2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
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10.アンケート
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カメラ雑文

[820] 2014年09月07日(日)
「屋外ストロボ撮影マニュアル(2)〜使用前・使用後〜」


歯医者に行った時、待合室にて何気なく女性雑誌を手に取って見たりすることがあるのだが、たまにヘアアーティストによる髪型イメチェン企画などを目にする。
読者モデルを素材にして、有名ヘアアーティストが手を加えるわけで、そこには髪形を変える前と変えた後の女性の写真が載っており、その変わり様には驚かされる。
「これが同一人物なのか?」と。

だが我輩の見たところ、これならば前の髪型のほうが魅力的だったのではないかと思うこともある。
もちろんこれは主観なので、見る者が変われば評価も変わるのは言うまでもないこと。どれが正解かということではない。

<髪型一つでガラリと印象が変わるが、どれが正解かということではない>
髪型一つでガラリと印象が変わる

人にはそれぞれ、「ナチュラルな感じが良い」とか「派手で華美な感じが良い」など、求めるものが異なる。女性本人の立場、見る側の立場の違いもあろう。当然、全ての好みを満足させる究極の1点など存在するはずがない。

しかしヘアアーティストの立場で思想表現として見た場合、自分の持つ技術や手法を以て素材女性の魅力を自分なりに引き立たせたいと思うに違いない。そうでなければ、"アーティスト"とは名乗れまい。
そういう目で見れば、1つの形を創作したという点では評価出来るものと言える。


さて、ラジオシンクロシステムを利用した屋外での積極的ライティング撮影については、これまでも何度か書いてきた(参考:雑文814雑文817雑文818)。
積極的ライティングは撮影者の能動的行為であるから、それはまさに撮影者の思想を表わすものと言える。偶然得られたライティングでは決してない。
ただそうは言っても、屋外では元々存在する定常光のライティングも混ざることになるわけで、どこまでが作られたライティングかというのが第三者には分かりにくいところもあろう。

そこで今回、同一シーンにて、ストロボ撮影とノンストロボ撮影の写真を撮り比べて掲載したいと考えた。いわゆる、使用前・使用後の写真である。
これにより、我輩のライティング思想が明確に浮き出てくるだろう。

使用前と使用後ではどちらが良いかということについては、観る者によって判断は分かれるところかと思う。それは女性の髪形と同じく、ノンストロボ撮影のほうが自然で好ましく思う者もいよう。
しかしながら、それぞれのシーンについて我輩の思想や意図について述べている。それを読めば、少なくとも我輩の意図通りに表現出来ていることが理解出来るであろう。それこそが、積極的ライティングの意味である。
良いかどうかということよりも、意図した通りになっているかどうかということで今回紹介したい。



(1)「ひょうたん」・・・立体的表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/400sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/80sec. Av=f8.0
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
ひょうたん棚の内側での日陰撮影。
ライティング状況
スタンド設置のストロボを1灯、右サイドほぼ真横からダイレクト照射。
ライティングの狙い
ストロボで側面照射し、陰影により立体感を、そしてテカリによって表面質感を表現した。
露出調整
マニュアルモードにて調整した。この状況下ではストロボ光を弱めてAvを小さく(明るく)すれば被写界深度を浅くすることも出来るが、ここではひょうたんの質感描写にこだわってAv=F8.0まで絞り、ひょうたんが被写界深度から外れないようにした。その分、Tvを1/80秒まで遅くして定常光の露光レベルを維持。定常光の比率があまりに小さくなるとストロボ光の陰が強く出てしまうためである。




(2)「ひょうたん」・・・正確な色表現と立体的表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/500sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/125sec. Av=f8.0
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
ひょうたん棚の内側での日陰撮影。
ライティング状況
スタンド設置のストロボを1灯、右サイドほぼ真横からダイレクト照射。
ライティングの狙い
植物が緑色なのは当たり前ではあるが、その中にあっても微妙な色の違いがある。しかし緑色に被った照明の下では、微妙な色の違いが分からなくなる。そのためストロボ光によって色の違いが分かるようにした。また、立体感と表面質感を側面照射で表現した。
露出調整
マニュアルモードにて調整した。ひょうたんの色被りを軽減させ、かつ背景から浮かせるために、定常光を若干暗く落とした。




(3)「バナナ(ムサ・オルナータ)の雄花」・・・正確な色表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/640sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/250sec. Av=f5.6
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
温室内であるが日光は十分に入っている状況。ただし見上げる角度のため逆光気味。
ライティング状況
ストロボのスタンドを伸張し、左手保持で花の高さまで持ち上げダイレクト照射した。
ライティングの狙い
この花は鮮やかなピンク色の花苞が大変魅力的で、これまで何度も撮影を試みているが、自然光のみでは透明感はあるものの、どうしてもコクのある鮮やかさが表現出来なかったのでストロボ光による発色に期待した。ちなみにノンストロボ写真のほうは、RAW現像時に彩度を思い切り持ち上げて記憶色に近付けた。
露出調整
ストロボ撮影ではカメラのシンクロ接点X=1/320秒を超えてしまうのでF5.6まで絞り込んだ。ストロボ光の調節については、照射距離を変えることで行なっている。定常光の露出レベルは、背景に合わせて白飛びを軽減。




(4)「カカオの実」・・・立体的表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/50sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/25sec. Av=f6.3
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
温室内にて、枝葉に陽の光が遮られている状況。定常光は緑色の色カブリがある。
ライティング状況
伸張したスタンドでストロボを設置し、左サイドからダイレクト照射。
ライティングの狙い
下からの照射でもそれなりに雰囲気は出るが、カカオの実の表面の質感表現がこの撮影のキモであることから、横からの照射とした。
露出調整
まずストロボ光量からAvを決め、それに対するTvを定常光のバランスから決定。この状況では定常光は緑色の被りが強いため露光レベルをかなり落とした。そのせいでコントラストが強くなっているわけだが、質感表現には良い結果をもたらした。




(5)「暗い林」・・・スポットライト

<ノンストロボ撮影> Tv=1/80sec. Av=f3.2
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
(パターン1)
ノンストロボ撮影
(パターン2)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/320sec. Av=f4.0
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
ほとんど陽が射さぬ暗い林の中。
ライティング状況
伸張したスタンドに載せたストロボを、撮影位置からは見えない立木の陰に設置し、地面に向けてダイレクト照射。
ライティングの狙い
定常光のみの場合、2パターンの露出が考えられるが(この例では1つのRAWデータから2パターン生成させた)、パターン1では緑色がコクがあって良いものの全体があまりに暗い。かと言ってパターン2では明るいイメージだが地面にまで緑色が被ってしまいメリハリが無い。そこで地面にストロボ光を照射し、一定の明るさと正しい色合いを追加しメリハリを付けた。
露出調整
ストロボから地面までの距離が比較的長いことからストロボの光量不足を心配し、定常光側の露光レベルのほうを下げようとX接点最高速度のTv=1/320秒とした。そしてそのTvに合う定常光の値としてAv=F4.0を求め、最後にストロボ出力をフル発光の設定とした。




(6)「コスモス畑」・・・スポットライト

<ノンストロボ撮影> Tv=1/200sec. Av=f7.1
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/200sec. Av=f10
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
比較的明るい曇り空の下。
ライティング状況
上方からほぼ真下にストロボストロボダイレクト照射。
ライティングの狙い
コスモスの花の色にコクを与え、かつ特定の花をスポットライト的に浮かび上がらせて視線を引きたい。
露出調整
定常光が明るいためTvがX接点以上にならぬよう固定する意味でシャッタースピード優先AEとした。ただし、最初はX=1/320秒としたものの、ストロボ露光量をAvで微調整するためにTvを変えた結果、1/200秒となった。定常光のバランスは露出補正で-1EVとした。




(7)「コスモス畑」・・・コントラストのコントロール

<ノンストロボ撮影> Tv=1/320sec. Av=f5.6
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/320sec. Av=f8.0
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
比較的明るい曇り空の下。
ライティング状況
やや距離を置いて斜め横からストロボダイレクト照射。
ライティングの狙い
明るい曇り空のため、ストロボを使わなければ一様に光が回ってコントラストの低いメリハリの無い写真になりがち。ストロボで手前の花を適正露出にしつつ、背景の定常光レベルを下げ、雲の怪しさを演出しドラマチックな画を狙った。葉も立体的にメリハリが利いている。
露出調整
定常光が明るいためTvがX接点以上にならぬよう固定する意味でシャッタースピード優先AEとした。なお、ストロボの照射距離でストロボ光の微調整をしており、カメラ側での微調整は不要となった。定常光のバランスは露出補正で-1EVとした。




(8)「石灰岩」・・・立体的表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/320sec. Av=f16
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/250sec. Av=f16
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
基本的には晴れているが雲が多く、強い直射日光が当たるかと思えば次の瞬間には陰ったりと、定常光のレベルがめまぐるしく変わる状況。
ライティング状況
スタンド類は一切持参していなかったため、直置きとした。
ライティングの狙い
石灰岩の雨水浸食による筋を際立たせるため、横からあぶり出すようにストロボ光を当てた。
露出調整
定常光が明るいためTvがX接点以上にならぬよう固定する意味でシャッタースピード優先AEとした。直射日光が当たる状況ではガイドナンバー30のストロボフル発光が負けてしまうほどだったため、雲に陰る一瞬を狙って撮影した。定常光のバランスは露出補正で-1EVとした。




(9)「戦艦大和」・・・コントラストのコントロール

<ノンストロボ撮影> Tv=1/80sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/125sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
逆光が厳しい博物館内。
ライティング状況
船体側面からダイレクト照射。
ライティングの狙い
逆光により戦艦の艦橋部が白っぽくコントラストが低下しているので、とにかく定常光のレベルを抑えたくストロボ撮影とした。これにより、艦橋部のコントラスト低下は若干軽減された。もう少しAvを大きくすれば更にコントラスト低下は抑えられたろうが、ストロボの発光量が追い付かなかった。なお、真横からの照射のため、手すりの影が船体に被ってしまったのは残念。
露出調整
主な定常光は逆光部分のみであるからAEは有効ではないと判断し、マニュアル露出とした。ストロボはガイドナンバー30にてフル発光させ、定常光を抑えることに努力した(Avを大きくするとストロボ露光量も低下するため定常光を抑えるのにも限度がある)。




(10)「トノサマバッタ」・・・質感表現

<ノンストロボ撮影> Tv=1/320sec. Av=f2.8
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/15sec. Av=f13
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
草むらの中での接写。
ライティング状況
左側面(バッタから見ると正面)からダイレクト照射。
ライティングの狙い
被写体が小さいため接写となったが、カメラの影になってライティングがうまく出来ず、ストロボを極端に被写体に近付けるしか無かった。しかしそのおかげで相対的にストロボの発光部が大きくなり、ダイレクト照射にも関わらず面発光となり、質感を表現しながらも影が和らいだ。通常距離でのダイレクト照射と比べると、影の出方の差は一目瞭然。
ストロボ撮影
露出調整
対象物が小さいためほとんどレンズの最短撮影距離にまで近付いており、被写界深度が浅くなり過ぎるのを避けるため絞り込んだ。なお、ノンストロボ撮影のほうは絞りを開け過ぎてバッタのオスが被写界深度を外れてしまった。




(11)「ザリガニ」・・・疑似偏光フィルター

<ノンストロボ撮影> Tv=1/125sec. Av=f4.5
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ノンストロボ撮影

<ストロボ撮影> Tv=1/80sec. Av=f6.3
(※画像クリックで長辺1200ドットの画像が別ウィンドウで開く)
ストロボ撮影

<ライティングの状況>
ライティングの状況

ストロボ撮影の説明
撮影現場の状況
用水路の中を覗き込むようにして撮影。
ライティング状況
左側面からダイレクト照射。
ライティングの狙い
水面の反射を抑えるには、偏光フィルターを使うのが定石である。しかしながらストロボを使えば擬似的に偏向フィルターの効果が出せる。それには、反射光、つまり定常光の露光レベルを落とせば良い。定常光の発光源である空は大変広い面積なので、どの角度で撮ろうが必ず空の光が水面に映り込む。しかしストロボ直照であれば発光面積が小さいため、ストロボ光がカメラ側へ反射しない位置へ調節することは容易。
露出調整
定常光が明るいためTvがX接点以上にならぬよう固定する意味でシャッタースピード優先AEとした。しかし結果的に、表示されるAvを見ながら絞り優先AE的に使った。露出補正については-1Evとして定常光を減じている。



以上、まだまだ紹介しきれていないところがあるが、それは今後の雑文や、あるいは「7.テーマ別写真」のコーナーに随時掲載していく予定なので、今後参照願いたい。