異なる時代に撮られた2枚の同一地点の写真。
そこには、それぞれ1枚の単体写真からでは得られない情報がある。2枚の写真を比べることによって初めてあぶり出される情報。それが、定点撮影の面白さと言えよう。
だがしかし、定点撮影は簡単に出来る撮影ではない。比較のための昔の写真が必要であるし、もし今から撮り始めようとするならば、写真を数年から数十年ほど寝かせて置かねばならぬ。実に気の長い話である。
生産性という意味では、全く話にならない写真なのだ。
そしてもう一つ、定点撮影を難しくしているのが、風景の移り変わりのタイミングである。
あまりに風景の移り変わりが早いと、比べる手掛かりすら無い。また逆に移り変わりが遅すぎても、発見が乏しく面白くない。いかに
風景が無常と言えども、一方向に変化する風景の移り変わりというのは、それぞれに速度が違っている。
まあ、それはそれなりに面白いかも知れないが、2枚の写真を見比べるという楽しみに丁度良い写真を撮るには、少しずつ確実に変わりつつある風景を選ぶのが重要。
さて、8月13日に北九州市の皿倉山へ登った。そこからは洞海湾一帯が見渡せ、スペースワールドや現在開催中の北九州博覧祭会場などが見える。
狭い頂上を一周すると、洞海湾とは反対側に平尾台方面が見えた。
平尾台は石灰岩で出来たカルスト台地であり、山口県の秋吉台とともに知られている。そこでは、セメントの材料として石灰石の採掘が行われており、その山肌を深くえぐり取った跡は、直線距離にして13km離れたこの皿倉山からも容易に確認出来る。
左は住友セメントの採掘場、そして右は三菱マテリアル採掘場であり、それらはまるで虫歯のように深く削られている。
特に、三菱マテリアルのほうは、3本並んだえぐれが特徴的である。
我輩は、その風景を見て感ずるところがあった。
単に、以前見たことのある風景というだけではない。昔、平尾台に行った時にその採掘現場をカメラに収めたことがあったという記憶が蘇ってきたのだ・・・。
次の日、我輩は西鉄バスで小倉側から平尾台へと向かった。そこには、皿倉山から遠くに見えた景色が眼前に広がっていた。
まずは、住友セメントの採掘場を撮影。
だが、よく見てみると、溝の高さが減っていることが判る。おそらく溝はそのままで、山の上面を削り取った結果なのだろう。このまま行けば山はどんどん低くなり、溝は完全に消えてしまうことになる。
溝が完全に消えてしまった後に写真を撮ったとすれば、あまりに違いすぎる光景に、同一地点での写真だとは誰も気付かないことになる。それでは定点撮影の面白みも半減する。
次にここを訪れる時、その山はどんな形になっているだろう?
2枚の写真からの延長上の風景を想像するのも、また定点撮影の楽しみでもある。