2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
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10.アンケート
11.その他企画

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カメラ雑文

[294] 2001年08月17日(金)
「ゆけ! ゆけ! 川口浩!!」

嘉門達夫が歌う曲「ゆけ! ゆけ! 川口浩!!」は、当時の探検番組をモチーフにしたパロディである。
歌詞を正確に覚えているわけではないが、確か「前人未踏の地を行く川口浩を前方からカメラが撮影している」とか、「洞窟の中のシャレコウベは磨いたようにキレイだ」とか、「行きはあれほど毒蛇や険しい道があったのに、帰りはすんなりと帰っている」というような内容だったと思う。


前回の雑文で平尾台へ行った話をした。
だが、ただ単に石灰石採掘場を見に行っただけで帰るわけがない。今回我輩が平尾台へ行った主たる目的は、平尾台のカルスト地形の調査である。
羊群原(ようぐんばる=九州以南では、地名に「原」という文字が付くと「ばる」と読む)や鍾乳洞、窪地、そして露出している石灰岩の再結晶と浸食の具合を見るためである。
平尾台の石灰岩の特徴は、中生代の火成岩による熱変成で再結晶化が進み、方解石となって美しい。我輩はその石灰岩の浸食について興味があった。

まず、平尾台のカルスト台地へ行くには、バスを乗り換えねばならない。
石灰岩採掘場が見える地点から平尾台行きのバスでスイッチバック状の道路を登って行く。気を付けねばならないのは、そのバスは3時間ごとにしか出ていない。無計画に訪れれば、最悪3時間待つハメになる。帰りもまた同様。

途中の停留所には「平尾台三合目」や「平尾台七合目」というのがあるが、全く山道の途中という場所であり、こんなところで降ろされたらどうしようもないというところに停留所がある。おそらく近くに民家でもあるのだろう。

さて、バスは唸りを上げて平尾台のカルスト台地を登ってきた。
我輩はまず、平尾台自然観察センターへ行き、どのようなルートで調査を行うかを考えた。そこには立体地図があり、「千仏鍾乳洞」という文字が目に入った。では最初にそこへ行くことにしよう。

千仏鍾乳洞は、昔から名前だけは聞いていたが、実際に訪れるのは初めてだった。
鍾乳洞の入り口には小さな売店があり観光地の様子があった。脇には鍾乳洞の行程図があり、「途中から水流に入るので草履に履き替えて下さい」と書かれてある。見ると、無料の貸草履(サンダル)があった。
「暑い日であるから、冷たい水に足を浸して歩くのもええわ。」
最初は完全に観光気分だった。

草履に履き替え、入り口で800円を払ってそこから石段を上った。しばらく上ると、ようやく鍾乳洞の口が見えてきた。

千仏鍾乳洞の入り口。すでにこの時点で屈(かが)んで入らねばならぬ。

そこで数枚の写真を写したあと、鍾乳洞に入って行った。
入ってすぐ、我輩の顔に冷気が当たり、今までの息苦しさが無くなった。ここは冷房がきいているかのようにヒンヤリとしている。
最初の入り口の狭さに比べて内部は案外広い。足下を見ると、一応整地されている様子で、ちょっとした上り下りには石段があった。

入り口付近では、鍾乳洞の見事な造形に目を奪われる。だが、そんなものに目をくれる余裕は長くは続かない。

しばらくは立ち止まってカメラを構えたりしていたが、そのうち足下がゴツゴツとして道も狭くなってきた。もはや石段など無く、自然の岩を上り下りしている。カメラを構えるとバランスを崩してしまいそうになる。
そうやっていると、ついに水流が流れる道に到達した。ここからは道というよりも小川の中を歩いて行くような感じだ。一足突っ込むと、その水は確かに冷たかった。しかし痛いくらいに冷たい。我輩などは冷たさに対する耐性はあるが、前後にいる観光者はしきりに「冷たい冷たい、足が痛い」とはしゃいでいる。

冷たい水流をジャブジャブ遡る。水の冷たさは足が痛くなるほど。

我輩の肩には「Nikon F3/T」が下がっているが、ストロボを装着していないので出番が無い。ポケットに入れているデジタルカメラのみがこの様子を記録している。しかし、暗闇でのAFはなかなか合わず、ほぼ半分はピントを大きく外している。
それに、撮影は両手を使えないような険しい場所では不可能となる。何度か撮影を試みたが、体勢を崩して手や足をすりむき、そのたびに血をにじませた。
当然ながら、肩から下げたF3は何度も岩肌にぶつけてしまった。だが、そちらに気を取られると鍾乳石に頭をぶつけたり水中の石に足を取られそうになるので、放っておくしかない。
・・・ここは本当に観光用の洞窟なのか?

狭い洞窟は行きと帰りの人間が混雑する。向かいの人間を避けるために立ち止まった時が唯一の撮影のチャンスである。

この時点で、気分はもはや川口浩の探検隊。このような狭い場所に入って行って、果たして帰ってこれるのか不安になる。
・・・と雑念が頭をよぎった瞬間、深みに足を取られ、膝まで水に浸かってしまった。せっかく捲り上げたズボンの裾が一気に水分を含んだ。泣けてくる・・・。

縦が広けりゃ、横が狭い。一つのことに気を取られているヒマなど無い。

前後に人がいるため、立ち止まってゆっくりと鍾乳洞を観察出来ない。我輩は一体何をしにやってきたのだろう。そんな疑問を振り払うかのように、シャッターを押せる時はとにかく押した。
途中、非常に狭い場所にやってきた。まさしく「ボトルネック」という表現がピッタリくる。向こう側に何があるのか全く判らない。しかしここまで来て引き返すのもバカらしく、意を決して入ることにした。
水に浸からず身体を屈めるのはつらかったが、ズボンを濡らしながらもなんとかくぐり抜けた。屈めた姿勢から頭を起こすと、目の前に1つの注意書きがあった。
「照明はここまで 引き返して下さい」
・・・なんとも言えぬ疲労感。それならばボトルネックを越える前に教えて欲しかった。
洞窟の先はまだまだ続くようだ。照明が届かぬ暗黒が広がり、それが余計に不気味に見える。何も見えない闇から流れてくる水が、足下を通って行く。
我輩は、再びボトルネックをくぐって引き返した。

この先は、暗黒の闇があるのみ。今までに何人の者がこの闇で迷い息絶えたろうか・・・(?)。

戻りの道は覚えていない。ただひたすら歩いた。
川口浩の探検のように、帰りの映像はほとんど無い。その気持ちは何となく分かったような気がした。

明かりが見えてくると、じんわりと暑く重い空気を感じた。外気が近い。
ようやく外に出て、一息ついた。入って行く時よりも木漏れ日が明るく差し込んでおり、もう一度鍾乳洞入り口をF3で撮影することにした。

ところが、見るとF3に装着したレンズ表面が完璧に白く曇っていた。もちろん、アイピースも白い。これにはさすがの我輩も「うっ」と思った。レンズは24mmであったが、いつものようにフィルターは付けていない。レンズ表面を扇いで乾かそうとしたが一向にラチがあかない。
カメラに触ってみると、ヒンヤリと冷たかった。洞窟内部の冷気に芯まで冷やされたようだ。外の蒸し暑い空気で冷たいレンズ表面が結露したのである。
ティッシュでもあればいいのだが、ハンカチすら忘れていたのであるから、どうしようもない。仕方なく衣服でレンズを拭いた。

見事に白く曇ったレンズ表面。あらためてカメラに触れると、ヒンヤリと冷たくなっていた。

しかしトラブルはこれだけではなかった。
シャッターを切ろうとしたら、ファインダー内液晶表示が消えてしまう。何度やっても同じだった。まさか水滴が内部にまで及び至ったのかと思ったが、防湿仕様であるはずのカメラがいとも簡単に機能障害を起こすだろうか。まずは電池消耗を疑うのが先決。あのような涼しい洞窟内であるから、消耗直前の電池がボーダーラインを越えた可能性がある。

予備の電池ならば、確かに事前に用意していた。ガサゴソとカメラバッグの中を探してみるが・・・見つからない。そういえば、実家に置いてあるデカいバックに入れていたような気もする。もしそうなら、緊急作動レバーを初めて使うことになろう・・・。
だが電池を取り出し、しばらく手で握り暖めていると、電池が復活したのかシャッターも無事に切れるようになった。
とりあえず何とか急場をしのいだものの、これから撮影を続けられるか心配である。確かに前人未踏の地ではないものの、売店にはさすがにボタン電池までは置いていない。

外はとにかく暑かった。水滴が滴るほど濡れたズボンであったが、外の暑さによって一瞬で乾いてしまった。
その暑さのおかげかF3の電池は、その後の羊群原などの撮影などに支障無く機能し、その日一日は保ってくれた。いくらヘビーデューティーなチタニウム仕様カメラであっても、電力が無ければ撮影が困難になる。こうなるとツライ。
ちなみに、カメラにはぶつけた痕は残っていなかったが、レンズフードは先端部に傷が付き金属色が覗いていた。


・・・物理的にも精神的にも、探検隊気分を味わった一日だった。