこ広い空間であるから、やはりストロボの調光確認ランプが点灯しない。仕方無くここでも開放絞りにて最大発光を行った。これで光が足りなければ打つ手無し。・・・もっとも、三脚さえあればマルチ発光させフィルムに蓄光させることも出来たろうが。
改札を過ぎて外に出てみると、そこが本来の入口のようだった。しかしそこはジャングルのようになっており、しかもここへ通ずる道が無い。階段などは土砂により埋まってしまったか?
それにしても、このジャングルのためどうしても露出値が1/8秒以上とならない。立木にカメラを押し当ててシャッターを切るが、どうにも不安で何枚も撮ってしまう。
外から建物の周りを回ってみると、屋上への階段を見付けた。基本的に最初の駅と同じような構造の駅のようだ。
階段は太い木の根とツタが絡まり、通常の神経では上ることなど思い付きもしないだろう。だが、せっかく来たのであるから上ってみることにした。身体を屈めたり、根を持ち上げたりしながら進み、ようやく屋上に出た。
そこはもはやコンクリートの床など見えず、鬱蒼とした草地と化していた。辛うじて草の合間から手すりが見えている。草をかき分け進み、そこから見ると、ケーブルが対岸まで延びているのが見えた。道路が真下にあるためか、走り屋のエンジン音が大きく聞こえる。
それにしてもこの場所は気味が悪い。撮影が済めばもう長居は無用。
スローシャッターの連続なので写真の写りに自信は無く、気も萎えている。もう人間界に帰ろう。
さて問題は、登ってきた崖である。あらためて上から眺めると、やはり普通には下りられそうにない。荷物を先に下に落としておこうかとも思ったが、カメラが無事で済むとは思えない。下手すれば道路へ落下してしまうだろう。
しばらく考えた後、登った時と同じような体勢で慎重に下りることにした。木の根や岩を掴みながら、ゆっくりと下りた。滑りやすい土で何度かヒヤリとしたが、何とか下りることに成功した。両手は土まみれであった。
「もう二度と、ここへは来ん。」
さて後日、写真の現像が上がってルーペでチェックした。
意外にもブレた写真は少なかった。4秒の長時間露光も、慎重にシャッターを押したためかブレていない。ダメ元のストロボ撮影も、良い感じに仕上がっている。
しかしながら全体的にメリハリが無く、しかも被写界深度が浅い情報量の少ない写真になってしまった。
被写界深度が浅いのは、開放絞りでの撮影であるから仕方無い。魚眼レンズであろうとも、開放で撮れば深度が浅くなるのは避けられない。中判であれば尚更のこと。
二度と行かずに済むように慎重に写真を撮ってきたわけだが、これらの写真を見て失敗写真を挽回したいと思う気持ちも湧いてきた。今度は、意地でも三脚を持ち込み、目一杯絞り込んで撮影したい。
ただし、夏の撮影は避けようと思う。ジャングル状態では見通しが悪く、また外の景色との明暗差が大きくなり撮影しづらい。
結局のところ今回の撮影、本撮影前の下見ということか・・・。
<次回必要な追加装備>
・三脚
・ケーブルレリーズ
・JRの時刻表
・バスの時刻表
・昼飯
・崖下りのためのロープ
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