2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
 F4
 F-401X

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カメラ雑文

[830] 2014年11月11日(火)
「赤いもの探しの旅」


「紅一点」という言葉は、刺激のある表現だなと我輩は思う。
色彩の薄い中に1つだけ鮮やかな赤が存在するイメージが、文字通りパッと思い浮かぶ。

一般的に「紅一点」とは、多くの男性の中に1人だけ女性がいるという状況を指す。
赤い色というのは女性の象徴であり、トイレのアイコン(シンボルマーク)も全世界で赤と決まっている。

我輩が高校生の時、3年生になると大学進学のために文系クラスと理数系クラスとに分かれた。
理数系クラスは2クラスあるのだが、理数系を選ぶ女子の人数が10名ほどと少なかったので、うち1クラスは男子だけのクラスとなった。そして我輩は、その男子クラスに入ってしまった。
だから他のクラスが少々うらやましかったわけだが、それは意中の女子がいたというような話ではなく、少しの華やかさと言うか、黒一色の男子クラスの中にも赤い色となる存在があればなあと思ったわけである。

ちなみに家政科と呼ばれるクラスが他にあり、そこは女子だけのクラスであったが、それを見て何かを感ずることは無かった。
全てが赤色ならば赤の意味が無い。
これは思想の問題ではなく、あくまでも感覚の問題である。
我輩は赤系の色を好むことは以前にも雑文816で書いたとおりだが、同じく赤であっても紅葉のように一面真っ赤に染まるような光景についてはあまり気持ちが動かないのはこのせいかも知れぬ。

このような紅一点に惹かれることについてもっともらしく説明するならば、「サルなどの動物が、林の中で赤く熟した実を効率良く見付けるために必要な機能である」という仮説を持ち出すことも出来る。
これはつまり、かつて哺乳類が夜行性であったために元々あった4つの色覚のうち2つを失い、後に昼行性となった時に1色を取り戻したと言われている。この1色があることによって生存が有利に働いた可能性があるわけだ(※)。
(※昼行性に戻る前に1色を取り戻したサルもいるので異論も出ている)

<サル以外のほ乳類一般の色覚(2色型=赤緑同化)>
ほ乳類一般の色覚(2色型)

<ヒトやサルの色覚(3色型)>
ヒトやサルの色覚(3色型)

説明付けはどうあれ、風景の中に1点だけ赤いものがあれば確実に目を引くことは疑いようが無い。

●初めての出会い
さて、5年前に友人と群馬県へ車中泊旅行に行った時のこと。
道の駅「ぐりーんふらわー牧場・大胡」での夜が明け、そこから榛名山へ向かうことにした。特に目的があったわけではないが、そこがとりあえず近場の観光ポイントであったためである。

2台のクルマで九十九折りの坂を登り、榛名山の麓の駐車場に車を停めた。そこは自然散策路「ゆうすげの道」近く。榛名山ロープウェイが動き始めるまでの間、我々はその散策路を歩いてみることにした。

<自然散策路「ゆうすげの道」>
自然散策路「ゆうすげの道」
Nikon D200/18-70mm F3.5-4.5/ISO100/F6.7/1/160sec. [2009/10/11 07:35]

10月の季節ためか、植物は枯れ気味で彩度を失いつつあるように見えた。
しかしそんな中に、ポツンと1点だけ鮮やかに輝く赤いものが見えた。
近付いてみると、それは何とも不気味に見える植物の実であった。

友人は以前にもセミの羽化が気持ち悪いと言ったことがあり、今回のような植物もダメだろうと思ったが、やはり「うわ、気持ち悪い植物だなぁ!」と顔をしかめた。

その植物の実は、まるでトウモロコシのような粒を持っているのだが、粒の配置がトウモロコシのように整然としておらず無秩序。そして何よりもその色が毒々しく、しかも芯の部分が真っ黒。
その粒がなまじトウモロコシに似ているだけに、まるで奇形植物のようにも思えた。いや、そもそも地球上の植物ではないのではないか。

我輩は、とりあえず手持ちのカメラで3枚ほど写真を撮った。写真から名前が判明すればと考えたもので、いわゆるメモ撮影である。カメラ任せに何も考えずに撮ったせいか拡大すると手ブレがあったが、まあ良い。

<正体不明の不気味な植物の実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
正体不明の不気味な植物の実
Nikon D200/18-70mm F3.5-4.5/ISO100/F3.8/1/60sec. [2009/10/11 07:54]

帰宅後、我輩はこの植物の名前を調べようとしたが、手掛かりが無いので苦労した。インターネットでは名前から検索出来るが、植物の姿からどうやって名前を調べれば良い?
その色や形などの外見的特徴から検索キーを色々と入れてみたところ、ようやく類似した植物が見付かった。その名前は「コウライテンナンショウ/マムシグサ」。
勝手な憶測だが、「コウライテンナンショウ」という名よりも「マムシグサ」のほうが通りが良さそうに思う。

いずれにしても、こんな奇妙な植物はこれまで目にしなかったことから、ある程度の標高が必要な高山系の植物であろうと思われた。
不気味な姿なのだが、妙にその赤い色が目に焼き付いて離れない。機会があればまた見たいもの。
しかし身近に生えている植物ではないため、それからしばらくの間、この植物との接触は無かった。

●再会
2014年の10月になって、例の友人と食事会をした。
24時間営業のファミリーレストランで互いの職場の近況などを話したりした後、ふと「また今度、車中泊に行こうか」ということになった。

<食事会>
食事会

行き先について、友人は「上毛かるたを買いたいから群馬県ならどこでも良い」と言う。
「群馬県ならどこでも良い」ということは、つまり「あとの行程はよろしく頼む」という意味である。

これは困った。 群馬県は5年前にも行ったわけだが、群馬県は田舎なので観光スポットもそれほど多くは無い。また似たような行程になりかねん。
そのことを友人に話したところ、彼は5年前の詳細はあまり覚えていないらしいので、多少同じような旅になっても構わないと言う。

そうは言っても、なるべく前回とは被らないように考えたが、行程上、車中泊の場所が榛名山近くの道の駅「くらぶち小栗の里」ということになり、これならば翌朝に榛名山へ行ってみても良かろうと思った。またロープウェイで山頂からの景色を楽しむか。

当日夜、道の駅で就寝中、ふと夜中に目が覚めた。カーテンをめくって運転席側を覗いてみると、なんと雨が降っていた。これでは明日の榛名山行きはどうなることやら。
しかし今さらどうにもならないので、また布団に潜った。

<夜中に雨が降っていた>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
夜中に雨が降っていた
OLYMPUS OM-D E-M1/7-14mm F4.0/ISO400/F4.0/1.3sec. [2014/10/12 01:06]

夜が明けると、夜中の雨は止んでいた。
路面も乾いており、友人は雨が降ったことも知らないようで、我輩が夜中の写真を見せてやると驚いていた。
まあ、これならば榛名山行きも問題無かろう。

ところが榛名山へ行ってみると、山頂は霧に包まれており、どう見ても眺望など望むべくも無い。
そこで急遽、「ゆうすげの道」へ行ってみることとした。入り口に到着すると友人も記憶が蘇ったようで、「ああ、そういえば前も来たなあ。懐かしい。」と言っている。

<懐かしい「ゆうすげの道」>
懐かしい「ゆうすげの道」
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F4.0/1/160sec. [2014/10/12 08:24]

そこで我輩は初めて思い至った。
「懐かしいと言えば・・・、マムシグサがここに生えてたなぁ。今年も見られるか・・・?」

実は今回、ラジオシンクロユニットを接続したストロボを持参している。改めて言うまでも無いが、これが最近の我輩のスタイル。もしマムシグサがあったならば、単純なメモ撮影ではなくストロボライティングで撮影したい。

果たして、マムシグサは今回も姿を現した。
その赤さは離れたところからでもすぐに目に入り、この我輩を呼んでいるかのようであった。まさに紅一点の目立つ風景。
早速、我輩はストロボを配置して榛名山をバックに撮影した。

<榛名山とマムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
榛名山とマムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F5.6/1/60sec. [2014/10/12 09:01]

友人と話をしながら歩いてきた流れで、撮影しながらも会話を続けているのだが、さすがに撮影に時間をかけ過ぎると友人も飽きるだろう。もちろん、後のスケジュールのことも気になる。
だから、撮影結果をジックリと確認しながらの撮影は出来なかった。

それにしてもマムシグサの実、この不揃いな粒々がまた気色悪い。
よく見ると、芯が紫色に見える。もっと黒いほうが毒々しくて良いのだが、まあ、これはこれで良い。

<雨に濡れてシットリとしたマムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
雨に濡れてシットリとしたマムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F4.5/1/50sec. [2014/10/12 09:02]

マムシグサは茎が華奢なわりに頭が重いせいで、地面に倒れているものが多く見られた。
ふと見れば、マムシグサにしては粒々の形が整ったものが幾つか地面に倒れていたので、手に持ったストロボを上方から当てて撮影した。曇り空での撮影とは思えない見事な発色はストロボならでは。赤い色が良く映える。

<ストロボの発色は素晴らしい>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボの発色は素晴らしい
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F2.8/1/80sec. [2014/10/12 08:57]


●自然の森 A(仮称)
群馬から帰宅後、一連の写真をRAW現像した。そしてその中のマムシグサの写真を見ながら、「ここはこういうライティングにすれば良かったなあ」などと思うところがあった。
やはりこういう撮影は、一人で気が済むまでジックリと腰を据えて取り掛かるべき。友人を待たせながら撮っても納得出来る結果は得られない。

しかしそうは言っても、榛名山までの距離はそれなりに遠く、行くには時間と費用がかかる。マムシグサのためだけに行くというのはあまりに効率が悪い。
もっと近場でマムシグサが生えていないものか。

そこで、インターネットで近場のマムシグサ情報を探ってみた。
しかし予想した通り、近所のマムシグサ情報はなかなか検索ヒットしない。キーワードの入れ方を色々と試したのだが、これがなかなか難しい。周辺の市にまで検索範囲を広げてみたが、ヒットしても具体的な場所が書かれていなかったり、かなり古い情報だったり、全然関係ない情報が出たりする。

それでもようやく、クルマで45分くらいの距離にある「自然の森A」にマムシグサの群生があるとの情報を見付けた。ただし写真は無い。
早速、クルマに乗って現地へ向かったが、既に夕方で陽が傾いていた。

現地に到着後、カメラとストロボ、そしてポータブルナビを持って「自然の森A」に入った。ここは初めて来たところで、とりあえず散策路のまま歩いてみる。分岐点にさしかかればポータブルナビの画面を確認し、くまなく歩けるようなルートを選んだ。

夕方のせいもあるが、木々が生い茂っているため非常に暗い。これでマムシグサを探すのは一苦労だなと思われた。
もしかしたら散策路付近ではなくもう少し奥に入ったところにあるのではないかと考え、雑草をかき分けて歩いてみた。夕方なので時々横から陽が射して眩しい。

秋はコガネクモが栄養を蓄える時期なので、あちらこちらに大きな巣が張ってある。それを避けるのが一苦労。逆光の時は巣が輝いて見えるので分かり易いのだが、日陰になると危ない。ふと気付くと目の前にコガネグモが脚を広げていて焦ることも何度か。安全のため、ストロボのポールスタンドを前に掲げて歩くことにした。

<林の中はクモの巣だらけ>
林の中はクモの巣だらけ
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F4.0/1/160sec. [2014/10/18 16:06]

1時間くらい探したろうか、林の中はもうかなり暗くなっていた。
もう見付からないと諦めかけた時、ふと、赤いものが目に入った。暗い中であったが、その赤い色だけはボンヤリとわずかに輝いて見えた。お目当てのマムシグサのようだ。

<暗い林の中で輝いていた赤い光>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
暗い林の中で輝いていた赤い光
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F2.8/1/20sec. [2014/10/18 16:01]

近付いてみると、その実は小さく、しかも所々が虫か何かに食い荒らされたように傷んでいた。写真に撮るにはあまりに貧弱で、小さな実を付けた単なる雑草のよう。残念ながら不気味な存在感は無かった。
明らかに写真に撮る価値は認められないものだが、それでも1時間かけてようやく出会ったマムシグサなので、生態記録のために一応の撮影は行った。

<傷んだマムシグサの実>
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傷んだマムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F3.5/1/13sec. [2014/10/18 15:59]

それにしても、赤い色の引き付ける力は大したものと言える。こんな小さな実でも、暗い林の中で我輩の目を引くとは。

●自然の森 B(仮称)
「自然の森A」からクルマで15分くらいの距離に「自然の森B」があり、そこはマムシグサの情報が無かったものの、いかにもマムシグサが生えていそうに思えた。期待は大きい。
本来ならば「自然の森A」に続けてこちらにも寄れれば効率が良かったのだが、時間の関係でこちらの散策は後日となった。

この森は以前にも何度か訪れたことはあったものの、これまでマムシグサに気付いたことは無い。しかし訪れた季節が春から夏にかけてのことで、もしその時にマムシグサが生えていたとしても、実が赤くなっていなければ気付きようがない。
森の中は鬱蒼としており、「自然の森A」よりも明らかに広い。時間がかかることが予想されたが、ルートが大体分かっているし、赤い色ならばすぐに目に入ることを期待して少々早歩きで回った。

結論から言うと、この場所では残念なことに1つもマムシグサを見付けることは出来なかった。
やはりこの植物は、身近では見られないものなのか。

●自然公園 C(仮称)

インターネット検索を根気よく続けていると、1つの有力な情報を得た。
茨城県のほうにある「自然公園C」にマムシグサが生えているとのことで、その写真も載っていた。ただし少し古い情報のよう。

クルマで1時間半ほどかかったが、もし榛名山に匹敵するようなマムシグサが生えているならば、遠くとは感じないだろう。
クルマを降りて散策を開始したところ、園内中央部にて赤い光を確認。散策路から10メートルくらい離れた所にポツンと1本だけ立って陽光を受けていた。

<離れた場所に1本のマムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
離れた場所に1本のマムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/35-100mm F2.8/ISO200/F4.0/1/400sec. [2014/10/19 10:11]

この散策路には柵があって奥へ入ることは出来ないようなので、望遠ズーム35-100mm(35mm換算70-200mm)で撮影してみたが少々拡大率が足らなかった。見たところ立派な姿だっただけに残念である。
しかしマムシグサが生えていることは確認出来たので、望みが出てきた。

しばらく歩いて行くと、散策路脇の雑草の中からマムシグサの実が頭を出しているのが目に入った。近付いてみると、その周囲には他にも2本あった。ただ残念なことに、それらは少々赤味が足りぬ未熟な状態。
しかし実の付き方がそれなりにボリュームがあり、これが真っ赤になったらさぞかし壮観だろう。しかも手の届く所にあるので撮り易い。

<未熟なマムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
未熟なマムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F3.5/1/13sec. [2014/10/19 11:12]

早速、ストロボのポールスタンドを設置し、撮影を始めた。
すると通行人が次々に声をかけてきた。
「これは何ですか?」
「マムシグサですよ。」
「ほぉー。」
中には自分のカメラを取り出してシャッターを切る者もいた。

この場所は自然観察舎が近いせいか通行人が多いようだ。
ということは、マムシグサの実が赤く染まると摘み取られてしまう危険性が高いということでもある。散策路脇から顔を出して、まさに「取ってくれ」と言っている状態だ。
園内を一回りしてみたのだが、他にはマムシグサは見当たらなかった。だからこの株が失われるともうここに来る意味が無くなる。それほど遠くはないとは言っても、1時間半かけて行ってみて何も無ければショックは大きい。

出来れば真っ赤に染まった頃にもう一度訪れて撮影したいところだが、徒労に終わることを恐れて今後の訪問は考えないこととする。

●植物園 D(仮称)
「自然公園C」の次に、「植物園D」に寄ってみることにした。
「自然公園C」から行っても自宅から直接行っても1時間半の距離。地図上では三角形を描くようなルートとなった。

ここは地味な植物園であるが、だからこそマムシグサがあるのではないかと期待した。
行ってみると相変わらず地味な植物園であったがマムシグサは無かった。

●植物園 E(仮称)
「自然公園E」は自宅から20分ほどの距離。かなり小規模な植物園である。それでも意外な植物が花を広げていたりすることがあり、今回も期待したのだが、園内を一回りしたもののそれらしきものは見えなかった。
もしあれば、赤い色ですぐに分かるはず。やはり無いのだろう。
仮にどこかに隠れていたとしても、一目で分かるようなものでなければ価値は無い。

やはりマムシグサを近所で見付けるのは難しいようだ。これだけ探しても無いのだから。
仮にあったとしても、榛名山で見たような立派で存在感のある実はまず無いということを悟った。
自宅周辺ではもう、諦めよう。

●自然公園 F(仮称)
マムシグサ探しの旅が事実上終わり、次の週末がやってきた。
いつも土曜日というものは、行くあてを探してインターネット検索を繰り返している。
自宅半径50km圏内にある博物館や植物園などはもう新鮮味が無い。博物館などは興味ある企画展が開催されたり、植物園では目当ての植物の開花や結実があれば話は別であるが、今はちょうど何もない時期。

行き詰まってしまったので、何気なく、場所を特定させずに「マムシグサ」での検索をしてみた。諦めの悪い行為だが、マムシグサそのものについて調べるくらいは良かろう。
ところが偶然にもそんな探し方で、自宅からクルマで40分くらいの場所にマムシグサが生えている情報に行き当たった。

その場所は、宅地化された中に取り残された自然公園とのこと。まさかこんな地区に自然公園があるなど思いもしなかった。
アクセスを調べたところ、その自然公園には駐車場はあるようだが、もし電車で行ったとしても交通の便に支障が無い。

行くあてを探していた我輩は、急いで着替え、撮影機材一式を抱えてクルマに乗り込んだ。
見れば、雨がポツポツ降っている。しかしこちらにはストロボがあるので少々天候が悪くとも問題にもならぬ。

現地に到着してクルマを降りると、なんと、駐車場脇にある林の中にマムシグサの赤い色が幾つも見えていた。しかもそれらは榛名山のものに負けないくらい存在感溢れる立派な実であった。これには本当に驚かされた。

だがその場所は自然公園の本体と切り離された飛び地のような一角で、しかも柵が囲ってあり明らかに立ち入り禁止の状態。
まあここで撮れなくとも良かろう、入り口付近でこんなに賑やかならば、公園の中は期待出来る。

我輩は撮影機材を持ち、雨は止んでいたが念のためにレインウェアの上着を羽織り、駐車場から公園の入り口へ向かった。
まず、記録のためとして公園の入り口を撮影する。ちょっとストロボの設定に手間取っていると、背後から「もしもし〜!」という声が近付いてきた。携帯電話で話をしているようなので無視していると、またもや「もしもぉし〜!」と声がした。
「もう少し小さな声で電話出来んのか」と振り向くと、公園の関係者らしきオイちゃんがこちらに歩いてきた。携帯電話ではなく、我輩に声を掛けていたようだ。

「こちら、初めてですか?」
「え、そうです。」

ぶっきらぼうに話しかけられて、何か入場に必要な措置を怠ったために咎められたかと思ったが、オイちゃんは「この公園のパンフレットがありますんで」と我輩に手渡してくれた。
そして「今の時期はあんまり無いですけど、たとえばう〜んそうだなぁ・・・」と案内に困っていたようだったので、「マムシグサだけを見に来たんですよ」と話した。
しかしオイちゃんは「マムシグサもねぇ・・・あんまり無いなあ・・・」と言う。
「えっ、でも駐車場脇の林にはいっぱいあるじゃないですか。あれは立派だなぁ。でもあそこは立ち入り禁止みたいですね?」
「えっ? ああ、立ち入り禁止なのはそうですが・・・まあ、むこう向いてる間に入っちゃえば分かんないですから。写真撮るだけなら。」と言うではないか。見て見ぬふりをしてくれるらしい。

我輩はオイちゃんが立ち去った後、ひとまたぎ出来そうなところから柵を越え、立ち入り禁止の林の中に入った。
マムシグサは、もうその目の前にあった。
少ししゃがむと、もう誰にも見えないだろう。これほど落ち着いて撮影出来ることは無い。もう、マムシグサのためだけでわざわざ榛名山へ行くことを考えなくても良いのだ。高山系の植物でもなんでもないじゃないか。
何にせよ、撮影するにしても何本も生えているマムシグサは全て撮影することは出来ず、その中で形の良いもの(形が整っているという意味ではない)を4本くらい選んだ。

<マムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
マムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F4.0/1/60sec. [2014/11/08 11:16]

<マムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
マムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F3.5/1/80sec. [2014/11/08 11:19]

<マムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
マムシグサの実
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F5.0/1/20sec. [2014/11/08 11:36]

期せずして公園に入る前に目的を果たし、このまま帰ろうかとも思ったが、せっかく来たのだからと公園内も散策してみることとした。
散策路は全ルートにわたり柵が設けられており、基本的にルートを外れることは出来ない。
天気が悪いので散策路は非常に暗かったが、しかしさすがにマムシグサの鮮やかな赤色はパッと目に付く。ただし広い公園内にしては見付けたのは3株のみ。うち2株は駐車場脇で撮ったものに比べると貧弱であった。

<少々貧弱なマムシグサの実>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
少々貧弱なマムシグサの実
OLYMPUS E-P5/35-100mm F2.8/ISO200/F4.0/1/20sec. [2014/11/08 11:47]

そして最後に見付けたものは、頭が重いせいか折れて地面に横たわっていた。
しかしそこそこに立派な実の付き方だったので捨て置くには惜しく、やむなく片手で起こして撮影した。少々反則気味かも知れないが、仕方無い。

<倒れたマムシグサの実を手で支えて撮影>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
倒れたマムシグサの実を手で支えて撮影
OLYMPUS OM-D E-M1/12-40mm F2.8/ISO200/F4.5/1/15sec. [2014/11/08 12:33]

それにしても、近場で榛名山に匹敵する規模のマムシグサ群生地にようやく行き当たったのは大きな成果だった。クルマで40分、この近さならば何度でも通える。
今後はジックリと時間をかけて撮影に取り組み、マムシグサの毒々しい赤色を引き立たせるような描写を求めて行きたい。

また来年は、OLYMPUSからマイクロフォーサーズの高画質広角ズームレンズが発売される予定。
これを手に入れた暁には、同じ時期にマムシグサを広角特有のダイナミックな描写で撮影しようと思う。高性能な撮影機材は、やはり目標となる被写体あってこそ。

なお、重要なことを書き忘れたが、このマムシグサの実には毒があるそうで、赤い色が遠くからでも目に付くが、食べると口が腫れ、激痛に苦しむとのこと。

(※今回、各公園の名称を明記しなかったのは、雑文416のような愉快犯の発生を恐れたため。)



(2014/11/16追記)
1週間後に再訪したところ、ほとんどの実が倒れて傷んでいた。自立しているものでも、近付いてみると実の1粒1粒が萎びており張りが無くなっていた。
ということは、1週間前の撮影が今シーズン最後のタイミングだったことになる。
ギリギリ間に合いラッキーだったとも言えるし、少々残念でもある。

<萎びた実> (トリミング)
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
萎びた実
OLYMPUS E-P5/Ai-Nikkor 24mm F2.8/ISO200/F5.6/1/100sec. [2014/11/15 14:24]


(2014/11/30追記)
自宅から30分圏内で100株は下らないマムシグサの群生を雑木林の中に確認した。ただ残念なことに時期を逸したため、ほとんどが雑草とともに刈られてその場に転がっており、また伐採を免れたものでも茎が曲がって地面に寝そべっていた。雑草の下に埋もれて見えないものがあるとすれば200〜300株くらいはあった可能性もある。
自立状態でいたものは10株程度に過ぎなかったが、駐車場が近くかつ開けた場所なので、機材を持ち込んでのライティングがしやすく、下の写真などはストロボ3灯にて撮影した(定常光をほぼ必要としないライティング)。

<少々形の異なるマムシグサ>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
少々形の異なるマムシグサ
OLYMPUS OM-D E-M1/40-150mm F2.8/ISO200/F2.8/1/250sec. [2014/11/30 09:13]

ただ気になる点は、どれも丈が極端に短く、そして実の粒が 地面に転がっているものも含めてほとんど全てがキレイに揃っており、マムシグサによく見られるような不揃いなものが全く見られないということである。まるで赤いトウモロコシのよう。もしかしたら、マムシグサの仲間でも微妙に違う種類なのかも知れない。

(2014/11/30追記)
上の写真は、色々と調べてみるとやはりマムシグサとは少し種類が違うようだ。恐らく「ウラシマソウ」ではないかと思う。マムシグサは粒が不揃いで首が細長く、葉が幽霊の手のように枯れ下がった状態が何とも不気味で、そのために心惹かれたわけなので、今回のウラシマソウの実は少々ターゲットがズレた感がある。
ただ、ウラシマソウの実もそれはそれでキレイな実なので、これほどの群生があるならば今後も追ってみたい。別のターゲットとして自覚しておれば問題無かろう。