[271] 2001年06月01日(金)
「貧乏人のための商品撮影(第2段階)」
●照明光の工夫
商品撮影などのブツ撮り撮影では、まず重要になるのが「照明光の組み立て(ライティング)」である。
野外の自然光での撮影の場合、ライティングは自然任せとなる。そのため、自分のイメージに合ったライティングを求めるために、移動したりタイミングを図ったりする。それは太陽や天候など、人間の力ではコントロール不可能なものであるため、必然的にそのような受け身にならざるを得ない。
しかし、商品撮影に於いては、いくら待っても最適なライティングはやってこない。自分自身が己の意志を以て照明光を組み立てねば話が始まらないのだ。
しかし逆に、照明光さえ工夫すれば、それらしい写真がすぐに出来上がる。しかもそれは、ちょっとした手間をかけるだけで可能なのだ。
通常は複数の光源を使い多灯にて照明光を組み立てる。しかしここでは、手元にある1台のストロボを有効に利用し、1灯のみで可能な限り多灯ライティングの効果に近付けることが目標だ。
さて、ここで様々な照明方法による撮り比べをしてみた。「室内蛍光灯」、「ストロボ正面照射」、「ストロボ上面照射」、「天井バウンス」、「アンブレラ使用」、「トレーシングペーパー使用」の6パターンである。
<照明光の違いによる撮り比べ>
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3sec. F2.0
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室内灯(蛍光灯)をそのまま利用し、3秒・開放絞りで撮影。光量が決定的に不足しているため、絞り込むことが出来ずに被写界深度が浅くなっている。この作例ではレンズがボケているのが判る。また、照明光の色がそのまま被写体に被るなど、撮影条件をコントロールすることが難しい。
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1/180sec. f16
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クリップオンストロボをカメラの頭に装着し、そのままダイレクトに発光させた。撮影方向と同じ角度の照明光であるため、影は出来ず平面的な描写となる。ちなみに、カメラ内蔵ストロボでも同じ結果となる。
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1/180sec. f16
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ストロボをカメラから離し、シンクロコードで繋いだ。そのため、照明光に角度が付き、立体感が生まれた。しかし発光はダイレクトであるため、強い影が出来て全体的なコントラストが高い。ゴミが最も目立つライティングでもある。
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1/180sec. f2.0
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白い天井に向けてバウンス撮影。発光面積が大きくなる分、光量は低下し、被写界深度は浅くなる。暗黒中でストロボを何度も発光させて蓄光させるのも手だが、バルブシャッターを備えたカメラでないと不可能。そもそも、部屋全体を照明する方法であるので、被写体の光沢面(この場合はレンズの反射面)には余計な映り込みが避けられない。
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1/180sec. f11
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ストロボにアンブレラ(反射傘)を装着して撮影。天井バウンス撮影と同様に、発光面積が広くなった分、光がまわりこんで影が柔らかくなっている。しかし、被写体の光沢面(この場合はレンズの反射面)には傘の形が映り込んでおり、かなり見苦しい。
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1/180sec. f11
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被写体にトレーシングペーパーや乳白色アクリル板で覆い被せ、その上からストロボ光を照射。光が十分にまわりこみ、しかも光沢面の映り込みが美しい。ちなみに、光の拡散度が大きい分、光量低下も大きい。
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一見して判るとおり、上の作例の中で最初の4点は話にならないので、これ以上の解説はしない。問題は、残りの2点「アンブレラ使用のもの」と「トレーシングペーパー使用のもの」だ。
アンブレラは人物撮影時には有効である。眼球以外に光沢面は無く、アンブレラの形がそのまま映り込むことが無いからだ。しかも雨傘と同じように折り畳みが可能であり、収納性やセッティングの柔軟性も大きい。ちょっとしたスタンドがあればすぐに設置出来る。
その流れに乗って商品撮影も同じようにアンブレラを使いがちになるが、やはり光沢面のある商品にはアンブレラの形がそのまま映り込んでしまうため、貧乏人にとっては幸か不幸か、アンブレラは使いたくとも使えない。
それよりも乳白色アクリル板やトレーシングペーパーを被写体に覆い被せるようにセッティングすると、安価で、かつ効果的な照明を得ることが出来る。
これはちょうど、曇り空での撮影に似ている。
曇り空の場合、雲一面が太陽の光を分散させているために発光面積が大変広い。発光面積が広いということは、光がよく回り込み影が柔らかくなるということである。そして、光沢面の映り込みがフラットな状態になる。商品撮影では、この「曇り空」を再現すればいいのである。
ちなみに、コマーシャル分野ではストロボヘッドに装着する「バンク(ソフトボックス)」がこれに相当する。普通の大きさのバンクで3〜5万円くらいするだろうか。バンクは大きくなくては意味がないので、金が掛かることは必至。
露出については、前にも述べたように、ここではデジタルカメラでの撮影が大前提であるため、何枚か撮影しながら最適値を探っていくことになる。結果がすぐに確認出来、不要なカットを即座に消去できるデジタルカメラならではの使い方が活かせる。
(もし、フラッシュ光を測光できる露出計を既に所有しているのであれば、勉強のために敢えて使うのも良いだろう。)
基本的に商品の全てに渡ってシャープに写すことが必要であるため、絞りは出来るだけ絞りたい。ストロボの光量に余裕があるなら、絞れるように光量を増やすようにする。
しかしいずれの照明法を用いたにせよ、イメージに合う効果を得るには試行錯誤が欠かせない。「アンブレラを使ったから」とか「トレーシングペーパーを使ったから」ということで単純に話が済まないところが悩ましくもあり、面白くもある。その部分のノウハウは個々人で積み上げる以外に無かろう。
・・・続けて補助光の話もしなければならないが、優先順位としては第3段階「遠近感の工夫」のほうが重要であるため、それは最後に回すことにする。
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