日本時間25日午後11時44分、エールフランスの超音速旅客機「コンコルド」が、パリを飛び立って2分後に墜落した。
乗客乗員全員死亡、地上で巻き添えになった者も含めると113人もの死者を出したという。
我輩がこのニュースを知ったのは昨日のことだった。
しかし、文章でこの記事を読んだとしても、あまり実感が湧かない。航空機の事故など、その日が初めてではないし、死者数も1985年に起こった「日航ジャンボ機墜落事故」に比べれば5分の1でしかない。
しかし、この事故では、墜落直前の鮮明な写真が残されていた(下の写真)。
(Andras Kisgergely/Reuters)
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このような鮮明な写真を目の当たりにして、初めて写真の威力を思い知る。
この写真が撮影された瞬間では、乗員・乗客はまだ生きていた。ここに写っているコンコルドの機体はグレーの線に過ぎないが、そこには100人もの乗客が死への恐怖に直面している。まさにその瞬間なのだ。
コンコルドの轟音、炎と煙の軌跡、街の喧噪。頭の中で再構築された世界が、止まった映像を動かす。
もしそれが映画フィルムの1コマなら、その前後のコマを想像する。そして更に次のコマ、そして次のコマ・・・。
事故の結末を知っている我々は、この1分後には墜落して全員が命を落とす場面を見る。
さらに想像するなら、いきなり「死の宣告」を突き付けられ、戸惑い恐怖する100人の乗客の姿をそこに見る。長いバカンスの始まりになるはずだったコンコルドが、離陸後、ジュラルミンの棺桶となった。
生きたまま棺桶に入れられ、火葬を待つ心境とは・・・? それは我輩の想像をはるかに越える。
ただ確かなことは、その写真には紛れもない事実が写っている。まさにその棺桶が目の前にある。
その確かな事実を基にした想像は、リアリティを増幅させるに十分だ。
たとえ機体の後ろに伸びる炎が写っていなくとも、墜落直前の写真を見ることによる衝撃は変わらない。
文章では、起こったことが「結果」という形で報じられるが、写真は、事故直前の瞬間が凍結され、その写真を見る者を目撃者とさせる。
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余談だが、航空機の墜落事故ほど生存率の低い事故は無い。自動車や鉄道なら、事故が起こっても必ずしも死者が出るとは限らない。しかし航空機の墜落の場合、生存者がいること自体が珍しい。4人乗った小型機であろうと、500人乗った大型機であろうと、全員が死亡する危険性は同じだ。大型化する航空機でひとたび墜落事故が起これば、恐ろしい数の死者が出る。今回のコンコルドは定員100人と、比較的少人数だった。500人乗りの航空機と比較すれば、差し引き400人が死なずに済んだと言えるかも知れない。
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