2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
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カメラ雑文

[417] 2003年04月15日(火)
「出航」

職場でパソコンに向かっていたら、いきなり次長殿が早足でやって来た。
「おまえ、船に強いか?」
「は?」
「船だよ船。」
最初、船の知識が豊富かどうかという質問だと思った。
我輩の知識は興味本位による所産のため、戦時中の、しかも戦艦についての知識しか無い。一般商船のことなど分からぬ。船の話ならば、恐らく客先の造船関連の話に違いない。

ところが次長殿は意外なことを言った。
「船酔いに強いか?」
「ふ、船酔い?船に強いかって言うのは、船に乗るという話ですか?」
「そう、貨物船に乗るんだよ。」
「貨物船?なんでまたそんな?」

いつも次長殿の話は途中から始まるので、このような会話もありがちである。しかし今回、次長殿は何か急いでいる様子であったためか、更にワケが分からない状態。

「実はな、H-2ロケットで打ち上げた人工衛星から投下される物があって、それを回収するプロジェクトなんだ。それを種子島の船上で撮影し、その画像を衛星経由で送らねばならん。その人員として行ってもらいたいんだ。」
「ええっ、そんなことウチの会社がやってるんですか?」
「撮影だけ。ビデオ撮りは映像課から行くから、スチルはおまえが適任だと思う。」
「はあ。」
「出航はゴールデンウィーク明けで任務は3週間。その間ずっと船の上だ。どうだ?」
次長殿は1枚の紙を広げて船の図を見せた。じっくりと見ることが出来なかったが、5〜6千トンくらいの船だろうかと思われた。
「どうだって言われても・・・、ちょっと家に電話入れますんで、少し待ってもらえますか?」
次長殿は「分かった」と、ひとこと言い残し、急いで部屋を出て行った。

隣の席に座っている同僚は、こちらを見てニヤニヤ笑っている。
「いや〜、私が行きたかったですなあ〜。」
「じゃあ代わりに行ってくださいよ。」
「いやいや、我輩さんが言われた話ですからね〜。仕方ないですね〜。いやぁ、残念だなぁ〜貨物船。」
全くの皮肉だった。

我輩は家に電話し、ヘナチョコ妻に相談した。
ヘナチョコもびっくりしたとは思うのだが、ごく普通に「どうなるんだろうねぇ」などと言って埒(らち)があかないので、こちらから「我輩が居ないと困る事柄を思い付くだけ箇条書きにし、それをメールで返答せよ」と言って電話を切った。恐らく朝のゴミ出しなどは項目の一つに挙がろうか。

受話器を置いて顔を上げて見たが、次長殿はまだ席に戻っていない。どこかで打合せなどをしているのだろうか。

それにしても、3週間海の上とは酷な話だな。スチル写真とは言っていたが、衛星回線で画像を送るということであるから、デジタルカメラでなければならない。職場にあるデジタルカメラを考えてみたが、それは一眼レフタイプではないため、接写やライティング等の自由度に於いて不安がある。そうなると、我輩所有のEOSを持っていくことになろうか。

しかし長期間の撮影であるから、バッテリーはその場で何度も充電させることになろう。そもそも、貨物船に100Vの一般家庭用コンセントなどあるのか?

しかも、修行のような長い乗船であるから、せっかくならば銀塩カメラも持って行きたいと思う。こういう機会も滅多に無かろう。そうなると、選択すべきは35mm判か66判か?
もしこれが変化に富んだミッションだというならば、コマ数が多く機動性の高い35mm判と行きたい。それとは反対に、落下した投下物を船が2〜3週間捜索し続け、その間は海と空しか見えず撮る物が限られているとするならば、フィルム面積頼みで1枚1枚の質を高めたい。

しかし3週間もの間、世間と隔絶した状態で生き残れるのか心配だ。普段、不健康な生活を送っている人間が、いきなり海の男になれるのだろうか?

ふと、NHKで放送された「プロジェクトX〜太平洋1万キロ・決死の海底ケーブル〜」を思い出した。
船員と技術者との間に生じた軋轢。それを乗り越え、男たちは1つの仕事を成し遂げた。
苦労が多ければ多いほど、テレビ番組としては盛り上がる。

そんな想像を巡らせていると、再び次長殿がやって来てひとこと言った。
「さっきの話、無くなった。」
「は?」
「無くなったんだよ、無くなった。忘れてくれ。」

以前にも同じようなことがあったが、今回も、あれこれと無駄なことを考えて終わった・・・。


2005.01.19追記
今ふと思い出したが、次長殿(現在は事業部長)は前職がカメラマンだった。