2000/04/05
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カメラ雑文

[272] 2001年06月03日(日)
「貧乏人のための商品撮影(第3段階)」


●遠近感の工夫

「遠近感」というと、主要被写体と背景との距離感のことを思い浮かべると思うが、被写体自身の遠近感もあることを忘れてはならない。
立体写真ではない平面状の写真から立体形を頭に描くには、遠近感というものが唯一の手掛かりとなるのだ。

奥行きのある立体物を撮影する際、被写体の手前の部分は距離が近く、奥の方は距離が遠くなる。列車など極端に長い被写体などでは、撮影距離によってその遠近感がかなり変わることになり、印象も当然変わってくる。
しかし、列車や自動車など身近にあるものは大体の形が容易に想像出来る。どれほど遠近感によって形がデフォルメされようが、列車本来の形を取り違うことは無いだろう。だが、元の形を知らないものについては、遠近感の問題はそれを見る者それぞれの認識の違いを誘う可能性を持つ。

以下に挙げた作例は一眼レフカメラの交換レンズを撮影したものである。
交換レンズというのは数え切れないほどの種類があり、そのデザインも様々だ。特に、広角をカバーしたズームレンズや大口径レンズなどでは、その形が先太りしていたりと、通常とは違うものが多い。そのため、その形が遠近感によるデフォルメによるものなのか、それともそのレンズ固有の形なのかハッキリしない。
このような、製品ごとに形状が個性的であり実際の形が分からないものを撮影する場合、遠近感に十分に注意して撮影を行わねばならない。写真機材に制限があり不自然な遠近感にならざるを得ない場合は、複数の写真で表現する他なかろう。

1.5mほど離れて撮影した。十分に撮影距離をとってあるため、遠近感の影響を受けずに円筒形が素直に表現されている。(1/180sec. F16) 30cmほどの距離から撮影した。遠近感が付いて、上が膨らんだように写ってしまった。芸術的な視点では面白い写真かも知れないが、説明写真としては商品の情報が正しく伝わらないため、不適当な写真と言わざるを得ない。(1/180sec. F16)

ちなみに、商品撮影とは話題が外れるかも知れないが、ミニチュアを本物のように撮影するには、「背景としてのジオラマの距離感」と「被写体自身の距離感」が一致していないと不自然になる。
なぜこのようなことになるかというと、ジオラマは実際の地形をそのまま小さく再現させることはスペース的に難しいからだ。いくらミニチュアとはいえ、遠くに見える山々はかなり奥行きのある風景である。例えば山までの距離が50kmあると想定したとする。これがもし1/1000スケールのミニチュア世界であっても、山までの距離は実に50m。如何にミニチュアと言えど50mもの奥行きのあるジオラマなど作ることはなかなか出来ない。そのため遠近感を利用して、あたかも遠くに見えるかのように、想定距離に応じた小さな山を作るしかないわけだ。
ミニチュア撮影では、ミニチュア自体の精巧さはもちろんのことだが、遠近感のコントロールを間違うと全ての努力が水泡に帰すので、慎重な計算の上でとりかかる必要がある。無計画に撮影すれば、ジオラマで作った遠近感と被写体自身の遠近感が狂うことになる。そしてそれが「不自然さ」となって作品を殺す。

以下の作例では、全長7cmほどの1/60スケールミニカー(トミカ/TOMY)を使った。ここではジオラマが無いのであまり参考にならないかも知れないが、撮影距離による被写体そのものの遠近感を撮り比べてみた。

20cmほどの距離から撮影。肉眼で見た実車の遠近感に近い。(1/180sec. F22) 50cmほどの距離から撮影。遠くから望遠レンズで撮影した遠近感に近い。(1/180sec. F22)

撮影風景。押入れを利用して撮影セットを作った。例によってハローマートの買い物袋を使っている。土台はキングジムファイル。光が広く拡散するよう、ストロボの発光部と買い物袋とは密着しないように注意する。袋はミニカー上部ギリギリまで接近させている。絞りは限界まで絞るため、多少の収差があるレンズでも問題にならない。

1/60スケールのミニチュアであるから、視点も1/60の距離を考えねばならない。この場合、実車の10m前方から見た遠近感は、1/60スケールでは17cmから見た遠近感だというのが計算から導き出される。
撮影者がどのような狙いで撮影しているのかを考えれば、その撮影で必要となる遠近感が分かるはずだ。


さて最後に、遠近感によるデフォルメを積極的に利用した例をここで紹介する。
お馴染みのモデルガンであるが、かなりの重量物であるために手元の道具では保持方法が無い。仕方なく左手で持って撮影したのだが、必然的に手の長さ以上に離れることは出来ない。それならばと、それを逆手にとって遠近感を誇張させて撮影することにした。
映像イメージとしては、映画「ドーベルマン」といった感じだ(笑)。

銃のスゴみを出すために、遠近感を誇張させるというのも1つの方法だ。本来ならばアオリレンズを使ってティルト機能により全面に渡ってピントを合わせるべきだが、我輩は今のところアオリレンズは所有していない。(1/180sec. F22) 撮影風景。銃のグリップ下部に金属板を取り付け、撮影時にはそこを持った。照明光はアンブレラ使用。