2000/04/05
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カメラ雑文

[873] 2017年06月26日(月)
「夜間植物撮影」


葛飾区には、大型の親水公園「水元公園」というところがある。
ここにはかなり広い菖蒲園があり、毎年6月になるとたくさんの品種(100種類以上だとか?)が咲き揃い、その時期に「葛飾菖蒲祭り」として多くの人出があるらしい。以前は花に興味を持たぬ我輩はそういう情報に接しても無関心だったが、今その情報を得て撮影に出掛けることを決心した。

少々大げさな決心であるが、それなりの覚悟は必要となろう。なにせ、我輩は人混みが苦手であるし、駐車場も空いているかどうかの心配もある。それに最近は日中暑く、それを考えただけで疲れてくる。

ここは以前にもカワセミ撮影で何度か訪れており、そのことについては過去の雑文にも書いたことがある(参考:雑文721雑文747)。
あの時はさすがに「カワセミ祭り」など無いので問題無かったが、今回は「菖蒲祭り」なのだ。出店や観光物産売り場もあるとのこと。それを聞いただけでめまいがする。

ならば夜行って見るか、と考えた。
実はこの公園、夜でも出入り自由で、夜中でも懐中電灯を片手に犬の散歩をする人や、ジョギングをしている人、自転車で通り抜ける人などを多く見掛ける。最近は「ポケモンGO」なるゲームのために園内を徘徊する者も目立つ。

一般的には花を管理しているこのような公園は、入場料の有り無しに関わらず大抵は営業時間が決められており、夕方の閉園時間になると締め出される。そういった意味では夜でも開放されているこの公園は大変貴重と言える。
我輩は植物撮影ではストロボをメイン光としているため、夜であろうと撮影に支障無い。むしろ定常光のジャマが無いので自分のイメージを組み立てるのは夜のほうが最適と考えた。

到着時刻は17時頃。
この季節ではずいぶん陽も長くなっておりまだ明るく、夕方であってもまだそれなりに人は残っていた。

<菖蒲園の様子>
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
菖蒲園の様子
菖蒲園の様子

その多くが菖蒲を撮影していたが、今の時代、使っているカメラは本格的なデジタル一眼レフか、あるいはスマートフォンかのどちらかで、その中間は見付けられなかった。
今では驚きもしないが、近くで学生風の女子がNikonの小型デジタル一眼レフ(D3000クラス?)を構えて撮っていた。「画質を優先したいならばミラーレスカメラ一択だぞ」と、我輩は心の声で忠告した。まあ、これは余計なお世話か。もしかしたら、「全43機種の中から、機能・コスト・特性などを検討し、熟考に熟考を重ねた末の選択であるわ!」などと反論されるかも知れんしな。

我輩も早速、ストロボとミラーレスカメラ「SONY α7RII」を構えて撮り始めたが、まだ夕方の陽が残っており暑くてペースが鈍る。菖蒲の花びらも、暑さのためなのか心なしか張りが無い。

菖蒲園は、水田のような浅い池が数箇所あり、それぞれに植えられている。
池の周りには柵があって近付けないが、池を横断する板回廊を行けば、花の目の前まで近付ける。

なお我輩はストロボで照明する関係上、花に接近せねば撮影出来ず、その点は大きな弱点と言える。
立派な花を見付けても、それが明らかに遠ければ諦めもつくが、微妙な距離だと悩ましい。多少ならばミラーレスカメラゆえに腕を突き伸ばして撮ることは不可能ではないが、体勢が苦しくなることもある。池がいくら浅いと言っても、カメラやストロボを水没させかねない。

それに、池の上の板回廊から撮影するため、しゃがんで撮影せねばならず、立ち上がる際には立ちくらみしてしまう。我輩ももう若くはなく、同年代知人を脳内出血で2人ほど亡くしているので、血圧の急激な上下変化は少々怖い。一眼レフカメラのようにアイレベルファインダーを覗いて撮るカメラではないのが唯一の救いか。

そうこうしているうち、陽も落ちて涼しくなってきた。それと同時に、人も急に少なくなり、撮影者についてはほとんどいなくなった。さすがに、自然光で撮るカメラマンにとって日没はゲームセットであろう。

辺りが暗くなると、あちこちでウシガエルの「ブォーン、ブォーン、ブォーン」という鳴き声が聞こえてきた。我輩の実家は水田の多い地域なので、ウシガエルの声を聞くと妙に懐かしい気分になる。
ちなみにウシガエルの実際の姿は水族館でしか見たことがない。昼間は用水池の中に潜っているし、夜は声しか聞こえないからだ。声を頼りに近付いても、ドボンと池に飛び込む音がしてそれっきり。
ただ、オタマジャクシのほうは見ることが出来たのは良い記念。

<ストロボ撮影したウシガエルのオタマジャクシ>
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ウシガエルのオタマジャクシ

暗くなると人がほとんどいなくなったので、ストロボを自由に配置してのびのびと撮影出来る。池の対岸にストロボを置いたり、手前からポールポッドを伸ばして奥から照明したりと、ほとんど好き勝手状態。

<ストロボライティング中>
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ストロボライティング中

いつもの植物撮影であれば、日中に撮影しているため、定常光の影響により露出設定に制約があった。つまり、シャッタースピード(Tv)はシンクロスピードよりも上げられないので、その分、絞り値(Av)のほうで調整せねばならない。そうなると結局のところ、Av/Tvの組み合わせはその場の条件で決まってしまい、自由度の幅はかなり狭い。

ところが今回は夜の撮影なので、定常光の影響は全く無い。表現上の要求だけで好きなようにAv/Tvを決めても良いのだ。
そういうわけで今回、被写界深度の観点のみでAvを先に決め、Tvはシンクロスピード以下の適当な値にしておいた。あとはストロボをそれに合わせて発光させるだけ。ある意味、「絞り優先ME」と言える。

<絞り優先MEで撮影>
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絞り優先MEで撮影
絞り優先MEで撮影

ライティングについては、ここ最近は3灯で撮るスタイルに落ちついている。
1灯は左手で保持し、別の1灯は地面に置き、そして最後の1灯はポールポッドに立てておく。そして撤収時には、手に持ったストロボを脇に挟み、地面のストロボを拾いつつスタンドも掴んで立ち上がる。機動性は悪くない。

今回のライティングでは、配置が良ければ背景を照らすこともひとつの方針とした。背景が真っ暗な状態ではその場の雰囲気が出ず、屋外で撮った甲斐が無いからだ。

<背景を照明>
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背景を照明

そしてその上で、主要被写体となる花を2灯でライティングする。

花そのもののライティングは難しくない。通常考えるように面発光で柔らかく照らせば良い。ただしあまり大きな面発光では光の方向が定まらないので程々の大きさとし、照明角度を調整して植物表面の質感を表現出来るとよい。

<花を1灯照明>
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花を1灯照明

2灯目は、陰の部分を照り起こしたり、あるいは背景に沈んだ輪郭を作るのに使用する。これはディフューズ無しでダイレクトに当てる。

<2灯目で輪郭を作る>
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2灯目で輪郭を作る

背景への照明については、花より少し暗いほうが良かろう。あまり背景が明るいと花が目立たなくなる。
もちろんデジタル画像なので撮影後でも明るさ調整は可能だが、花と背景の明るさの比率を変えるのは難しい。光量比の調整は撮影時にやっておくべきであろう。

<3灯全て揃った写真>
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3灯全て揃った写真

考えてみれば、これはモデル嬢撮影のライティングとほぼ同じであることに気付いた。

今回用いたレンズは、例のツァイス製AFレンズ25mm。
一般的な花撮影としては少し広角が過ぎるだろうが、我輩は背景がボケ過ぎるのは好まないので、これくらいが良い。

基本はAF撮影であるが、驚いたのは、この「α7RII」はかなり薄暗い夕刻でも赤いAF補助光が光らずに一発で合焦する。そして完全な暗闇になるとAF補助光が投光されるので、これまた問題無い。ただしフォーカスエリアはAF補助光の投光されるエリア部分に設定しておかねばならぬ。

ふと気付くと、19時。
しかしながら夜のジョギングと犬の散歩の姿があちこちに見えるので、夜の公園でも特に物騒という雰囲気は無い。
また心霊的にも、不思議なことに一生懸命撮影していると、今この瞬間に幽霊が出ても怖くない、頼むから撮影のジャマだけしないでくれよ、と思えてしまう。もちろん実際にそうなったらどう感じるか分からないが。

<夜の菖蒲園>
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夜の菖蒲園

それから1時間ほど経った20時近く、夕食の時間が遅くなるので引き上げた。
夜撮れるのだから、足りないところがあれば、平日に会社から帰った後にでもまた来れば良い。

帰宅後、パソコンに画像を取り込んで撮影写真をチェックしたところ、おおむねイメージ通りに撮れていたが、一部に「ああすれば良かった」、「こうすれば良かった」という点が幾つかあった。
デジタルカメラの小さな背面液晶ではチェックしきれない点があるのは仕方無い。
それにしても、もし自然光であれば諦めるような点でも、夜間のストロボ照明ならば完全に自分がコントロールする問題だけに、小さな問題点でもやり直したくなる。

結局、我輩の気が済まなかったので、やはり平日夜に2度撮り直しすることになった。少々のことならパソコンで調整出来るものの、花と背景の明るさの比率を変えるのは難しい。

さすがに雨のシーンは日を選ぶしかないが、それでも光に関しては自分の思い通りに配置出来るのは良い。

<雨の日に再訪>
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雨の日に再訪

もっとも、我輩がここまでこだわってストロボ撮影したところで、花のストロボ撮影は世間的に好まれないため、風変わりな写真として一般に受け入れられるものではない。
しかしだからこそ、世間の評価に流されずに精鋭化出来るとも言える。ただただ純粋に、自分が撮りたい写真を撮れば良い。

それこそが、我輩が写真を撮る意味。