2000/04/05
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カメラ雑文

[734] 2011年10月29日(土)
「HDR画像の利用について(その1)」


数年前、当ウェブサイトを訪問した外国人から英語でメールを頂き、何度かやりとりをしたことがある。
最初、日本人に対して英語でメールをよこすなど傲慢だなと思ったのだが、相手はフランス人であったため単なる共通言語として英語を使ったのであろう。まあ、日本語に堪能であったとしても2バイト文字が使えないという問題もあるが。

自慢ではないが、我輩は英語を満足に読み書き出来ない。
そこで、翻訳サイトを使って日本語から英語に訳してみた。しかしさすがに機械翻訳であるから、明らかにおかしな点が幾つもある。英語の出来ない我輩でさえ指摘出来るような箇所が。

仕方無いので自分なりにその英文を直し、それを今度は日本語に機械翻訳して意味が通る文章になるかをチェックした。ダメなら何度もやり直した。
そのような努力の甲斐もあり、相手からは「英語が分からないと言うが、あなたの英語は普通に通じます」と返信があった。

だが実際のところ、意味が通る文章になるよう原文をかなり簡素化するなど調整をしており、細かいニュアンスなどはとてもその英文には込められなかった。
その文章の意味が通じるということと、言いたいことが全て込められているということはまた違うのだ。

そう言えば、洋画のDVDを鑑賞する場面にて日本語吹き替えと日本語字幕を同時に選ぶと気付くのだが、同じシーンの日本語訳でも異なる訳が出てくることがある。それぞれの翻訳者が違うのかも知れない。
このように、翻訳のプロでさえ翻訳時には細かいニュアンスの違いが出てくるのだから、完全な翻訳というのは無理なのであろう。

メールの件については、あまりに手間がかかるメールのやりとりのため我輩側からメール交換は終わらせてもらったのだが、それにしても、英語を英語のままで理解することが出来たならばどれほど良いだろうと感じたものだ。

−−−−−−

さて、過去に雑文144「ディスプレイ」では、RGB各8bit(合計24bit=フルカラー)までしか表現出来ないディスプレイの不満について書いた。
出力側であるディスプレイ表現の上限が8bitまでであるならば、いくらデータ側が8bitよりも高かったとしても(以下、8bitよりも高いものを"高ビットカラー"と呼ぶ)、表示上は8bitを越えることは出来ない。

本来ならば、8bitで表現すべき純白色は高ビットカラーで表現すべき純白色とは異なるはずである。
つまり、理想的には高ビットカラーの純白色のほうが眩しいくらいの明るい白色が使われるであろう。もしそうでなければ、白飛びした空間に諧調を呼び戻せない。

ただ、ディスプレイを高ビットカラーに対応させて純白色の輝度を高くしてしまうと、写真用途は良いとしても事務用途では非常に困ることになる。例えば、ワープロ作業では画面の白地が眩しくて仕事になるまい。
中には、写真表示エリアのところだけの輝度を上げる特殊なディスプレイもあるが、あれは8bitで表示された諧調を引き伸ばしているだけに過ぎず、高ビットカラーで記録された諧調が表現されているわけではない。

ならば高ビットカラーの存在には意味が無いのかと言えば、そういうわけでも無い。
デジタル写真においてレタッチ(修正)はごく普通に行われているのだが、レタッチするたびに画質は落ちることになる(参考:雑文706)。しかしレタッチ元の画像に高ビットのデータ幅があり、かつ最終的に8bitの画像として仕上げるならば、画質劣化があるにしても余裕が生まれる。

ただし、根本的な問題がある。
それは、入力側としてイメージセンサーの表現出来る輝度幅が狭いということ。
いくらデータ形式として高いビット数を持てる器があろうとも、画像を生成するイメージセンサーのダイナミックレンジが狭ければ意味が無い。
通常のイメージセンサーでは出力が12bitのデータ幅があるらしいのだが、実際の撮影で分かるとおり、RAW撮影であっても白飛びや黒潰れを完全に回避することは難しい。自然界の光がそれ以上のダイナミックレンジを必要とするからに他ならない。

<1枚のRAWデータから生成した8bit画像>
1枚のRAWデータから生成した8bit画像

そこで考え出されたのがHDRという手法である。
HDRとは、「High Dynamic Range」の頭文字であり、実風景の幅広い輝度を白飛びや黒潰れさせず写真化させる。
その方法として、同じシーンにて露出をズラした複数枚のRAW撮影を行い(段階露出)、その複数枚のRAWデータを1枚の画像に合成させ32bitくらいの画像を生成させる。このようにすれば、イメージセンサーの狭い輝度幅を補うことが出来る。

ただしこの撮影は下記のような幾つかのハードルがあり、あまり一般的に行える撮影ではなかった。

・完全に同一なフレーミングのカットが複数枚必要なため、三脚での固定が必須となる。
・複数枚撮影する間に被写体が動くとうまく合成出来ない(例えば風に流れる雲など)。
・合成処理にはパソコンと専用ソフトが必要。

しかしそれらのハードルを越えさえすれば、白飛びや黒潰れの無い、全ての諧調をカバーした画像を得ることが出来るのだ。

ここで、改めて最初の問題に戻ってみたい。
表示側のディスプレイが8bitまでしか対応していなければ、画像データが高ビットカラーであろうとも表示は8bitの範囲になる。しかし何も考えずに表示させると意図せぬ階調範囲で表示されるかも知れない。特に、HDRで撮影したものであれば自分の手で8bitに変換し、せっかくの豊かな諧調を出来るだけ損なわぬようにしたほうが良かろう。
そのための変換方法には幾つか考えられるが、単純に言えば次の2つがあろうかと思う。

まず、広い諧調を均等に押し縮める方法。
32bitでの一番明るい点が8bitの白点(R:G:B=255:255:255)にシフトすることになり、当然ながらそれ以下の輝度も順次暗いほうへシフトする。
この方法では、全諧調がリニアに表現出来るものの、写真としての印象は眠たくなる。

<3枚合成32bitHDR画像を8bitに変換 (諧調を均等に圧縮)>
3枚合成32bitHDR画像を8bitに変換(諧調を均等に圧縮)

次に、ハイライトの部分だけを折り込む方法。
もし32bitの諧調を圧縮せずにそのまま8bitの幅に当てはめると、どこかが必ずハミ出すことになる。そうなると、ハミ出た部分の諧調が失われる。明るいほうが失われれば白飛びとなるし、暗いほうが失われれば黒潰れとなるわけだ。
そこで、ハミ出る部分を折り込んで8bitの諧調内に押し込んでやると、諧調が失われず表現出来る。
ただし、明るい部分と暗い部分が画像上では同じくらいの明るさになるなど、注意深く見ると不自然に見える点も出てくる。

<3枚合成32bitHDR画像を8bitに変換 (ハイライト部分のみを折り込み)>
3枚合成32bitHDR画像を8bitに変換(ハイライト部分のみを折り込み)

ちなみに、最近はデジタルカメラ内部でHDR合成処理が可能なものも現れ、カメラの固定さえ何とかすれば手軽にHDR的な写真が得られるようにもなってきている。中にはワンショットで撮影可能なものもあると聞く。

しかしながらこの機能ではユーザーが高ビットカラーのデータを得ることは出来ず、8bitに変換されたものが出力されるのみ。なぜならば、このHDR合成機能というのはあくまでも芸術的な観点(奇をてらった見た目の奇抜さ)での用法を求めているため、8bitへの変換に伴う極端な諧調変化が目的なのだ。
この場合、ハミ出た部分の諧調を不自然なくらい強引に折り込んでいる。

結局のところ、カメラ内蔵機能としてのHDR撮影では、高ビットカラーのデータはカメラ内部で処理する中間生成物でしかない。

<3枚合成32bitHDR画像を8bitに変換 (最近流行の芸術的HDR)>
最近流行の芸術的HDR

現状では、HDRは撮影に手間がかかるわりには、それによって得られた高ビットカラーをそのまま鑑賞出来るような環境は無い。英語を日本語に翻訳するかのごとく、高ビットカラーを8bitに変換しなければならないのだ。
確かに、8bitに変換しても広い諧調が表現出来るわけだが、そこから空の眩しさが感じられるわけではない。これが8bitの限界である。

変換のやり方によって結果が変わってくるというところなど、まさに翻訳者によってニュアンスが異なる洋画DVDそのもの。
本当にそのセリフを理解したいのであれば、英語をそのまま聞いて理解するしか無い。

なかなか厄介な高ビットカラーのHDRであるが、次回雑文では、HDRを高ビットカラーのまま利用するシーンを考えてみたい。


<補足>
イメージセンサーの12bit出力はHDRとしては必ずしも十分ではないと書いたが、1枚撮りのRAWデータであっても、8bit化時に注意深く調整すればその情報を最大限引き出すことは出来る。
その具体的な方法としては、RAWデータの調整時にハイライト基準とシャドウ基準の2つの画像を生成しておき、その2つの画像を再び1つに合成する。1枚のままトーンカーブで補正すると余計なところまで変わってしまうので、露出レベルの違うエリアごと(例えば空と地面や屋内と屋外など)に分けて補正するほうが良い。
これにより、HDRほどではないもののそこそこ広い階調が得られるし、何よりも三脚で固定した段階露出の必要が無いのが良い。動体撮影も問題無く、いつものとおり普通に撮影すれば済む。

<1枚撮りのRAWデータから2つの画像を生成し、それを再び1枚に合成>
枚撮りのRAWデータから2つの画像を生成し、それを再び1枚に合成


<補足のさらに補足>
高価な高機能RAW現像ソフトを使えば、上記2枚処理は必要無く1画像内で完結出来る・・・かも知れない(?)。