[023] 2000年 5月 4日(木)
「時の止まったカメラ屋」
西日暮里には不思議なカメラ屋がいくつかある(4〜5年前の話で、今はもう無いかも知れない)。
そのうち2店は、大通りに面しているにも関わらず、時代に取り残された雰囲気だ。
ある日、我輩はそのうちの1店、「ムツミカメラ」に入ってみた。
誰もいない。
一声掛けると、奥からオヤジが出てきた。我輩は写真の現像を頼んだ(この店に入るための口実)。
オヤジがDPEの袋に必要事項を記入している間、狭い店内を見渡した。
右側にはガラスのショーケースがあり、カメラも陳列してある。しかしそのほとんどが、中古屋でも見られないような旧式のカメラであった。驚いたことに、それら全てのカメラが新品だという。よほど商品の回転が遅いのだろう。ホコリ除けの為か、ラップにくるまれているのが面白い。
我輩はオヤジに頼んでカメラを見せてもらった。それは「キヤノンTLb」というものだった。「キヤノンFT」とよく似ている。これが新品とは・・・。
「これ、いくら?」
「え?それ旧式だよ。」
そんなこと分かっておる。
「う〜ん、そうだねえ、5万円くらいかな。」
5万円・・・。そんな値段で買うわけがない。せいぜい1万円がいいところだろう。
ふとショーケースの上段に目をやると、そこには「ミノルタX−1」が鎮座していた。これも新品だという。ファインダーを覗いてみて、何か変な気持ちだった。当時の風景が見えてくる気がした。
この店のショーケースには、昔の空気がそのまま詰まっている。それは決して、博物館のような演出によるものではない。これは現役のショーケースなのだ。
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