長期休暇計画の件、それがいつになるかはまだ未定である。しかしゴールデンウィーク中の今、その予行演習を行う絶好のチャンスである。
現在、我輩は営業の職務に就いているため、体力と神経と靴底をスリ減らしている。普段の土日はもはや起き上がることすら苦行に思える。
そういうこともあり、最近の写真活動は営業中のスナップや室内撮影ばかりであった。
ところが、今回のゴールデンウィークは客である親会社が10連休となることから、我輩も自動的に10連休となる。客が休みならば、親会社担当の内販営業は対応する相手がいなくなり仕事が無いのである。これは好都合。
さて、予行演習とは言っても、テスト撮影などというような味気無いものにするつもりは無い。どんな撮影にも時間が掛かることであるから、今回はあくまで本番撮影としたい。ただ、撮り直しがきく範囲内に於いて、デジタルカメラを露出計として使ってみるのである。
これならば、失敗した場合もう一度撮影すれば良いことであるし、上手く撮れれば時間を無駄にすること無く意味のある写真が手元に残る。
今回、我輩が被写体に選んだのは、総武流山線(そうぶながれやません)というローカル鉄道である。全部でたった6駅しか無い全長5.5kmほどの小さな単線であり、JRからは常磐線馬橋駅(じょうばんせんまばしえき)から乗り換えることが出来る。
JR馬橋駅と言えば我輩の通勤用定期券の圏内であるから、気軽に行くことが出来る。今まで身近な風景を撮り逃してきた我輩であるから、今度の撮影は丁度良い画像採集の機会となろう。
早速、撮影機材の準備を始めた。
出掛ける間際になってから用意を始めるのは我輩の悪いクセだが、その場にならないとヤル気が起きないのだから仕方無い。少し遅い昼飯を終え、「ゼンザブロニカSQ-Ai」と50mm広角レンズ、単体露出計、感度100の120フィルム10本、そしてデジタルカメラ「Canon EOS-D30」と24mm広角レンズをカバンに入れて出掛けた。
昼近くまで寝ていたので、少し頭がボーっとしている。しかし、今は一番過ごしやすい季節であるため、晴れた空気が気持ち良い。
最寄りの駅では昼間のダイヤのためか、なかなか電車は来なかった。ホームのイスに腰掛けて何となく目の前を見ると、線路を挟んだ50mほど先の道路に妙な男がこちらを向いてヘンなリズムを取っていた。最初はヘッドホンか何かをつけているのかと思ったがそうではない様子。ジーっとこちらを見ているかと思えば、思い出したように手をパンと叩き、リズムのような(ブレイクダンスとも思えない)動きをするのだ。
その男の妙な動きは、我輩が到着した電車に乗るまで続いたが、今思えば、我輩の不調はこの時から始まっていたのかも知れぬ・・・。
馬橋駅までは2分で到着した。駅での待ち時間が10分くらいであったから、その2分は早く感じた。
JRの改札を出て流山線の乗り場へ移る。そこには券売機が2台置いてあったが、壁に埋め込まれたような現代風ではなく、ゲームセンターに置いてあるような両替機のような雰囲気だった。
我輩はそのような古臭い妙な雰囲気が好きなので、早速シャッターを押すことにした。
まず、計画通りにデジタルカメラで撮影し、その適正露出を液晶パネルから読み取る。デジタルカメラは撮影が主体ではないので、フレーミングは適当にやった。
軽く小さなシャッター音が響き、液晶パネルに撮影された風景が映し出された。しかし、その画像にオーバーラップする文字が見えた。我輩は一瞬、それは電池切れのサインかと思った。電池切れならば予備のバッテリーがあるので心配は要らない。しかし、それは衝撃的なメッセージであった。
「CFカードがありません」
我輩は思わず驚きの声を上げてしまい、急いで手で口を覆った。
あろうことか、肝心のCF(コンパクトフラッシュ)メモリを装着し忘れて来たのである・・・。
後悔しても遅い。いくら家から近いとはいえ、再び待ち時間を使って家に戻る気も無い。
まあ、メモリは無くとも液晶パネルには2秒ほど画像が表示される。その間に露出を見極めれば良いのだ。何より、カメラ雑文のネタが1つ増える。テレビのヒーローは、ピンチにならないと場面が盛り上がらないからな。我輩も少しはピンチがあっても良かろう。
・・・などと自分の責任を棚に上げ、良い方向に解釈するのは我輩のもう一つの悪いクセ。
単体露出計があったのでそれで測ってみたが、デジタルカメラとは0.5段くらいのズレがあった。これは、横着して入射光式露出計を被写体のそばで測光せず自分の位置で測光したからだと判断した。念のため、プラスマイナス0.5段の段階露出を行った。
流山駅では、趣のある駅舎がなかなか我輩の心に訴え掛けてきた。そこでは何枚も撮影をしたのだが、昼間のためほとんど人影も無く静かで、ゼンザブロニカ特有の「バシャン!」というシャッター音に10m先の鳩が驚き飛び立った。
しかしまあ、ゼンザブロニカの重さは久しぶりとは言え、肩にズシリとくる。交換レンズがもう1本あったら大変だったろう。ましてや旅行となると、その他の荷物もあり大変であろう。
シャッター音と重さを考えると、旅行には一眼レフ式のゼンザブロニカよりも距離計連動式のNewマミヤ6のほうが良い。しかし、長期休暇の撮影では失敗すれば撮り直しがきかないため(次の長期休暇まで再び10年待たねばならぬ)、パララックスがあり被写界深度も確認出来ない距離計連動式は一発勝負では使いたくない。
現実には距離計連動式が問題になることは無いだろうが、一眼レフ盲信の我輩であるがゆえ、心配事として我輩を悩ませる。
さて、流山駅には車庫があり、そこではいくつかの列車を撮影した。残念なことに、吊り掛け式台車の旧い車両「あかぎ」は去年引退し、カルダン式台車の比較的新しいものしか無かった。それは残念なことではあったが、今目の前にある車両を写真に収めることも重要である。今は珍しく無くとも、時代が変われば貴重な資料となるのは間違い無い。珍しい存在となって初めて写真に収めようとも、日常の表情を捉えるには間に合わぬ。
ところで今回の撮影では、デジタルカメラの映像が残っていないため、ここでその場の写真を掲載することは出来ない。リバーサルフィルムの現像はそれなりに時間が掛かるから仕方無い。まあ、リバーサルフィルムさえ確実に仕上がっていれば・・・と思いながら、自宅でデジタルカメラにメモリを装着しスイッチを入れてみて驚いた。
感度100に設定してあるはずが、カメラの表示には「感度400」の表示が・・・。
おかしい、確かに感度100に設定していたはず。それとも単体露出計で計った時の違いは設定感度の違いだったと言うのか? それにしては0.5段の差というのも変に思う。しかも、デジタルカメラで最後に撮影した画像データは感度100となっており間違い無い。
だが、本当に感度を間違えていたとするなら、感度100のフィルムを現像依頼するには増感指定しないとマズイ。
さあて、どちらを信ずるべきか。カメラの表示か、我輩の記憶か・・・。
しかし一夜明け、昼光の条件で同じ露出にてデジタルカメラでの撮影を行ったところ、感度400の設定ではかなり露出オーバーとなることが判明した。それはつまり、流山線の撮影時は設定感度が100であったことを意味する。
まあ、いつも感度100ばかり使っているのであるから、感覚的にその露出が合っているかどうかというのは分かりそうなものだが、他の要因が思わぬ影響を与えることもあるので、昔のセノガイドのような状況判断での露出決定というのは苦手。あくまで露出計から得られた生のデータを集めてから、そこで初めて
カンを使っている。