2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
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カメラ雑文

[490] 2004年06月02日(水)
「写真をナメてるな」

先日、いつものesbooks経由で一冊の写真集を購入した。かなり高価な写真集で、Web上の注文ボタンを押すまで1週間は迷った。
写真家の名は「白尾元理」とある。聞いたことは無い。元々、写真家の名前はあまり知らないため有名な写真家なのかは分からない。
指定したコンビニエンスストアにて税込み\6,300を払った。ズシリと重い。

家に持ち帰り、豚児の破壊工作を警戒しながらゆっくりとページをめくる。
そこにはクオリティ高い写真が掲載されており、思わず息を飲んだ。印刷線数は他の印刷物と大差無いが、それでも元の写真の持つ細かい描写が伝わってくる。原版は中判以上であろうか。少なくとも35mm判ではないことは判った。
その写真は晴天の正しい光線状態の下、隅々にまでピントが合いクッキリと見易い。中には魚眼レンズを使っている写真もあった。対角線180度視野の広大な風景。
写真集のタイトルは、「グラフィック日本列島の20億年」。
これは我輩の宝物となるな・・・。


小さい頃、我輩は子供図鑑を見て育った。
そのことは雑文108「スケール感」雑文364「想像は現実を通り越す(1)」雑文383「魚眼レンズ観」雑文444「蔵王のお釜(1)」などで触れた。
当時は、その日の食べ物にも事欠く家庭だったそうだが、それでも我輩の母親はどうやって工面したのか我輩に全12巻の子供図鑑を買って与えたのである。

子供の世界というのはとても狭い。
しかし、図鑑の中の写真が我輩の世界を広げた。小さな子供ゆえスケール感は的確に捉えることは出来なかったものの、素晴らしい世界が存在するということを認識した。

子供用の図鑑は見易いようにほとんどがカラーページで掲載写真も見事。何しろ、何も知らぬ子供に説明するための写真であるから、解かり易さが最優先である。奥付を見ると、監修者が十数人もいた。記述内容はもちろん、写真も相当に揉まれたに違いない。手間がかかっているな。
子供に見せて理解出来るようなキッチリした写真はなかなか撮るのは難しいと想像する。事実、我輩はその図鑑に載っているような写真を目標として撮影努力をしているのだが、なかなか思うように撮れない。

一見、苦労無く撮れたように思える写真でも、実は様々な努力が必要であった。結果だけ見てもその苦労は窺い知ることは出来ないが、実際にやろうとするとなかなか到達出来ないことに気付く。
禅問答のような話だが、いかにも凝ったということが分かる写真よりも、何気ない写真のほうが却って難しい(あるいは手間がかかる)のではないかと思う時がある。

冒頭で触れた写真集「グラフィック日本列島の20億年」は、日本各地の地質風景を丁寧に撮り集めた貴重な写真集だ。そのクオリティはさすがにプロが撮っただけのことはある。
技法を駆使したように思えない写真ではあるが、見せ方を計算し丁寧に撮られている。大きなサイズのフィルムを使い、隅々までクッキリと描写されたそれらの写真は、観る者に印刷物が媒介していることを忘れさせ、その風景を直接自分の眼で見ている錯覚に陥らせる。

違和感無く普通に眺めることが出来るということは、それだけ撮影時に手間をかけたということだ。例えるならば、相手に解り易い文章を書くために何度も推敲を重ねるようなものと言える。スラスラと読める読み易い文章であれば、それは時間をかけて書かれた文章であろう。
事実、この写真集では2人の研究者の意見を聞き、何度も撮影場所を吟味したという。そしてその2人による解説が紙面を割いて掲載されている。

しかし、いくら2人の研究者の協力があったからと言うものの、写真家自身にそれ相当の知識が無ければマトモな撮影など不可能。事実、この写真家自身が研究者のようなもので、自分が撮ろうとしているものについて良く知っている。早い話、写真家が専門家になったのではなく、専門家が写真家になったのだ。
そういう意味で、「この写真家にしか撮れない写真」と言ってよい。2人の解説者もはしがきに「我々の解説以上のものを写真に収めている」と評している。

プロカメラマンが編集者に写真撮影を頼まれて、前の日に一夜漬け勉強で足るようならば苦労は無い。日頃から特定分野についての勉強・研究を重ね豊富な知識を持っているからこそ見えてくる風景がある。
プロカメラマンであれば、我輩のようにとりあえず広い画角に詰め込んで持ち帰り、後日ちまちま勉強しながら画像解析するような撮影(※)をしていては務まらぬ。現場でキッチリとポイントを押さえておかねばならない。
(※参考:雑文081「写真の情報量」雑文260「趣味性」雑文481「写真の情報量(蔵王のお釜)」

撮影者自身が専門家であり、なおかつ解説者が付く。これほど手間をかけ丁寧に作られた写真集は無い。
それに比べ、世にある写真集など、写真家が「感性」の名の下に自分勝手に撮った無計画写真ばかり。それらの多くは写真技法で誤魔化した価値の無いものである。
確かに、今回購入した学術的な写真集では、解説・監修が付くことは普通のことであろうが、アイドル写真集やエロ写真集であっても、その筋の専門家による監修の下でキッチリ撮って欲しいと願う。

我輩が学生の頃、好きなアイドルの写真集を買って観たものだが、海外の小島にて奇抜な髪型・奇抜な服装・奇抜な化粧・奇抜なポーズで撮られており、いかにもアイドル写真集の枠にハメただけの愚作であった。そのアイドルらしさが全く無い。いくら有名カメラマンの撮影であろうとも、そのアイドルを深く知らぬまま撮影するならば、その写真に価値は無い。

よく、「アイドルカメラマンはアイドルとのコミュニケーションが上手く、良い表情を引き出す」と言われるが、そういうレベルではなく、セッティングそのものに問題がある。そのような中でいくら良い表情が得られても何の意味も無い。
アイドルの個性を熟知しそれを写真として組み立てる監修者がなぜ存在しない?

編集者やプロカメラマンたちは、写真をナメてるな。


今回購入した写真集
■タイトル「グラフィック日本列島の20億年」
■写真白尾元理
■写真解説小疇尚、斎藤靖二
■体裁A4判変型・上製・カバー・198頁
■定価6,300円
■ISBNコードISBN4-00-005768-5 C0044