2000/04/05
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カメラ雑文

[414] 2003年04月10日(木)
「ブラック・ジョーク」

ブラック・ジョーク、それは、強い皮肉を込めたドギツイ冗談のこと。
ドギツイとは言っても、ある視点で見れば鋭く真実を突いているために面白く感ずる。

しかし、ブラックジョークをそのまま真に受けてしまえば面白くも何ともない。それどころか、皮肉の意味さえ理解出来ず、真実そのものを見誤ることになる。それは、ジョークを作った人間の意図するところではない。
ジョークはジョークとして捉えるべきである・・・。



3週間前、アメリカがイラクに戦争を仕掛け、昨日やっと首都を制圧した様子である。当初は数日間で制圧出来るとの見通しだったが、意外にも苦戦し民間人も巻き込んで犠牲者も増えた。
今この瞬間にも、病院で息絶えようとする負傷者がいるだろう。放置されたままの遺体も転がっているだろう。そこには悲惨な光景が広がっているに違いない。遺体などそのまま報道で出てくることは少ないが、目に触れなくとも存在する光景があるというのは自覚しておくべきである。

ところで先日、この戦争を伝える米国ロサンゼルス・タイムズ紙で、掲載写真の捏造が発覚した。
それは3月31日付の第一面で、同じ場所を写した2枚の写真の良い部分だけを合成し1枚にまとめたのだそうだ。

現在、報道カメラマンのほとんどがデジタルカメラを使っているという。迅速な映像配信を行うためにはデジタルカメラが大きな威力を発揮する。インターネット時代であるから、パソコンで扱えるデータであればどこにいてもリアルタイムに写真を本社へ送信することが可能となる。

ところがパソコンはデータを加工することも出来る。色や明るさの調整は言うまでもなく、今回のような合成写真も非常に簡単である。従来のように、写真を切り貼りするような手間と熱意など必要無く、気軽な気持ちで調整出来る。
恐らく、今回写真を合成したカメラマンは「一目で状況が飲み込めるような写真にしよう」というサービス精神が行き過ぎたのではないかと推測する。決して、どちらかの軍隊に有利になるように画策したわけでもなく、ただ、良い写真になるよう工夫した。

ただしこのカメラマンは合成処理については素人と見え、合成時に同じ人物が2人入るという初歩的ミスを犯した。

もし今回、このようなミスにより写真合成が発覚しなければ、永遠にこの写真が真実として伝えられた可能性がある。逆に言うと、ミスの無い他の合成写真は発覚すること無く世界を巡っているとも言える。
デジタル化が当たり前の時代には、それは十分考えられること。

通常、撮影された写真データがそのまま無加工で利用されることは無く、印刷やウェブ情報など利用媒体に応じた調整(色やコントラストや解像度等の調整)が為される。本来ならば印刷所の版上で調整されるべきものが、デジタルデータ化によって素材写真の段階で調整可能となった。

しかし、そういった調整技術はすなわち捏造写真を作る技術でもある。画像調整を許せば捏造も許すこととなり、かと言って捏造を不可能とさせる技術を導入すれば、単純な調整すら不可能となってしまう。
結局、デジタルデータの改変は不可避としか言いようが無い。

今目にしている写真が、捏造であるかどうかは誰にも分からない。だからこそ、疑いの目を常に持ち続けることが大切。

1枚の写真だけで事実を捉えるのではなく、単に一つの断片的素材として一歩引いて受け止めねば、我々は誰も意図しない方向へ誘導されてゆくことになる。
そこには悪意のある誘導者がいるわけではない。自然発生的に生まれたデマが人々を動かすかのように、コントロール不能な人々の心を思いも寄らぬ方向へ傾けさせるだろう。

写真を合成したカメラマンを吊し上げ糾弾したところで何の意味も無い。彼には悪意があったわけでもない。雑文189も関連するが、効果的な象徴写真を狙っただけの話。いわば、カメラマンのブラック・ジョーク。それを受け取る側には、ジョークに込められたメッセージを受け取るセンスが必要。
もしかしたら、同じ人物が画面内に2人入るというのも、ジョーク的メッセージだったのかも知れない。それくらい考えられる余裕が無ければ写真は読めぬ。

今の時代、捏造写真は当たり前。悪意無くとも、例えば見易くなるよう色調補正をしたつもりが、国旗の色が別の国の色になってしまったりするかも知れない。ブラック・ジョークの良い見本だな。
そもそも写真というのは、未修整のものであっても撮りようによっては敵味方を逆転させうる(参考:雑文313「見方と味方」 )。

ジョークに対して怒り出すのは、センスの無さを物語っている。
真実とは、写真とは違うところにあるかも知れない。永遠に出てこないものかも知れない。だが、最初からその認識を持つならば、ジョークをジョークとして受け取ることが出来る。

1つの情報のみに対して疑い無く接すれば、それこそ自分自身がジョークと化す。
それこそまさにドギツイ冗談、ブラック・ジョークか。