中高生時代、カメラ仲間は皆50ミリレンズを所有していた。
その中でも、開放F値が1.4のものを持っている者は少数派で、比較的裕福な家の息子がその大口径F1.4レンズを光らせていたものだった。その他の者は、F2.0やF1.8などが多かった。
我輩を含むキヤノン派の一般人はF1.8である。
キヤノンNewFDレンズ中、一番安いレンズがこれだった。
「貧乏人ならば新品のNewFDではなく中古で旧FDレンズを選べば良かろう。そうすればF1.4でも手が届くだろうに。」と思われるかも知れない。しかし、中古カメラ屋は街にしか無い。バスや電車を乗り継いで行けばそれだけ交通費も掛かる。それでも目当てのものがあれば良いが、見付からなければ骨折り損となるためリスクが大きい。
我輩の場合も、高価なカメラボディは小倉「井筒屋」の中古カメラ売場で購入したものの、やはり50ミリF1.8レンズは近くの「そごう」店内にある高千穂カメラで新品で購入した。
F1.4とF1.8、実質的にはその明るさの違いが問題になることは無いが、やはりカタログ写真などで見慣れたF1.4のレンズ前玉は魅力的であり、それに比べて手元のF1.8が妙に貧乏臭く見えたものだった。いつかは、自分もF1.4(もしくはそれを通り越してF1.2)を買うことを夢見た。
時代は過ぎ、キヤノンからAFが発表された。その名も、「イオス」。シャープなボディは、カタログに写った女性カメラマンの手の中で精悍に思えた。
しかし、その頃はもはやズームレンズの時代。50ミリレンズはマクロレンズを除けばF1.8しかラインナップには無かった。
我輩は「EOS630」が出るまでミノルタαユーザーだったのだが、キヤノンの50ミリレンズには注目していた。
暫くして我輩もイオスに乗り換えたものの、50ミリレンズには相変わらずF1.4が無い。当時は自由になる金額も大きくなっており、もしF1.4がラインナップされていれば迷わず購入したに違いない。しかし、何年経ってもイオス用レンズにF1.4は現れず、仕方無く「EF50mmF1.8」を購入した。
そのうち、ニコンに手を染め、更にその後、中判カメラを購入するために全てを売却した。その時になってようやく、イオス用のF1.4が出た。それは、まさに皮肉としか言いようが無い。いや、縁が無かったと言うべきか。
最近になって、我輩は再びイオスシステムに戻ってきた。
きっかけはデジタルカメラ「EOS-D30」であった。当然ながらF1.4の購入も検討したのだが、「デジタルカメラなどに余計なコストを掛けたくない」という気持ちから、再びF1.8を購入することにした。どうせ、デジタルカメラで50ミリなど、接写にしか使わぬ。
ところが、接写という用途にこのF1.8レンズは最適だった。自然な描写と絞り込み時のシャープさは、とても安物レンズとは思えない。小さなレンズでもあるため、「EOS-D30」の標準レンズとして使うことが多くなった。
以前ならば、F1.8などF1.4の代用でしか無かった。それが、急に我輩の中で必然性を以て迎えられるようになった。これは自分にとっても思い掛けないことである。もはや、F1.4などどうでも良い。
だがこのレンズ、以前持っていたものと違う。同じくイオス用の50mmF1.8でありながら、仕様変更されて総プラスチック仕上げとなっている。マウント部さえプラスチック製で、何度も着脱をすれば摩耗は避けられない。また、距離目盛りも省略されており、更にはAF/MF切替えクラッチが甘い。要するに、コストダウンタイプとなってしまった。
恐らく、光学系は以前のものと全く同じだろう。だが、鏡胴は全くの別物。
前にも書いた通り、外見を見ると完全に萎えてしまう。
コストダウンはもちろん必要であろうが、なぜこのレンズがこのようなマイナーチェンジを行うのか。ほんの僅かなコストダウンのためだけに外観があれほど情けなくなり、操作性が低下するならば、少しくらい高くても以前のようなものが良いと思う。
今どきはズームレンズが主流であり、50ミリレンズなど、意志ある者しか購入することはあるまい。昔の我輩のように中高生が買えるように配慮したとするなら、時代が違うと言いたいところ。
中古を探しても、昔のタイプは見付からない。仕方無く、そんなチープな50mmF1.8を使い続けていた。「写真はレンズが大切であるから」と、なるべく外観や操作性は気にしないことにしていた。
ところがこのたび、ヤフーのオークションで昔のタイプの50mmF1.8を見つけ、手に入れることが出来た。まさか再び手に入れることが出来るとは思わなかっただけに、喜びもまた、大きい。
撮るものも無いのに、あちこち構えてAFを動かして悦に入っている。