15年くらい前だったろうか、レンズ付きフィルム「写ルンです(110フィルム)」と「写ルンですHi(35mmフィルム)」がヒットした直後、各社こぞってこの市場に参入した。さすがにPanasonicブランドのレンズ付きフィルムを知った時には驚いたが、外側の紙箱を取り替えるだけでOEMになるのは面白い。
ところでこの時期、千趣会の通販カタログにコダックのレンズ付きフィルムが登場した。魚眼レンズ風に写るものや、画面上下をマスクした疑似パノラマ写真が撮れるものなどがセットになっていたと記憶している。確か、「遊び心で写真を撮る」という位置付けの商品だった。
実はその商品、我輩の母親が購入していたために気付いた。当時は「相変わらず、新しモノ好きだな」とよく見もしなかった。
それからしばらくしてふと気付くと、世間はパノラマ写真ブームの真っ直中にいた。それは例えるならば、「小さな野火だとバカにしていたものが、いつの間にか大きな炎となって囲まれてしまった」という感じか。正直言って、ここまで延焼するとは思わなかった。
パノラマブームの炎はその後勢いを強め、最初はコンパクトカメラを飲み込み、ついには一眼レフさえも焼き尽くした。一時期、「パノラマ機能の無いカメラはカメラではない」とさえ言われたものだった・・・。
最近、ロモ(LOMO)というカメラが静かなブームらしい。
ロモはロシア製のカメラで、いわゆるトイ・カメラ(TOY CAMERA)である。その作例を見る限り、トイカメラにしては結構写る。ただし、レンズ付きフィルムよりは、写りはかなり悪い。
レンズ付きフィルムの場合、最初の「写ルンです」が110フィルムを使う遊び半分のトイ・カメラであった。だがその後、35mmフィルム化やストロボ搭載によって見事にトイカメラからの脱却を果たした。もし「写ルンです」がトイ・カメラのままであったら、110フィルムの衰退と共に息絶えたに違いない。
では、ロモも同様に発展の道を辿るのだろうか。トイ・カメラから脱却するのだろうか。
いや、その可能性は全く無いと言い切れる。
ロモを支えている愛好家を見ると、カメラどころか写真の基礎を知る者は少数派であるように見える。彼らは、ロモの写りの悪さを「味」や「作風」ととらえ、中には意図的にピンボケ写真を撮る者すらいる。さらには、カメラを通じたコミュニティに加わることが主たる目的だという者もいる。そしてロモを持ち歩くことがファッションとも言われ始めた。
このような愛好家相手では、メーカー側も「カメラを改良しよう」などという気持ちは消え失せる。いや逆に、愛好家を利用すれば、実質5千円程度のカメラを2万円で売ることが出来る。
彼らは「楽しければ良いじゃないか。」と言うだろう。
その発想自体が、飽きっぽい人間の証拠である。いくら趣味のレベルと言えども、苦労を避けて楽しさだけをつまみ食いばかりしていては、長続きなどするワケがない。うわべにばかり奇をてらい、それが自分らしさであると勘違いする。結局はそれが与えられたものだということに気付かないだろう。
普通の国産カメラを使うと当たり前に写りすぎて、とても自分の個性を出せない。そういう中で個性を出そうと思っても、自分のスキルが伴わない。もちろん、写真の勉強を一からやるのもかったるい。ならば、手っ取り早く写真に味付けが出来るようなカメラに頼ろうと思い付く。恐らくそんなところか。
だから、意図せず普通の写真として写ってしまうと「ロモらしさが出なかった」ということになる。せっかくの高性能フィルムも、ロモ愛好家にかかれば期限切れのフィルムと大差無い仕上がりとなろう。
もちろん、「結局は写真を趣味とする人間とは種類が違う」などと吐き捨てることも出来よう。
雑文225でも「我輩は、自分の趣味のスタイルを強要せぬ。他人の趣味のスタイルを否定せぬ。」とは書いているが、ロモは趣味と言うよりもファッションの流行と言える。
しかし、だからと言って我々とは関係無いとも言えぬ。寧ろ趣味の世界をかき乱す。
ロモの話題に触れるたび、小さな野火が大火となったパノラマブームの記憶が蘇り、思わず身震いするのだ。まさか、ロモ的描写を再現する撮影モードが一眼レフに組み込まれるということは無いだろうな・・・。ロモ的描写をするフィルムが発売されたりしないだろうな・・・。
今、小さな野火が燻っている。