2000/04/05
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カメラ雑文

[726] 2011年06月22日(水)
「生きたままでの埋葬」


やや都市伝説的ながら、意識がありながらも全身麻痺状態のため意思表現が出来ぬまま脳死と判定されたという話を聞いたことがある。
生きた状態で埋葬されることを本人が悟った時、どれほどの恐怖と絶望感があったのだろうか。想像もしたくない。
そういえば昔の話として、土葬された死人のことが気になり掘り返してみたところ、やはり死んではいたが手の爪が剥がれ血まみれになった状態で見付かったというものがある。その棺桶の丸いフタの裏側には、引掻いた跡が無数に残されていたそうだ・・・。

−−−−−−−−−−−−−

最近我輩は、地域企業の集まりで作る某団体の幹事をやっている。
幹事の中ではいくつか部があり、その中で我輩は広報部で活動することになった。
広報部では、予想通り我輩はカメラマンを任命され、大ホールで行なわれる企業集会の撮影などを行なったりしている。

その広報部には我輩を含め9人(8社)いるのだが、そこにいる某有名メーカーの部長殿(以下U氏と呼ぶ)が人懐こいオイちゃんで、飲み会で最初に親しくなった。
その際、写真の話になったのだが、「どうにも困ったことがあり相談したいことがある」という。
U氏は、10数年前からデジタルカメラで家族や職場の写真を撮っており、それを何枚かのCD-Rに焼き付けて保存しているとのこと。ところが、それらのCD-Rを最近になって観ようとしたところ、データが読めなくなっているというのだ。

10数年前からデジタルカメラを使っているというので、まずは「スゴイですねー」と誉めておき、それから詳しい話を伺った。
聞くと、CD-Rは何度か追記を繰り返しているそうだ。ところがなぜか、最後に追記したデータしか存在しないのだという。
なるほど、ありがちなパターンではないか。

CD-Rには追記を繰り返していたということから、マルチセッションになっていることが判る。
追記で注意しなければならないのは、既に記録されているセッションを追記時に読み込まなければ前のデータが見えなくなるという点。
従って、これはCD-Rの不具合ではなく、CDライティングソフトの操作ミスである。

それにしても、これまで何度も追記しているというのに、その都度気付かなかったのだろうかと疑問に思う。
まあ、そこで気付かないところが一般人たる所以(ゆえん)か。

CD-Rというのは、文字通り、レーザー光を使ってデータをCD-Rの色素面に"焼き込む"ことで記録を行なう。
焼かれた色素は元の状態には戻せないため、ディスクを物理的に破壊しない限りはデータが消えることは無い。単に、データを引き出せないようになっているだけだ。

こういう場合、前のセッションを読み込んで改めて焼き直せば復旧するはず。恐らく、手間もかからぬ簡単な作業だろう。
我輩は、お近づきのしるしとして、そのCD-Rの復旧を請け負うことにした。

後日受け取ったCD-Rの枚数は、15枚。
手書きのレーベルを見ると、古いものでは1999年の文字がある。これらの家族写真が全て見えなくなってしまっているとすれば、かなり悲しいことだろう。是非とも復旧し、U氏の不幸を救いたいと思う。

まず、当初の予定通り、前のセッションを読み込んで焼き直そうと思ったが、我輩の使っているライティングソフトでは、1つのセッションしか読み込めないようで、複数のセッションがある場合に全てを一度に見えるようには出来なかった。
これは当然と言えば当然で、例えばそれぞれのセッションに同じファイル名のデータがあった場合、もし2つが同時に見えるようになると矛盾が発生することになる。

仕方無いので、追記されたセッションの数だけ焼き込み作業を行なうのだが、その都度、読み込んだ1つのセッションしか見えないことになる。もちろん、1つのセッションを復旧するたびにハードディスクへ保存していくのだが、CD-Rは最後に読み込んだセッションしか見えなくなってしまう。
預かったCD-Rを使い捨てるように利用するのは気が引けるため、この方法はやめておこう。

次に試したのは、各セッションを読み込んでISOイメージファイル化し、それを別のCDに焼き付けることである。
焼き付ける回数が多いので、再利用出来るCD-RW(相変化型記録CD)を使う。
リッピングソフトを使い、ISOファイルを生成。ここまではうまく行った。ところがこれをCD-RWに焼こうとするとエラーが出て進まない。他のセッションのISOファイルに替えても、他のディスクのISOファイルに替えても、どうにもうまく行かない。
ソフトの相性の問題かと思い、リッピングソフトやライティングソフトを色々と変えてみたところ、数は少ないが焼けるものがあった。

一部復旧された写真データを見ると、お子さんの入学式やら家族での食事会など、家族愛に満ちたものばかりで、「これは中途半端な復旧でお茶を濁すわけにはいかないな」と思った。
何としても、データの復旧をせねばならぬ。

そこで、方法を変えて試してみることにした。
ライティングソフトの機能のうち、「ディスクコピー」を使って元のディスクのクローンをCD-RWで作成し、そのCD-RWを使ってあらためて1つ1つのセッションを読み込むのである。
ただし、表面上見えるセッションだけがコピーされるものだとしたら何の意味も無い。隠れているセッションも含めて全ての状態がコピーされねばこの方法は使えない。

しかし試してみるとうまくクローンが出来たようで、隠れたセッションを読み込み直して焼くと、見えなかったファイルが取り出せるようになった。
後は、ディスクコピーをディスクの数だけ、そしてディスクそれぞれに存在する隠れたセッションの数だけライティングを行なうことになる。
見たところ、ディスク1枚あたり平均して5つくらいのセッションがあろうか。ディスクは15枚あるので、15x5=75回ものライティング動作が必要になる。少々大変だが、やるしかない。

それにしても、ライティング動作が1回終わるたびにディスクトレイが出てくるのは面倒くさい。
ライティングソフトの環境設定画面には、「ライティングが終わったらディスクを取り出す」というチェックボックスがあるので、それを外してみたのだが、確かに終了後直ちにトレイが出てこなくなったものの、「ディスクを作成しました」のメッセージが出て、OKボタンを押すと結局はトレイが出てくる。手間が増えただけで意味が無い。

最終的に、数日かけてデータの復旧を成し遂げた。
我輩はそのデータを新たなCD-Rに焼き込んだ。追記出来ない状態としたのは言うまでも無い。

CD-Rが読めないという問題については、以前にも雑文540「幸せの秘訣」にて似たようなエピソードを書いたことがあった。
あの時は、CD-R作成時に他のパソコンで読めないとして騒ぎになったわけだが、今回の場合、何度か追記していくうちに過去のセッションが見えなくなってしまいデータが読めなくなったという点で異なる。

「追記」という日本語からは、過去のデータが消える(見えなくなる)という危険性は想像しにくい。
ところが実際は、改めて焼き直すということをやっている。過去のデータが必要ならば、それが見えるような焼き方をせねばならない。

想像するに、U氏が使っていたライティングソフトはたまたまデフォルト設定として、追記時に過去のセッションを自動的に読み込むようになっていたのではないだろうか?
そして、新しいパソコンに買い換えたりした時などに、ライティングソフトも別製品に替わってしまい、その状態でいつものようにデフォルト設定のまま追記して、結果的に過去のセッションが読み込まれなくなったのでは?

復旧したデータをU氏に渡したところ、非常に感謝され、我輩自身も「やって良かった」と感じた。
そして、「次からはCD-Rは追記無しで1回限りにしたほうが良いかも知れませんね。」と言うと、U氏は苦笑いしながら「そうします。」と懲りた様子で答えた。

恐らく、同じように困っている一般人が、日本中に大勢いることは想像に難くない。
U氏はたまたま、良心を持つパソコン通に出会ったから良かったものの、そういう幸運に巡り合えない者はどうするつもりだろうか?
有料でデータのサルベージを請け負うサービスもあるが、そこまで費用をかけてやる者も少ないだろうし、そもそもそういうサービスがあることを知らないこともあろう。

いくらCD-R上にデータが残っていたとしても、読み出すことが出来なければどうしようもない。
そして、もうダメだと諦めた時が、そのCD-Rの死亡宣告の時でもある。
それはまさに、意識がありながらも脳死判定を受けた者の悲劇と重なるようだ。

日本中で貴重な写真資料が埋没し、二度と日の目を見ないことを想像すると、我輩は胸の奥が痛くなるのを感ずるのである。


関連参考雑文
雑文022「迷い」
雑文095「データ完全消滅の危険性」
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イラスト提供:シェト・プロダクション