子供の頃、「一本ラーメン」というものを食べたことがある。文字通り、麺が1本で繋がっているラーメンのことだ。当然、麺の切れ目は両端の2つしか無い。この端を見失うと、なかなか見つからなくて苦労する。
工学の世界では、「スパゲティ・シンドローム(スパゲティ症候群)」なる有名な言葉がある。これは、1本ラーメンと同じく、絡み合うスパゲティは糸口がなかなか見つからないということを意味している。
つまり、複雑なものに発生する不具合を、更に複雑な仕組みで対処しようとする状態のことである。
同じような意味として、航空業界では、「コクピット症候群」という言葉もある。
より多くの情報を表示させてパイロットに分かりやすくしようとすると、かえって計器が増え、どこから見ればいいのか分からなくなってしまう状態のことを言う。
我輩は、カメラの世界でも似たものを感じる。
「このサイトの主旨」にも書いた事だが、世の中は「複雑さ」に向かって突き進んでいる。「複雑さ」の先で技術的な問題点が発生すると、更に複雑な仕組みで解決していく。一旦、複雑さを取り入れれば、もはや止まることは出来ない。もう立派に、スパゲティ症候群と認定できる。
カメラのやっていることは単純だ。絞り・シャッタースピードの組み合わせによる露出調節と、焦点調節である。いや、「レンズ付きフィルム」の存在が証明するように、必ずしも調節しなくてはならないというものでもない。固定したままでも実用に耐える写真は得られる。
「より良い写真、よりキレイな写真」を目指す者がいる。それだけならば、自分のスキルを磨き、手動カメラを使えば良い。しかし、「より手軽に何も考えずに」という但し書きが付くとやっかいなことになる。しかもそういう人間が多数派だ。
「手軽にキレイな写真が撮れる」ということに対して、メーカーもかなり苦労したのではないかと思う。キレイというのは、一体、どういう状態のことを言うのか・・・? それは、撮影者のイメージが分からなければどうしようもないことだ。当の本人が何も考えていないのだから始末に負えない。
そこで「イメージセレクト」が登場した。「ポートレートモード」、「風景モード」、「スポーツモード」、「接写モード」、「夜景モード」・・・。
では旅行のように、人物と風景が同時に重要視される写真では、どのモードを選べば良いのか。「ポートレートモード」か? はたまた「風景モード」か? モードダイヤルを2つのモードの中間に合わせてみても、解決には繋がらない。
もしそういう要望が多ければ、やはりメーカーとしては「旅行モード」を追加せざるを得なくなってしまう。
モードの話はほんの一例で、他にもスパゲティ化しているものはある。ちょっとした写真の勉強、ちょっとした手間を惜しまなければ、もっと写真の奥の方まで行けるのに惜しいことだ。
最初から重装備で行くと通れない穴もある。その穴の先に、写真に対する新たな展望が広がっていたとしても、その人間は気付くことは無い。重装備で満足し、新たな装備が出来るのを待つだけなのだ。そんなヤツは、スパゲティに絡まってしまえ。
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単純に「自動化が悪い」と言っているんじゃないぞ。もっと分かりやすいスマートな解決法があるはずだと言っているだけだ。
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パソコンの世界のスパゲティ化はかなりヒドイ。ワープロソフトはそのいい例だ。単に文字を打つソフトが、なぜあんなに肥大化したのか。もう誰にも分からない。誰にも止められない。カメラの世界がそのようになるのも時間の問題だ。
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