今夜(日付が変わり、昨日から今日にかけて)、まれにみる長さの皆既月食が見られた。「月食」とは言うまでもなく、「太陽」、「地球」、「月」が一直線に並び、地球の影が月に当たる現象である。
曇った地域もあったようだが、我輩の住む松戸市では快晴だ。
住宅街では三脚を立てる場所もなく、ベランダからの撮影となった。使用したのは「キヤノンAE−1プログラム」と「NewFD500mmレフレックス」。
500mmは中古で購入したものだが、本格的に使ったのは今夜が初めてだ。逆に、これ以降は使う機会は無いかも知れない。
しかし、500mmの威力は大したものだ。十分とは言えないが、そこそこ月が大きく見える。あまり長時間の露光では、月の移動が写ってしまうことだろう。最長30秒の露光を与えてみたのだが・・・。
皆既食中の月は、ほとんど見えなくなるほど暗くなったが、僅かに赤みを帯びているのが確認できる。これは、地球の大気層を貫いた光が色を帯びているため、その光の当たった月が赤く染まるということになる。風景の赤外線写真の例でもそうだが、赤い色というのは大気中で吸収されにくく、透過力が強い。
山々が赤く染まる「夕映え」も、月食の色と同じ。山に当たっている光がそのまま通過して月に当たれば、月食の色となる。
もし月から見れば、そこは日食の世界となる。暗黒の空に浮かぶ太陽を、それより遙かに大きな地球が覆い隠す。いや、月から見た場合、地球は不動であるから、「太陽が地球の中に隠れてゆく」と言うほうが正確か。
その時、闇に浮かぶ地球の輪郭は、赤く染まって見えているに違いない。もし月に天文学者が存在したならば、地球に大気の層があることを、この赤い輪郭によって知るだろう。
<月から見た月食の様子(我輩の想像)>
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しかし同じ現象でも、見る立場によって風景が変わるというのも不思議なものだ。当たり前と言えば当たり前なのだが、頭の中でその様子を想像すると、その不思議さに心を打たれる。しかも、つい先ほど我輩の目の前で起こった現象だ。我輩の心は距離を越え、月に到達し、その風景を見る。
それはあたかも、レンズの光学設計者が、コンピュータ・シミュレーションによって光路をトレースするようなものだ。論理的に光の道筋を辿っていけば、見ることの出来ない風景も、自ずとその姿を現す。
光と影が作り出す現象は、数時間を経て終わった。静かな夜、月はいつものように明るく輝いている。
今頃は月でも、いつもと同じように太陽が輝いていることだろう。