2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
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5.カメラ雑文
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カメラ雑文

[292] 2001年08月13日(月)
「先祖返り」

生命の発生過程において、その生物種が辿ってきた進化の道のりを、形態変化として再現する。これは「個体発生は系統発生を辿る」としてよく知られている。
地球上のすべての生物は、突然それぞれの姿を以て登場したわけではない。それぞれに辿った道を、個体それぞれに確認しながら生まれてくるのである。


感材を用いた写真撮影法を発明したのは、フランスのニエプスであるが、ピンホールを使ったカメラオブスキュラ(いわゆる暗箱)で正確なデッサンが出来ることを最初に提唱したのは、かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチである。
ピンホールと反対側に映る逆さまの風景を何も考えずになぞっていけば、いつのまにか精密画が出来上がる。

我々はそのような写真の歴史のことは全く関心を持たず、ただシャッターボタンを押してあたかも自分の力だけで写真を得ているかのような錯覚に陥る。描画作業そのものはあくまでもフィルムや印画紙の化学変化を利用しているに過ぎない。我々はただ、感光面に対してレンズからの光を投影させているだけであり、本来ならばここから鉛筆やペンを使って描画するという作業があったはずである。

写真について自分なりの哲学を持つためには、一度「自分の手で描画をする」ということをやってみるのもいい。
まさにこれは「個体発生は系統発生を辿る」そのものである。
現在十分に発展を遂げた写真界であるが、その時代の知識だけでは、全体を俯瞰し自分の位置を見ることは出来ない。1人1人の個体が成長するためには、系統発生的に写真の歴史を追体験するのも意味があろうかと思う。

まあ、今の時期はほとんどの者は夏休みに入っているだろうと思うので、ちょっとお遊びで「暗箱スケッチ」をやってみるといい。暗箱スケッチとは言っても、少し簡略化して写真を下地にしてトレースすることを提案しよう。

「トレース」などというと面倒な気がするかも知れないが、今はパソコンという便利な道具があり、ソフトさえあれば手軽に始められる。
まあ、CADのように精密にやる必要もないので、手元にあるグラフィックソフトでやってみるのもいい。ペンタブレットがあれば簡単。もしマウスだけで描くならば、「アドビ・イラストレーター」や「マクロメディア・フラッシュ」などのベクトル加工ソフトを用いると、修正も楽で良い。

ここでは、比較的低価格なマクロメディア・フラッシュを利用し、マウスを使って写真のトレースに挑戦してみることにする。



マクロメディア・フラッシュで、下絵となる写真を読み込ませたところ。

ベクトルデータは拡大縮小が自由に行えるので、作業のやりやすい大きさで読み込ませれば十分。

新しいレイヤーを追加し、そこで描画を始める。下絵と区別させやすくするために、トレースは赤などの目立つ色でするといい。

もちろん、込み入った部分の線は画面を適宜拡大させながら作業することになる。

トレースしたあと、下絵を削除する。その後、トレースした線の色を黒に変換させれば良い。ここまでの工程、およそ15分ほど。慣れればそれくらいで描ける。

しかしこの程度のトレースならば、プロのフラッシュ使いやイラストレーター使いであればほんの5分もあれば一気に描き切ることだろう。

いかがだったろう?
今まで「撮る」というほうにウェイトを置いてきたがために、あまり「見る」ということを重視してこなかったことに気付かされたのではないだろうか?
見たとしても、考えもなく漠然と全体を「眺める」だけにとどまっていたことだろう。それは、色彩に惑わされた視点であり、人間が本来得意としている「輪郭線の認識」を刺激しない。だから、気付くべきものが目に入っても認識出来ないのだ。

例えば遠近感などは、実際に自分の手で描いてみて初めて「こんなに物の形が変わって写るのか」ということを自覚させられる。これは、他人に教わるよりも実際にやってみて初めて体感することなのである。

写真の祖先である絵画の世界では、輪郭線がデッサンの出発点であり、基本中の基本である。仮に色だけで構成しようとも、色と色の境目で輪郭を表現しようとする意識が常に働く。輪郭線は、人間が物の形を認識するために絶対不可欠な概念なのだ。


無駄なお遊びに見えても、それが自分の視点を変えるきっかけとなるのは珍しくない。まあそうは言っても、そうなるかそうならないかは、人にもよるがな。