[269] 2001年05月30日(水)
「貧乏人のための商品撮影(序章)」
●商品撮影テクニックの必要性
最近は、インターネット上のオークションで多くの商品写真が並んでいる。それらは全て、出品者自ら撮影したものばかりである。
実際、デジタルカメラが安価に手に入るようになり、誰もが現像処理無く、スキャン処理無く、手軽に写真をパソコン上に展開することが可能になった。数年前には考えられなかったことだ。
しかし、商品撮影が一般的になったとは言っても、撮影する機会が多くなったというだけで、その技術が向上し世間で広く一般化したということではない。
商品撮影というのは一般的な撮影とはやや性格が異なり、少なくともカメラ任せだけで撮影することは出来ない。カメラ側でコントロール出来る範囲を越えた工夫が必要なのである。
さて、ここで言う「商品撮影」とは、いわゆる「コマーシャル・フォト」ではない。広告で使用する写真としてのイメージ演出などは考えず、ただ純粋に「少し工夫を加え、今よりも良い写りの写真を撮ろう」という発想である。本格的商品撮影ならば、もっと考えるべき点がいくつもあり、手応えのある深い世界だ。ある程度のスキルがあり、本格的商品撮影を目指す者がいるならば、ここでの記述は参考にならないだろう。もっと参考になる専門書が他にある。
料理に例えるならば、ここはシェフの料理を目指すのではなく、あくまで家庭料理に少し手を加えてプロっぽく仕上げようという趣旨なのだ。
●商品撮影に求められる要件
商品撮影に求められる要件はいくつか考えられるが、ここでは「商品を分かりやすく正確に表現する」ということに重点を置くことにする。
そのためには、以下に挙げられる条件をクリアする必要がある。これは、例えば自分のカメラ機材を撮影したり、オークションに出品する商品を撮影したりする場合を想定した。
- ピントが全面に合っている(被写界深度内に入っている)
- 照明光が十分にまわり込み、詳細が確認出来る
- 立体感がある
- 商品の形が歪んでいない
- 必要ならば、大きさが比較できるものを同時に入れる
●必要な機材
さて、商品撮影について書かれた書籍を見ると、やはりそれなりの装備を前提としているのが分かるだろう。コマーシャル分野での撮影がほとんどであるから、カメラも中判以上(ほとんどが大判カメラ)が常識となっている。もしも本格的に商品撮影を行おうとすれば、恐らく最低でも100万円近くのコストがかかることになる。
<内訳>
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ブローニー判カメラ
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\200,000〜
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ブローニー判レンズ
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\150,000〜 (シフトレンズならば更に高価)
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120/220フィルムバック
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\30,000〜
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ポラロイドフィルムバック
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\25,000〜
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三脚
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既存のもの使用
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ストロボ装置(2灯ヘッド付)
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\400,000〜
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ディフューザー、 スタンド等アクセサリ一式
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\60,000〜
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フラッシュメーター
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\30,000〜
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だが、単価\1,000の商品をオークションに出さんがために、撮影機材を新たに揃えるのもバカバカしい話だ。何とか手持ちの機材で済む方法を考えよう。
まずカメラ本体についてだが、これはデジタルカメラを前提にする。撮影した写真をその場で利用するならばこれ以外に無い。
可能ならば手元のデジタルカメラが使えれば良いのだが、残念ながらどんなデジタルカメラでも良いとは言えない。少なくとも絞りを手動で設定出来、かつ外部ストロボを接続出来るものでなければならない。
外部ストロボについての対応は2種類考えられ、ストロボとカメラをシンクロコードと呼ばれる電気コードで繋ぐことが出来るカメラ、あるいはホットシューを備えたカメラだ(ホットシューに接続してシンクロコードを利用できるようにするアダプタが市販されている)。
シンクロコードが接続出来るカメラとして、例えば我輩所有の「OLYMPUS C-2020Z」などがこれに該当する。今なら中古やオークションでも安く手に入るだろう。ただし、このシリーズ以降のものは専用コネクタとなったと聞くので注意が必要。
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市販のシンクロコードが接続出来るカメラなら、ただ単純にカメラとストロボを繋げばいい。コネクタ部はオス・メスの違いがあって繋がらない場合もあるが、市販の変換コネクタを別途購入すればいい。
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シンクロコードを繋ぐコネクタが無いカメラでは、ホットシューからコードが引けるアダプタが必要になる。左の写真に写っているアダプタはキヤノン専用だが、汎用アダプタも各社から出ている。
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次にストロボだが、40万円以上もするスタジオ用ストロボなど、ここのレベルでは必要ない。1万円前後で売っている汎用ストロボが1つあれば十分だ。こんなストロボならば、それこそ足下に転がってるのではないか?
サンパックなどから発売されているストロボでは、シンクロコードが組み込まれているものが多い。これに延長コードを接続し、カメラの端子に繋ぐ。
要するに、シンクロコードで繋いだカメラとストロボを使うことにより、カメラとストロボを別々な位置にセットするのだ。もちろん、内蔵ストロボを光らせることによって外部ストロボを発光させる「スレーブユニット」というアクセサリも市販されてはいるが、内蔵ストロボが写真に与える影響を防ぐには苦労が伴うだろう。それは最後の手段と考え、極力そのような事態に陥らないようにしたい。
露出の調整は、基本的にカメラ側の絞り調節で行うことになる。ストロボ側に発光量の手動調節機能が付いていると、絞りを変えないで露出調節することも可能になる。
また、ストロボの設置距離を前後させることでも光量調節は可能だが、影の柔らかさや方向が変化するのであまり勧めない。
さて、撮影にデジタルカメラを使うとなると、露出のおおまかなチェックも液晶画面にて可能だろう。そうするとフラッシュメーター(ストロボの瞬間光が測れる露出計)やライティングチェック用のポラロイドバックを必要としなくなる。
貧乏人のための簡易商品撮影法、買わずに済むものは買わないでおこう。
●4段階の工夫
写真の見栄えを良くするために、ここでは4つに絞ってまとめてみた。考えるべき点は他にもいろいろあるが、デジタルカメラで撮影する貧乏人の商品撮影であるから、とりあえず次の4点で十分だろうと思う。
(第1段階)背景の工夫
(第2段階)照明光の工夫
(第3段階)遠近感の工夫
(第4段階)補助光の工夫
次回は、その第1段階として「背景の工夫」から始める。
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