[064] 2000年 6月23日(金)
「ススけた小倉の記憶」
我輩の実家は九州の福岡県。博多よりも小倉に近く、買い物なら小倉へ出るのが常だった。
今でこそ小ぎれいになった小倉だが、子供の頃の印象は、「少しススけた街」というものだった。
大通りには西鉄の路面電車が走り、コンクリート舗装もボコボコだった。商店街は全体が暗い感じだったが、それぞれの店の中には暖かいランプが灯っているかのような雰囲気で、我輩は嫌いではなかった。同じ商店街でも、近くのアーケード街のようなザワついた感じは無く、しっとりと落ち着いている。
その商店街の中には、一軒の小さな中古カメラ屋があった。店内は暗く、外に面したショーケースに並ぶ中古カメラたちが神秘的に見えたものである。
当時、どんな機種が並んでいたかは分からない。しかし、黒ボディが多かったように思う。今思うと、キヤノンEFや、F1などが、遠い記憶の中に浮かぶシルエットに合いそうだ。
それらは漆塗りの工芸品のように、鈍く光っていた。普段はカタログでしか見ない一眼レフカメラを前にして、「カメラとは思った以上に立体的で、結構、小さいものなんだな」と変に感心したりした。
その頃はまだ、知っているカメラの種類など数えるほどしか無く、自分の知らない領域がずっと奥の方まであるんだろうなと感じていた。そしてその知られざる世界への想像が、カメラに対する興味を深くしていったものだ。
いつか大人になれば、このような店に入って好きなカメラを買うことができるのだろうか、などと漠然と考えながら、未来の自分を想像した。想像の中に現れた「大人の我輩」は、顔だけは陰になっていて見えない。ただ、白い帽子をかぶり、ステッキを持ち、ヒゲを生やしている。まるで戦後のヤミ市で成り上がった金持ちのようだな(笑)。
今でもそのカメラ屋はあるだろうか? そこに行けば、我輩のまだ知らないニコンやキヤノンが出迎えてくれそうな、そんな気持ちになる。
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