2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
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カメラ雑文

[349] 2002年05月01日(水)
「デジカメは露出計となり得るか(実践編2)」

●今回の撮影準備

さて、前回の撮影について流山線の情報をインターネットで拾っていると、それに関連して色々な路線の情報が出てきた。中にはかなり趣のある駅舎が画面に表示され、我輩はそれを興味深く眺めていた。
実は我輩、子供の頃から駅が好きで、子供向けの「国鉄駅名全百科」「私鉄駅名全百科」など暇さえあれば読んでいたものだ。
列車そのものに対して特にこだわりは無い。技術的なアプローチとしてメカニズムを眺めたり、70年代フリークとして懐かしさを覚えた場合は列車にも興味を持つこともあるが、基本的に鉄道関係としての興味は駅舎のほうに偏る。

我輩の実家近くを走る田川線の豊津駅は、とても趣のあるこじんまりとした建物であった。まさに「田舎の駅」と言うにふさわしい。小中学校での修学旅行はこの駅から出発したことを想い出す。
だがこの田川線豊津駅は、JRから平成筑豊鉄道へ売却された時に取り壊され、カプセル駅のような味気無いものになってしまった。あまりに身近な駅であるがゆえ、我輩の手元には昔の豊津駅の姿を写した写真は1枚も無く、失われた情景を乏しい想像力だけで再構成するほか無い・・・。

このように駅舎の写真は、我輩にとっては昔の記憶を探るようなものであり、インターネット上の粗い電子画像であっても時間を忘れて見入ってしまうのである。
そんな時、秩父鉄道に関する情報にぶつかった。見ると、この路線の駅舎はかなり趣があるように思える。自宅から2時間ほどの場所であり、それほど身近でも無い。だが、日帰りで撮影に行けるという意味では、気軽な撮影圏内にあると言える。いつ失われるか分からぬ風景を後悔無く写真に収めるには、思い立ったその時に行動すべし。

秩父鉄道を調べてみると、駅の数は34駅と思ったほど多くない。しかし、1駅に5カット割り当てると仮定した場合、露光ずらしを含めて120フィルム1本(12枚撮り)必要か。そうなると全体に必要なフィルム本数は・・・34駅分、34本必要になるのか?!
そうなると、120フィルム10本入りカートンが4本、単価¥3,800x4カートン=¥15,200必要か。
さらに現像代は、単価¥480x40本=¥19,200となる。
交通費も、各駅で降りることになるので¥160x33区間=¥5,280掛かる。自宅までの交通費も入れると1万円弱か。
その他、プラスチックマウントや収納バインダーなどの費用も加えると、今回の撮影で5〜6万円掛かる。
だが、これも後悔しないようにするためであれば仕方無い。インターネットの粗い画像をダウンロードするよりも、自分で納得した角度から納得する画質で情景を写し取れればそれで良い。

秩父鉄道の運行ダイヤを調べてみると、1時間に2本くらいしか出ていない。つまり30分に1本であるから、全34駅を撮るには少なくとも17時間必要となる。そう考えると「34駅」というのが急に多く感ずる。1日9時間の撮影で2日間必要ということか。これは大変である。
以上のことを考え、撮影機材については一眼レフではなく軽量な距離計連動式のNewマミヤ6とした。一眼レフでは重量の関係上、携行出来る交換レンズは1本のみである。気合いを入れれば広角レンズと標準レンズ2本くらいは携行出来るかも知れぬが、1日9時間で2日に渡って行動するにはとても無理である。営業職で重量物を運搬するのには慣れたが、それはあくまで瞬発力の部分であり、持久力としての自信は無い。
Newマミヤ6ならば、交換レンズは軽く、50mm広角、75mm標準、150mm中望遠の3本共あっても苦にならない。恐らく150mmレンズは使う場面は無かろう。だが、例え死加重となろうとも、万全を期す意味で後悔の無いようにしたい。
レンズが軽いからこそ、それを可能にする。

今回の装備
ここには写っていないが、レンズにはキヤノン製UVフィルターを装着して保護している。生産終了のレンズであるから消耗させるわけにはいかないからだ。ちなみにキヤノン製フィルターはネジの工作精度も高く、我輩的お薦め品。


●撮影1日目

5月2日、撮影1日目。
今回はデジタルカメラのコンパクトフラッシュメモリ(340MBマイクロドライブ)は忘れないように何度も確認した。バッテリーも2本共充電満タンである。
フィルムは計算上20本必要であるが、念のために30本入れておく。

朝6時前に家を出て電車に乗った。北千住駅から東武伊勢崎線で行けば、秩父線乗り換えの羽生駅までは1本である。寝ていれば8時くらいには着くだろう。
だが、我輩が乗った電車は「準急新栃木行き」であり、東武動物公園駅から羽生とは別方向に進んでしまった。それに気付いたのは終点新栃木に着いてからだった。急いで東武動物公園まで引き返し、そこから羽生まで急いだ。結果、予定より1時間遅れの到着となってしまった・・・。

「まあ、あまり朝早くとも陽の光が赤く影も長いので撮影には適さなかったろう」と自分を納得させ、撮影を開始した。
撮影のポイントは、「駅舎全体のカット」、「入り口付近のアップ」、「改札の様子」、「ホームの眺め」である。しかし、羽生駅では電車がすぐに来てしまったため、思わずそれに飛び乗り、「ホームの眺め」を撮り忘れてしまった。初っぱなからの計算違いに、気分が少し落ち込む。

次の西羽生駅は何も無い駅で、撮影は最小限で終わった。
次の電車までまだ30分くらい待つので、改札口をストロボ撮影していた。すると駅長殿が出てきて我輩に声を掛けた。

(駅)「写真撮ってんの?お仕事?」
(我)「いや、趣味ですわ。秩父線の駅を全部撮ろうと思って。」
(駅)「ふーん、各駅で降りて?お金が大変じゃない?」
(我)「まー、全部で34駅だから5千円くらい掛かりますかねえ。」
(駅)「1日で撮るの?」
(我)「いやとても。2日間くらいですかね。」
(駅)「そっかぁー、しっかし今日は平日ダイヤだからねぇ。ドサイ(土祭?)ならフリー切符が使えるんだけどねー。」
(我)「まあ、仕方無いですわ。」
(駅)「いや、何とかしてあげたいなぁ。ちょっと待ってて、熊谷駅(くまがやえき)に連絡してあげるから。」

駅長殿は駅員室に戻り、熊谷駅に電話を掛け連絡をとった。
話によると、熊谷駅の管轄は羽生〜武川(たけかわ)までの13駅で、そこまでなら途中下車出来るように手配してあると言う。各駅で我輩の名前を言えば、一時的に駅を出ても良いとのこと。これならば西羽生〜武川間の乗車券¥620だけで済む。実に有り難い。
我輩は西羽生駅の駅長殿に礼を言い、次の電車に乗った。

次の駅からは、切符を見せ名前を言うだけで途中下車出来るようになった。駅によっては「ご苦労様です」と声を掛けてくれる駅長殿もいた。
熊谷駅に着くと、我輩は各駅に手配頂いた熊谷駅長殿を訪ねた。今回の手配に対して礼を言うためだ。ついでに駅員室も撮影させて頂いた。

熊谷駅の駅員室の中。

その後も撮影は続いたが、武川駅に到着した頃はすでに16時を回っており、陽はかなり傾いていた。露出的にはまだしばらく撮影可能であったが、夕方の雰囲気が写真に出てしまうのはなるべく避けたい。なぜなら、今回の撮影は情報量が全てである。夕方の赤い光や長い影は確かに趣のある雰囲気を醸し出すかも知れぬが、同時に写真に込める情報量を減らしてしまう。長い影に邪魔されず、正しい色で全ての駅を記録したい。情報量の大きな中判カメラを使う理由もそこにある(参考:雑文260)。
そもそも、駅舎そのものを持って帰りたいくらいなのだ。我輩の出来ることと言えば、持てる力の最大を尽くして写真に収めることしか無い。そのために、その風景の時間を感じさせない撮り方をしたい(参考:雑文128)。

そういうわけで、今日の撮影は次の永田駅(ながたえき)で最後としよう。目標の中間地点である寄居駅(よりいえき)まであと3駅(1時間半)だったのだが、それは明日の撮影で挽回したい。

この日、消費フィルム量は21本。帰宅途中、上野ヨドバシカメラに立ち寄り現像に出した。この消費ペースのままではフィルムは足りなくなることが予想されるため、新たに10本買い足した。

●撮影2日目

5月3日、撮影2日目。
前の日の遅れもあり、4時台の始発で出た。今度の撮影は昨日とは反対側の駅から攻めて行こうと考え、最初に一番遠い三峰口駅(みつみねぐちえき)に行く計画とした。
しかし、三峰口駅までは3時間半も掛かる。しかもそれは秩父線の急行を利用した場合である。朝の早い時間には急行は無く、結局4時間以上も掛かってしまい、到着したのは8時過ぎであった。だが、撮影していくうちに段々遠くなっていくようにしてしまうと帰る時に気が重いので、やはり遠い駅から帰宅方向(中間地点の寄居駅)へ撮影していくのは良い方法なのだ。

この日は祭日ダイヤのため、フリー乗車券(¥1,400)を利用することが出来た。但し、祭日の山登りハイキング客で主要な駅はごった返していたのは計算外だった。時間帯によっては電車は満員状態となり、我輩を含め多くの者は大きな荷物を持っていたので大変な状態であった。まあ、祭日運行のSLに2度遭遇したのであるから、良しとしよう。



今日の撮影ペースはなぜか遅く、終わってみると昨日より少なく12駅、消費フィルム量は18本にとどまった。こればかりは列車のダイヤに依存する問題か。
結局、残すは8駅。やはり2日間では回り切れず3日目が必要。しかし、さすがに疲労は蓄積し、3日間連続撮影は断念した。最後の撮影は数週間後としたい。
だが考えようによっては、2日間の撮影結果を見てから3日目の撮影を行うほうが、失敗のフォローも出来て好都合と言える(フォロー出来る範囲の失敗であれば良いが)。フィルムの買い足しは、現像結果を見てから考えることとする。

今回の撮影では両日共快晴で、強い光の下でデジタルカメラの液晶パネルを見るのには苦労させられた。しかし、今までの経験を活かし、多少暗めだと思っても階調そのものを見ることにより、適正露出の山を掴めるようになってきた。やはり、液晶パネルによって仕上がりイメージが事前に確認出来るというのは安心感に繋がる。撮影時には気付かなくとも、駅舎の日陰の中で液晶パネルを見れば、より正確なモニタリングが可能である。
さらに、デジタルカメラを使う利点としては、絞り値やシャッタースピードなどの撮影データを確実に残せるという点である。どのカットでどのような設定値で撮影したか、それはそれぞれの画像に書き込まれており、取り違えや勘違いが無い。このデータは今後の撮影に役立つのは言うまでも無かろう。

しかしながら、ごくまれに同じ露出設定値でもシャッターを何度か切ると極端に違う明るさになってしまう現象が現れた。前回の感度400事件もそうだが、このデジタルカメラEOS-D30の不具合によるものかという気もする。
それにしても露出計代わりにしてはやはり図体が大きい。マニュアル露出で撮影可能なデジタルカメラならば、何も一眼レフ型でなくとも小型のもので十分。例えばオリンパスの「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」では、外光に惑わされる外部液晶パネルではなく、ファインダー内で表示する液晶パネルであるため、常に安定した条件で撮影結果が確認出来そうである。値段も新品で4万円台と比較的安い。

●撮影3日目

撮影3日目は、天気の都合で3週間後の5月25日(土)となった。
撮り残した駅や、もう一度撮り直すべき駅などを合わせると、まだ10駅弱はある。確かに、今までのペースを考えると1日10駅巡るのは不可能では無い。だが、撮り直したい駅が連続で並んでいれば良いのだがポツリポツリと離れているのでそうもいかない。やはりあと2日は掛かると予想する。

前回は、午前4時台の始発で出発したが上野駅での接続が良くなかったこともあり、今回は20分遅れで家を出た。
基本的な装備は今回も変わりないが、露出計代わりのデジタルカメラは、新たに購入した「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」であり、前回に比べて小型・軽量を果たした。ただ、電池の保ちが未知数だったため余裕を見てバッテリーを5セット(単3型x4個x5セット)入れており、その分肩に掛かるバッグの重さは前回と変わらないように感ずる。

現地に着いて早速、明るい日差しの中でデジタルカメラを使用した。さすがにファインダー内液晶のためか、外光に惑わされることは無い。しかしドットの粗い液晶のため、露出の山を掴むのが難しい。最初は不安でもあり、頻繁に単体露出計でチェックしていた。
さらに、デジタルカメラ側の最小絞りがF8までというのは計算外だった。そのため、デジタルカメラの露出値を中判カメラに合うように変換するという面倒臭い作業が必要となった。なぜならば、Newマミヤ6はレンズシャッターのため最速シャッターは1/500秒までしか無い。

さて、2駅くらい回ると、何となくデジタルカメラの液晶のクセが掴めるようになってきたような気がした。だが、それは実際に現像の上がったポジを見てみないことには確信は持てない。それ故、前後の露出を何枚か段階露出を行った。
それにしても、意外にもこのデジタルカメラは電池の保ちが良いようだ。

途中、寄居駅でSLに遭遇した。前回は通過駅で遭遇したため、通過する一瞬を撮影したに過ぎなかった。だが寄居駅ではSLはしばらく停車するようだ。
我輩は予定外ではあったがSLを撮影する良い機会とばかりに何枚もシャッターを切った。黒い車両に明るい空であるから、露出にも神経を使う。失敗しないよう、これも段階露出でカバーした。

SLの撮影が一段落し、今後の予定を立てるべくフィルムの整理を行った。
駅の多くは「ゴミ持ち帰り運動」のため、フィルムを包んでいたビニールパッケージや留め紙などのゴミがカバンの中に氾濫していた。ゴミを握り固め、露光済みフィルムを束ねて整理し、残った未使用フィルムを数えた。
「1、2、3、4、・・・5? 5本?!なんでこんなに残りが少ないんだ?」
残りフィルム本数は、12枚撮り5本。時計を見ると4〜5駅は回れそうなのだが、いかんせんフィルムのほうが足りぬ。段階露出を節約するにも、まだ新しいデジタルカメラを露出計として使いこなしているとは言えず危険が伴う。

それにしても妙だ。いくら段階露出が多めだからと言って、今回は特にフィルム消費が激しい。まさか、SLの写真が多すぎたか・・・?
前回と前々回の撮影では、各20本ずつフィルムを消費した。今回も20本のフィルムで十分だと思い、それ以上は用意していなかった。
結局、午後1時頃に最後のフィルムが終わった。あたかも、拳銃を全弾撃ち尽くしたかのようだった。多くの敵を前にしながら弾切れという気持ち・・・、その瞬間に戦意喪失。為す術無くホールドオープンされた拳銃をゆっくりと下ろすしか無い。

この日、消費フィルム量は21本。帰宅途中、いつものように上野ヨドバシカメラに立ち寄り現像に出した。そして新たに20本買い足した。・・・金が無い。


数日後、フィルムの現像が上がった。
見ると、意外にもほとんどのカットで段階露出の真ん中のコマが適正露出となっている。やはり外光に惑わされないファインダー形式の液晶パネルの効力であろう。これならば段階露出は不要か。しかしまあ、100パーセント全てのシーンでうまくいっているわけでもなく、失敗の許されない状況では、やはり段階露出で保険に加入することは大切。例えそれが掛け捨ての保険となろうとも。

●撮影4日目

撮影4日目は、我輩の都合により8月11日(日)となった。
「デジカメは露出計となり得るか」という本企画は、長期休暇の本番撮影に備えたテストであったが、この4日目には長期休暇の本番撮影を既に過ぎており、もはやテストの必要性は無い。だがこのテストは、撮り直しのきく本番撮影をテストとして利用していただけであるので、テストの意味が終わっても撮影自体は完結させる意味はある。
今回は気まぐれで、入射角5度のスポット測光が可能な露出計を併用することにした。

前回は、フィルムが途中で無くなったことにより撮影中断を余儀なくされた。あと6駅ほど残されていたのだが仕方無く撤退した。今回はその残りが対象である。
フィルムは当初からKodak EPPを使用しており、当然ながら今回もEPPで20本備えた。
デジタルカメラ「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」のほうは、意外にバッテリーの保ちが良いと判明しているので、2セットだけ用意した。まあ、今回は撮影枚数が少なそうであるから、バッテリー交換の必要さえ無いだろうと思う。

まず、撮り逃しのあった羽生駅(はにゅうえき)で撮影を始めた。
朝方であるため、色温度が若干低い様子。計算外ではあるが、まあ駅舎であるから多少は旅情が出て良いかも知れない。
電車が丁度ホームに入ってきたので、その様子も撮影した。

ホームに入ってきた電車から人が降りてきたが、その中の一人の婆さんがこちらに向かって声を掛けた。
「熊谷(くまがや)から長瀞(ながとろ)に行こうと乗ってきたんだけど、この電車じゃなかったんかね。」
妙な洋服(フリフリの付いたパッチワークのような洋服)を着た風変わりな白髪混じりの婆さんだった。
我輩はファインダーから目を離した。
「ながとろ?」
我輩は不意を突かれたため、とっさに頭が働かなかった。長瀞・・・と言えば、そういう駅があったような。
すると婆さんは苛ついた様子で「知っとるのか知らんのか」と問うた。
我輩はその態度が人にものを訊ねるものではないと思い、反射的に「知らん」と返した。
すると婆さんは、近くの駅員のほうに行き話し掛けた。駅員は婆さんに一生懸命に説明していたのだが、長瀞に行くためには同じ電車で戻れば良いだけであるのに、なぜか5分近くも説明しているのが見えた。一体、婆さんは何が納得出来なかったのか。しかし、我輩が捕まらなくて良かった。

我輩は羽生駅の撮影を終え、三峰口(みつみねぐち)行きとなったその電車に乗って次の目標の新郷駅(しんごうえき)を目指した。
この電車は3両編成で、両側2両が冷房車、真ん中の車両が非冷房車である。我輩は席の空いている非冷房車に座っていたが、例の婆さんは隣の冷房車に座っていた。
数分後、電車は新郷駅に到着。ここは以前にも撮影していた駅だが、1枚だけ撮り直したいカットがあった。我輩は新郷駅で下車し、婆さんを乗せた電車は走り去った。

撮影を済ませて次の列車に乗り、しばらく電車に揺られた。次の目標は15駅離れた波久礼駅(はぐれえき)である。
しかし、途中の熊谷駅に到着した時、ホームで例の婆さんがいるのに気付いた。
婆さん、あんた長瀞に行くんじゃなかったのか?
婆さんは、何くわぬ顔で我輩の電車に乗ってきた。そして、冷房車に移動するために我輩の前を通り過ぎた。・・・と思ったら、いきなり通路でジャンプを始めた。ドスン、ドスンと跳んでいる。見ると、通路に設けられている整備用の扉(?)の上で跳んでいるようだ。何のために跳んでいるのか理解出来ないが、婆さんの目には、その扉が少し浮いて見えたのかも知れない。

波久礼駅で今度こそ婆さんとの別れを果たした。
ホームに降りると、ムンとするような夏の匂いと、周囲をとりまくセミの鳴く声があった。ここは、緑が近い。懐かしい風景だ。
こういう場所があるからこそ、秩父線を撮る価値がある。そう思わせる駅だった。
駅舎を撮影していると、バミューダ(半ズボン)を穿いた男が寄ってきて我輩に話し掛けた。
「寄居までの道、分かります?」
どうやら車で来たらしい。だがここは我輩にとって見知らぬ土地。素直に「知らない」と答えた。すると、男は駅長のほうに行って再び訊ねた。しかし、今どきならナビゲーションシステムで道順などすぐに分かりそうなものだが。

次に向かったのは樋口駅(ひぐちえき)。
そこで撮影をしていると、若い駅長殿に声を掛けられた。
「写真撮ってんの?電車を撮らないの?」
電車にはあまり興味が無いのであるが、少し遠回しに答えてみた。
「秩父線には珍しい電車は無いから。」
そう言った後で、「そう言えばSLが走ってたな」と気が付いた。
ホームには15〜16歳くらいの少女が携帯電話を操作していたが、カメラを振り回している我輩が近くを通ると珍しそうに見ていた。

その次の駅は野上駅(のがみえき)。
バイクで訪れた青年が、我輩の撮影している姿を見てあからさまに身を逸らした。だが残念なことに、広角レンズであるからいずれにしてもフレームインしている。

最後に白久駅(しろくえき)。
ここも以前撮影した場所だが、やはり1カットだけ気に入らなかった。
撮影を始めると、数人のグループも撮影をしているようだった。ただ、そのグループは会話ばかりで撮影には熱心ではない様子。しかも、「線路に飛び込むと駅員に迷惑かけるぞ」とか「上手くやるから大丈夫だ」というような妙な会話をしており、少し気になった。
ふと、片側しか無いホームから線路を見ると、その向こうに三脚のようなものが見えた。何かの測定器かなと思ったが、電車が到着する直前にグループの一人がサッと線路に降りて横切り、その三脚に素早くカメラを取り付け、ホームに進入する電車の写真を反対側から撮影し始めた。危ないなあとは思ったが、許可を取っているのだと解釈してそれ以上の観察は止め、我輩は自分の撮影を行った。


・・・以上で秩父線の撮影は全駅完了した。
今回の撮影もデジタルカメラによる測光が効果を上げ、ポジのスリーブを見ても露出的にイメージから外れたカットは2〜3枚しか無かった。一応、プラスマイナス0.5段の段階露出は行っているが、その0.5段の中間に適正露出があるとすれば、どちらのコマを採用すべきかを迷うことになる。やはり、真ん中のコマにドンピシャリと露出が合うことが重要。段階露出はあくまで保険という位置付け。

今度の企画では、デジタルカメラのラチチュードの狭さが露出の決定に大きく影響したと思う。もしデジタルカメラのラチチュードが広ければ、どの露出値を採用すべきか迷ったに違いない。
問題は、それを表示する液晶パネルのほうにあった。強い外光に邪魔されて正しく液晶画像を確認出来なければ意味が無い。ファインダー内液晶である「CAMEDIA C-700 Ultra Zoom」はその点に於いて優れていると言える。



※今回の駅舎撮影は「写真置き場」にて展示する予定