記念写真には、いくつかの「暗黙の了解」がある。それは一般常識なのだとは思うが、我輩の常識ではなかったため、これまでかなり困惑してきた。それは今でも変わらない。
故に我輩は撮影係になることを意識的に避ける。
では、「暗黙の了解」とは何か。それはその団体によっても変わってくるかも知れぬが、少なくとも我輩が今までに感じた、記念写真の要件について書いてみる。
- (1) ネガフィルムを使うべし
- プリント写真にするのは絶対条件。ネガではなくリバーサルからのダイレクトプリントだと、割高なうえに画質も硬調ぎみで反感を買う。間違ってもリバーサルは使ってはならない。
また、「焼き回ししてくれ」などと言われても、いちいち「焼き増しだろ」と間違いを指摘して相手に恥をかかせてはならない。
- (2) 日付を入れるべし
- 日付が写り込まない記念写真は価値が半減する。
「高そうなカメラなのに日付も入らないんだねえ」と言われる。
- (3) 風景を入れ、複数人を写すべし
- 人物はもちろんだが、風景を同時に入れるのは必須条件。どこで撮ったかという情報が写り込んでいなければ、記念写真の意味が全く無い。
また、いまどき「3人で写真を撮ると真ん中が早死にする」などと言う人間もいないので、それは気にしない。ただし、一人だけを写すと、本人がその写真だけ半強制的に買い取らされるという意識を持つのでなるべく(リクエストが無い限り)それは避ける。
写真には自分が写っていなくても良いが、他に洩れた人がいないかを常に気を配らなければならない。
- (4) 失敗写真も含め、全て公開すべし
- 露出の過不足やピンボケなどの失敗写真であっても、一応見せなければならない。写りの悪い写真は許せるが、全く写っていない(あるいは見せない)というのは問題である。
失敗写真を見せるのが恥ずかしいなら、失敗しないように2〜3枚撮っておく必要がある。
目つぶり写真については、それだけで本人以外に面白がられるので、必ずしも失敗とは言えない。
- (5) 悪役を引き受けるべし
- 写真には容姿端麗の女性ばかりが写り込むわけではないため、写真を言い訳に使われることもある。
「あたしヘンな顔になってる〜、あんまり写りが良くないね!」
また、見た目は普通の化粧であっても、ストロボ撮影の関係で顔だけが真っ白になる人もいる。その人物だけに露出を合わせるワケにもいかないため、これは不可抗力。しかし見た目は普通の化粧に見えるからこそ写真のせいにされる。
それを否定すると、その人間の容姿を否定することに通ずるため、それはやってはいけない。カメラマンは、ただ、耐えるのみ。
- (6) 評価を気にするべからず
- 一般人の評価は天と地。
写真の構図を少し工夫して人物を中心からズラすと、なかなか絵になる構図が出来る。しかし真ん中が重要だと考える者もいるため、「なんか人物が中心からズレてるなぁ」という評価も下されるだろう。いちいち気にしてはならない。
- (7) こまめで太っ腹であるべし
- 写真を回覧して焼き増し希望者を募る場合、注文の集計と会計を面倒だと思ってはならない。
また、写真を見ながら写っている人を洗い出す方法では、写真を無償でプレゼントするくらいの気持ちのほうが、未払いの者がいても気にしなくて済む。
以上、挙げてみたが、この項目全てが我輩の苦手なことである。普通ならば特に意識せずとも撮れるような写真なのだろうが、我輩はあまり気の利かない人間である。これらの要件を満たすのは非常に難しい。
最初は、「それならば、気合いを入れたカメラとは別に、記念写真用としてコンパクトカメラを持っていけばいい」と思ってしまう。しかし、「なぜその高そうなカメラで撮ってくれないんだ?」と言われるのがオチだ。
出来ることなら、撮影係はご辞退申し上げたい。
そうは言っても、「写真をやっている」という理由だけで推される場合も無いとは言い切れない。こういう場合、「とにかく餅は餅屋、写真ならアイツだ」という単純な発想があるのだろう。しかも、上手い写真を期待されているわけで、記念写真の要件を満たしながら、上手そうに見える写真を撮らねばならない。
そこで最後に、撮影係を避けるための方法をいくつか考えてみた。
- (1) ヘタにカメラを持って行かない
- カメラを持って行かなければなんとかなる場合もあるが、それでも人のカメラを預けられることはある。ただしその場合、少なくとも現像・プリントに関する面倒は無い。
- (2) 自分のカメラを人に預ける
- 逆に、持って行ったカメラを人に(後輩などに)押し付けるという方法もある。「酒を飲まされたくなければこちらから飲ませる」という戦法の応用編か。ただし、現像・プリントに関してはやらねばならない。
- (3) 村八分にされる
- 皆に相手にされない状況を作る。自分の好きな風景をゆっくり撮れるが・・・、かなりツライぞ。まあ、これは論外か。