[266] 2001年05月23日(水)
「焦点距離を意識する」
オリンパスのデジタルカメラの新製品、「OLYMPUS CAMEDIA C-700」の広告が電車内に大きく貼られていた。銀塩カメラの350mm巨大レンズと並べて、38〜380mmレンズ搭載の新デジタルカメラのコンパクトさを謳っている。
しかし、我輩はその焦点距離の数字に違和感を覚えた。それはどう見ても、コンパクトタイプのデジタルカメラの焦点距離の数字ではない。恐らくその焦点距離の数字は、35mmカメラ換算時の値であろう。
想像するに、小さな文字でそのことについて注釈が入っているのだろうが、我輩は目が悪いのでそこまで読むことは出来ない。大きな広告に小さく入った文字など、読むなと言っているのと同じだから、敢えて気にすることもないのかも知れぬ・・・。
レンズの焦点距離というのは、フィルム上に写る倍率(いわゆる画角)の目安となる。
一般的には、24〜35mmあたりを広角レンズ、50mmあたりを標準レンズ、100mm〜300mmあたりを望遠レンズと分類しているようだ。
しかし、これらの分類は、あくまで35mmカメラの話であり、当然のことながら中判カメラなどでは映像を捉えるフィルムの面積が大きいので画角も違ってくる。
我輩の場合、中判を使う時は6x6サイズオンリーである。
6x6の場合、標準レンズは80mm付近となる。フィルムのサイズが大きい分、35mmカメラに比べて長焦点側にシフトしている。50mmにもなると、超広角レンズという分類になってしまう。
最初こそ戸惑うものの、人間の持つ適応能力が有効に働き、そのうち無意識に頭の中で切替えが行われるようになる。
つまり、中判カメラを手にした瞬間、50mmレンズが「標準レンズ」から「超広角レンズ」に見えるのだ。
最近は中判カメラを始める人間も増えてきたそうで、AF化など動きが活発になっていることからも、中判カメラの浸透がうかがえる。
中判カメラのカタログには、35mmカメラから乗り換えてきた者のために、レンズの焦点距離についての換算が載っていることがある。
「35mmカメラ換算では〜mmとなります」
これは、中判の画角が感覚的に理解出来るようになるまでは、自分の頭の中でズレを修正するのに役立つ。
しかし、やがてその換算は必要ではなくなり、自ずと中判カメラの焦点距離に馴染んで画角の目星がつくようになる。
35mmカメラ換算を使わなくなるということは、単に「便利」というだけでなく、描写に重点を置く中判カメラを使う上では大変重要なことなのだ。中判では中判でのレンズ感覚があり、35mmカメラのそれとは明らかに異なる。
さて、デジタルカメラの場合に於いても、中判カメラと同じような問題がある。
一般的にデジタルカメラでは、フィルムに相当する受像素子(CCDなど)の大きさが35mmカメラよりも小さい。
そのため、今度は中判カメラとは反対に、レンズの焦点距離が短焦点側にシフトしている。例えば我輩が使っているコンパクトタイプのデジタルカメラでは、焦点距離が10mm前後とかなり短い。画角は実際に見てみるまで分からない。しかしこれを35mmカメラに換算すると50mmくらいに相当するらしい。そう言われるとなんとなく画角が想像出来る。そして、そのまま深く考えずに納得してしまう。
6.5〜19.5mmズームレンズ (35mmカメラ換算:35〜105mm)
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こちらは5.4〜10.8mmズームレンズ (35mmカメラ換算:35〜70mm)
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冒頭のデジタルカメラの広告の件では、35mmカメラに換算した焦点距離のみを大きく載せている。そのほうが広告としては分かりやすくインパクトも大きい。注意深く見れば、欄外に本来の焦点距離を小さく載せているのかも知れないが、気付く者は誰もいない。
デジタルカメラに使われる受像素子のサイズは製品によって様々であり、レンズの焦点距離から画角を推測することは困難だ。1つの製品の画角に慣れたとしても、次に新しい製品を導入した時には、焦点距離と画角の関連がまた変わることになる。
それゆえ、デジタルカメラでは焦点距離の数字は、画角を推し量る目安としての意味が無くなってしまった。だから、デジタルカメラの広告では35mmカメラ換算値のみの表記となるのだろう。
画角を知るという観点から見る限り、デジタルカメラでは、正直に記述された焦点距離の数字の意味は完全に失われたと言える。
しかし、焦点距離とは画角の目安として利用されてきたものの、それぞれの焦点距離特有の描写というものもあることを忘れてはならぬ。
例えば50mmレンズならば、どのサイズのカメラで使っても50mmの描写である。画角が違うのはフィルムや受像素子のサイズの違いによるトリミング効果に過ぎず、ボケの具合はあくまで50mmのそれである。
それに気付かず画角のみに意識を置くならば、手にする写真は意図しない結果となるだけだ。
ここでは例として、同距離・同絞り値で撮り比べた写真を以下に掲載した。両者のカメラはそれぞれ受像素子のサイズが違う。そのため、同距離で同じような画角にするためには焦点距離を変えねばならない。
<同距離・同絞り値での撮り比べ>
(レンズの焦点距離と受像素子の面積が違う)
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カメラボディ:Canon EOS D30
レンズの焦点距離:50mm (1/60sec. f4.0 FLASH)
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カメラボディ:OLYMPUS CAMEDIA C-2020Z
レンズの焦点距離:恐らく10mm付近 (1/60sec. f4.0 FLASH)
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通常ならばレンズの焦点距離を変えると画角も変わるのだが、この撮り比べの場合では、受像素子のサイズが違うため、トリミング効果によって同じ画角で撮影されている。
一見して判るとおり、背景のボケ具合は決定的に違うものの、遠近感については両者とも全く同じと言っても良い。これは両者とも同距離からの撮影だということに関係する。
いくら両者のレンズの焦点距離がかけ離れていようとも、同距離ならば遠近感は一定である。これは錯覚しやすいので注意が必要だが、ズームレンズで試してみればすぐに判る話だ。超広角レンズで撮ろうとも超望遠レンズで撮ろうとも、撮影位置を変えない限り、両者の遠近感に変化は無い。遠近感とは、唯一、撮影距離に応じて変化するのである。焦点距離で変わるのは、背景のボケ(被写界深度)のみ。
広角レンズの使い方で、よく「主要被写体に接近せよ」と言われると思うが、それは「遠近感のコントロールを撮影距離によってコントロールせよ」ということの現れである。
比較のため、同じフィルムサイズのカメラで焦点距離を変えて撮り比べたものを以下に並べてみた。撮影距離は両者で異なるため、遠近感はかなり違う。
<同カメラからの撮り比べ>
(レンズの焦点距離と撮影距離が違う)
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カメラボディ:Nikon F3
レンズの焦点距離:50mm
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カメラボディ:Nikon F3
レンズの焦点距離:17mm
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そういう観点から言うと、やはりレンズの焦点距離を正直に記述することには大きな意味がある。レンズの焦点距離に応じた描写を活かすために、35mmカメラに換算する前の「素」の焦点距離を意識せねばなるまい。
焦点距離の問題に於いて問われることとは、メーカーの焦点距離の記述などではなく、我々の焦点距離に対する意識そのものだ。メーカーから提供される換算値はあくまで目安であり、その焦点距離の描写を保証するものではないと常に意識すべきであろう。
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