2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
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カメラ雑文

[813] 2014年04月23日(水)
「我輩のテーブルトップスタジオ撮影遍歴」


我輩がテーブルトップスタジオ撮影をやり始めたのは20年ほど前からであった。
20年前と言うとかなり昔のことのように聞こえるが、当時はフィルムカメラの時代ではあったものの、分割測光は確立され、AFシステムも成熟し、既にメカトロニクスの頂点を極めていた頃。そういう観点で言えば、言うほど昔というわけでもない。

そんな時代を振り返り、今改めて考えると、フィルムでの撮影は一切の誤魔化しが通用せぬものであった。しかしそれゆえに我輩自身鍛えられたと思う。
何と言っても、フィルム撮影は撮れば撮るほどランニングコストがかかる。撮影に失敗すればフィルム代や現像代は無駄となる。しかし、このように身銭を切られる痛みのおかげで、失敗に対する改善と努力への真剣味は今とは比較にもならない。
極端な話、今よりも昔のほうが我輩の撮影技術は高かった。

撮影枚数をケチって全てが失敗となるリスクを負うか、あるいは、フィルムを浪費してしまうが保険代わりに数多く撮っておくか。
いくら本番撮影前に緻密に露出を測ったとしても、「これで間違いない」とまでは言い切れないのがフィルム撮影の難しいところ。常に迷い、常に挫折し、常に最善の方法を模索していた。

今ではデジタル撮影が主となり、背面液晶画面を見ながら何も考えること無く露出を微調整していくという横着な方法が当たり前。全く便利な時代になったものだが、フィルムのようにハッと息をのむほどの作品が生まれなくなったことも事実。もちろん、フィルムという媒体の持つ極度な緻密感と深みのある階調のせいもあるが、やはり主な原因は、デジタルでの見た目調整を繰り返すうちに自分自身の追い求めるべきイメージを失い、偶然に得られたものでも気に入れば採用するというデジタルにありがちなプロセスの問題であろう。

スタジオ撮影では、どんなに見た目がキレイに撮れようとも、それが事前のイメージではない画であれば失敗であるはず。スタジオ撮影というものは、全ては自分の設計で組み立てるものであり、そこに偶然の入り込む余地は一切無い。
そういう意味では、フィルムでの撮影は撮影結果がすぐには分からないため、綿密な設計が重要であり、その設計こそが撮影で目指すべき目標であった。だからこそ、思い通りの結果が得られねば、何が足りないのかということが明確に分かった。
仮にそこで、具体性の無い感覚だけで判断していたらならば、我輩はこれまで何の進歩も無かったろう。

今回の雑文では、そんな昔を懐かしみながら、改めてテーブルトップ撮影で我輩が歩んできた歴史を振り返ってみたいと思う。

なお、主なトピックスを項目として時系列で並べているが、時期の重なりがあったり、現在も継続中の内容もあるため、必ずしも各項目が順々に移行していったものではない。

●テープルトップスタジオ事始め
以前にも書いたことがあるが、我輩がテーブルトップスタジオ撮影を行うようになったのは、「Nikon F3」のカタログを独自に作るためであった。
ただそうは言っても、すぐにF3のカタログを作り始めようというものではなく、他のカメラを対象にして何年もの時間をかけて撮影技術と経験を積み重ね、最後にF3の本番撮影を実施するつもりである。

当初、35mmカメラ「Canon EOS630」を使って撮影していたため、35mmサイズの小さなポジをルーペで拡大して確認すると画質は粗く見えた。それまでは35mm判は小さいとは思わなかったが、この時はさすがに35mm判というのは小さ過ぎることを実感した。
また、定常光(自然光や蛍光灯)での撮影のため光量が弱く、被写界深度が浅くてボケた部分もあり、とてもカタログに使えそうな写真とは思えなかった。

●クリップオンストロボの活用
当時はリバーサルフィルムが常用であったが、それはネガフィルムと違って撮影時の調整が全てであるのが難しいところ。露出のほうは段階露出をやっておけばどれかが当たるのでどうとでもなるが、光源による色カブリについては対策を要する。

しかしながら、いくら補正フィルターやタングステンタイプのフィルムを使おうとも、一般的な室内照明としての蛍光灯や電球では厳密な発色が考慮されていないので、色の偏りを相殺することは出来ない。もし写真用電球を使ったとしても、使用時間で変わってくるのではないかという気もする。
そもそも、補正フィルターを使うのであれば使用するレンズの口径ごとにフィルターを揃えねばならぬし、露出倍数がかかるので入射光式の単体露出計の値に補正をかけねば測定値とのズレが生ずる。
このようなことにいちいち悩むならば、ストロボを使ったほうが手軽で間違いが無い。

ストロボと言えば、手元にあるのはEOS専用のクリップオンストロボのみ。しかもカメラのペンタ部シューに固定された状態では自由なライティングは望めない。どうにかしてカメラから離す必要がある。それには、専用のケーブルを購入する必要があった。何しろ、EOS専用ストロボは高度にオート化されており、専用ケーブルや専用オフシューアダプタでなければ使えない。これらはさすがに専用品だけあって高価であったが、造りはしっかりしており動作確実の良い物だった。ケーブル分岐コネクタも使って多灯も可能となった。
そしてそれに加えてブラケットとアンブレラを購入し、本格的な照明セットとして仕立てた。

ちなみに、当時の大変貴重な写真が出てきたので下に掲載する。これは気まぐれに撮ったものであろうか、ステレオ写真(平行法)になっているのも面白い。

<当時の我輩の照明システム>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
当時の我輩の照明システム
[当時撮影]

ただ、専用ケーブルを使うとTTL調光となってしまう。撮影者のイメージを無視して自動的に発光量が変わるのは困る。そのため単純にX接点のみを仲介する市販アダプタをかまして非オート化した。

測光については、ストロボの瞬間光を測るためのフラッシュメーター(単体露出計)が別途必要となり、ミノルタ製「フラッシュメーター4」を導入。EOS用専用コードが繋がるよう改造を施した。

なお、この「フラッシュメーター4」には商品撮影のための詳細な手引書が付属しており、これによってストロボ光のコントロールについての基礎を学ぶことが出来たのは幸いだった。特に、ストロボ光を何度も発光させて積算測光するという手法もこれで初めて知った。

<フラッシュメーター4付属の手引き書>
フラッシュメーター4付属の手引き書
[現在撮影]

さて、ストロボをカメラのシューから離すことが出来るようにはなったが、ライティングの組み立てはストロボの瞬間光では確認が難しい。最初にモノクロフィルムで撮り、直ちに自家現像して確認するという方法もあるが、よほど最終確認でないとやっていられないので、暗黒中でストロボを発光させてその残像を眼に焼き付けて確認しながらライティングを組み立てていった。そうやってようやく最終確認のモノクロ撮影を行うのである。
今考えるとかなり手間がかかるように思えるが、それでも当時の我輩としてはかなり効率的な手法であった。

当初、この撮影セットは自分でもなかなか良く出来たものとして愛用し、横浜の少人数室内撮影会でも使った(参考:雑文451)。さすがにその場でライティングの確認は出来なかったが、露出はフラッシュメーター(単体露出計)で行った。
やはりモデル撮影会ではアンブレラがよく似合う。

ただ、カメラの外観撮影でこの照明セットを使うと、レンズ面にアンブレラの傘の形がクッキリと映り込んでしまい恰好良くないことが判明(参考:雑文271)。以後、アンブレラを使うことは無くなり、画用紙や乳白アクリルを使うようになった。

<レンズ面にアンブレラの形がハッキリと見える (トリミング)>
レンズ面にアンブレラの形がハッキリと見える
[当時撮影]


●サンパック製汎用クリップオンストロボの導入
クリップオンストロボを照明光として使っていると、電池の消耗に伴いチャージ時間が長くなってくるのが気になった。どうせならAC電源で安定して使いたい。
そこで、部屋に転がっている6ボルト出力のACアダプタを流用し、ストロボの電池室接点にハンダ付けしてみた。その結果、電池の消耗を気にすること無く安定した撮影が可能となった。

そんなある日、ストロボの電源を入れたままテーブルトップの配置を試行錯誤していたところ、ストロボから「パンッ!」と音がして煙が上がった。慌てて電源を切って調べたところ、外見的な変化は無かったが明らかにストロボが焦げ臭くなっていた。やはりシロウト工作のAC電源化は無理があるか。

そこで思い切ってAC電源が使えるストロボを探したところ、サンパックから「B3000S」という汎用ストロボでACアダプタが用意されていることを知り、早速そのストロボとACアダプタを導入した。
このストロボは汎用なためTTL調光は出来ないが、物理スイッチで簡単に6段階のマニュアル発光出来るので、むしろ思い通りにコントロールすることが容易となった。

<AC電源使用可能なSUNPAK B3000S>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
AC電源使用可能なSUNPAK B3000S
[現在撮影]

使ってみるとこのストロボは大変有用で、今では4機もの「B3000S」が手元に集まっている。2機はテーブルトップスタジオの屋内用、別の2機は屋外用である。さすがに屋外で2機使う機会は少なく、予備機という意味合いが強い。何しろこのストロボ、もはや生産終了品なのだ。

●ジェネレータ式ストロボの導入
クリップオンストロボのAC電源化が実現したものの、やはりライティングの組み立ては困難を極めた。
スタジオで使うような大型のストロボでは、ライティングの確認が出来るモデリングランプが付いているらしいので、「こういうストロボがあったら撮影も随分はかどるだろうな」と思った。

当時はインターネットなど無かったので、ビックカメラに行って店員に質問したりカタログをもらったりなどして検討。その結果、ジェネレータ式としては比較的コンパクトで安価な「コメット・ダイナライトM1000」の2灯セット(スタンド、アンブレラ付)を購入。デザイン的にも、パネルのカラーリングがかわいく思えるところも購入動機に繋がった。

<20年前に購入したコメット・ダイナライトM1000>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
20年前に購入したコメット・ダイナライトM1000
[現在撮影]

もちろん、安いとは言っても40万円近くしたわけだが、当時は独身だったから生活費を犠牲にして、月賦だったかあるいはボーナス払いだったかで強引に購入したものである。

●中判カメラの導入
上手く写ったと思ったテーブルトップ撮影でも、よくよくルーペで拡大してみるとフィルムの粒子がかなり目立って被写体の質感が埋もれている。どう頑張ってみても35mm判は小型のフォーマット。描写の限界は低い。
商品撮影の本によれば、あおり撮影が前提の大判カメラを使うケースがほとんどのようだが、我輩にはとてもそこまで踏み込む勇気は無い。趣味程度に導入するならば、一般撮影のことも考えて中判カメラの導入が適当だろうか。

いずれにせよカメラのフォーマットを切り替えるとなれば、カメラだけでなくレンズ、果てには引伸し機や現像タンクまでのシステム全体を揃えねばならぬが、当時はまだ独身だったので生活費を切り詰め、ボーナス払いも使ってシステムを揃えることを考えた。

中判カメラの主なフォーマットとしては「645判」、「66判」、そして「67判」がある。安価でメジャーなものは645判なのだが、我輩は縦横の撮り分けでフィルムを消費せずに済む正方形の66判を採用した。

ただ、これまで使っていた35mm判とはフォーマットが異なるため、ブローニーフィルムの運用に問題無いかを体験する必要があると考えた。中判一眼レフを購入した後になってから「やはり使いこなせなかった」、あるいは「ランニングコストがかかり過ぎる」、またあるいは「期待したほどの画質が得られなかった」などということになれば、せっかくの投資が無駄になる。

そこでまずは、安価な中古二眼レフカメラ「ロモ ルビテル166B(5千円)」や「ビューティフレックス(1万円)」を購入して使ってみた。その結果、フィルム入手から現像上がりまでのフロー、そしてそれらにかかる納期やコストなどを一通り確かめ、我輩が使うのには特に問題は無いという結論を得た。
これにより、一眼レフのシステム導入への踏ん切りが付いた。

ちなみに、それら二眼レフカメラは研究のために分解などして最終的には廃棄処分となり、現在は手元に無い。
たまたま、ブロニカ購入後の試し撮りで「ロモ ルビテル166B」をモノクロ撮影したものが見付かったので下に掲載する。

<ロモ ルビテル166B (トリミング)>
ロモ ルビテル166B
[当時撮影]

一眼レフの場合、645判は数多く存在するが66判の選択肢はハッセルブラッドかゼンザブロニカくらいしか無い(ローライもあるが特殊過ぎる)。そうなると、安価で使い易いゼンザブロニカを選ぶのは当然のことだった。

現行新品の「BRONICA SQ-Ai」を買うとボディ部分のみでも10万円以上するので、中古にてフィルムバック付きの「SQ」を38,000円で手に入れた。レンズのほうはすぐには買えず数か月後になってしまったが、改めてレンズを装着してシャッターを切ったところ、シャッタースピードが大幅に遅いことに気付いた。つまり、シャッタースピード1秒が10秒程度にもなってしまう。明らかにシャッター秒時制御用コンデンサーが劣化している。どうやら長い間使われていなかった様子。アナログ回路はこういうことがあるから厄介である。

ただ、電池を入れてしばらくシャッターを切っていると段々シャッタースピードが速くなり、数日後には体感的なズレは無くなった。充放電を繰り返すうちにコンデンサーの特性が回復したか? しかし精度は怪しいもの。
もちろん、テーブルトップスタジオでストロボ撮影する分には少々のシャッタースピードのズレは問題無いが、風景などの定常光撮影に使えないというのも嫌な話。
結局、思い切って現行新品の「SQ-Ai」をボーナス払いで買うことにした。

<BRONICA SQ-Ai>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
BRONICA SQ-Ai
[現在撮影]

やはり新品の確かな動作は素晴らしい。しかも電磁レリーズ式でシャッターを切る感触が全然違う。
幸いなことに、ゼンザブロニカのSQシリーズはレンズシャッター式なので、ストロボとの相性がすこぶる良い。やろうと思えば最高速1/500秒でのシンクロ撮影も可能となる(※)。ここまでシャッタースピードが速ければ、室内灯などの定常光の影響は無視出来、ストロボのことだけを考えれば済む。
(※ストロボの出力によっては発光時間が1/500秒に近くなる場合もあるので注意を要するが)

●ポラロイドバックの導入
ジェネレータ式の1000W/Sストロボはこれまでのクリップオンストロボに比べて出力が大きく、最小絞りF32までは余裕で使えたのだが、それでも現像するまで結果が分からない。プレビューレバーでのファインダー上の確認は、モデリングランプの暗い照明では真っ暗となり視認不可能。

そこで、ポラロイドバックを導入した。ピールアパート式(引き抜き式)のポラロイド写真を事前に撮ることで、被写界深度だけでなく、露出、ライティングの確認が出来るようになった。ただし、ポラロイドは1枚当たり200円くらいのランニングコストがかかるので気軽に撮ることはせず、いよいよ本番撮影するぞという直前で、念のために撮るものであった。カラーに比べてモノクロのポラロイドが安かったので、色の問題が無ければモノクロでポラロイドを切ることが多かった。

なお、撮影後のポラロイドは用済みになるわけだが、枠を切り抜いたものを66判紙マウントに入れると立派な作品に仕上がった。

<用済みとなったテスト撮影ポラロイドの有効活用>
用済みとなったテスト撮影ポラロイドの有効活用
[現在撮影]

●ポラ代わりとしてのデジタルカメラ導入
デジタルカメラ「OLYMPUS CAMEDIA C-2020Z(200万画素)」をテーブルトップ撮影に用いたのは、ウェブサイト用に簡易的に撮影するものであった。
フィルム代・現像代を使わずに済むので使い始めたのだが、このカメラはコンパクトタイプながらもシンクロターミナルを備えていたため、ストロボとの親和性が大きいのが好都合だった。

ただ、絞りがF8.0までしか設定出来ないので、これまで使っていたジェネレータ式ストロボでは出力が大き過ぎて減光対策が必要になってしまう。
仕方無いので、再びサンパックの汎用クリップオンストロボを使った。

実際にデジタルカメラをテーブルトップスタジオで使い始めると、その即時性とランニングコストの低さというメリットが大きく感じ、その活用用範囲を広げたく思い、かなり高価ではあったが思い切ってデジタル一眼レフカメラの「Canon EOS-D30」を中古で購入した。一眼レフタイプはデジタルカメラながらも銀塩一眼レフと同じレンズを使えるので絞り値の選択が広がり、中判撮影と同じ環境で並んで使えるようになった。
それにより、ポラロイドを使わずともデジタルカメラのテスト撮影にてライティング確認が可能となった。

<Canon EOS-D30>
Canon EOS-D30
[当時撮影]

ライティング確認が出来るとなれば、次に、「露出計用途としても使えるのではないか?」と考えるようになるのは自然の成り行きだが、デジタルカメラの背面液晶に表示される画像を見て露出過不足の判定が出来るのかが問題である。
そこで何度かテスト撮影を行い、表示画像の諧調の具合を参考にすれば意外に適正露出がヒットすることが判明(参考:347348349)。
それ以降、ポラロイドのほうはパッタリと使わなくなってしまった。

ちなみに、デジタルカメラによるライティング及び露出確認への活用は、テーブルトップスタジオだけでなく、野外撮影でのシンクロ撮影にて定常光とストロボ光との比率コントロールが視覚的となり大変有用であった。

●デジタルカメラを暫定メインとする
テーブルトップスタジオ撮影にてデジタルカメラだけで済ませるようになった1つのきっかけは、ネットオークションの出品であった。
ネットオークション用の写真では、商品のダメージ部分は明らかにしつつも、そうでないところは極力キレイに見せたいもの。そうなるとテーブルトップスタジオ撮影となるわけだが、ネットオークション用にわざわざフィルムで撮る必要は無い。
当時はネットオークションで売る物が数多くあったので、それだけテーブルトップスタジオ撮影も多くなり、もはやデジタルカメラは暫定メイン機材と言えるようになった。

もちろん、フィルム撮影は重要な対象物には実施する予定であるが、今のところはフィルムで撮影するまでもないものばかりなので、デジタルカメラの暫定メインという位置付けは当面続くものと思われる。

●PC(パースペクティブコントロール)レンズの導入
テーブルトップスタジオでは対象物全面にピントが合うことが重要である。しかしながらそれはなかなか難しく、被写体形状によっては工夫が必要となる。

カメラのピントが合う部分というのは基本的に、レンズ光軸に直交する一定距離離れた平面である。レンズの絞りを絞り込むと、ピントが合ったように見える範囲(つまり被写界深度)が深くなるわけだが、絞り込める範囲にも限界があるし、そもそも絞りは露出や画質に影響する要素なので、極端な調整は出来れば避けたいところ。

そこで、レンズ光軸を傾けることでピントの合う面が傾く性質を利用し、例えばテーブル面と平行になるようピント面を傾けて被せることが可能となる。これをティルト撮影と言う。

35mm判の場合、「根性ティルト」という我輩独自の撮影法がある(参考:雑文339)。
この撮影は、外した交換レンズを手で保持しながらピント面を傾けて撮るもので、ピント面がテーブル面と一致した瞬間を狙ってシャッターを切るという、我輩にしか出来ない高等技術(※)であり、それゆえに「根性」という名を冠した。
ピント面が一致する瞬間にシャッターを切るにはストロボの瞬間光でしか不可能である。
(※もし、狙った1点のみにピントが合えば良いのであれば常人でも何とかなろうが、根性ティルト撮影では上下左右の面の全てにピントが合っていなければならず、レンズを手で保持した状態で揺れ動くピントが瞬間的に合うタイミングでシャッターを切るのは常人では不可能。2014年3月末現在でこの技が出来るのは、国内では我輩のみである。)

しかしながら、「根性ティルト」によってティルト撮影の有用性に改めて気付き、根性に頼ることなく安定してティルト撮影可能な専用レンズ(PCレンズ-パースペクティブコントロールレンズ)が欲しいと思うようになった。その結果導入したのが、Canonの「TS-E 90mm F2.8」であった(参考:雑文341)。

<Canon TS-E 90mm F2.8>
Canon TS-E 90mm F2.8
[当時撮影]

しかし改めて考えてみると、35mm判は被写界深度が深いので絞り込むだけでも何とかなるが、中判となれば目一杯絞り込んでも厳しい場合がある。中判こそ、ティルト撮影が必要であろう。
ところが我輩の使っている中判カメラのゼンザブロニカにはPCレンズは用意されておらず、Webにて色々と検索したところ、ロシア製のキエフという中判カメラにはPCレンズ「HARTBLEI Super-Rotator 45mm F3.5」というものがあることが分かった(参考:雑文389)。このレンズを使うためには、同じくロシア製の中判カメラも買わねばならぬが、レンズのほうはともかく、カメラのほうはシャッターという精密で高速動作するパーツがあるので信頼性が不安であった。
しかし新品状態から大切に使えば何とかなろうと思い、思い切って「Canon TS-E 90mm F2.8」を売却して金策し、輸入代行業者を通じて購入した。

<ロシア製PCレンズ HARTBLEI Super-Rotator 45mm F3.5>
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ロシア製PCレンズ HARTBLEI Super-Rotator 45mm F3.5
[当時撮影]

レンズのほうは絞り用の内部レバーのリンクが外れるなど具合が悪かったが(フィルム現像の結果で判明)、単純な造りのため自分で分解・調整は可能だった。しかしカメラボディのほうは数年後にシャッターが切れなくなり、さすがにシロウトでは修理も不可能で、ボディを失ったレンズは売却せざるを得なかった。

その後しばらくしてマイクロフォーサーズをテーブルトップスタジオ撮影に使うようになり、ボールジョイントで簡易的にティルト可能なマウントアダプタ「LENSBABY」を購入、Nikonレンズを装着してティルト撮影に利用するようになり、今に至っている。

<LENSBABY>
(※画像クリックで横1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
LENSBABY
[現在撮影]

不満と言えば、ボールジョイントなので当然なのだが縦横自在に動いてしまうので、1方向のみに限定させてティルトすることがなかなか難しい点である。しかも、ジョイントの動きが渋い。一応、ロックのためのリングがあるのだが、それを緩めてもジョイントは渋いまま。注油が必要かも知れぬ。
そして最大の問題は、構造上、「OM-D E-M1」にはペンタ部が干渉するため装着が出来ない。「OM-D E-M5」にはギリギリ装着可能なだけに残念。

●ストロボシンクロの問題
今さら説明することでも無いが、ストロボは瞬間光であるからカメラのシャッターとタイミングを合わせて発光させねばならない。そこが、電球や蛍光灯などの定常光とは異なる点である。
カメラとストロボのタイミング、つまり同期(シンクロ)させるためには幾つかの方法があるのだが、我輩が好んで使っていたのがJIS規格のシンクロコードである。

ジェネレータ式のスタジオストロボを使う場合、JIS規格シンクロコードは唯一のシンクロ方法であり、もしジェネレータ式ストロボが運用から外せないのであれば、その他のクリップオンストロボなども同様にシンクロコードでの運用で統一しておくほうが混乱が無い。

ところがこのシンクロコードが意外にも問題が多い。有線接続ゆえに動作確実だろうと思っていたものの、接触不良による不発が頻発し、せっかくの集中力が削がれてしまうのだ。
その原因は、品質の良くないコードと変換アダプタのせいなのだが、こういう地味な社外品接続用小物類には有名メーカー品は存在せず中国製などの総安物状態なので、いくら金を積んでも良い物を選びようがない。

おまけに、ジェネレータ式スタジオストロボのように本体から2灯発光出来るものはともかく、1灯ごとそれぞれに対してシンクロコードが必要となるモノブロックストロボやクリップオンストロボでは、配線が多い分だけ不発の確率が高まる。
そういう場合は、1灯のみをカメラ直結とし、2灯目はスレーブユニットを使って無線シンクロすることとした。

スレーブユニットを使い始めると、コードが絡まず軽快にライティング配置出来るのが便利で、3灯目にもスレーブユニットを導入してみた。
ところが不思議なことに、買い足したスレーブユニットはなぜかストロボの機種を選び、発光するストロボと発光しないストロボがあった。同じ型番のスレーブユニットのはずなのだが・・・。
仕方無いので、とりあえずは発光するストロボを選んで使い始めたところ、やはり灯数が多いとスレーブユニットは便利であった。

ただ、このスレーブユニットのセンサー受光部は1方向しか向いておらず、反対側を向いた状態では不発になることがたまにある。もちろん、大抵の場合は発光してくれるのだが、トリガーとなるストロボ光の強さや光の回り込み具合によって変わるので、必ず発光するという確証が無いのが悩ましい。
そもそも、スレーブユニットを使ったところでどのみち1灯目は有線式とせざるを得ず、全面的に無線化のメリットを享受出来るものでもない。

そういうわけで、別の解決法を模索すべくWeb検索を行ったところ、電波式のワイヤレスシンクロユニットに目が留まった。
それまで電波式があるのを知らなかったわけではないが、装置が高価で電源を要する点で敬遠していた。しかし今探してみると、安価なものが幾つかあり、電源も使い切りリチウムコイン電池ではなく安価な単4電池が使えるものがある。どうやら中国製のようだったが、写真で見る限りはしっかりとしたもののようだったので、2個入りを2セット(つまり4個)買ってみた。

<ラジオコントロールシンクロ装置>
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ラジオコントロールシンクロ装置
[現在撮影]

これは送受信切替式の兼用タイプで、ストロボ側に装着してもカメラ側にしても良い。
電波式なのでトリガーとなるストロボ光は不要で、全く別な場所にストロボを置いてそこから発光させることが容易になり、可能性が広がった。もちろん、接触不良による不発は完全に無くなった。

●今後のこと
テーブルトップスタジオ撮影における我輩の最終目的は「Nikon F3」のカタログ撮影であることは最初に述べた。
この目的を達成させるには、まだまだ我輩の撮影技術や撮影機材をより発展させて行かねばならない。もちろん、デジタルカメラの時代ではあっても、ポジフィルム撮影を前提とした技術や機材であることは必要だ。なぜならば、ポジフィルムの使用率が低下したとは言っても、最終的な本番となるF3の撮影ではデジタル撮影と並行してポジフィルム撮影も行うからだ。

ポジフィルムの緻密感や色深度は、原版として持っておくべきもの。
デジタルデータはコピーも自在であるがゆえ、原版という感覚も極めて希薄になる。しかしポジフィルムならば、「これが唯一無二の原版である」と胸を張って言える。得難い原版を得るために、我輩が努力を続けるのは、この考えが根底にあるからと言えるだろう。

ただ、もしかしたら我輩の一生をかけても「さあF3を撮ろう」と言えるような撮影技術には到達しないかも知れない。しかしそれはそれで良かろうとも思っている。

テーブルトップスタジオ撮影は登山に例えるならば、これまで撮ってきたカメラの写真は低山登頂に過ぎぬ。あくまでも最高峰を目指すための訓練のようなもの。言うまでも無く、我輩にとっての最後の目指すべき最高峰は「F3」。その最後の山を登頂してしまえば、もう越える山が無くなってしまうのだ。

最後の山は、永遠に未登頂のままでいるほうが、ずっと登頂訓練を続けていられる。