2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
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10.アンケート
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カメラ雑文

[389] 2002年12月29日(日)
「Canon TS-E 90mm F2.8を手放した理由」

以前、雑文341で書いた、オークションで入手した「Canon TS-E 90mm F2.8」、アオリ撮影可能なレンズとして利用価値がかなり高かったが、今回ついに金策のため手放すことになった。

このレンズを手放すことは、正直言って惜しい。だが、他に金になるような物が無い。どれもこれも、\5,000の値が付けば良いというようなものばかり。その中にあって万単位で売却出来そうなものはこのレンズしか無かった。

そうまでして借金を返済したいのか? いや、そういう訳ではない・・・。



我輩が中判用フィッシュアイレンズを入手しようとした苦労話は以前に何度も書いた。結局、全周魚眼レンズは自作、対角線魚眼は海外から取り寄せという結末であった。これで現在、魚眼ライフを楽しんでいる。
(特に全周魚眼カメラはコンパクトで、会社の忘年会などにも持参した)

実は、魚眼写真以外に中判で撮影したい写真がある。
それはアオリ撮影である。

中判カメラでアオリ撮影をしたいとは昔から思っていた。なぜならば、商品撮影にて奥行きのある被写体に全てピントを合わせるということが難しかったからだ。
今までは、単に絞りを目一杯に絞り込んで撮影していた。だがそれでも十分とは言えぬ。接写になればなるほど、被写界深度も浅くなりその範囲からハミ出てしまう。アオリレンズでピント面を傾けることが出来れば、そのような問題も解決出来よう。
ところが、やはり魚眼レンズの時と同じく、中判でアオリ撮影を行うのは非常に難しい。

まず、ブロニカのレンズを探した。ブロニカの645判ではシュナイダー製アオリレンズが存在したらしい。もちろん、現在のカタログには載っていないが、昔のカメラショーのパンフレットには載っている。
ただ、66判用のシュナイダー製アオリレンズの資料が無いのが不思議。このレンズは、645判のみの供給ということなのか?
まあいずれにせよ現行品でない特殊レンズは滅多なことでは手に入るまい。

次に、フジのGXシリーズが目に付いた。
このGXシリーズはカメラ本体にアオリ機構が組み込まれており、物理的にはどんなレンズを使ってもアオリ撮影が可能である。丁度、大判カメラが中判化したようなイメージ。
だがそれだけに図体も大きく、三脚使用が前提となる。しかもレンズとボディ間の電気接点が弱いようで、撮影途中でシャッターが降りなくなるという情報をインターネット上でたまに見る。
基本的にこのカメラは、スタジオなど室内で使うものだろう。
そういうのも困る。

もし、フジのGXシリーズを選ぶくらいならば、いっそ大判カメラにロールフィルムホルダを付けたほうが良い。GXシリーズのように大げさな電源も必要無く、汎用性が高くレンズの選択肢も広い。 ピント合わせなどの手間はあるだろうが、どちらにせよ三脚固定のカメラでは、それほど使い勝手を追求しても意味は無かろう。
だがやはり、これも我輩にとっては大げさ過ぎることに違いは無い。

他を探すと、ローライSL66シリーズがカメラ本体の機能によりアオリ撮影可能であると知った。だが、システムを揃えるには費用が掛かり過ぎる。しかも製品写真を見る限りにおいては、大きくアオることは難しそうだ。

さらに、ハッセルブラッド用にアオリ撮影用アダプタを見付けた。
このアダプタをカメラとレンズの間にかませ、装着したレンズを動かすらしい。
だがこのアダプタ自体が高価で、しかも一般撮影レンズを使うとイメージサークルから外れることもあるかも知れない。
何よりハッセルブラッドであるから、一通りのシステムを組み上げるには膨大な金が必要であろう。最初から、迷う余地すら無い。

そういう訳で、一旦は中判カメラによるアオリ撮影は諦めた。魚眼レンズのように、どこかに物があるという希望があれば良いのだが、今回は情熱を燃やす対象となる製品が始めから存在しないのである。

ところがある日、ふとしたことでkievcamera.comというサイトに「Hartblei」というブランドのアオリレンズがあるのを見付けた。先日購入したKiev6Cに装着出来るとのこと。これは良いものを見付けた。
だがすぐに我に返った。実は、我輩所有のKiev6cはシンクロ接点が不良でストロボ撮影が不可能なのだ。

中古カメラの場合、シンクロ接点の不良はよくある。雑文012でも書いたが、店頭でチェックする項目の一つに挙がっている。店側でそこまで事前にチェックしていることは希なため、購入時に自分で確認する他無い。
今回は通販ということで、シンクロ接点のチェックをメールで依頼しておけば良かったのだが、つい忘れていた。

せっかく見付けたアオリレンズ、諦めきれずkievcamera.comのサイト内をうろつき回っていると、一つのカメラを見付けた。
Kiev88の改良版「Kiev88CM」である。

Kiev88の存在は以前から知っていた。
ハッセルブラッドのコピーカメラで、その造りは雑。フィルムバックからの光線漏れは日常茶飯事と聞く。どうやら引き蓋辺りの遮光が破れるらしい。
しかもレンズマウントは独自で、Kiev6CやKiev60、そしてPENTACON6との互換性が無い(マウントアダプタはあるがKiev6C→Kiev88変換のみ)。
そういうわけで、我輩にとってあまり興味の湧かぬカメラではあった。

だが、今回見付けたKiev88CMをインターネット上でリサーチしてみると、なかなか良いものらしい。
不具合も見られず、ロシアカメラ(ウクライナ製だが、ロシア体質であることは間違い無く、ロシアカメラと言わせてもらう)には珍しく、ユーザーの声を反映させて作られたということだ。
しかも、何と言ってもKiev6Cマウントを採用しているということが大きい。これならば、現在所有している魚眼レンズ「zodiac30mmF3.5」も使えて好都合。

我輩は、具体的な目標を見付けて燃え上がった。
「よし、このカメラとアオリレンズを購入しよう。新品であるのが何より楽しみだ。」
我輩は早速、ブロニカ魚眼レンズを購入した時にお世話になった輸入代行業者「New York Best Life.com」に見積もり依頼を出し、内容を確認して発注した。

今回は、税関で課税されにくい方法で送付して頂いたとのことで、不思議なことに関税が掛からなかった。しかも、見積もり依頼から数えて11日ほどで品物が手元に届いた。
乱暴に梱包を解き、まずレンズを確認、そしてカメラを確認した。
「ああ、確かにこのレンズだ。素晴らしい。さらにカメラも予想以上の重量で安定感がある。心配していた安っぽさが無い。」
我輩は感無量だった。

「Kiev88CM(左)」と「BRONICA SQ-Ai(右)」を並べてみた

HARTBLEI Super-Rotator 45mm F3.5

シフト(左)とティルト(右)の様子。
シフトは最大10mm(645判で使うならば12mm)、ティルトは最大8度。キヤノンTS-Eでは両方向にシフトとティルトが可能だが、HARTBLEIでは片側のみ。その代わり、ティルトとシフトが別々にローテーション出来、自在な方向にアオリが可能。ある意味、最強のアオリレンズと言える。
そんな我輩とは対照的にヘナチョコ妻は、我輩が散らかした梱包材を何とかしてくれと文句を言った。「またしても男のロマンを理解せぬか!」とは思ったが、金を立替えてもらった弱みもあり、素直に梱包材の片付けを始めた。英字新聞を丸めた詰め物は全て伸ばして束ね、まとめてゴミの日に出す。

ひと段落した後、早速試し撮りをした。
カメラはズシリと重く、操作もブロニカとは違い戸惑いがあった。だがそれもじきに慣れた。ただ、シボ皮の端から接着剤がハミ出ているような仕上げはいただけない。ついでに言うとKievのロゴにも接着剤がこびり付いていて汚い。
また、フィルムバックは2つ付属していたが、どちらのローラー(プラスチック製)にもバリが残っており、フィルムに悪影響を与えるのは明白であったため、全てを自分で削り落とした。

さて、試し撮りではさすがに新品だけあってシンクロ接点は生きていた。しかもこのカメラにはホットシューがあり、クリップオン・ストロボがそのまま装着出来るのが嬉しい。
撮影したフィルムは、翌日現像に出した。

ところが、出来上がったフィルムのスリーブを見て思わず唸った。
絞り値を変えて撮影したどのカットも同じ露出・・・。なぜだ?
レンズをよく見てみると、絞りがたまに動かなくなるときがあるのが確認出来た(このレンズはアオリレンズであるため、自動絞りでは無い)。
どうも、絞り環を前方に押しながら回すと良いということに気がついた。
「さすがロシア製。使い方のコツがあるんだな。」
などと一人で納得していたら、いつの間にか、どうやっても絞りが動かなくなってしまった。
さすがにこれはマズイと思ったが、修理に出そうにも海外であるからまた手間と時間が掛かる。
どうするか。
その日は考えがまとまらず、とりあえず寝た。

次の日、会社から帰宅してすぐにレンズを色々な角度から見てみた。絞り環を往復させ、その時の絞り羽根の動きのパターンを読んだりした。
どうやら、絞り環と絞り機構とのリンクが不完全であるらしい。
マウント側から覗くと、アオリレンズの割に単純そうな感じだった。
「ウーム、これならば我輩にも分解出来るかも知れない。」
何でも分解しようとする我輩の悪い癖が出てきた。

マウント側から見えるそれらしいネジを4つ取り外すと、アオリ機構の部分がレンズから分離した。それと同時に、絞り環が簡単に抜けた。見ると、絞り環のカムが絞り機構とリンクするような仕組みになっており、そのカムがズレやすいために今回の不具合が起こったと判明した。
絞り環を前方に押しながら回すとうまくいくことがあるのは、カムとのリンクが正常位置に近くなるためだった。だが、カムが一旦外れればその裏技も意味が無い。

我輩は、そのカムが正常な位置に来るようにペンチで曲げて調整した。比較的柔らかい金属で加工は楽だった。
果たして、絞り環は機能を完全に回復した。 これで一安心である。

その結果得られた写真が以下の2点である。
被写体は手元にあるものでつまらないが、アオリレンズの実力を見るためであるから、これで十分に用が足る。


奥のスプーンにまでピントが合っている。
<66判ノートリミング(1/30sec. F22)>

銃身の長いGunも奥行きを表現しながらピントを出すことが可能。
<66判をトリミング(1/30sec. F22)>

例によって、この画面からは写真のシャープさは表現出来ぬ。もっと大きな画像サイズで掲載すれば良いのだろうが、そんなことをすればディスクスペースを浪費して当サイトの寿命を縮めることになるので避けた。

実はこの写真を得るのに2回ほど撮り直しをした。
このカメラの視野率とレンズのアオリ具合に対する不慣れがあったことによる。

このアオリレンズは45mmであるから、35mm判換算で24mmくらいとかなりの広角。しかし、被写界深度はまさに45mmのそれであり、アオリ無しでは接写でのパンフォーカスは難しい。
唯一残念であるのは、このカメラはフォーカルプレーンシャッターのためストロボ撮影が上限1/30秒であること。ブロニカが1/500秒であるから、多少不便に感ずる。ストロボ撮影の際は定常光が影響を与えぬよう注意をせねばなるまい。

それにしても、我輩の目論んだ「広角レンズによる接近のディフォルメ効果」が良く出ており、なかなか迫力のある写真になっている。ブロニカでは撮れない写真と言い切れる。
66判の大きなフィルムいっぱいにシャープなピントを結んだ映像、非常に満足。
それでこそ、「Canon TS-E 90mm F2.8」を手放した甲斐があったというもの。

ちなみに、「Canon TS-E 90mm F2.8」はオークションで\80,000にて入手したものだが、我輩の丁寧な説明と写真でオークションに出品すると\91,000で落札された。